From Overseas - London 2005.12/vol.8-No.9

航空会社「乗り換え」広告
10月12日 タイムズ紙
 10月12日付の「タイムズ」に、ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)の20余年にわたるキャンペーンを振り返る広告が掲載された。
 1982年に「恐ろしくひどい」というレッテルをはられていたBAが、数多くの印象的な広告キャンペーンを経て、2005年には「世界一収益性の高い航空会社になった」というストーリーだ。日本ではなじみが薄いが、イギリス人であれば「あぁ、あれね」と思い出せるような17点の広告が順に並んでいる。
 さて、このBAの広告活動が今年の7月以降ちょっとした注目の的になっていた。年間約120億円にのぼると言われるクリエイティブ・アカウントを見直すと発表したためだ。金額の大きさもさることながら、サーチ兄弟がこの見直しの主要な登場人物だったことが世間の関心を引き付けた。
 チャールズとモーリスのサーチ兄弟は、イギリス広告業界を語る上で欠かすことのできない人物たちである。
 2人は1970年にサーチ&サーチ社を創立。広告業界誌「キャンペーン」の言葉を借りれば、「無風のアカウントから得る15%のコミッションで腹を肥やしていた」業界に風穴を開けた。1979年にサッチャー政権誕生を大きく後押ししたとされる広告を制作するなど高い名声を誇る一方、ライバル企業の買収を繰り返し、世界を代表する広告会社に成長させた。株主によって同社を追い出されたものの、1995年にはM&Cサーチを創設。再び業界を代表する企業を作り上げた。派手な私生活が時折メディアに露出され、世間に存在を印象付けているようだ。兄のチャールズ氏はロンドンの中心部に美術館を保有していることでも知られている。
 かくして、世間の注目を集めるサーチ兄弟が、23年間にわたるBAとの関係を失うかもしれないというニュースは、一般紙やBBCのニュース番組でも取り上げられることとなった。対戦相手となったのはBBH、DDB、J.ウォルター・トンプソン(JWT)の3社。あるブックメーカーがこれを賭けの対象とし、7月末の時点でM&Cサーチ1.5倍、ほかの3社にそれぞれ4.0倍、6.0倍、9.0倍のオッズをつけていたことからも、関心の高さがうかがえる。
 ところで、広告やメディアに関する報道は、日本のメディアに比べてイギリスメディアが得意とする分野である。例えば「ガーディアン」は毎週月曜日に「メディア・ガーディアン」と称する20ページ以上の別刷りを発行し、「タイムズ」などほかの主要紙も広告やメディア情報を頻繁に取り上げる。今回の見直し先が最終的にBBHとなったことを、未確定ながら報道したのは10月10日付の「デイリー・テレグラフ」で、ビジネス・セクションのトップニュースだった。競合に参加した4社に対し、正式に決定が伝えられたのは翌11日だったようなので、一企業の広告アカウント情報が特ダネになるお国柄と言えよう。
 さて、冒頭の広告が掲載されたのは10月12日付の「タイムズ」。正式発表の翌日だ。編集紙面には「BAが23年にわたるサーチとの関係を解消」との記事が掲載されている。「なぜBAがこんな日に出稿を?」と、じっくり広告を見てみると、右下には「NOW TAKING NEW AIRLINE BOOKINGS. MCS@MCSAATCHI.COM」という一文が。つまり契約解除でほかの航空会社を扱えることになったM&Cサーチによる出稿だったのだ。
 BAで成功したキャンペーンを引っ提げ、「新たな航空会社からのご予約を受け付けます」とは、何とも挑戦的でかつ用意周到な広告である。
(11月4日)
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