From Overseas - London 2005.11/vol.8-No.8

新聞広告は心理学
ニュースペーパー・マーケティング・エージェンシーのウェブサイト
 「理屈と感動。どちらを大切にするかと聞かれれば、圧倒的に感動のほうを大切にする」
 9月に開かれた欧州広告業界のカンファレンスにおいて、イタリアのとあるファッション・ブランドの宣伝担当者がした発言だ。
 もとの質問の趣旨は、メディアやクリエイティブを選定する際、何を大切にするかということ。この宣伝担当者の場合、データなどの重要性は理解しつつも、パッと見たときの感動をより重視するということになる。分かりやすく説明すると、クリエイティブであれば、「あなたのターゲットは30代前半の女性なので、この世代における好感度1位のAというタレントを起用しました」という理由があっても、提示された原稿や映像を見たときに感動が得られなければ、そのクリエイティブは採用しない。メディアであれば、いくら良いデータがそろっていても、全体として引っかかる部分があれば、キャンペーン・プランに組み込まないということだ。
 さて、昨今の欧州広告業界では、この「感動」、もしくは「魅力」「面白さ」などといった言葉がキーワードになっている。例えばノキアの宣伝担当者は、広告を含む自社のコミュニケーション活動について「知性的かつ感動的でなくてはならない」と業界誌のインタビューに答えているし、仏マクドナルドの担当者は「最高のマーケティングは感情と頭脳が融合したものだ」と発言している。つまり、最近までデータを重視する傾向があったが、この方法における生活者とのコミュニケーションに限界が見えてきたため、エスティ・ローダー社長の言葉を拝借すれば「心理学的な考察の重要性が増している」ということになる。
 イギリスの全国紙は、このトレンドをいち早く察知し、2003年1月に「ニュースペーパー・マーケティング・エージェンシー」(以下NMA)を設立した。新聞広告の効果について、広告主や広告会社への浸透を図ることを目的とした団体である。
 設立にあたり新聞社側が注目したのはクリエイティブの重要性。総広告費における新聞シェアの低下は、イギリスでも問題視されている。これに歯止めを掛けるためには、広告主やメディア・プランナーやクリエイターに対し、「新聞広告の魅力と面白さ」を再度理解させる必要があると考えたわけだ。
 そこで、新聞社側がNMAのトップに迎え入れたのは、当時民放大手ITVの編成担当で、公営放送BBCのマーケティング担当の経験もあるモーレン・ダフィ氏。競争相手であるテレビ側の視点を取り込むことで、新聞社的な考え方の限界を打破しようとしたと言える。この招請は別の意味でも奏功し、テレビ業界の主要人物が新聞陣営へ移籍したという話題性から、広告業界誌では大きく取り上げられた。
 NMAの活動は大きく分けて、新聞広告に関する調査活動、世界中の面白い新聞広告の紹介、メディア・エージェンシーや広告主に向けたカンファレンスの3つ。調査と広告紹介についてはウェブサイト(www.nmauk.co.uk)で誰でも閲覧可能だ。特に、広告紹介については「ブレイキング・アド」として毎日更新しており、サイトを毎日訪れる価値のあるものにしている。事例や調査結果はニュースレターでも配信しており、広告主らに対し、継続したコンタクトの保持を目指している。
 さて、NMAでダフィ氏を支えるメンバーもメディア・コンサルタント、元大手広告会社のメディア・プランナーや営業マンなどで、理事クラスを除いて新聞社出身者が見当たらない。新聞にまったく携わったことのないメンバーが、この媒体の「魅力」や「面白さ」をいかに伝えるのか。新聞広告のイメージに少しでも新しい要素を付加できることを期待する。

(10月10日)
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