メディアの進行形 2005.10/vol.8-No.7

地図の無料化が生んだ新しい市場
 地図を見ていると飽きない、という人は多いと思う。かつて旅した土地での思い出がよみがえることもあるし、まだ訪ねたことのない町の地図をひろげて、想像上の旅をすることもできる。
 この地図の旅をパソコンで楽しめるのが、今年になって公開されたグーグル・マップである。グーグル・マップは地名や名所などをキーワードに地図を表示する検索サイトである。拡大縮小もスピーディーで、地図の領域はシームレスに広がっている。さらに地図と同じ縮尺で衛星写真画像に瞬時に切り替えられるので、名所や自宅周辺の航空写真を簡単に見ることもできる。
 また新たにサービスの始まったグーグル・アースは、専用のビューアーをインストールして使うデジタル地球儀である。宇宙から地球を眺めた全景から、検索地点のビルや道路までなめらかにクローズアップしていく。場所の移動は、いったん宇宙に出てジャンプするので、空を飛んでいるようでもある。
 そのリアルな体感は、椅子のデザインで知られたイームズ夫妻の短編映画「パワーズ・オブ・テン」を彷彿させる、といったらよいか。

ネット地図の市場を活性化

 グーグル・マップの登場はデジタル地図業界を震撼させた。それは詳細な地図情報を個人が無料で利用できるというだけではない。APIと呼ばれる地図の一部技術が無料公開されているので、商用・非商用利用に限らず他のサイトでグーグルの地図情報を利用できるのである。
 地図会社と高額な利用契約を結ぶ必要がないので、これまで地図とは無縁だったITベンチャーが、次々と新しいサービスを始めている。
 住宅情報、求人情報、映画情報などのオンライン検索サービスや地図を利用したブログ記事検索など、アイデアとスピード勝負のサービスが人気を博している。
 グーグル・マップAPIが公開される前にも、欧米では住宅情報や渋滞情報の提供サイト、犯罪とその場所を検索できるサイトなどで、グーグル・マップが利用されていたという。その需要はあったのである。

カトリーナ被害で力を発揮
 
 もちろんグーグル・マップ以前も、ネットの地図検索サービスはある。ただし詳細な地図情報を入手できるサイトは、多くが有料サイトだった。一方、レストランやホテル情報を加えることで地図検索を無料にしたサービスもあった。しかし、地図情報の相互利用は行われることがなく、地図情報を持たない企業の参入はなかった。グーグル・マップがうながした地図市場は大きい。
 注目したいのは地図ビジネスだけではない。ボランティア活動にも使われている。
 グーグル・マップを利用したカトリーナ被害地図サイトがあり、一般市民から提供された膨大な数の被害情報が、メキシコ湾沿岸の地図上に書き込まれている。このサイトを開設したのも個人のボランティアである。グーグル・マップAPIが手軽なシステムなので、わずか数時間で立ち上げ、被害直後の8月31日に開設されている。

地図コンテンツの無料化
 
 伊能忠敬の日本沿海実測図を外国に持ち出そうとしたのがシーボルト事件である。当時、地図は地形や土地利用を図化した事実情報として、重要な国家機密の時代であった。
 地図会社は「図化された事実」というコンテンツを売ることで、長い間ビジネスをしてきた。ところがグーグル・マップは地図コンテンツを無料化することで、新しい地図サービスを呼び込んだのである。ここでもまた1つ、既存コンテンツが無料となっている。
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