経済を読み解く 2005.10/vol.8-No.7

小泉改革を考える ― 復興と改革と摩擦の四年間 ―
イラスト  2005年9月11日、日本の将来を左右すると言われた衆議院選挙は、自民党の歴史的な圧勝に終わった。小泉政権の改革路線が国民の支持を得た格好だ。それでは、今回支持を得た小泉改革とは何だったのか。ここでは、これまでの小泉改革について、改めて考えてみたい。

[1] 成果は経済の復興
 
 2001年に発足した小泉政権の、これまでの最大の成果は、日本経済をバブル崩壊に端を発する長期の低迷から抜け出させたことだろう。小泉政権の発足当初には、国債の新規発行額を30兆円以内に抑えることなど、財政再建を優先させる方針を打ち出していた。この点に関しては、この連載でも取り上げているが(01年7月号「小泉改革への期待」)、そうした方針は、1997年に日本経済を恐慌寸前の状態にまで陥れた橋本政権による「構造改革」を想起させるものであった。
 しかし実際には、小泉政権の財政政策はきわめて柔軟なものであった。いわゆるITバブルの崩壊や01年9月にアメリカで起きた同時多発テロの影響で景気が落ち込むと、30兆円の枠はあっさりと放棄された。公共投資を拡大する従来型の景気刺激策こそ採らなかったものの、極端な財政引き締めがなかったことで、経済が最悪の状況に陥ることは回避されたのである。
 また、銀行の不良債権処理を加速させる方針を示し、それが信用収縮と景気後退のスパイラルにつながることを懸念させたが、そこでも実際には、状況に応じた現実的な政策が選ばれてきた。
 こうした政策運営に対しては、言行不一致との批判も多かった。また、その後の経済の復興についても、リストラの断行などで個人レベルの犠牲を出しながら、企業が体質強化に努めてきた結果であって、政権の手柄ではないという見方もできる。
 しかし、表面的には構造改革を唱えて企業に体質強化を迫りつつ、実際には景気に配慮して極端な財政引き締めや不良債権処理を行わなかったことで景気が維持されたのは間違いない。この展開が意図的なものであったかは判断し難いが、少なくとも結果的には、小泉政権の言行不一致が経済の復興に大いに寄与した形となっている。

[2] 郵政民営化と政治改革

 一方、小泉政権の最大の政策課題であり、今回の総選挙でも自民党が「唯一の」争点として掲げた郵政民営化に関しては、これまでのところは、政治改革の突破口という側面が大きな意味を持ってきた。
 小泉政権は、内容的な妥協を重ねたり、手続きが少々強引であっても、民営化という結果を出すことに突き進む姿勢を見せてきた。その必然的な帰結として、そうした強引な手続き無視の手法への反発が生じてきたわけだ。今回の選挙では、「刺客」を送り込むという手さえ使って、旧来型の政治手続き、つまりは政治家だけに通じる「常識」にこだわって郵政民営化に反対した議員に「敵」のイメージを押し付けて、国民の支持を得ることに成功した。「小泉劇場」などとも呼ばれる、こうした物語作りの巧みさと卓越した演出力は、政権発足以来、強力な武器となってきた。
 小泉劇場のヒット作はいつも、旧来型の政治手法をひきずる勢力を敵役にした物語であった。首相は常々「自民党を壊してでも郵政民営化を実現する」と発言してきたが、ここまではむしろ「郵政民営化を目指すことで自民党を壊す」形になっている。とはいっても、もちろん自民党そのものが壊れるわけではない。揺らいでいるのは、自民党が依存してきた、選挙区への利益誘導を土台とする政治プロセスだ。
 今回の選挙では、小泉政権は、郵政関連の人々だけでなく、選挙の際の拠点であり、自民党の土台とも言える地方組織の一部さえも敵に回す構えを見せた。前述の本連載01年の稿では、小泉政権への最大の期待は政治プロセスの改革であると書いたが、ここまでの小泉政権の政策展開は、今回の選挙での動きも含めて、その端緒となり得る流れを生じさせていると評価できる。
 ただ、その流れが今後も定着するという確証はまったくない。小泉首相という強烈な個性が描き出した物語における一過性の現象にとどまることも十分考えられる。

[3] アジア諸国との摩擦の深刻化

 経済の復興と政治改革の端緒を開いたという点から判断すると、ここまでの小泉政権の実績は、満点とは言わないまでも、まずは及第点と言えるだろう。
 小泉政権が引き起こした政治改革の流れが、政権に残された期間にどれだけ確固としたものとなるかは、日本の将来像を描き出すうえで、きわめて重要なポイントとなる。その意味では、総裁の任期を延ばして、社会保障など、他の重要課題への対応も担当してもらいたいとさえ思わせる。
 しかし、そうとばかりも言えない面もある。アジア諸国との摩擦の深刻化の問題だ。今回の選挙ではほとんど争点にならなかったが、近年の中国や韓国での反日機運の高まりには、頑に靖国参拝を続ける小泉首相の姿勢にも原因の一端がある。もちろん、彼らの主張をすべて認めれば良いということではないが、こちらの主張にこだわるばかりでは、事態は打開できない。
 アジア諸国との関係悪化が、安全保障上も経済の面からも望ましくないことは明らかだ。長く続いた「戦後」の問題をどうやって、またどのような形で収束させるかで、日本の将来は大きく左右される。その仕事まで小泉政権に期待することは、現実的ではないだろう。
 政治改革の継続と外交の立て直し。社会保障の問題も残っている。少々気の早い話ではあるが、ポスト小泉政権に託される課題はきわめて重い。
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