特集 2005.7・8/vol.8-No.4・5

ダイレクトマーケティングは広告を変えるか
レスポンス広告とブランドの接点

 レスポンスの獲得を最優先したダイレクトレスポンス広告と、ブランド構築を目的とした広告は、これまで別のものとして論じられてきた。この両者を結びつけ、ダイレクトレスポンス・ビジネスの継続的な成長をサポートしようというシステムが、博報堂の「レスポンスWIN」だ。売るための広告とブランドを作るための広告の接点はどこにあるのだろうか。

――ダイレクトレスポンス広告と商品広告、企業広告などとの最大の違いは何でしょうか。
 まず目的が違います。普通の広告は、回数を重ねていって、純粋想起や好意度の調査でブランドが上位にあがってくれば成功ですが、ダイレクトレスポンス広告の場合はレスポンスが何件あったかがすべてです。それにブランドがかかわるとしたら、ブランドの要素を広告のどこに入れればレスポンスが上がるかということで評価される。それが一般の広告とダイレクトレスポンス広告との最大の違いです。

――しかし、ブランドがレスポンスに無関係だというわけではない?
レスポンスWINの考え方
 ダイレクトレスポンス広告では最後にアクションを起こさせる、背中を押すということが重要です。その場で背中を押さないとなかなかアクションにつながらない。そこにブランドが影響します。このブランドだったら安心だ、だれかが推奨している、友達が使っているといった経験価値型のブランドが確かにからんできます。
 ただ、こうした個々のダイレクトレスポンス広告におけるブランドの役割とビジネスの成長段階におけるブランドの役割は区別して考える必要があります。ビジネスの初期段階ではレスポンスの拡大が大事ですし、顧客基盤ができてからはブランド価値を高めつつ顧客を育成していくことが大事になる。しかし、ビジネスの初期段階のダイレクトレスポンス広告でも、アクションを起こすための説得の意味でブランドが使えるのなら、使った方がレスポンス率は上がるのは確かです。

ダイレクトは顧客ビジネス

――ある程度ダイレクトレスポンス・ビジネスに成功した企業だと思うのですが、ブランディングに積極的に取り組んでいる企業もありますね。
 実際、ブランドの重要性に気づいて、ブランド型とレスポンス型を併用したり、ブランド型を投資と考えて積極的に取り組んでいる企業も現れています。しかし、ブランド型の広告が、ほかのレスポンス型の広告の反響に貢献しているという見方をする企業はまだそれほど多いとは言えません。
 最近は、保険や通信サービスの契約目的のものも増えています。インターネットのプロバイダー、携帯電話の顧客獲得キャンペーンも実はダイレクトレスポンス広告です。サービスの場合は契約、商品の場合は購入が最終的には目的になります。

――ダイレクトレスポンス広告の間口が広がってきた?
 ダイレクトレスポンス広告の元になる考え方が「ダイレクトマーケティング」です。ダイレクトマーケティングと聞いてだれもが思い浮かべるのは通信販売だと思いますが、データベースの処理スピードの向上や利用技術の発達、インターネットなどのインタラクティブなメディアの進歩で、最近は商品の販売を目的としたダイレクトレスポンス広告も、新規顧客を獲得してカスタマー・リレーションシップ・マネジメント(CRM)をやりながら顧客基盤を上げていくという形に変わってきています。
 顧客データベースを元にしたビジネスがダイレクトマーケティングの基本ですから、単に直接的な商品の購入だけを目的としたダイレクトレスポンス広告は、ほとんどないと言っていいと思います。実際には、新規顧客を獲得する目的で行われるものが非常に多くなっています。最終的に購入を目的にするにしろ、契約を目的にするにしろ、ダイレクトマーケティングに共通して言えるのは、それが「顧客ビジネス」だということです。

見直しが進む広告効果

――「ものを売る広告」ではなく「顧客ビジネスのための広告」と考えれば、ダイレクトレスポンス広告も違った角度から見られるのかもしれませんね。
 これまでダイレクトレスポンス広告で「売ること」が強調されてきたのは、ダイレクトマーケティングに携わってきた人にセールス・プロモーション出身者が多かったこともあると思います。おのずとブランド寄りの広告ではなくて、販売だけを目的とした広告という発想になる。だから、認知から始まる購入ステップの「購入」のところだけを取り上げて、それがダイレクトレスポンス広告という話になりがちだったのだと思います。しかし今は、統合型のコミュニケーションによって、商品認知から購入までの広告の構造やメディアの使い方を見直そうという動きになってきています。

――広告の構造というのは、具体的にはどういうことでしょうか。
 「レスポンスWIN」のクリエイティブ戦略で、レスポンスをパワーアップするチェックポイントとして挙げているのが、アテンション、説得、行動促進です。これは要するに消費者行動の心理モデルであるAIDCA(注)を一つの広告の中で全部やるという話です。
 レスポンス型の広告を見てもらえばわかるのですが、まず大きい文字で最初に飛び込んでくるアテンションの言葉があります。レスポンス率の勝負は実はほとんどそこで決まってきます。ターゲットを規定し、彼らに関心のある言葉をそこに持ってくるわけです。アテンションは普通の広告でも必要ですが、ダイレクトレスポンス広告では一段と厳しくチェックされます。
 ターゲットが振り向いてくれたら今度は説得する。その場合も商品で勝負できるならそのまま勝負するのが一番効果的で、その特徴をきちんと噛み砕いて説明することが重要です。次に、それを確信にまで持っていく。ほかの商品と違うこだわりの部分を強調したり、専門家やユーザーの推奨を入れる。そして最後に行動促進。アクションを起こさせるために、「今だけの限定」「送料無料」などのオファーを付ける。ダイレクトレスポンス広告の構造は、どれもだいたい同じようなものになっています。ダイレクトレスポンス広告というのは、人間の行動心理を突き詰めるとこうなるという結果でもあるわけです。

クリエイティブの表現チェックポイント


――そういうダイレクトレスポンス広告を見直して、見えてきたものは何ですか。
ブランド知名率とレスポンス数の関係
 たとえば、広告のストック効果、フリークエンシー効果はレスポンス率にかなり影響するのですが、これまでダイレクトレスポンス広告のプランニングではあまり考慮されていませんでした。しかし、実際のテストマーケティングにおいて、ストック効果、フリークエンシー効果を考慮したメディアプランニングをするとレスポンス率は上がってきます。同じ広告を何度か掲載した方がレスポンス率は上がるということです。よくダイレクトマーケティングでは、広告素材とメディアを同一条件にして、比較したいものだけを違えてテストマーケティングを行いますが、そこには広告の量のコントロールという視点がこれまでは抜けていました。
 また、知名率が上がるとレスポンス率が上がることもわかってきました。興味深いのは知名率が上がるとレスポンス率がブレークスルーするポイントがあって、レスポンス率が急激に上がることです(図2)。これは今まで言われていたこととは別の要因、つまりブランドの知名率やフリークエンシー効果がレスポンス率に影響を与えていると考えないと説明できないことです。

――これまでは「購入」段階にのみ注意が注がれていて、そういう一見常識的なことが見逃されていた?
 従来のダイレクトマーケティングの常識では、同じ広告をやり続けるとレスポンス率は下がることはあっても、上がるとは考えられていませんでした。

顧客ビジネスの「ブランド」

――最近、ダイレクトレスポンス・ビジネスに参入する大手の企業が増えていますが、既存のブランド力はやはり有利に働くのでしょうか。
 元々ブランド力のある企業がダイレクトレスポンス・ビジネスに参入したとして、そのブランド力だけに頼って成功できるかというと、むずかしいですね。

――その理由というのは?
 ダイレクトレスポンス・ビジネスは結局のところ「顧客ビジネス」だからです。イメージを補強して好意度を上げればだれもが買ってくれるかというと、そんなことはない。そこで重要になるのはブランドの経験価値で、周りの人が使っている、会員数が何十万人突破したといったいろいろな実績が積み重なってブランドができてくる。

――ダイレクトレスポンス・ビジネスでいうブランドは、既存のブランドと別だということですか。
 顧客ビジネスにおけるブランディングと思ったほうがいいと思います。
 最初にも言いましたが、ダイレクトレスポンス・ビジネスは初期のころにはレスポンスを獲得して新規顧客を増やしていくことが重要で、顧客基盤ができてからはブランド価値を高め、顧客を育成することが大事になります。それを図にしたものが「ダイレクトレスポンス・ビジネスの成長モデル」(図3)です。これはまったくのゼロからビジネスを始めたときのモデルですが、ある程度ブランド力のある企業がダイレクトレスポンス・ビジネスに参入する場合も、当初は顧客をどれだけ獲得するかが最重要課題です。顧客がいない状態からスタートするなら、「このブランドはいいです」ではなくて、「これはいい商品です」という訴え方をしないとレスポンスは得られない。それにプラス「大手企業のやっている事業です」という話なら効果があるということです。

ダイレクトレスポンス・ビジネスの成長モデル


――ブランド型の広告を展開するのは、顧客基盤ができてからになる?
 顧客が増えてきたあとは、比重が顧客施策に変わってきます。顧客がその企業や事業を評価してくれることが大事になってきます。そうすると、広告もレスポンス型ではなくてブランド型のフレームに移行する必要が出てきます。
 1回当たりのレスポンス率で管理していくのがレスポンス型のフレームです。初期の場合は新規顧客の獲得が第1の目的となりますから、レスポンス率を最大にする広告クリエイティブが必要になります。しかし、顧客基盤ができてからは、ブランド型で顧客のロイヤルティーを高める必要が出てくる。顧客ビジネスの場合、ターゲットは「既顧客」です。自分がその商品を使うことが間違っていないと確信を深めたり、好意度や安心感を高めることが目的になります。

――ブランディングは不特定多数の人々の中にあこがれや信頼を作るものだと思っていましたが、ダイレクトレスポンス・ビジネスはこれまでのマスメディアと流通チャネルを使ったビジネスとは違うということですね。
 繰り返しになりますが、それは、ダイレクトレスポンス・ビジネスが顧客ビジネスモデルだからです。既顧客の数を増やしていけば増やしていくほど、ロイヤルティーの高い顧客が増え、たくさんお金を落としてくれる。そういう顧客がどれだけいるかがビジネスの拡大に非常に貢献します。
 ダイレクトレスポンス・ビジネスでは、ブランド広告をこれまでとはまったく違う意味で使い始めています。たとえば、テレビCMを積極的に流す場合も、それで電話注文を受けることを目的にしているのではなく、既顧客のクチコミから新規の顧客が広がっていくことや、既顧客の中で最近購入のない人たちを活性化するために行う場合があります。ブランド広告をそういう“きっかけ”として生かしているわけです。

(注)AIDMA(アイドマ)モデルは、Attention(注意)→ Interest(関心)→ Desire(欲求)→ Memory(記憶)→ Action(行動)の頭文字をとった消費行動の心理プロセス。 AIDCA(アイドカ)モデルは、Memory(記憶)をConviction(確信)に変えたもの。

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