From Overseas - NewYork 2005.7・8/vol.8-No.4・5

悲喜こもごものアップフロント
 アテネ五輪に大統領選とトピックにも恵まれたせいか、昨年のアメリカの広告市場は活況を呈した。しかし、今年はその反動で厳しくなると見る専門家が多い中、第1四半期(1〜3月)の広告費は前年同期比4.4%のプラスと、まずは順調な滑り出しを見せている。
 とはいえ、それをメディア別で検証すると新聞や全国ネットテレビの伸び率は平均以下、ラジオに至っては前年割れと伝統的なメディアが苦戦する一方で、ケーブルテレビは18.2%もの伸びを示している。ケーブルテレビが全国ネット局のパイを着実に奪っていると見る向きも少なくない。
 アメリカでは、毎年5月から6月にかけて「アップフロント」と呼ばれるテレビ広告枠の先行販売が行われる。当地では番組改編を毎年秋に実施する。アップフロントではその年の秋以降、向こう1年間の広告枠がセールスの対象となり、プライムタイムの85%の枠をこの場で取引してしまうテレビ局が出るのも珍しくない。
 今年のアップフロントも5月に入ってから開始され、そのころにはテレビ各局による全ページ広告が各紙のビジネスセクションを中心に連日展開されていた。中でもニューヨーク・タイムズは、アップフロントを特集した別刷りまで発行していた。もちろん、ここで展開される広告は一般の視聴者を対象にした番組宣伝ではなく、人気番組や各年齢層に対する視聴率を広告主の宣伝担当者や広告会社のメディア・バイヤーたちに向けて発信したものである。
 上記の通り、ケーブル各局が全国ネットのパイを着々と奪っている傾向を踏まえ、今年のアップフロントではケーブル各局が早々にセールスを終えるのに対し、全国ネット各局のセールスは長期におよび、苦戦するのではないかと予想されていた。
 しかし、アップフロントによる広告枠のセールスを真っ先に終了させたのは、全国ネット局のABCである。しかも、ABCはプライムタイム枠を昨年よりも3%多くさばき、売り上げも前年に比べて3割近く増やしたと推定されている。
 ABCのセールスがこれほど順調に進んだ要因として、過度な値上げを行わなかったことが挙げられる。アップフロント以降に取引される枠は「スキャッター・マーケット」と呼ばれ、視聴率が良ければ当然ここで取引される広告料金も跳ね上がる。広告主やメディア・バイヤーたちは高い枠を買わされるのを避けるために出来るだけアップフロントの場で枠を押さえようとするので、各テレビ局は強気な商売を行おうとする。中には10%以上の値上げを迫る局もあるという。そんな中、ABCは広告主がテレビ向けの広告予算を他メディアに移管している現実を受け止め、値上げの幅を4〜6%に抑えた。
 一方、昨シーズンの18〜49歳までの視聴率が全国ネットの間で1位だったのに対し今期は4位に転落したNBCは、視聴者1000人当たりのコスト(CPM)を前年比で3〜4%下げざるを得なかったため苦戦。またケーブルテレビは強気なセールス姿勢を変えないことから、逆にセールスの期間が予想に反して長引いている。
 1年間のプライムタイム枠のほとんどが、わずか1か月足らずで取引されるからといって、テレビ各局の広告営業担当者の商売が決して楽なわけではない。視聴率が良くなければ、前出のスキャッター枠を捻出して広告主に補填しなければならないケースもあるという。メディアの広告営業担当者の商売が厳しいのは、日本もアメリカも変わらないようである。

5月10日 NYタイムズ紙(別刷り) 5月16日 NYタイムズ紙

(6月10日)

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