経済を読み解く 2005.7・8/vol.8-No.4・5

歴史から見る次世代産業 ― 第4次産業としての「創造産業」 ―
 次にブレークする産業は何か。ビジネスに携わる人であれば、誰でも気になるところだろう。これまでの産業の発展の歴史を振り返ってみることからも、それを考えるヒントが浮かび上がってくる。

[1] 産業の発展と時代潮流
 
イラスト 産業の発展の歴史については、農林水産業や鉱業などの第1次産業、製造業と建設業からなる第2次産業、商業やサービス業などの第3次産業の順番で発展するという考え方がある。17世紀の経済学者ウィリアム・ペティが提唱し、その後、コーリン・クラークが1940年の著書において統計データによって実証したことから、2人の名前を取って「ペティ=クラークの法則」と名付けられた、一種の経験則である。
 産業が1次、2次、3次の順に発展してきた背景には、それぞれに大きな時代潮流が存在していた。まず、第1次産業から第2次産業へのシフトの背景には、科学の進歩にともなう「科学技術の産業化」という大きな潮流があった。自然科学の進歩の積み重ねが、高度で複雑な商品の生産という形で、人々の経済活動、生産活動に取り込まれていったのである。
 それに続く第3次産業の発展の背景には、2つの大きな潮流が存在している。1つは、生産活動の複雑化にともなう「企業の間接部門の産業化」である。これは当初、商業や運送業といった、1次や2次の産業に付随する産業の発展という形で現れた。製造業の生産体制の巨大化にともなって、原材料や製品を売買する取引相手が多様化、広域化していったことを受けて、商品の売買や輸送に特化した産業が発展したのである。そして、3次産業も含めて企業活動がより複雑化、大規模化していくにつれて、金融や情報通信、広告・宣伝など、さまざまな分野が産業化され、成長していった。
 もう1つの潮流は、「個人の生活の産業化」である。技術と産業の発展の結果、人々の所得水準が向上したことで、従来は家庭内で供給していた機能も、お金を出して外部の人に任せる傾向が生じた。炊事、洗濯、掃除、育児、教育など、その対象は次々に広がっていった。さらに、所得水準が一段と上がってくると、単なる家事代行的な分野だけでなく、スポーツや音楽、演劇などの興行や、映画、遊園地、旅行関連など、娯楽を提供する産業も成長していった。
 
[2]新産業のとらえ方

 ここまでで見てきた時代潮流は、衰えることなく、むしろ勢いを増して現代へと流れ込んできている。次にブレークする産業を探すにも、まずは、それらの潮流の延長線上からはじめるのが妥当だろう。
 「科学技術の産業化」では、「IT革命」のブームが記憶に新しい。その次という意味では、バイオやナノテク、あるいは環境関連の技術が注目されている。科学技術の進歩は、現代においても、新産業を生み出す最も強力な原動力と言えるだろう。
 「間接部門の産業化」では、人材の養成やセキュリティー関連などの領域がホットになりつつある。また「生活の産業化」では、制度的な枠組みが整った介護の分野や、健康、資産運用、そしてここでもセキュリティー関連の市場に注目が集まっている。
 これらに加えて、もう1つ考えておきたい可能性は、1次でも2次でも3次でもない産業、いわば「第4次産業」の発展である。産業を1次、2次、3次に分けて考える枠組みが提起されてから、オリジナルのペティはもちろんクラークの実証から数えても、すでに相当な年月がたっている。そろそろ「第4次産業」が登場してきてもおかしくはないはずだ。

[3] 焦点は「創造産業」へ

 それでは、1次でも2次でも3次でもない、というのは、どういうことだろうか。大まかに言うと、価値を生み出すにあたって「自然」に働きかけるのが第一次産業、「モノ」に働きかけるのが第2次産業である。そうした違いはあるが、それらはいずれも、労働の成果としての価値をモノの形で残す産業である。それに対して、第3次産業は、労働の成果としての価値を、その場で消費して後に残さない産業である。
 こうした違いが、単なる発展の順番という意味合いを超えて、1次、2次、3次の産業を概念的に区別する基準となっている。そのいずれでもない産業となると、それは、モノ以外の形で価値を残す産業ということになる。その条件に該当するのは、「情報」の形で価値を残す産業だろう。
 情報を創造する産業という意味では、音楽や映画、ゲームの制作など、以前から存在していたが、それらは従来、CDやビデオなど「モノ」の形に仕上げる場合には第2次産業の一部、映画館での上映やコンサートなどが主力の場合には第三次産業の一部といった形で、いささか曖昧な位置付けが与えられてきた。しかし、近年では、ネットからのダウンロードなど、純粋な情報の形でコンテンツを取引する手法が確立したことで、2次でも3次でもない「情報創造産業」の輪郭が明確になってきた。
 そして、消費者のニーズが高度化したことで、人々を楽しませたり感動させる情報コンテンツを創造することの重要性は、一段と高まってきた。製造業やサービス業でも、企画やデザインのような創造性を要求される仕事の重要性が認識され、そこに戦力を集中させる傾向が強まっている。デザインや企画だけを専門に行う企業も増えてきた。いわば「創造活動の産業化」の潮流が生じているのである。
 いまや「創造した価値を情報の形で残す産業」は、概念的な位置付けに加えて、その成長力や重要性のうえでも、既存の産業群と切り離して、第四次産業と呼ぶにふさわしい存在になりつつある。目下、一番の注目株と言えるだろう。
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