特集 2005.6/vol.8-No.3

情報の伝わり方メディアの使い方
メディアとしての企業サイト、その新たな試み

 今年3月、日本広告主協会Web広告研究会の代表幹事に就任した棗田(なつめだ)氏は、95年に自社ホームページ立ち上げメンバーとして参加。以後ウェブマスターとして味の素のサイト管理・運営に一貫して携わってきた。企業サイトの課題と可能性、そしてメディアに対する考え方を聞いた。

――棗田さんはWeb広告研究会のサイト活用委員長もなさっていますが、最近の企業のサイト活用は変わってきましたか。
 順を追って見ていった方がわかりやすいと思うのですが、インターネットの歴史を振り返ると、企業で一番早くホームページをつくったのが94年ごろだったと思います。やはり、95、6年にサイトを立ち上げた企業が一番多くて、味の素も96年4月8日にサイトをオープンしています。
 その後、2〜3年「ホームレス」という言葉が、ネット上ではやった。ホームページを持っていない企業のことを当時はそう呼んでいたんですね。ただ、初期のころのホームページは、紙の会社案内とそれほど変わりませんでした。
 98年ぐらいから、何かに使えないかとみんな思い始めて、物を売ってみよう、広告を出してみようということになった。「ネットショッピング」「ECサイト」という言葉が出てきたのが、そのころです。
 さらに、2000年代に入って、もっと積極的にサイトを使おうということで注目されたのがプロモーションです。それも最初は告知だけだったのが、ネットそのものでプロモーションを完結させようという動きが出てきた。当初はパソコンで応募できますというところから始まったのですが、パソコンで応募というのはハガキの代替です。携帯電話ならその場ですぐ応募できる。しかも、結果がすぐわかる「インスタントウィン方式」が出てきて、告知応募メディアがパソコン中心からモバイルに変わって行った。今は携帯電話での応募は当たり前になってしまっていますね。

――プロモーション手法として、目新しくなくなった?
 だから、また昔に戻って、グッズの魅力度とか言われ出しています。
 というように、物を売ったり、広告やキャンペーンに使ったりで、企業のインターネットの規模も大きくなり、オーディエンスも広がってきた。「でも、待てよ」と企業が思い始めたのがここ2、3年です。企業のホームページの本来の目的は何なんだということになってきたのです。

――10年たって原点に戻ったということですか。
 Web広告研究会のサイト活用委員会の中に、「企業広報ワーキンググループ」をつくったのが昨年です。企業サイトの担当者は、みな同じ悩みを持っています。
 キャンペーンは広告部や販促部に任せておけば勝手に動くようになった。しかし、ホームページ自体で何を伝えていくかをきちんと押さえておかないと、ホームページを持っている意味が半減する。自分たちのパブリックリレーション活動として、どう活用するかという動きが出てきたと思っています。
 キャンペーンはおもしろいし、派手だし、結果もわかりやすい。今までハガキだと1万件しか応募がなかったのが、ネットにしたら100万件来た。これまでは、そのことだけで評価されていたわけです。それはそれでいいけれども、ホームページの目的は、それだけではないでしょう。売り上げとは直結しないかもしれないが、企業の情報をきちんといかに伝えるかも大事でしょうとなってきた。それが今ですね。

マヤヤのお料理ABC

――パブリックリレーション的な使い方の例になると思うのですが、味の素では「マヤヤのお料理ABC」というサイトを始められましたね。
 ブログ(注1)を使って、昨年の10月から始めています。毎日の献立に困っている主婦にレシピを提供するのがサイトの目的です。

――まだ実験的な試みなのですか。
 単なる試みではなく、ある程度のもくろみを持ってやっています。もともと「レシピ大百科」という、うちのキラーコンテンツがサイト上にあるのですが、そのサイトの活性化策の1つとしてブログもあるという位置付けです。
 味の素には1万件以上のレシピの資産があります。それをサイトにアップしたのが「レシピ大百科」です。1909年に「味の素」を売り出した最初の新聞広告にも、すでにレシピを載せています。「味の素」はそれまで世の中になかった商品ですから、それをどう使ってどういう料理を作るかということをずっとやってきた。「ほんだし」も「Cook Do」も、それまで世の中になかった商品です。その資産が今は1万件以上のレシピになっている。それに伴う食に関する知見や調査データも膨大にあります。

――「マヤヤのお料理ABC」のサイトの運営はどうしているのですか。
 社内でやっています。レシピを管理しているスタッフがもともといるので、このサイトのために新たに人を雇ったり、組織を作るということは一切やっていません。自分たちの持っている資産を有効活用するというのも目的の1つです。
 それともう一つは、「レシピ大百科」は確かにいいコンテンツなのですが、中身が多すぎる。それで「マヤヤ」で紹介して、リンクを張って眠っているコンテンツを表に引っ張り上げて紹介する。コンテンツの再利用も目的です。

ブログを活用した井戸端会議

――マヤヤのお料理ABC」にブログを使ったというのは。
 お客さんに参加してもらって本当の双方向をやりたいという意図があったからです。それで、ブログの機能をそのまま生かして、コメントを書き込めるようにしています。

――変な書き込みをされることはないのですか。
 確かに、“荒らし”に遭うという危険性を言う人もいます。なのに、なぜやろうと思ったかというと、まず、世の中の人がネットとのつきあい方になれてきたことがあります。サイトの趣旨と違うことを書く人がいても、みんなが相手にしないし、そういう人は自然に消えていく。サイトにはサイトの自浄作用があるということです。また以前は、サイトの趣旨と違うものが載った場合は削除しますとルールに書いてあっても、削除すること自体が問題になりましたが、今はみんな当然と受け止めるようになっています。

――実際にコメントを削除されたことはあるのですか。
 幸いなことに、このサイトを始めてからコメントを削除したというのはスパムのコメント以外ありません。確かに、今のアクセスが月1万数千人程度だからそうなのかもしれません。これが10万人になったらどうなるかはまだわかりませんが。

――「マヤヤ」には、顧客の囲い込み、コミュニティーづくりという意図がある?
 味の素ファンを作ろうという顧客の囲い込みは、「CLUB AJINOMOTO」という別のサイトでやっています。「マヤヤ」の中でアクティブに発言してくれる人がいれば、それでいいし、その人がブログを持っていてトラックバック(注2)してくれれば、また横に広がっていく。マニアックなコミュニティーではなくて、「マヤヤ」は「今日の晩ご飯何にしましょ?」、そのための井戸端会議だと思っています。

――「コミュニティー」という言葉を使うから話がむずかしくなるのかもしれませんね。
 ベネッセの「ウィメンズライフクラブ」(http://www.bwlc.jp/)が井戸端会議の典型ですよね。子供が生まれる前や子育てで悩んでいる人たちが集まって、それこそいろいろな会話をしている。でも、一定の期間が過ぎれば離れていく。その時、共通の悩みを持った人たちだから匿名でも気軽に話し合える。それは、長年培ってきた信頼性をそのサイトそのものが持っているからです。そういうサイトでは変な書き込みをする人もほとんどいないわけです。

(注1)ブログ(blog)とは、ウェブログ(weblog)を略した言葉で、本来は「Web上に残される記録」という意味だが、一般にはページの構成パターンが決まったWebページのことを言う。ブログ作成ツールでテキスト文字を書くだけでホームページが簡単に作成できるということで、2年前くらいから個人のホームページを中心に急速に普及している。

(注2)トラックバックは、「あなたのブログを私のページで紹介しました(リンクしました)」という自動通知機能で、相手のブログの記事の下にある「トラックバック」というコーナーに反映される。こうして、「相互リンク」が自動的に行われて、ブログ同士の連携が進む。





マスメディアとインターネット、連動の視点株式会社ドリル
取締役 プランニング・ディレクター 原野守弘 氏→
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