From Overseas - London 2005.6/vol.8-No.3

地下鉄と「メトロ」の蜜月解消
 イギリスのフリーペーパー市場に変化が起こっている。現在、市場に最大の影響力を持っているのはアソシエイテッド・ニューズペーパーズ社が発行する「METRO」だ。同社はメトロだけでなく、全国日刊紙で第2位の部数を誇る「デイリー・メール」や、ロンドンの夕刊紙「イブニング・スタンダード」などを発行する、イギリスを代表する新聞社の1つだ。
 メトロがイギリスで創刊されたのは1999年のこと。今ではイギリスの主要各都市で発行されており、2005年3月の発行部数は約106万部にのぼる。日刊紙の部数では大衆紙の「サン」(約310万部)、「デイリー・メール」(約230万部)、「デイリー・ミラー」(約160万部)に続き、高級紙第1位の「デイリー・テレグラフ」(約86万部)をも上回る。
 多くの読者を短時間に獲得できた理由は、通勤時間中に読み切ることができる、割り切った紙面構成と、何よりも地下鉄駅構内における無料配布の権利を独占してきたことだ。ロンドンでは数多くのフリーペーパーが発行されているものの、現時点で駅構内における配布権を持っているのはメトロだけ。各駅には利用客が自由にメトロをピックアップできる配布箱が設置され、毎朝、ラッシュアワーが終わるころにはすっかり無くなってしまう。あえて「もらっておかないと無くなるかもしれない」量に抑えることで一定の希少価値を醸成し、ブランド力を高めようとする戦略でもある。部数だけでなく、15歳から24歳が29%、25から34歳が27%、学生が17%という読者構成も、読者層の高齢化に頭を悩ませる一般紙をうらやましがらせるに十分なデータだろう。
 このメトロの独占状況に変化を起こすこととなったのは、英公正取引委員会の決定だ。4月下旬、メトロとロンドン市交通局が結んでいる地下鉄駅における排他的な配布権利契約について、公取は排除勧告を通達した。
 6年前に締結された両者の契約では、メトロが地下鉄駅などにおいてフリーペーパーを配布する権利を独占する代わり、交通局は多額の配布場所設置料を手にすることになっている。交通局はこの資金を公共交通機関網の拡張、改善に充ててきた。しかし、今から2年前に「デイリー・エクスプレス」などを発行するエクスプレス・ニューズペーパーズ社が独占解除を求めて提訴し、今回の決定に至った。メトロ側もこの決定を承諾し、他紙も駅構内で配布することが可能となった。
 しかし、今回開放されるのは、メトロが配布されていない時間帯の配布権利のみ。つまり、夕刊帯もしくは時間帯を午後と夕方から夜の2つに分けての権利が争われることになるようだ。ロンドン市も公取の決定に先んじて、新規参入の入札を行うことを発表している。あまりに迅速な対応は、メトロの発行元が手掛ける夕刊紙「イブニング・スタンダード」が、ロンドン市長に批判的な立場をとっていることが理由だと揶揄されているが、実際はより多くの配布場所設置料を手にしたいというのが本音だろう。2012年の五輪がロンドン開催となった場合に掛かる、公共交通網の整備費用を確保しておきたいという思惑もあるかもしれない。
 現在、入札参加が見込まれているのは、まず新規入札実施のきっかけを作ったエクスプレス・ニューズペーパー社。これに加え、ガーディアンとタイムズなどを発行し、「若年層が良質のジャーナリズムを無料だと勘違いするのは問題である」とフリーペーパーに批判的な発言をしていたニューズ・インターナショナル社といわれている。
 アソシエイテッド・ニューズペーパーズ社は、今までメトロから大きな収入を得てきたが、今後、無料夕刊紙が創刊されれば、グループ内のイブニング・スタンダードが甚大な影響を受けると予想されている。

5月6日 メトロ紙
(5月9日)
もどる