特集 2005.4/vol.8-No.1

「クチコミ」が変えるもの
マーケティングデータとしてクチコミを活用する

 化粧品のクチコミサイト「アットコスメ」には、月間百万人が訪れる。女性が自分で使った商品の生の評価を伝えるこのサイトは、利用者にとっては情報交換の場であり、企業にとっては企業横断的なマーケティングデータになっている。こうしたクチコミ活用の発想は、どこから生まれたのだろうか。

●アットコスメにとってクチコミとは何でしょうか。

 一般的には、プロモーションの手段としてクチコミはとらえられていると思います。広告で商品情報を伝えていく代わりに、クチコミを活用するという考え方です。アットコスメにとってクチコミとは何かといえば、ユーザーのデータベースです。サイトを立ち上げたのは1999年12月ですが、もともと私自身は、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)という経営コンサルティング会社で業務のコンサルティングやシステム設計に携わっていましたから、クチコミのユーザーデータベースを構築しようという考えは最初からありました。そこが、広告会社の人たちが考えるクチコミとは大きく違う点だと思います。
 アットコスメはウェブとモバイル合わせ、月間およそ100万人の利用者が訪れる化粧品のコミュニティーサイトです。書籍のアマゾン・ドットコムと同じように、中に入るとユーザーのクチコミ=化粧品の商品レビューのランキングがジャンル別にあります。このランキングはユーザーのクチコミ件数の多い順などで並べかえられ、ほかにユーザーの商品評価の平均点も表示されます。商品評価の点数は、使用実感を0点から7点の8段階で評価してもらっています。
 それぞれの商品に寄せられるレビューにはかなりシビアなものもあります。「CMを見て、良さそうだと思って購入。使ってみたがいいところがなかった」というような辛辣なことも書き込まれますが、商品に関するコメントは基本的にすべて載せています。
 サイトを立ち上げた当初、広告会社の方から「メーカーの悪口を言うところに誰がお金を出すのか」という声があったのも確かです。それはやはり、プロモーションという視点からクチコミを見た意見だと思います。
 アットコスメでは、ユーザーの商品レビューに対してインセンティブはいっさい付けていません。すべて、ユーザーが自由に書きこんだものです。それだけでなく、ユーザーの正直な商品評価情報が蓄積される仕組みづくりにさまざまな工夫を凝らしています。マーケティング全体で見れば、商品に対するプラスの評価も、マイナスの評価も、企業にとって貴重なユーザー情報だからです。

●ユーザーの商品評価を中心としたサイトをつくろうとした理由というのは?

 企業が顧客情報を共有できる新しいプラットフォームをつくりたいというのが、アットコスメのそもそもの発想です。
 1993年ごろ、それまでのマスマーケティングに対してCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)という考え方が出てきました。大量に情報を伝えて新規顧客を獲得するよりも、一人当たりのライフタイム・バリュー(生涯価値)、つまり自社の商品を何度も買ってくれる顧客を増やした方が効率がいい。顧客満足、顧客データベースを元にした経営の考え方ですが、ほとんどの企業で、いまだに成功しているとは言えません。
 その考え方自体は間違っていないと思うのですが、うまくいかない根本的な理由は二つあると思っています。一つは、顧客データをためることが非常に高コストになってきたことです。以前は、顧客接点が店頭だけでしたが、最近はウェブあり、携帯ありと多様化し、それぞれにシステムを作っていかなければならないため、一人当たりの顧客情報の獲得単価が非常に高くなってきました。セキュリティーコスト、分析コスト、顧客とのコミュニケーションコストもかかりますから、マスメディアのリーチコストと比べて費用対効果がいいとは言えなくなっています。
 もう一つは、顧客データベースは自社ユーザーだけですから、市場調査に使えないという元々の弱点があります。競合商品も調べられないとマーケティングデータにはならない。結局、市場調査コストも全然下がらないことになります。
 インターネットが出てきて、自社ユーザーのコミュニティーを作っても、どう活用していいかわからない。広告コストも変わらず、調査コストも下がらず、個人情報保護法が出てきて顧客データコストだけは高くなっている、というのが現状だと思うのです。
 アットコスメは、ユーザーにとっては商品を買うときの参考になる情報交換サイトですが、企業にとっては自社商品だけでなく、他社商品のユーザー評価もわかる顧客データベースです。しかも、そのサイトには一日に3000件から4000件の新しい商品評価が書き込まれています。こうしたユーザーデータベースがあれば、商品をリニューアルしたいときに、自社商品を使っているユーザーだけでなく、競合商品を使っているユーザーにも聞くことができます。あるいは、競合商品を使っている人だけを集めてグループインタビューもできます。そういうマーケティングデータを収集するためのプラットフォームになっているのが、アットコスメというサイトです。もちろん、企業にとって価値のある顧客情報にはコストをかけるべきですが、そうではない部分、一社では収集できない情報は、コミュニティーサイトでやりましょうというのが、そもそもの考え方なのです。

@コスメ @コスメ
@コスメ
http://www.cosme.net/
アットコスメのTOPページ(右)とランキング、商品レビューのページ。画面は3月現在のものだが、4月1日からリニューアル


●企業サイドに立った見方かもしれませんが、商品の人気を知るならPOSデータで十分ではないでしょうか。

 POSデータとの違いを説明する前に、商品レビューとは何かから話した方がわかりやすいと思います。ユーザーが書くレビューは何かというと「期待値とのギャップ」です。たとえば、まるで期待しないで見た映画を意外と面白く感じたり、前評判の高い映画をそれほどでもないと思うのは、誰もが経験することだと思います。それと同じで、ユーザーの商品レビューは、実際に商品を買ったときの「期待値とのギャップ」を書いたものだと思っています。
 商品に対する期待値は何によってつくられるかというと、広告やパブリシティー、あるいは店頭での商品の扱われ方など、ユーザーとのコミュニケーションによってつくられます。今までのマーケティングは、この期待値をひたすら上げることのみに努力を傾けてきました。「よりおいしく」「よりきれいに」「よりスピーディーに」と期待値を上げていって、買った結果には責任を取っていませんでした。予算が許せば後で市場調査をするぐらいで、実はコミュニケーション活動によって生まれた期待値とのギャップを調査することはほとんどありません。それに応えてくれるのが、ユーザーの商品レビューなのです。
 一方、POSデータは何かというと売り上げデータです。商品に対するユーザー評価が高くても、商品が売れなければPOSの評価は低くなります。エポックメーキングな商品で、買った人は非常に高評価をしていても、商品自体の認知が低ければ「売れない」という理由で店頭から下げられてしまいます。つまり、POSデータでわかるのは商品の売れ行きだけですから、力を集中すれば今後売れる見込みのある商品なのか、見込みのない商品なのかの判断ができないのです。しかし、ユーザーの商品評価を見れば、それが判断できる。クチコミ件数は少ないのに評価の高い商品や、その逆の商品もあります。また、全年代では評価は低くとも、特定の年代に絞れば評価が高くなるケースもあります。




マーケット・メイブン――「市場の達人」とは何か
東京大学大学院人文社会系研究科教授 池田謙一 氏→


「くちコミ」と「マスコミ」を連動させる視点
廣告社 コミュニケーション局マーケティング部 1チーム長 ディレクター 中島正之 氏→
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