特集 2005.1・2/vol.7-No.10

2005年 経営活性化のキーポイント 個人株主と企業コミュニケーション
長期的なファンづくりを目指した個人株主への取り組み

 大手ビール会社では初の株主総会後の試飲会や個人株主拡大をねらった専用IRサイトの開設など、個人投資家向けIR活動に積極的に取り組んでいるのがアサヒビールだ。昨年は、日本インベスター・リレーションズ協議会の「IR優良企業賞」も受賞した。個人株主に対するさまざまな施策の考え方について、IR室の鈴木剛氏に聞いた。
 
――個人株主づくりに積極的に取り組んでいる理由は?
 個人株主に力を入れ始めた理由は大きく三つあります。一つは、よく言われることですが、株式持ち合いの解消です。二つ目は、株主になることで、さらに商品を身近にしていただき、ロイヤルカスタマーとして応援していただく層をつくること。三つ目は、個人株主の方に企業の監視役を担っていただけるのでは、ということです。中でも、アサヒビールのファンづくりが一番大きな理由です。

――個人株主をコアな顧客としてもとらえている?
 当社が扱っている商品はビール、発泡酒をはじめとする身近な大衆消費財ですので、「個人株主イコールお客さま」と考えて、いろいろな施策を実施しています。

株主だけの「限定感」を届ける株主様限定特製ビール

――個人株主づくりに取り組み始めたのは、いつごろからでしょうか。
 プロジェクトを立ち上げたのは、2002年末からですが、具体的に施策を実行したのは翌03年8月からで、(1)株式売り出し(2)株式投資の最低単位を千株から百株にする単元株の引き下げ(3)株主優待制度の新設を同時期に行いました。
 当時の株価は700円台でしたから、単元株を100株にすることで約7万円で株主になることができました。1250万株を売り出し、平均で1人300株で、約4万人の方に当社の株式を持ってもらえました。単元株を引き下げる前の2002年末の単元株主数は約3万8000人でしたが、100株に引き下げた2003年末には8万3000人以上と、前期末の2.2倍に増加しました。
 また株主優待制度は、アサヒビールならではの“株主優待”をと考え、複数からの選択方式にし、さらに株主様だけの限定品を選択肢に加えました。昨年は「株主様限定特製ビール」など三種類の株主優待品を用意したほか、それと同額をアサヒビール環境基金「水の惑星」への寄付に代えられる選択肢もご提案しました。

――株主優待制度の反響は、どうだったのでしょう。
 「水の惑星」は昨年新設したばかりの環境基金なのですが、1300人を超える株主の方から申し込みがありました。最も人気が高かったのは「株主様限定特製ビール」で、株主の方の約55%が選んでいます。株主向けに特別醸造したビールで、3月10日に発送した株主総会のご案内で株主優待の希望を募り、4月12日に応募締め切り、その段階で原材料を購入、工場で仕込み、6月1日にパッケージングし、「6月1日に製造。できたての味をお楽しみください」という一文と共に株主様にお届けしました。

株主総会後に自社商品の展示試飲会

――株主総会後に開いた展示試飲会も話題になりましたが。
 次に取り組んだのが、株主総会の改革です。まず、従来は墨田区の本部ビル内で実施していた株主総会の会場を都心のホテルに移し、参加しやすいようにしました。また、総会後にグループ各社の商品を知ってもらい、同時に味わってもらうことを目的とした「商品展示試飲会」を大手ビール会社では初めて実施しました。その結果、これまで300人程度だった株主総会ですが、昨年は1118人に出席者が増えています。
 また、これまで2、3問だった総会での質問も、15人、20問と増え、総会の時間も1時間から2時間に伸びました。
 これまで財務的な質問が大半でしたが、今回空き缶のポイ捨てや環境問題への取り組みなど、環境に関する質問が多く、消費者の感覚に近いものを感じましたね。

初心者にもわかりやすいIRサイトを開設

アサヒサポーターひろば
http://www.asahibeer.co.jp/ir/supporter/
――自社ホームページに通常のIRサイトとは別に、個人向けのIRサイト「アサヒサポーターひろば」もつくられていますね。
 昨年の6月に立ち上げたものですが、これは既存の個人株主・個人投資家だけを対象にしたサイトではありません。キャンペーン応募などでアサヒビールのホームページからお客様の情報を登録いただいている「アサヒWebサービス」は100万人前後いますが、そういうアサヒビールの商品に関心のある方たちに、会社自体にも関心を持ってもらいたいということからつくったサイトです。
 サイトの名称に「サポーター」という言葉を使ったのも、投資経験がない方を「投資家」と呼ぶのは抵抗があったからです。しかし、登録いただいているお客様は、重要な潜在株主であるとも思っています。

――コンテンツもかなりわかりやすいものになっています。
 社長のあいさつ、株主優待制度の紹介、業績ハイライトなどのほか、「株主になるには……」というコーナーもつくっていますが、これも、今まで株式投資の経験のない人たちが当社の株主になるきっかけになればと思ってつくったコーナーです。
 私自身は一昨年の3月、宣伝部から広報部に異動し、個人向けIRの担当になったのですが、その時感じたのは、やはり一般の人たちにとって証券会社の敷居は高いということです。その抵抗感を少しでも和らげたいという気持ちがありました。

――昨年10月に「すべては、お客さまの『うまい!』のために。」というIRセミナーを実施されたと聞いていますが。
 このセミナーも「アサヒWebサービス」のご登録者を対象としました。内容は、社長の池田と社外取締役でジャーナリストの野中ともよさんが、アサヒビールの今の姿をわかりやすくお伝えする対談形式のセミナーです。東京国際フォーラムで10月27日に開催したのですが、首都圏の1都3県に在住の約50万人にメールでお知らせしたところ、1000人を超える応募をいただきました。会場の関係で約300人の皆様を抽選によってご招待いたしましたが、関心の高さに感激しました。

会社全体の魅力を伝える事業報告書に

アサヒビールの事業報告書「アサヒスーパーレポート」
――事業報告書も、株主とのコミュニケーションの重要な役割を担っていると思うのですが。
 株主に読みやすい事業報告書をこれまでも発行していたのですが、昨年9月から「アサヒスーパーレポート」と銘打ち、内容を一新して発行しています。今年からは、四半期に一度発行し、株主の皆様とコミュニケーションを深めていく予定です。

――単なる事業報告書ではない?
 リニューアルに際し、Jリーグやプロ野球のファンクラブの機関誌を参考にしました。ファンクラブの機関誌は、そのチームの勝敗だけを伝えているのではありません。むしろ、試合を見ているだけではわからない選手の素顔や選手以外のスタッフなど、チーム全体の魅力を紹介しています。事業報告書も同じだと思うのです。研究開発やCSR活動など、企業活動にはさまざまな側面があり、また、個人株主の皆様も、当社の株を保有し続けるさまざまな理由があると思うのです。「アサヒスーパーレポート」も、それにこたえる形で、企業の業績をただ伝えるのではなく、アサヒビールのさまざまな側面を紹介していきますし、また、個人株主の皆様にも、その方自身の保有理由を見つけて欲しいと思っています。

株主体験がファンづくりにつながる

――ところで、アサヒビールの発行株式に占める個人株主の割合は。
 当社の浮動株の割合は、現在50%を超える程度と考えておりますが、その内訳は国内の機関投資家20%、海外の機関投資家15%、国内の個人投資家が18%という比率です。東証一部上場企業の個人投資家の比率は平均28%ですから、まだまだ及びません。IR活動の目的は、この浮動株の所有層に対し、適時的確な情報開示をし、双方向コミュニケーションできずなを深め、株価を安定させていくことにあります。特に個人投資家の場合は、繰り返しになりますが、株主イコールお客さまという側面を重視した施策が重要だと考えています。

――個人株主には、やはりできるだけ長く株式を保有していて欲しい?
 ネット取引などで、短期で株を売り買いされる人も大事な株主であることには変わりはないのですが、コミュニケーションが取りにくいということはありますね。「アサヒスーパーレポート」に、株主へのアンケートハガキを同送しています。その回答を見ると、9割以上は当社の株を「持ち続けたい」「買い増ししたい」と答えています。当社のサポーターになっていただけるのは、こういう個人株主の方だと思っています。
 一度でもアサヒビールの株主になっていただいた方には、心のどこかにそのことが残っています。株主になる体験をしていただくことが、長期的に見ればアサヒビールのファンづくりにつながると思います。

――個人株主に対して、新聞などマスメディアの果たす役割については、どうお考えですか。
 個人株主とのコミュニケーションは、マーケティング戦略の一つと考えています。ですから、広告や広報活動とほぼ同じスタンスでよいと思います。タイムリーに出稿している企業広告や商品広告も、会社の理解を深め、個人株主=お客さまのマインドシェアを高めていくものです。例えば、企業広告で、「チャレンジ」「挑戦」というメッセージを伝えたいと考える私たちの気持ちは個人株主にも届く。そういうものだと思います。




2005年の日本経済と個人投資家の役割
国際エコノミスト 長谷川慶太郎氏→


個人投資家の現状とIRコミュニケーションの今後
電通 統合マーケティング局 PRプランニング部 主務 小山雅史氏→


「証券市場活性化プロジェクト」で見えてきた個人投資家拡大の意義と課題
―フォーラム「あなたの暮らしと証券市場」から―→
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