特集 2005.1・2/vol.7-No.10

2005年 経営活性化のキーポイント 個人株主と企業コミュニケーション
個人投資家の現状とIRコミュニケーションの今後

 個人投資家は、日本経済にとって、また企業にとってどのような意味を持つのだろうか。今年の日本経済の見通しと個人投資家の果たす役割について、長谷川慶太郎氏に聞いた。
 
 昨年の夏から秋にかけて株価が急激に上昇した。一般的に株式市場の浮沈を決定しているのは国内外の機関投資家だと言われている。確かに機関投資家は潤沢な資金を投入し株式の売買を行うため、非常に大きな影響力を持っている。一方で個人投資家は、ひとりひとりの資金は限られており、非常に弱い存在である。しかし、昨年の株価上昇のキャスチングボートを握ったのは、本来は「弱小」であるはずの個人投資家であった。
 この状況に符合するように、上場企業は現在個人投資家の獲得に力を入れている。日本IR協議会(JIRA)の「第11回IR活動の実態調査」(2004)によれば、IR(投資家向け広報)を実施している企業のうち、64.8%が個人投資家向けのIR活動を何らかの形で実施していると回答している。
 なぜ、企業は個人投資家向けIRに力を入れるようになったのだろうか。一つには、企業間の株の持ち合いが解消され、その受け皿として注目された、という理由がある。今までであれば、自社の株式を取引先に引き取ってもらうことで関係を強化していく、という形が一般的であったが、時価会計の導入による資産の整理という流れの中で、株式を保有するということに企業が慎重になっていることがある。また、機関投資家にも長期的な保有を期待することは望めず、さらに、理由こそさまざまであるが、外国人投資家には持たれたくない、という中で、個人投資家が、長期に自社の株を保有してくれる存在として注目されてきたのである。
 企業の中にはもう一歩進めて、「個人投資家=自社の商品を積極的に買ってくれる人たち」という流れの中で個人投資家に注目しているところも出始めている。つまり、自社の株を買ってくれる人たちは自社の商品と積極的に関与してくれる人たちであり、したがって、自社の商品も一般の消費者以上に積極的に購入し、さらにはコミュニティーにおいて自社商品を積極的に口コミによって売り込む存在にもなりうる、という考え方である。いわば、株主をマーケティングターゲットとして意識し始めているのである。

図1 投資先選択時の重視点(上位10項目)

個人投資家とは

 「個人投資家」と一言でいわれるが、実は単純にひとくくりできるものではないということが見えてきている。
 電通では2001年以来4年にわたって「個人投資家に関する投資性向と情報性向」という調査を実施している。そのなかで2004年においては個人投資家に、大きく五つのタイプがあることがわかった。一つは、投資経験が浅く、身近な企業への投資意向が強く、情報獲得にも熱心な「のびざかり投資家」。二つめが、80年代後半のバブル期やITバブル期には積極的に株式投資を行ったものの、現在では保有している株を、いわば“塩漬け状態”にしている「とりあえず投資家」。三つめは近年の株価の上昇の中で再び投資意欲を回復し、短期的な値動きで売買を行う「復活投資家」。四つめは、オンライン取引の充実によってゲーム感覚で短期売買を行い、特に企業との接点は求めない「ゲーム感覚投資家」。そして最後に、投資経験、知識が豊富で、投資企業に対しても情報公開などを積極的に求めることで企業と関与していく「セミプロ投資家」がいる。
 特に注目されているのは、「のびざかり投資家」であろう。近年の低金利などの影響により株取引を始め、株主優待や配当などのインカムゲインを重視し、バブルの影響を受けていないために積極的かつ長期的な投資を行う層である。さらには20代や女性(特に主婦)が中心の層であるため、食料品や家庭用品などではマーケティングターゲットとしても意味がある。彼らをどのように取り込んでいくのか、が今企業のIR担当者が頭を悩ませているひとつの課題であろう。
 では個人投資家はどのような視点で企業を選ぶのだろうか。投資先選択時の重視点を聞いたところ(図1)、「購入に必要な価格水準(80.3%)」「業績・財務予想(74.1%)」「一定期間で見たときの株価水準(72.9%)」が上位に来ているが、これは株というものが数十万円の大きな“買い物”であり、安定性あるいは成長性を求めるものであることを考えると当然であるといえる。しかし、四番目に来るのが「知名度(72.7%)」である。さらに五位には「新製品・新事業などの情報(69.0%)」がきている。これに関連して「ブランドや企業イメージ」という項目も59.9%が重視すると回答している。
 この点から考えると、普段、一般消費者との接点が少ないB to B企業などは、一般生活者と接点の強い企業に比べて非常に大きな「差」をつけられている、ということになる。また過去から比較すると、年々「業種」で選ぶ傾向が落ちており、企業として知名度を上げ、どのようなブランドを作っていくのかがまずは個人投資家獲得の鍵になると言えよう。
 さらに、最近企業コミュニケーションにおいて重要視されるようになった「企業レピュテーション(評判)」について聞いてみたところ、個人投資家の76%が「気にする」と回答している。具体的なレピュテーションの内容としては(図2)、「業績(76.6%)」が最も多い。しかし、それ以下の順位は投資タイプによって大きく異なっている。「のびざかり投資家」と「セミプロ投資家」を比較してみてみよう。「のびざかり投資家」では「提供している製品・サービス」、「事故、事件や不祥事への対応」への関心が高く、「セミプロ投資家」では「研究・開発力やその動向」、「経営者、経営ビジョン」といったところを注目している。また、両者に共通するのが「社会的責任にかかわる姿勢」が他のタイプに比べて高いポイントを示していることである。
 企業の情報発信度に対しては63%がなんらかの不満を持っている。具体的には(図3)、「他社との違いや特徴がわかりにくい(40.6%)」「マイナス情報など背景説明が不十分(40.3%)」が上位を占める。他にも、「情報が総花的でわかりにくい」「情報内容が専門的すぎる」などが高い値を示していることから考えると、情報の発信頻度や情報量といったことよりも、「どのような違いがあって」「どこに注目すればよいのか」といった「情報の質」への不満が高まっているといえる。

図2 重視するレピュテーション(評判)

図3 企業のIR活動の不満点





2005年の日本経済と個人投資家の役割
国際エコノミスト 長谷川慶太郎氏→


長期的なファンづくりを目指した個人株主への取り組み
アサヒビール 広報部 IR室 プロデューサー 鈴木 剛氏→


「証券市場活性化プロジェクト」で見えてきた個人投資家拡大の意義と課題
―フォーラム「あなたの暮らしと証券市場」から―→
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