特集 2005.1・2/vol.7-No.10

2005年 経営活性化のキーポイント 個人株主と企業コミュニケーション

 日本経済活性化のカギを握るのは1400兆円の個人金融資産の活用だと言われ、すでに、新たな個人株主づくりを積極的に進める企業も増えている。今後ますます増えると予想される個人投資家、個人株主をどうとらえたらよいのか。経済とコミュニケーション、二つの側面から探った。

2005年の日本経済と個人投資家の役割

 個人投資家は、日本経済にとって、また企業にとってどのような意味を持つのだろうか。今年の日本経済の見通しと個人投資家の果たす役割について、長谷川慶太郎氏に聞いた。
 
――著書の『2005年長谷川慶太郎の大局を読む』では、日本経済は好況に向かうと予測されていますが。
 景気回復はいよいよ本格化し、好況へと転じていくと思います。21世紀は世界的にデフレの時代です。デフレは日本にとって強力な追い風になります。多くの経済学者やエコノミストは、「デフレ・イコール不況」と主張してきましたが、「デフレは景気循環とは関係がない」というのが私の主張です。それが、昨年はっきりしてきた。
 21世紀の世界は、大局的には平和と安定が長期にわたる時代です。世界経済はデフレ以外の展開、つまりインフレに戻ることはあり得ません。デフレ時代というのは、言ってみれば「買い手は極楽、売り手は地獄」の時代です。その地獄の中で生き延びるには、競争相手よりも良い製品を、安いコストでつくらなければいけない。それには技術が必要です。その技術水準が世界で一番高い国が日本なのです。

――しかし、ITや金融工学など知識産業分野はアメリカが勝っているのではないですか。
 90年代の経済成長を牽引したのは、IT化と経済のグローバル化です。確かに、アメリカのIT技術がこれをリードし、アメリカ経済自体も発展させました。しかし、経済のデフレ基調がますます揺るぎないものになってくると同時に、国内・国外を問わず、企業間競争が激しさを増し、さらに高付加価値な 製品や省エネルギー、環境保全を実現する技術やノウハウが、経済を牽引する大きな原動力になり始めています。

資本財・生産財分野に強い日本

――韓国や中国の台頭は、日本経済にとって脅威にはなりませんか。
 最近の日本経済の好調を支えているのは、いうまでもなく輸出の伸びとそれに刺激された民間企業の設備投資拡大です。2004年の日本の輸出額は、史上初めて60兆円の大台に乗る見込みです。
 その日本の輸出製品のうち、自動車、テレビなどいわゆる耐久消費財の占める割合は20%弱であって、80%近くは工作機械や産業用ロボットなどの資本財、生産のために投入される材料・部品などの生産財で占められています。それらをつくる技術は、日本が世界で圧倒的な強さを誇っています。
 たとえば、産業用ロボットのマーケットシェアの90%は日本製です。工作機械も1982年以来、日本は世界一のシェアになっています。82年当時、日本12%、ドイツ11%、アメリカ10%のシェアでしたが、20年後の2002年には日本24%、ドイツは相変わらず11%、アメリカはゼロ%になってしまった。アメリカは工作機械業を自らつぶしたのです。
 中国が台頭してきたといっても、それは消費財の世界の話です。その消費財をつくるためには、日本の工作機械がいる。資本財・生産財の分野は、文字通り「メイド・イン・ジャパン」であって、ほぼ100%純国産です。また、消費財は価格も重要な購入要因になりますが、資本財・生産財を購入するのは企業であり、品質・性能・信頼・納期など「非価格競争力」が購入基準になります。
 日本の技術やノウハウの高さが一番よく表れているのが特許です。2004年の日本の特許輸出超過額は1兆円を超えると見ています。日本は1992年から特許貿易は輸出超過で、96年からは世界のすべての国に対して黒字です。アメリカもドイツも日本から特許を買うほうが多い。

――日本は、工業製品などハードには強いがソフトには弱いと言われてきましたが。
 数字を見ていない人の発言です。アメリカにおける各国企業の特許取得件数も、日本が20%、ドイツ8%、韓国6%、イギリス、フランス各1%です。こうした数字は、すべて文部科学省の「科学技術白書」に出ています。

原油高も円高も影響なし

――昨年は原油の価格が史上最高値を更新しました。
 世界の石油の需要は1日8400万バレルです。ところが供給は8600万バレルあった。つまり、ニューヨークの原油先物相場は、空相場だったということです。1バレル=50ドルを超える最高値をつけた石油も、急落しています。石油は典型的な国際商品で、石炭や天然ガスなどのエネルギー資源と競合しています。もし、バレル40〜50ドルもの高値を放置しておけば、市場は石炭に奪われるということです。

――もう一つ、円高懸念があります。
 円高が進むこともあり得ない。なぜかと言えば、日本ほど金利水準の低い国は世界にないからです。たとえば、日本の生命保険会社の資金の多くはアメリカの国債で運用されています。一社で少なくとも米国債を500億ドル以上保有しています。日本の国債の利率は1.4%、アメリカは4.3%です。もし、100円割れして円高になれば当然ドルを買う、アメリカの国債を買った方が有利になる。そうすると、円高は抑制される。

個人投資家が重要な三つの理由

――長谷川さんは「日本個人投資家協会」の理事長として活躍されていますが、その設立意図は?
 金融関係では日本で最初にNPO法人として認証を受けています。協会をつくって10年になりますが、手弁当です。なぜ始めたかといえば、当時から個人投資家の存在を無視した経済政策は考えられない時代が来ると確信していたからです。そのためには個人投資家にとって、よりよい制度を求める団体が必要になるし、育成も必要になる。

――個人投資家が、これからの時代に重要な理由というのは?
 三つの意味で重要だと思っています。第一は、日本の金融システムを変える決定打だということです。景気が回復し始めたとは言え、改革は必要です。金融システムもその一つで、間接金融方式を直接金融方式に変えるためには、個人投資家の力を借りる以外にない。これまで個人の余剰資金はほとんど銀行や郵便局などの金融機関に預けられ、金融機関はそれを原資として企業に融資を行う間接金融方式でした。企業と金融機関の癒着が、不良債権急増の原因にもなった。経済合理性に基づいた企業経営をするためには、株式投資などを通して企業が資金供与を受けられる直接金融方式にするしかありません。
 第二は、個人投資家の金融資産形成を助けなければ、日本の貯蓄率は急速に下がってしまう。貯蓄率は今も下がっていますが、それは日本が金持ち国でなくなるということです。これを防ぐには、個人投資家の活動を容易にするシステムが要る。
 第三は、一番目と関連しますが、直接金融方式を取ることによって、日本企業の体質を「インフレ適応型」から「デフレ適応型」に切り替える原動力をつくることができる。間接金融方式というのはインフレ時代の資金調達方式です。デフレ時代には直接金融方式しかない。個人投資家、個人株主を重視しなければ、上場企業の経営はやれない時代が来ます。

個人投資家を育てるために

――個人投資家の現状をどうお考えですか。
 個人投資家でいま活発なのはネット取引です。ネット取引が成立した理由は二つあって、一つは売買手数料が安くなったこと、二つ目はパソコンを使う人が増えたことです。ただ、場が立っている間、パソコンの前に座っていられることが条件になるのでサラリーマンはできない。つまり、定年退職者で退職金という元手がある人が利用者には多い。ネット取引の利用者の特徴は短期の投資だということです。「1カイ2ヤリ」という言葉がありますが、1円で買って2円で売る。買ってから売るまで数分のこともあります。

――短期的な値上がり益ねらいになってしまっている?
 それとは別に、中長期的な観点で投資をする人たちもいます。証券会社のセールスマンが対応していた投資家です。ところが、そういう個人投資家層は、この10年間でほとんどいなくなってしまった。特に、EB(エクイティボンド)債(注)とITバブル投資での損失が決定的だった。ですから、そういう前提で個人投資家の育成を考えていかなければいけない。

(注)EB(エクイティボンド)債とは,特定の銘柄の株が一定価格以上なら利息をつけて償還され、株が値下がりした場合は、その株で償還するという債券のこと。

――どうすればいいと。
 個人投資家を育成する方法としては、多分二つしかない。一つは税制、特に配当です。2003年から配当税制が変わりました。今までは20%の源泉徴収プラス、残りの80%に対しては総合課税だったのが、源泉徴収10%で、残り90%については総合課税に入らないことになった。これは中長期的な個人投資家層を育てるための第一歩です。ただ、配当というのは法人税を払った後の課税ですから二重課税です。本来なら、やめなければいけない。
 もう一つの大きいポイントは「投資クラブ」を育てることです。投資クラブというのは、個人投資家が何人か集まってクラブを組織し、投資方針を決定した上でメンバーの拠出した資金をまとめて運用するもので、アメリカには2万3000を超える投資クラブがあります。これまでは証券取引法で禁止されていましたが、それが認可された。個人投資家の株式投資の学習、実践の場にもなるし、小口資金でも株式投資ができる。「日本個人投資家協会」の設立には、この投資クラブを積極的に支援するという目的もあります。

デフレ対応型の企業経営へ

――今年の株価は?
 上がりますよ。ネット取引で頻繁に株を売り買いしている人はもちろんですが、中長期の観点で投資する人にもいい環境が生まれ始めています。中長期で投資をする場合の基準は、配当利回りです。配当利回りが2%を超える優良銘柄も出てきています。

――これまでの日本企業の配当利回りは、どのくらいですか。
 一部上場企業の平均は1%です。アメリカは2%台で、平均すると利益の60%を配当に回している。日本企業のほとんどは、内部留保というインフレ時代の発想から抜けきれていません。

――日本企業の配当もアメリカのようになる?
 そうなるでしょう。そういうデフレ時代の発想に経営を変えていかなければいけない。
 デフレ時代への対応という意味では、税制、金融システム、企業経営、どれをとっても今のままでいいとはまだまだ言いえませんが、景気は今年はさらによくなる。同時に、日本企業の個人株主に対する対応も変わっていくと思います。

http://www.jaii.org/
Keitaro Hasegawa
国際エコノミスト。個人投資家のボランティア団体「日本個人投資家協会」理事長。1927年京都生まれ。1953年大阪大学工学部卒。新聞記者、雑誌編集者、証券アナリストを経て、1963年独立。最先端の技術を踏まえた「現場」から見る独特の経済分析と先見力に定評がある。近著に『2005 長谷川慶太郎の世界はこう変わる』(徳間書店)、『2005年 長谷川慶太郎の大局を読む』(ビジネス社)など。



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