特集 2004.11/vol.7-No.8

企業とスポーツの新しい関係−アテネ五輪とオフィシャルパートナーの取り組み−

 アテネオリンピックは、日本選手のメダルラッシュが続き、注目のうちに幕を閉じた。オリンピックマーケティングという言葉があるように、現在のオリンピックは企業のスポンサードに支えられている。今回のオリンピックに対する各企業の取り組みを振り返ると同時に、企業とスポーツの新しい関係を探った。

マーケティングの範囲が広がったオリンピック

 アテネ五輪のオフィシャルパートナーは、どのような活動をしたのだろうか。オリンピックマーケティングの現状と広告展開を中心にした企業の対応を電通スポーツ事業局の山本氏に聞いた。
 
――オリンピックのオフィシャルパートナーとは、具体的にはどんなものなのでしょう。
 オフィシャルパートナーには三種類あります。国際オリンピック委員会(IOC)と契約するワールドワイドの権利を持った「TOPパートナー」。その下に各国のオリンピック委員会(NOC)と契約を結ぶ、日本なら「JOCパートナー」がある。さらに、開催国である大会組織委員会と結ぶ「大会パートナー」があります。パートナー契約を結んだ各オリンピック委員会の「マーク」と「呼称」の使用が権利の中心になっていて、TOPパートナーは、NOCパートナーと大会パートナーの権利も併せ持っています。

――呼称というのは?
 TOPパートナーなら「オリンピックのオフィシャルパートナー」、JOCパートナーなら「JOCオフィシャルパートナー」「オリンピック日本代表公式パートナー」といった呼称を使用できるということです。

■オリンピックマーケティングの権利構造
  権利元 権利範囲 主な権利
TOPパートナー 国際
オリンピック
委員会
(IOC)
ワールド
ワイド
五輪マーク 「オリンピックの公式パートナーです」
JOC   パートナー 日本
オリンピック
委員会
(JOC)
日 本 JOCマーク
(第2エンブレム)
「オリンピック日本代表の公式パートナーです」
選手肖像権
大 会   パートナー 大会
組織委員会
大会開催国
(ギリシャ)
大会マーク 「アテネオリンピックの公式パートナーです」

競合対策としての権利取得

――マークと呼称を使用できる意味は、それほど大きなものなのですか?
 権利を取得しても、その権利を活用したキャンペーンを考えなければ、それほど意味がないことは確かです。
 しかし、JOCパートナーになるということは、オリンピックの日本代表を応援することを企業として表明することです。サッカーや野球といった個々の競技ではなく、日本代表全体への応援は、だれにも受け入れられるテーマですし、日本代表が活躍すればするほど、権利の価値は上がるという性格を持っています。

――確かにそれは今回のオリンピックで実感しました。
 パートナーに権利があるということは、逆に言えば、パートナーでない企業は、オリンピックという言葉やイメージを使ってはいけないということです。

――オフィシャルパートナーになることは、競合排除、競合対策という側面を持っている?
 すべてのパートナーを通して1業種1社が原則ですし、そういう面はありますね。

――選手の肖像権もパートナーの権利には含まれていると聞いていますが。
 JOCパートナーの場合は、権利の中に主要な日本代表選手の肖像権も含まれています。実際に使用する場合には肖像使用料を別に払わなければいけないのですが、これは諸外国のオリンピック委員会にはほとんど見られない特徴です。肖像権のあり方については見直しが行われていて、11月はじめまでには正式発表があると思います。

権利の仕組みの歴史

――オリンピックの権利使用の仕組みが今のようになったのは、いつごろからでしょうか。
 今のオリンピックマーケティングの仕組みになったのは、1988年のカルガリー冬季大会、ソウル夏季大会からです。

――日本もすぐその仕組みに組み込まれた?
 JOCには2つの顔があって、1つはIOCの日本の窓口、もう1つは国内53競技団体をまとめる組織としての顔があります。JOCは1979年から基本的に4年タームで「がんばれ!ニッポン!」キャンペーンを実施していましたが、国際的なオリンピックの権利構造の考え方に合わせるようになったのは、93年から始まった「第5次がんばれ」からです。

――それまでと何が変わったのですか。
 「がんばれ!ニッポン!」というのは、JOCが選手強化の資金を集めるために選手の肖像権を集めて独自に始めたキャンペーンです。たとえば、89年から92年の「第4次がんばれ」のマークには、日の丸の中に五輪が使われていました。また、1業種1社という制限もありませんでした。それが、先ほど言った国際的なTOPマーケティングシステムに組み込まれて、オフィシャルパートナーとカテゴリーがバッティングするところには、「がんばれ!ニッポン!」キャンペーンは売れなくなった。
 さらに、1998年の長野大会の「第6次がんばれ」を最後に、選手の肖像権がJOCパートナーに組み込まれて、現在のようなオフィシャルパートナーシップになり、「がんばれ!ニッポン!」は選手強化キャンペーンとして続けられているということです。

――かなり複雑ですね。
 TOPパートナーも、2006年のトリノ冬季大会と2008年の北京夏季大会は固まっていて、このシステムは今後もしばらくは続くと見ています。

2004年8月31日 朝刊 2004年6月23日 朝刊
2004年7月10日 朝刊 2004年9月6日 朝刊 2004年7月13日 朝刊

値段がつけられない広告効果

――今回のアテネオリンピックで目立った企業の動きはありましたか。
 私自身が担当しているのがJOCなので、JOCパートナーの話が中心になってしまいますが、まずスポーツメーカーでは、デサント、アシックス、ミズノの3社がオフィシャルパートナーです。この3社が日本選手が表彰台で着るウエアを提供しているのですが、今回はデサントでした。アテネ大会の日本選手団はこれまでで最高のメダル数を獲得しましたが、表彰台に上がるときは常にデサントのウエアを着ている。それがテレビを通して世界中に流れるということは、ブランドマーケティングとして考えれば、値段がつけられない効果があったと思います。
 マラソンで優勝した野口みずき選手がゴールした後、シューズにキスをするシーンが話題になりましたが、あのシューズはアシックスです。アシックスにとって、今回のアテネオリンピックはあのシーンに集約されていたと思います。
 ミズノは室伏選手です。社員である室伏選手が金メダルを取ったことも大きいですし、ドーピング問題で室伏選手のフェアな部分が強調された。実はミズノは「アンチ・ドーピング」に非常に熱心な企業で、日本アンチ・ドーピング機構という財団法人の理事を水野社長が務めておられます。
 コナミスポーツは、選手にスポーツクラブの会員権を提供しています。選手は試合であちこちに移動しますが、空いた時間に少し体を動かそうと思っても手ごろなスポーツクラブがないところが多い。選手からも好評で、コナミスポーツの社員のモラルアップにもつながっていると聞いています。
 「ユニクロ」を展開しているファーストリテイリングは、「SHOW YOUR COLOR」というコンセプトで開会式のウエアを提供しました。高田賢三氏のデザインですが、販売したウエアのレプリカは完売したと聞いています。開会式の服装という今までだれも目を向けていなかった分野に注目した意味は大きいと思います。
 また、JOC主催、ヤフー協力という形で、選手の使用品をチャリティーオークションにかけ、選手強化の資金にするという企画もありました。

応援メッセージを広告に重ねる

2004年8月31日 朝刊
――広告を中心とした展開としては、どうでしょうか。
 トヨタの「MORE THAN BEST」キャンペーンが目立ちました。「もっと先へ行ける」というテーマで日本代表を応援すると同時に、トヨタの企業姿勢を伝える広告にもなっている。また、それぞれの選手の競技テクニックをうまく最新技術に落とし込んだ展開もしています。
 コダックはTOPパートナーですが、今回はデジタルカメラを中心に広告を展開した。カメラを選手全員にプレゼントしました。
 松下電器産業は5人のアスリートを起用し、「ニッポンに酸素力キャンペーン」を展開しました。酸素がもたらす効果をイベントと連動して広くアピールし、エアコンも売れ、酸素エアチャージャーも注目されたキャンペーンであったと聞いています。
 また、NTTドコモは、新聞に印刷されたQRコードで、読売新聞の携帯サイトのオリンピック特設ページにアクセスできるサービスの告知を行いました。
 オリンピック終了後に、活躍した選手の顔をずらりと並べたJOC自身の新聞広告も目立ちましたね。次のトリノ冬季大会まで、ああいう広告は出てこないと思います。

2004年3月20日 朝刊 「スポーツサイエンスフォーラム『現代人と酸素を考える』〜からだとこころの健康に」
   
2004年8月13日 朝刊 2004年8月10日 朝刊

すそ野が広がったスポーツ

――オリンピックをテーマにした企業活動が多様になってきた気がするのですが。
 今回のアテネは、いままで無理だろうと思っていたような展開が出てきて、マーケティングの範囲が広がったと思います。
 例えば、東京ドームに「がんばれ!ニッポン!」応援パークシティという日本代表応援の拠点を作ったのも初めてでしたし、公式応援ソングもシドニーに続き2回目です。そういう意味では、JOCも今までよりコミュニケーションやPRに力を入れてきたと思います。

――人々のスポーツに対する受け止め方も違ってきた?
 プロ野球やサッカーのように、常に注目されるスポーツは別にして、オリンピックの時期くらいしか注目されない競技も多かったのですが、最近は変わってきました。オリンピック予選が脚光を浴びて、ゴールデンタイムで中継されるようになりましたし、スポーツマーケティングそのものの土壌が広がっていると思います。
 また、アテネ大会で女子レスリングが注目され、「ワールドカップ」もテレビ中継されるようになりました。そういうよい循環が生まれているような気がします。

スポーツに協賛する意味

――企業の協賛理由には、選手やスポーツそのものの振興を応援しようという意識がある。
 それは感じます。企業活動である以上はマーケティング的な効果を考えるのは当然ですが、サポートしている選手がオリンピックで活躍したら、それはやはりうれしい。それだけでなく、いろいろな競技団体の人と話をしていると、国際舞台に出ても動揺しない日本の選手が増えてきたとよく聞きます。企業がスポーツに協賛することで、それだけ強化資金も増え、国際経験を積んでいる選手が増えてきたということだと思います。

――スポーツマーケティングには2つの意味がありますね。1つは「スポーツで売る」、もう1つは「スポーツを売る」。
 後者の意識が、JOCや各競技団体の方と話していても、出てきたと思います。今までは、スポーツは強ければ客は後からついてくるという発想でしたが、今は、そのスポーツに光が当たれば素質を持った人間がそこに入ってくるという意識に変わってきています。
 ただ、企業と競技団体の関係もそろそろ新しい段階に入るべきだとも考えています。

――どういうことですか。
 たとえば、スポンサーの要請でも、「規定以上にユニホームのあちこちにロゴを張れ」などスポーツのイメージを壊すようなものだったら、はっきり断る。自分たちのスポーツをどういうステージに持っていきたいか戦略を立て、企業の協賛の方向がそれに合っているかどうかを判断して、有用であれば受け入れる。そういう対等な関係になるべきだと思うのです。また企業も、たまたまスポンサーについた選手が金メダルを取ったからではなく、長期的な視点でサポートすることも重要だと思います。

いっしょに金メダルを取る

――欧米の企業と競技団体の関係は日本と違う。
 日本と違うのは、企業スポーツではなくクラブ所属が大半というところです。企業チームというものがほとんどないですから。学生か、スポーツクラブの専属が多い。特にアメリカは、プロスポーツ組織が強いですから、そういう組織単位で戦略を考えて、企業とつきあっているところがあります。アメリカは、プロスポーツ組織と企業の関係ですから、その辺は非常にビジネスライクです。
 欧米でも働きながらスポーツをやっている例が、ないわけではありません。USOC(アメリカオリンピック委員会)で聞いた話ですが、オフィシャルパートナーにホームセンターがなっていてUSOCが有望だと推薦する選手をパートタイムで雇うのです。アメリカは選手の上と下では収入の差が非常にありますから、新人はトレーニングさえままならない。それに、日本のように企業クラブもない。
 それで、そのホームセンターが、何10人かの若い有望な選手をパートタイムで、たとえば1時間1000円の時給だとすると30分1000円で雇う。残りの時間はトレーニングに充てろというわけです。地元の人たちも「おらが町のオリンピックをめざしている子を、このホームセンターが雇っている」という意識になる。その選手が金メダルを取ったりすると、もう大変なことになる。
 企業とスポーツの関係は、少なくとも活躍しているスポーツ選手を使うと広告が注目されるからという時代は、終わりつつあるような気がします。各競技団体や選手とそのパートナー企業が、「いっしょに金メダルを取るんだ」という関係になれば理想です。




ファースト・アドバンテージをどう活用するか
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