特集 2004.10/vol.7-No.7

CSRが企業に問うもの−これからの企業に求められる「社会的責任」とは−
CSRをめぐる7つの疑問

 CSRには、グローバルな価値基準を企業に求める側面がある。例えば、「サスティナビリティ報告書」に女性管理職の割合を記載する日本の企業も増えているが、そうした自社の実態が世界の企業と比較される。欧米と日本では、企業経営の考え方が違うとばかりも言っていられない。CSRをめぐる日米欧の認識の違いについて、CSRのコンサルティングを行っている創コンサルティング・海野みづえ氏に聞いた。
 
1.CSRは社会貢献とどう違うのか

 CSRでは、「トリプルボトムライン」という考え方がよく出てきます。企業を財務パフォーマンスだけで評価するのではなく、「経済」「環境」「社会」の3つの側面から評価しようという考え方です。
 この言葉を知ったのは、90年代後半ころです。環境マネジメントの動向を調べているうちに、海外では評価にあたって環境だけでなく社会性にも企業評価の範囲を広げて考えているということを知ったのですが、今までの「社会(ソーシャル)」とは使い方が違う。CSRに労働問題も含まれることにも、最初は違和感を覚えました。
 「社会」といえば、日本では多くの人は社会貢献を連想するはずです。「コーポレートシチズン(よき企業市民)」はアメリカから始まった言葉ですが、コーポレートシチズンシップと言って、アメリカでは今でも社会貢献が企業の社会的活動の中心になっています。企業活動で得た利益を社会に還元するという考え方です。
 日本も、利益の1パーセントを毎年寄付する経団連の「ワンパーセントクラブ」に代表されるように、利益還元型の社会貢献が主流です。それがCSRに労働問題が入ってくると聞くと、違和感を覚える原因です。
 これに対して、本業そのものの活動に社会性を求めるのは、どちらかといえばヨーロッパ流です。これが、CSRの考え方のベースにあります。CSRでは、人権、雇用、環境対応、製品の安全性から下請けの労働環境まで、企業活動のあらゆる社会的責任が問われます。社会貢献もCSRの1つですが、その一部でしかありません。

2.CSRに途上国の話がなぜ出てくるのか

CSRの背景に、NGOが企業を徹底的にたたくような動きがグローバルにあったことは、日本ではあまり知られていません。というより、CSRと関連づけて認識されていないと言った方が正しいかもしれません。
 1997年に起こったナイキの東南アジアの下請け工場での児童労働問題などが、その代表例です。アメリカのNGOや学生グループが、ナイキ製品の不買運動を起こし、訴訟にまで発展した事件です。こうした例が、ヨーロッパやアメリカでは数多く起こりました。
 CSRの背景には企業活動のグローバル化があり、南北問題があります。ヨーロッパでは児童労働だけではなくて、途上国での労務環境の悪さや、製薬会社がエイズの治療薬を最も必要とするアフリカに安価に提供できておらず、暴利をむさぼっていることが問題になっています。こうした問題を企業に突きつけているのがNGOです。
 そういう事情がわからないと、CSRと途上国に何の関係があるのか見えてきません。日本にとってアフリカは遠い国の話かもしれませんが、中国や東南アジアを考えれば、ヨーロッパと立場は変わりません。
 環境問題のときは、日本の企業は世界の動向をきちんと認識して対応しましたが、CSRに対しては、なぜか世界の動向に対する意識がかなり少ないようです。

CSRマネジメントの基本要素
3.CSRはコンプライアンス

 日本では、CSR=コンプライアンス(法令順守)という理解が広がっています。ヨーロッパでは、コンプライアンスは当たり前のこととしてCSRには含まれないのが一般的です。
 CSRは、顧客・取引先・従業員・環境・地域・社会などステークホルダーに対する「CSR課題」だけでなく、市場創造や企業ブランド、サプライチェーンなどにどうCSRを組み込んでいくかという「事業を通したCSR」も考えられます。。
 国際レベルでは、CSRと言えば、主にこの2つを指しています。企業倫理やコンプライアンス、リスクマネジメントなどコーポレートガバナンス(企業統治)は、「CSRを実施する社内体制」として考えておくとわかりやすいと思います。
 確かにコンプライアンスも企業の社会的責任といえば責任ですが、特にヨーロッパでは「ビヨンド・コンプライアンス」と言っており、法令順守以上のことを各社で自主的に取り組むことを指しています。利益を社会に還元することやコンプライアンスは、事業をする上で当然の前提として考えられているのです。
 それに加えて、社会にマイナスの影響を及ぼすと考えられる事業活動は改善する。そしてさらに、その活動を企業にとってもプラスの方向に変えていくというのが、今、ヨーロッパで言われているCSRです。

4.CSRは受け身の対応か

 経営戦略としてCSRをとらえる。それを最もわかりやすい形で示しているのが、「ビジネス・ケース(business case)」という考え方です。CSRをリスク対処や最低限やるべき規範ととらえるのではなく、積極的に経営戦略に取り込んでいく。ビジネス・ケースというのは、「CSRを事業の中に組み込み、それが収益面でもペイし、企業価値の増大につながる活動」という考え方です。ヨーロッパだけでなく、アメリカでも定着しています。
 例えば、能力開発のプログラムがあり、働きやすい会社であれば、いい人材も来る。これもビジネス・ケースです。
 しかし、プログラムを始めたからいい人材が来たのか明確ではありませんし、数値でその効果は証明できません。CSRのむずかしさは、効果が数値化しにくい、そして、効果が表れるまでに時間がかかることです。
 従業員のモラルが高いことは、日本的経営のいい側面ですが、それを維持し、高める仕組みを考え、努力しているとしたら、これもビジネス・ケースです。日本国内では、あたり前かもしれませんが、ヨーロッパでも、アメリカでも、従業員のモラルアップは、常に課題になっています。

5.SRIは企業を変えるか

現状把握のレベル
 SRI(社会的責任投資)というのは、投資先の企業の財務的な面だけでなく、環境対応や社会性も考慮して行う投資活動のことです。投資活動を通して、CSRに積極的に取り組む企業を支援することにもなるというのが、注目されている理由です。ただ日本では、SRIが企業を変えるというイメージで取り上げられ過ぎている気がします。
 企業にCSRへの対応を迫らせている一番の要因は、投資家のお金というよりも市民やNGOの意識とアクションです。NGOが問題を指摘すると市民がそれに連動して不買運動を起こし、企業は業績に大きなダメージを受けます。投資家が投資先を変えるときは、業績に影響するものをまず見ますから、NGOの企業評価に注目する。ヨーロッパやアメリカでは、NGOとSRIの投資機関の関係はそうなっています。投資家はお金の力は持っているが、世の中を動かす力は間接的です。世の中や企業を直接動かしているのは、NGOや消費者だということです。
 SRIから見ると投資家が企業を変えているように見えますが、企業にとって見れば、SRIの投資家はステークホルダーのひとつです。イギリス政府も確かにSRIの普及には積極的ですが、あくまでCSRを普及させる方法の1つにSRIを位置づけています。
 アメリカでもヨーロッパでも、SRIはもともとNGO的な機関がやっていたものです。20年前くらいから、SRIコミュニティーという小さな運用会社を作り、自分たちで企業評価の基準を決めて、その考えに賛同する人たちの資金を集めて投資活動を行っていた。それぞれどんな会社に投資するか、自分たちの運用基準にこだわりを持っています。
 それが最近、イギリスでもSRI投資の法整備がされたこともあり、メーンストリーム、大手の投資機関もSRIに関心を持ち始めた。一般的な投資にも、SRIの評価基準を入れるようになってきています。

6.日本に企業が解決すべき社会問題はないのか

 イギリスでは、普通のスーパーでも「フェアトレード」と表示した紅茶を売っています。途上国の生産農場から適正な価格で商品取引した紅茶という意味です。雇用問題にしても、フェアトレードにしても、ヨーロッパのNGOは徹底してやります。すべての人ではありませんが、ヨーロッパには社会に対して意識の高い人が多いのは確かです。
 一方、日本では年金問題を見ても、企業も個人も国の方針に沿っていこうとすることが多い。社会問題は、公的な機関がやるものだと思っているふしがあります。しかし、日本にも、企業が取り組むべき社会問題がないわけではありません。
 労務関係でみても、有休制度があるのに休みが取れない、実際に取ろうとすると社内に取りにくい雰囲気がある、通勤時間が長いなど問題はたくさんあるはずです。日本ではNGOが弱いといってしまえばそれまでですが、ヨーロッパならすぐにでも問題になるものばかりです。
 日本も、これから若い人たちが減っていきます。優秀な人材を採りたいとなったら、労務の面でもきちんと体制を整える必要があります。ただ、体制を整えたからといって、1年、2年で成果は出てきません。雇用は特にそうですが、CSRの効果は長期で見る必要があります。
 女性管理職の割合も、日本では平均で3%程度、多いところで10%ぐらいです。もし、その数字を英語版の報告書に出したら、アメリカやヨーロッパの企業と横並びで比較されてしまいます。欧米では20%ほどの会社は多いですし、50%を目標にしているところも珍しくありません。わが社は4%だから平均は上回っている、などと国内比較をしても始まりません。「サスティナビリティ報告書」を出すということは、その内容が世界で比較されることです。ですから、CSRの目標も基準をグローバルでの基準が自然と求められます。特にヨーロッパは、CSRの制度化が急速に進んでいます。そういう時代が、日本にも遠からずくると思います。

CSRのための現状分析−作業項目
CSRのための現状分析−作業項目

7.CSRの取り組みは何から始めるべきか

 CSRを進める上で大事なのは、これまでやってきたことをCSRのトータルな視点から組み直し、位置づけし直すことです。図は、現状分析のための作業項目をまとめたものです。このような分析をすることで、一般論としてのCSRではなく、事業にかかわりを持つCSR分野、そして対応するステークホルダーへの取り組みの方向が、自社独自のCSR経営の基本方針として浮かび上がってきます。そして、ただ制度を作るだけではなく、ステークホルダー別に目標を作って管理し、評価することが重要です。
 CSRは経営そのものです。マーケティング戦略、人事戦略の並びにCSR戦略があるのではなく、各種既存の戦略のなかにCSRの考えや姿勢が取り込まれ、それが、会社のDNAになっているかどうか。そこまでやらなければ、CSRは会社の中に定着していかないと思います。

海野 みづえ氏 Mizue Unno

1985年千葉大学大学院修了。ドイツの経営コンサルティング会社日本支社勤務を経て、96年に独立系コンサルタント会社である創コンサルティングを設立。法政大学大学院 環境マネジメント研究科非常勤講師。東京大学大学院新領域創成科学研究科特別講師。『SRI社会的責任投資入門』(日本経済新聞社)、『CSR経営』(中央経済社)などに執筆。
URL: http://www.sotech.co.jp



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