特集 2004.7・8/vol.7-No.4・5

1年たって見えてきたデジタル入稿のメリットと課題
実践から得たデジタルのノウハウ

 カラー広告の品質に徹底してこだわるシャネル。そのデザインを長年担当しているアートディレクターの柳橋治幸氏に、デジタル入稿の体験から得たメリットと課題を聞いた。
 
 シャネルが新聞広告のデジタル入稿を始めたのは、読売新聞が昨年7月完全デジタル入稿を始めてからだ。そのため、春から新聞社にも協力してもらい、テストを何度も繰り返した。今までの経験から、フィルム入稿であれば掲載紙のだいたいの色の上がりはわかっていたが、それがデジタル入稿になってどうなるかは、やはりテストを繰り返さないとわからないからだ。
 また、デジタル入稿のメリットには、時間の短縮がある。カラー広告でも2日前の入稿でいい。ギリギリまで調整の時間が取れる。こうしたメリットも、実際にデジタル入稿をやってみて実感したものだ。
 新聞広告の制作は、カンプを作りクライアントのOKをもらうことから始まる。広告は雑誌の掲載が先行するので、色の話は雑誌の校正ですでに済んでいる場合がほとんどだ。このカンプがその後の製版会社、新聞社への入稿データづくりのベースになる。
 広告制作は、カンプデータから最終的に新聞印刷の色見本となる校正紙を作る。現在、この校正紙はデータから直接刷版を出力するCTPと本印刷機を使って印刷している。この方式は平台校正やデジタルプルーフと違い同一品質で多ロットの印刷が可能なので、複数の新聞社および印刷工場それぞれに高品質な色見本を同時展開することができる。
 この校正紙がOKになれば、いよいよ新聞社への送稿データを作成する。

細かい修正ができるデジタル

 新聞社にデータを入稿すると、プルーフが出力されてくる。これは、データが新聞社の印刷システムで正常に処理されるかを確認するためのものだと受け止めている。プルーフは、必ずしも出したい色すべてが再現されているわけではない。
 本格的にデジタル入稿を始めて1年ということもあり、さらに新聞印刷の本機(輪転機)の空いている時間を利用して「試刷り」を行う場合もある。
 試刷りをすることによるメリットがよくわかるのが、夕刊テレビ面下の10段広告の場合だ。15段なら色が濃ければ全体の濃度を落としていけばいいが、テレビ面の10段では、テレビ欄の色の濃度は守らなければならない。そうすると、その色に広告の色が影響される場合がある。
 このように、試刷りをして実際に輪転機で印刷したときの傾向がわかった段階で入稿データに指示を入れ、製版会社に戻す。その際、写真によってはどうしてもインキが溜まるところがあるが、デジタルではかなり細かい部分に対し指示を入れることができるようになった。

経験を通してわかった入稿のコツ

 実際の刷り出しにも立ち会って、インキの調整をしてもらう。東京本社のほか、場合によっては、スタッフに大阪、九州の新聞社の印刷工場に行ってもらうこともある。輪転機の場合、回転数が上がるときれいな色が出てくるので、そこで調整してもらう。色調は添付する色見本ゲラが基本だ。
 立ち会いで大事なのは、ポイントを絞ることだ。たとえば、バッグがその広告のポイントなら、その商品を中心に色を合わせる。そのためにも、なるべく刷りやすいデータを作っておくことが重要になる。
 シャネルの場合は、われわれが刷った色見本ゲラを新聞社の工場用に用意して、これに合わせてインキの調整をしてもらうようにしている。この形は当分変わらない。
 新聞用の入稿データは、新聞社ごとに作るのではなく、基本的には一つに統一している。確かに新聞社ごとに色は微妙に違うが、印刷の基本的なラインは同じだから、試刷りまでして調整した最終データを使うと、ほとんどいい方向に進んでいく。
 従来のフィルム入稿の場合は、校正紙でOKをもらった段階で新聞社に入稿し、刷り出しに立ち会って、かなりインキ調整をしたこともあった。ところが、この1年はどういう色に上がってくるか本機で試刷りを行うことができたので、微妙な直しができた。これは貴重な経験だった。回を重ねていけば、経験値を基にOKが出せるようになると思う。

5月28日 朝刊 3月11日 夕刊

現場サイドと直接話す

 デジタル入稿は、数字で管理してOKという段階までいくのが理想だろうが、やはり、機械といえども毎日同じ状態ではない。最終的な色合わせが印刷時のボタン調整1つで決まるのは、フィルムもデジタルも同じだ。印刷は、最終的にはアナログで、機械の調整も感覚でしかできない。色のチェックはあくまで人間の感覚、色みでみていくのが基本だ。ただ、フィルムで入稿していたときは、かなり濃度を落としてもらっていたが、デジタルに変わってからは「試刷り」を行う時間ができたので多少の調整で済む。そこが大きく違う点だ。
 また、最終的なパーセンテージの読みの世界になると、どうしても製版会社との打ち合わせが、かなり必要になってくる。だから、現場サイドと直接話をしていくことが必要だ。現在の製版会社は経験も豊富だし、連絡を密に取り合う体制ができている。こうした関係は崩したくないと思っている。
 新聞社の印刷の現場とも直接話し合ってきたが、その段階を踏まないと、とても1年ではデジタル入稿の特性を理解できなかったと思う。デジタル入稿の経験の9割は、読売新聞から得たものだ。

印刷しやすいデータを作る

 新聞のカラー印刷の標準化というのは、むずかしい。各新聞社が100パーセント同じ色を出すのは不可能に近いが、同じ方向に乗っていればいいのではないだろうか。デジタル入稿でいい結果を出すためには、むしろなるべく刷りやすいようにデータを作ることの方が大切だ。
 雑誌の場合は、今はまだほとんどがフィルム入稿だが、データ入稿もある。雑誌社も同じようにプルーフを出すが、やはり希望どおりには色は出てこない。だから、印刷見本として色見本ゲラは必ずつけている。基本的には、新聞と同じように最終段階まで追い込んだデータを送稿しているので、大きなブレはない。

経験の積み重ねの中から

4月9日 朝刊
 元々、フィルム入稿の時代から読売新聞のカラーは定評があったが、同じように調整したデジタル入稿データでも、カラーの再現性は新聞社の中で最もいい。
 刷り出し立ち会いも、最初のころは終わるのが午前3時を回ることがあった。それが今は最初の15分でOKを出せるようになった。その理由は、シャネルが経験を積めるだけの量を出稿する広告主だったことが大きい。
 印刷の立ち会いも、ぼく自身はシャネルがカラー広告を新聞に打ち始めたころからやっているが、修正の基本的な方向性はフィルム時代と変わっていない。それをデジタルで実現するにはどうしたらいいかということが、この1年でだいぶわかるようになってきた。
 今までアナログだったものがデジタルになると、時間が短縮できるというメリットもある。しかし、いくらデジタルでも、最終的には印刷機のボタン調整という課題は残る。
 ということは、やはり現場サイドの認識次第だということになる。いい原稿を作り、印刷のしやすいデータに加工し、それで色見本ゲラと同じような色を出してもらう。最終的にはそこに行きつくと思う。




カラー広告品質向上のポイント
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