特集 2004.5/vol.7-No.2

アメリカ マーケティング最新事情
顧客を裏切らないブランド

 めまぐるしく変化する市場にあって、半世紀以上、社名もロゴも変えずに守り続けているのが桃屋だ。グローバル時代のビジネスモデルとは一線を画し、長い間の顧客の信頼に応えるために、味にこだわり、広告キャラクターも変えない。その頑固さは、社長自らのブランドに対するこだわりによるものである。いわば、日本型のブランド構築とでもいうべき桃屋の事例について代表取締役社長、小出孝之氏に聞いた。
 
 ブランドの維持というのは、大変難しい。当社のトップブランド、「江戸むらさき」は1950年、昭和25年から、いっさい味を変えない商品として、今も作り続けている。それは、お客様を裏切らないということだ。時代の風潮や、競合商品に合わせて、味を変えてしまうと、従来からのお客様の信用を失う。
 もちろん、その後同じ海苔のつくだ煮でも「幼なじみ」「ごはんですよ!」「お父さんがんばって!」など、新しい商品を出しながら、多少は変化させてはいるが、昔ながらの「江戸むらさき」も作り続けていく。

「のり平アニメ」の復活

 当社は味だけではなく、コマーシャルにしても、もう50年、三木のり平で続いている。のり平は亡くなっても、その息子が継いでいる。桃屋といえばのり平というイメージが出来上がっているが、のり平さんとの出会いは1953年(昭和28年)までさかのぼる。当時著名人から一言、商品を推薦していただく突き出し広告を新聞に連載していたが、そこにのり平さんが、自分の似顔絵を入れて書いてくれたのが、そもそもの始まりだ。テレビCMが始まった当時はまだ小さい会社で、テレビ番組を提供したり、スポットを購入する余力がなかったので、一度作ったCMを長期に使用できるようにと、パロディー仕立ての「のり平アニメ」が誕生した。
 最近は、調理方法の紹介に重点をおいたCMを制作してきたこともあり、「桃屋のコマーシャルは影が薄くなってきた」という印象が一部にあったかもしれないが、昨年から宣伝政策の見直しを行っている。やはり15秒、30秒にそうした内容を盛り込むのは無理があるため、「のり平アニメ」を復活させていく。バカバカしさ、面白さに徹した、インパクトのあるCMで、イメージを復活させていきたい。
 この面でも桃屋のブランドを前面に出していく。
 ところがせっかくブランドをつくると、それが流通の面では、セールの目玉商品にされてしまう。知られていない商品では、目玉にならないから仕方のないことだが、それが利益を圧迫する。さらにブランドの価値も下がってしまう。それが今、悩ましいことのひとつだ。
 そのため価格によらない販売促進として、他のメーカーとのコラボレーション企画を積極的に展開している。企業同士が1社だけでは出来ない企画を連携して行い、販促費用の効果的な活用はもとより、瓶詰食品の使用機会を広げ、生鮮品とも連動した売り方で店頭露出度のアップを図っている。

徹底した「安全と品質」の追求

 ブランドを通していくには、とにかく1番良い物をつくる。これだけだ。原料の吟味から、買い付けた海苔の“清掃”まで、徹底してやる。昨年、三重県松阪市に4億円をかけて海苔の選別、異物の除去を徹底的に行う工場を造った。今、景気は悪いけれども、そういうものには手をかけ、お金も投じる。
 ここ数年、食品の「安全」と「品質」への関心が急速に高まっており、お客様の安心感、売る側の安心感が食品メーカーには求められている。創業以来「お客様に喜ばれる桃屋」の立場を貫いてきているが、今後もそうであるためには、お客様が求める視点での対応が不可欠だ。現在のキーワードは「安全、安心」であり、リスクとして考えられるすべての事項に取り組むことが、お客様の信頼と期待に応える近道だと思う。
 松阪工場は異物除去のための専門工場だ。この工場はいわばお客様対応、リスク対応工場“海苔のクリーニング屋さん”といっても過言ではない。新聞の社会面には、時折いわゆる「おわび広告」が載るが、そのようなことにならないためにも、こうした「安全と品質」への徹底したこだわり、経済効率だけでない企業姿勢についても積極的にPRしていきたい。
 しかし、ひとたび、おわびや商品回収のようなことがあると、業界全体に、規制緩和どころか、規制が強化されてさまざまな基準が作られ、そのための設備投資を強いられる。何1000万円もする濾過装置だとか、金属探知機だとか、すごい精度の機械を購入することになると、今度はその維持・管理が大変だ。「ザーサイ」や「メンマ」は中国の工場で、人の目によってごみや異物を取り除く工程を入れているが、実は人間の目がもっとも信頼できる。確かに機械はすごいけれども毎回、分解して洗浄し、滅菌して……。企業もなんとか、リスクを回避しようと懸命に努力している。私は「お客様に味方する者が最後の勝利者なり」の精神で、「安全」と「品質」にこだわり続けたい。

こだわりを伝える広告

 商品にもいろいろ説明を書いてあるが、最近のお客様は読んでくれない。今の時代、健康志向で薄味になっているから、たとえば「いか塩辛」は防腐剤を使っていないので、塩辛くないと日持ちしないが、お客様からは「塩辛い」といって苦情がくる。お客様相談室が、説明して食べ方の工夫をお教えする。お客様に教えていくということも大変で、テレビCMの15秒、30秒では食べ方を教えるまではできない。
 婦人雑誌や料理番組などでも、説明しているが、ほんとうに読まれない。新聞も読んでくれないということがあるかもしれないが、新聞の価値というものはある。今年は新聞の全ページにのり平のキャラクターを使いながら、当社の製品に対するこだわりを伝えていきたいと思っている。1回目は、3月31日に掲載した。「ザーサイ」や「メンマ」の原料から作る過程、中国でこんな風に作っているということを説明した。当社のものづくりのこだわりを読んでもらいたい。

アナログに徹して

3月31日 朝刊
 企業の「お客様」対応部門の役割は年々重要になってきている。特にお客様への対応の的確さと迅速さが、後々に大きな影響を及ぼすことは、近年の教訓としてわれわれが学んだことだ。リスクマネジメントの観点から、経営損失をもたらす要因の除去に取り組み「お客様第一主義」の考え方を徹底していきたい。
 今みんなブランド、ブランドというけれども、その前はCIがブームだった。アメリカ流か何か知らないが、横文字のそっくりな社名やロゴになってしまってはいけない。ブランドを育てるというのは、歴史だ。社名を変えたりしてそれをどう続けていくのか。当社は戦前から桃屋。これは変えない。
 いまの時代は、「本物志向」とは言っていても、ものを見る目の程度が落ちてしまったように思う。ブランドがついているだけで「これで良い」という安易な感覚がある。伝統的な良いものが残れるのかどうか、危機感を感じている。小売業の方々もアマチュアの時代だ。対面販売がなくなったのも、そのことを助長している。
 携帯電話や電子メールが普及して便利になったように見えても、やはりフェース・トゥー・フェースでいかないと、面と向かった本当の会話が出来なくなってしまう。
 経営者も哲学というか、信条をもつ。伝統とかそういうものがすべてブランドを維持するということにつながる。目先の売り上げだけにとらわれてはだめだ。
 私はアナログに徹しようと思っている。「江戸むらさき」はもう、江戸の味だから絶対変えない。




アメリカ マーケティング最新事情[ものづくりからプロセスの革新へ]
ニューヨーク市立大学経営大学院教授 高田 博和氏→
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