特集 2004.4/vol.7-No.1

デジタルネットワーク社会の広告という機能
ホリスティックなアプローチ
 
――メディア環境は、具体的にどう変わったのかということですが。
 テレビの系列ネットワークをはじめメディアのネットワークは、以前からありました。インターネットなどの新しいメディアが登場したことによって何が変わったかというと、このネットワークの形が変わってきているのです。
 図を見てもらいたいのですが、これまでのネットワークは、放射型(スター型)とツリー型の2種類でした。放射型は、たとえば鉄道がそうです。東京駅に1つの中心があって、その周りの小都市にネットワークが張られている。ツリー型の典型は会社組織です。グループ本社があって、その下に東京本社、大阪本社があり、さらにその下に支社があるような構造です。新聞の販売店網も地上波のネットワークもツリー型です。中心があって、だんだん下に情報が流れていく。これが今までのネットワークだった。
 インターネットが画期的なのは、メッシュ型のネットワークだということです。地下鉄のネットワークがこれに近い。地下鉄には、東京駅のような中心になる駅はありません。ネットワークを電気回路に置き換えると、放射型やツリー型は、電気を流すと、どう流れるかが全部わかるのですが、メッシュ型は、どういう経路で電気が通ったかまったくわからない。それがメッシュ型の特徴です。

メディアの生態系からの発想

――著書の中にはホリスティック・アプローチという言葉が、頻繁に出てきます。ホリスティックとは、「包括的な」という意味ですが、今のネットワーク構造の話との関連は?
 ホリスティックという言葉は、欧米の広告業界で盛んに使われるようになってきています。主にマスメディアとインタラクティブメディアを有機的に組み合わせたメディアの使い方を指しますが、最近のメディアはブロードバンドテレビなどのようにマスかインタラクティブか見分けがつかなくなってきている。ホリスティック・アプローチというのは、むしろ放射型、ツリー型、メッシュ型などのネットワークタイプを有機的に組み合わせたコミュニケーションと考えたほうが分かりやすい。

――広告媒体としてのメディアも、今のネットワークの構造全体をとらえて考えなければいけない。
 そうです。今までのメディアミックスは、1つの情報をできるだけ多くの人に伝えるという「リーチマックス」を基本に考えられていました。マスメディアとインタラクティブメディアを組み合わせた使い方は、広告の量の問題でとらえると間違うと思うのです。商品価値を最大化する「バリューマックス」のメディアプランを考えるためには、メディアのネットワークタイプの特性を知ることが大切です。

――それぞれのネットワークには、どういう特徴があるのでしょうか。
 放射型とツリー型の特徴は、まず効率がいいことです。均質な情報を速く、安く大量に届けるのに向いています。衛星放送は放射型の典型で、均一な情報を流すときには効率はものすごくいい。しかし、全国に同じ情報しか流すことができない。ツリー型は地区ごとに内容を差し替えることができます。全国紙の地域面やテレビのローカルニュースがこれにあたります。放射型、ツリー型のもう一つの特徴は、情報のクオリティーコントロールが非常にしやすいことです。新聞も戸別宅配制度で末端までコントロールされている。
 一方、インターネットは中心を持たないメッシュ型です。中心を持たないので、情報がどこから発信されて、どこへ行っているかわからない。すべての人が情報の送り手であり、受け手であるという関係になっている。人間関係ももともとこのメッシュ型だと思うのですが、この特徴は、柔軟性はあるけれども効率が悪いことです。フレキシビリティーがあって一人ひとりに違う情報を送っていくには向いているが、情報のコントロールは非常にむずかしい。
 しかし、最近ではマスメディアとインタラクティブメディアの境界が非常にわかりにくくなってきています。

――どういうことですか?
 リーチ(情報の到達数)とリッチネス(情報の深さ)の関係で説明するとわかりやすいと思うのですが、従来のメディアにはリーチとリッチネスはトレードオフ(二律背反)の関係にあるという法則があったのです。
 1番リーチが小さいメディアは携帯電話です。1対1でしゃべるから最もローリーチです。逆に、話の内容は自由ですからリッチネスは最も高い。
 しかし、携帯にFM放送のチューナーを内蔵しFM携帯になると、携帯ラジオと同じですからリーチが上がってくる。最近はテレビ付き携帯電話も登場した。そうすると、マスメディアとインタラクティブメディアの境界があいまいになる。そういうものがどんどん、これからメディアの生態系に加わって、互いに食い合いをしながら進化していく。

ネットワーク図

ハブコンシューマーをつかまえる

――メディアプランニングを考えるときも、テレビだから、携帯電話だからと特定のメディアにこだわっても、あまり意味がなくなる。
 ホリスティック・コミュニケーションというのは、個別のメディアをどれだけ使うかではなくて、メディアのネットワーク構造を意識しながら、それを組み合わせてクロス・メディアミックスをやっていこうという考え方です。
 たとえば、メッシュ型のインターネットの中にもツリー型のネットワークはつくれる。それが、ブロードバンドです。ブロードバンドは1対1のテレビ電話としても使えますが、放送としても使える。メッシュ型のネットワークの中に、コントロールされたネットワークをつくっていこうという考え方です。また、衛星放送でコンテンツを特定のポイントに配信して、その後、ブロードバンドで流していく組み合わせもある。それもホリスティックなアプローチです。これは、次のようなイメージを持ってもらうとわかりやすいと思います。池の真ん中の浮島に立って自分の周りに小石をばらまく(放射型ネットワーク)。小石が直接当たる部分は少ないけれども、小石が落ちた湖面に波紋ができて、湖面全体をカバーしていく(メッシュ型ネットワーク)。

――メディアに対するそのような考え方は、まだあまり語られていないと思うのですが。
 放射型ネットワークは「中心と周辺」をつくり出します。ツリー型ネットワークは「上下関係」をつくり出します。インターネットが出現した初期のころは、メッシュ型ネットワークの世界は内も外も上下もない、無重力の宇宙空間のような世界だと思われていたのですが、時間がたつにつれて「情報密度の濃淡」という新しい関係が出てきました。おもしろい研究があって、メッシュ型のネットワークにはハブというものができてきます。ハブ空港のハブです。そのハブの2割が8割のコネクティビティー(結びつき)を持っていることが最近わかってきた。

――顧客の二割が売り上げの八割を占めるという「二八の法則」と似てますね。
 だから、いま何が言われているかというと、メッシュ型のインターネットはランダムな攻撃には非常に強いが、ハッカーがハブを狙い撃ちするとかなり弱いことがわかってきた。逆に言えば、インターネットを使った新しい口コミは、ハブコンシューマーをいかにつかまえるかが問題になる。

ホリスティックなアプローチの必要性

――インターネットでは、ポータルサイトが重要だと言われてきましたが。
 実は、今、ネットの世界で問題になっていることがあります。今年の2月18日にアメリカのヤフーが、検索エンジンをグーグル製のものから自社開発のものに切り替えたと発表しました。マイクロソフト社も、自社製の検索エンジンの開発に5億ドルという巨費を投じると発表しています。過去にも、デジタルネットワーク社会の「標準」をめぐって、いくつかの競争がありました。まず「ウインドウズ」対「マックOS」の競争。次が、ウェブサイトを閲覧するブラウザー、「インターネット・エクスプローラー」対「ネットスケープ・ナビゲーター」の争いです。

――今度は、検索サービスとというわけですか。
 そうなんです。検索サービスが予想以上にビジネスとして有望であることがわかってきた。アメリカでは「ペイドリスティング」と呼ばれる検索連動型広告が急成長しています。そして、もう一つ大切なことは、検索技術の発達がポータルというビジネスモデルを陳腐化させかねないと考えられるようになってきた。ポータルは鍵になる情報を自社サイトに「集中」して、無限に広がる情報空間に玄関をつくるビジネスモデルでした。
 グーグルの戦略は徹底した「分散」型です。検索エンジンが発達していくと、玄関を通らずに直接目的の情報にたどり着くことが可能になってきます。

――「ポータル」対「検索エンジン」のビジネスモデル争いでもあるわけですね。
 そして、これは、高度情報化時代の情報処理方式は「集中方式」か「分散方式」かという争いでもあるわけです。先ほどお話しした放射型やツリー型のネットワークは「集中方式」です。メッシュ型は受け手が送り手にもなる「分散方式」です。

――これからは「分散方式」のコミュニケーションが中心になるということでしょうか。
 私はそうは思いません。これまで、あまりにも「集中方式」の情報技術だけが発達しすぎていたので、今「分散方式」の情報技術の発達にエネルギーが注がれているのだと思います。やはりこの二つの上手な組み合わせが大切です。

――広告も集中型のメディアと分散型のメディアをうまく組み合わせていくことが必要だと。
 それをホリスティック・アプローチと呼んでいるのです。これまでのマス広告は、企業が集中的に握っている商品情報を放射型やツリー型のメディアで消費者に送り届けていくものでした。つまり、価値は送り手がつくっていた。これからは、消費者が使用して発見する商品情報や価値をうまく吸い上げて循環させていく情報装置が必要になってきます。今までのマスメディアを縦糸とすると、インタラクティブメディアは横糸です。この2つをうまく組み合わせて消費者に面でアプローチしていくことが必要だと思います。


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