特集 2003.12/vol.6-No.9

ブランディングとメディア戦略

 ブランドの重要性は今さら指摘するまでもない。しかし、ブランディングに対する考え方ほど業種や個々の企業で異なるものはない。今回は新聞広告を中心にコーポレートブランド、事業ブランドの構築に取り組んでいる通信、住宅、食品の3社にインタビューしたが、新聞広告の位置付けもそれぞれ違う。ブランディングとそのためのメディア戦略に、企業はどう取り組んでいるかについて探った。

ダイレクトコミュニケーションという考え方

 2000年10月の誕生から3年、KDDIが新たな企業広告キャンペーンを開始した。同社といえば、オレンジを基調にした発足時のキャンペーンが今も記憶に残っているが、その後のコミュニケーションは「DION」「au」という個々の事業ブランドが中心だった。新しい企業コミュニケーションに取り組んでいる経営戦略本部宣伝部部長の東条続紀氏に聞いた。
 
 KDDIはこの10月で発足して3年がたった。今回のキャンペーンは、この3年間の蓄積からさまざまな提案ができるようになったのを機にスタートしたKDDIの企業コミュニケーションだ。
 3年間に、コミュニケーション環境は大きく変わった。携帯電話や固定ネットワーク(ADSLや光ファイバーなど)のブロードバンド化で通信の表現力が向上し、生活をさらに豊かにする可能性や活用分野が広がっている。KDDIの事業分野は固定電話からインターネット、携帯電話までカバーしており、これからのユビキタス時代に向けてこの総合力が強みになると思っている。今回の企業広告キャンペーンは、従来の通信会社の枠を超え、幅広い提案をしていく会社になるというKDDIの決意の表れでもある。

経営戦略本部でブランド統括

 KDDIの総合力をさまざまな分野で提案していく。その一つの役割を宣伝が担えるのではないかということで、この4月に設立された経営戦略本部の中に宣伝部が置かれた。まず、今回の企業キャンペーンと並行して進められたのがビジュアルアイデンティティーの再構築と整理だった。
 これまでDIONが黄色やオレンジ、auが赤とオレンジなど、もともと別会社を統合したものなので、ロゴのテイストや色が統一されていなかった。そこで企業ブランドであるKDDIを中心にブランドを体系化しようと、9月に事業ブランドであるDIONとauはオレンジに統一。その傘であるKDDIは、ブルーを前面に出した。また、「au by KDDI」「DION by KDDI」というコミュニケーション用のタグをつくり、テイストも合わせた。商品広告の場合は、オレンジのタグで「au by KDDI」「DION by KDDI」と統一していく。そういうビジュアルアイデンティティーの再構築と並行して展開したのが、今回のキャンペーンだ。

キャンペーンは新聞を中心に

 キャンペーンは、テレビを少し早めに8月下旬にスタートさせた。30秒を中心に、世界陸上などコンテンツを選んで放送した後で、新聞は9月1日から掲載した。テレビを先行させたのは、イメージが少し浸透してから、新聞広告でコミュニケーションを深化していこうと考えたからだ。
 キャンペーンスローガンは「Designers KDDI」。デザインという言葉は、一見、通信という分野とは結びつきにくいが、ここには通信事業者の枠を超えたいというKDDIの意思が込められている。
 また、デザインという言葉が唐突にでてきたと思われるかもしれないが、実は合併以来会社のコーポレートスローガンは「Designing the Future」である。これを社内外に向けて掲げてはいたが、コミュニケーションはあまりしてこなかった。それを今回のキャンペーンでは、具体的な提案として再構築したものだ。「Designers KDDI」というよりシンプルな表現にし、「人と人、人と社会をグッドデザインに変えていくデザイナー集団」という言葉を足した。
 通信会社といえば従来は技術やインフラなどを中心とした設備産業というイメージがあったが、私たちが目指すのはサービス業だ。たとえば、DIONでは11月から「セサミBB」という「セサミストリート」のブロードバンドコンテンツの提供を始めた。英語を楽しみながら学べる実用性のあるコンテンツだ。通信インフラの提供や携帯電話にとどまらず、ネットワークサービスやコンテンツの提案をしていきたいというのが、KDDIの考えだ。

2003.9.1 朝刊 2003.9.2 朝刊

ファクトの積み重ねで

 今回のキャンペーンに最初に登場する主役は、3G携帯電話「INFOBAR」で、10月8日朝刊で発表したものだ。KDDIでは2001年から、見た目だけではなく使いやすさなどにも重点を置いたデザイン開発への取り組み「au design project」を進めているが、このファーストモデルが「INFOBAR」だ。
 幸い11月の発売後、品薄状態になるほどの人気だが、最大の特徴は、携帯電話の開発をメーカー主導ではなくキャリアであるKDDI主導で進めたことだ。四角い大きなタイルキーや「NISHIKIGOI」などのネーミングは、プロダクトデザイナー・深澤直人氏による。
 「INFOBAR」は、デザインも斬新だが、カメラはもちろん付いているし、使っていくうちに新しい発見が生まれてくるようなアイデアが随所に盛り込まれている。見た目の「First WOW」の後、使って頂いて「Later WOW」がある。これが深澤氏の重視しているコンセプトでもある。
 われわれはこの商品を、企業コンセプトを表現したモデルと位置づけている。ブランドの理念は、言葉だけではなかなか伝わらない。やはりこういうファクトの積み重ね、実際の提案で共感していただくことが、人々のマインドの中にブランドを形成する近道だと思っている。
 11月4日朝刊には、電子コンパスを搭載した歩行者用ナビゲーションサービス「EZナビウォーク」を登場させた。いわばカーナビの携帯版だが、こうした新しいサービスも、われわれはデザインの一環だと考えている。

2003.9.29 朝刊 2003.10.8 朝刊 2003.11.4 朝刊

イマジネーションを膨らませる

 テレビではなく新聞をメーンに展開したのは、内容を深く伝えたいということからだが、それだけではない。デザインを見てもらい、その考え方を説明するにも新聞は向いているが、なによりもイマジネーションを膨らませることができる媒体だという期待もあった。また、広告を見て、読んでもらった人だけで完結するのではなく、新聞広告を周囲の人と見ながら「自分ならこれがいいね」「これだよ」と話題がさらに広がる効果も考えた。
 また、KDDIのホームページにも「Designers KDDI」という専用コーナーを設けた。新聞広告を掲載した日は、ホームページのアクセスが倍近くになった。「みんなの好きなモノをケータイにしよう」という広告が掲載された日(9月29日)のネットの掲示板では「この次はバナナではないか」など、いろいろな盛り上がりがあった。
 紙面だけで終わらない、プラスアルファの効果、そういう深いコミュニケーションができることが新聞の良さだ。

テレビは「ハート」、新聞は「志」

 今回のキャンペーンの中でのテレビの役割は、どちらかというとコミュニケーションの幅を広げるためのものだ。テレビの特性は、即効性があり、しかも、幅広い層に伝わることだ。できるだけ広く伝えたい時にはテレビは外せない。ただ、表現できる内容には限りがあり、30秒のコマーシャルでも、今回のようなコーポレートブランド・キャンペーンの内容は伝えきれない。
 そういうメディアごとの特性を考え、テレビと新聞では表現を分けている。テレビコマーシャルはターゲットを広く取り、「デザインを少し加えるとものの見方が変わります」というメッセージと共に、どちらかというとイメージでKDDIの「ハートを分かってよ」という気持ちを伝えた。
 新聞ではまず全体のコンセプトを語り、その後、具体的な提案を紹介するなど、深い内容を伝えることにした。テレビが「ハートを伝える媒体」だとしたら、新聞は「志を伝える媒体」だと思っている。

通信会社と言えばKDDI

 キャンペーンの目標のひとつは、再生率の向上だった。社名を見せて知っているかどうかを聞いたときのKDDIの再認率は100%に近いが、通信会社と聞いて自由に名前を挙げてもらう再生率では、KDDIの名は必ずしも最初には出てこない。KDDIを一番最初に挙げてもらえるようなコミュニケーションを展開していくことが今回のキャンペーンの目標だった。
 ブランドというと非常に抽象的な話になるが、ブランドには中身と裏づけが必要だ。その中身なしにはコミュニケーションは説得力を生まない。KDDIの場合、その中身とは固定電話や携帯電話、あるいはFTTH(光ファイバー)など、通信インフラと技術を総合して持っていて、さまざまな提案ができることだ。
 そうすることによって、KDDIという存在が人々の頭の中で大きくなっていけば、再生率も上がっていくのではないか。それも単に再生されるのではなく、いろいろなことにチャレンジしているとか、デザインのことを言っている会社だということをしっかりとイメージしてもらえる。それが重要だと考えている。

企業広告・商品広告は表裏一体

 世の中は、いつでも、どこでも、だれとでもコミュニケーションができるユビキタス時代を迎えている。携帯電話、固定電話、ADSLといった単体の商品やサービスではなく、今後はKDDIの抱える商品やネットワーク、コンテンツを横断的に有効に使っていろいろな提案ができる。それがKDDIの強みであり、目指す方向でもあり、まさにこれからの時代のニーズにも合っている。
 そういう考え方に立てば、企業広告も商品広告と表裏一体で展開できる。商品広告か、企業広告か二者択一で考えるのではなく、どちらも支え合っている。そういう意味では、今後の広告展開にも迷いは少ない。
 ただイメージを伝えるだけが、ブランディング広告ではない。ユビキタスと言っても5年後のことではなく、もう動いている。KDDIのビジネスを幅広く提案していく。その切り口が生活にどうかかわるか。KDDIができること、それが生活の中でどう役立つか。目線をできるだけ人々の生活に近いところに置いて、それを具体的に伝えていくことがKDDIのブランドをつくっていくと思う。




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