特集 2003.11/vol.6-No.8

消費者に近づく
いま買うべき理由を作るプロモーション

 セールスプロモーションの手法でブランディングを行う動きや今までSP媒体といわれていたメディアをブランディングに使う試みが注目されている。その一方で、取引制度の問題などもあり、日本の販促費の多くは流通対策費に使われ、消費者に直接働きかける本来のセールスプロモーションはなかなか定着しないのが現状だった。日本POP広告協会の坂井田稲之氏に、ブランディングとセールスプロモーションの関係はどうあるべきか、消費者に直接働きかける本来のセールスプロモーションのあり方を聞いた。
 
 最近、大手広告会社を中心に「ブランドプロモーション」という言葉が聞かれるようになった。ブランディングの活動をセールスプロモーション手法で展開するという考え方だ。そこで語られている「顧客関係形成」や「売れ続ける仕組みづくり」という言葉は、確かに魅力的な響きを持つ。しかし、ブランディングは良好な顧客との関係を形成するものだろうが、果たしてロイヤル購入を約束するものだろうか。長期の販売維持も、日ごとの買い上げ促進を積み重ねたものだ。短期の売り上げは関知しないが、長期的な買い上げは約束するという妙な話はあり得ない。
 そこには、ブランディングという言葉の無制限な拡張と本来のセールスプロモーションに対する誤解がある。
 マーケティング全体の中でのセールスプロモーションの役割は、本来、いま買うべき理由を作ることだ。それがブランディングと結びついて、本当に前向きなマーケティング活動ができる。
 なぜ、セールスプロモーションの本来の役割が浸透しないのか。原因の一つには、広告もセールスプロモーションの業務も、日本では広告会社が一手に担っていることがある。

SP媒体だからプロモーション広告か

 セールスプロモーションの本質をわかりにくくしている原因は、SP媒体という言い方にもある。日本のSP費は2兆円と言われているが、これは媒体で分けた統計だ。本来のセールスプロモーションに使われるSP費ということではない。一般的には新聞・テレビ・雑誌・ラジオの4媒体がマス媒体、それ以外の媒体はSP媒体と呼ばれている。しかし、電車の中吊りだからSPで、新聞広告だから広告という言い方はおかしい。新聞広告の中にもプロモーション広告はあるし、中吊り広告の中にもブランディング広告はある。だから、本来は媒体で分けるのではなくて、何を目的にしているかで分けなければいけない。同じ屋外広告でも、テレビCMでも、ブランディングを目的にしたものもあれば、プロモーションを目的にしたものもある。
 ビルボードや駅ばりポスターなどを使い、うまく口コミを醸成しながらキャンペーン効果を上げていくという手法が最近注目されているが、これは従来SP媒体と呼ばれていたものを広告媒体として使ったということだ。マスメディアではない「その他の媒体」で広告をやる、ブランディングをやる。もちろんそういうSP媒体の使い方もあっていい。ただ、それはマーケティング全体の中での本来のセールスプロモーションとは違うと私は思っている。

好きか、得か2つの判断軸

 今日の市場では、確かにブランドの姿を人々の中に的確に植え付ける活動が重要になっている。顧客の維持に欠くことのできない要素だ。そういう意味でブランディングが大事なのはよくわかるし、最近の広告活動も、そこに大きくシフトしている。購買時点でも、その商品が「好きか・嫌いか」は、重要な判断軸になる。
 しかし、他方で販売競争はますます激化し、好むと好まざるとにかかわらず人々の買い物に対する意識は低関与化している。「好きか・嫌いか」だけで、人々はモノを購入しているわけではない。もう1つの重要な「損か・得か」という判断軸との微妙なバランスでブランド選択がなされている。購買時点では、「好きか・嫌いか」というブランド形成と、「損か・得か」というセールスプロモーションの両方がうまくいって、初めてモノが買われる。逆に言えば、しっかりしたセールスプロモーションがあることで、ブランディングも生きてくるし、セールスプロモーションもブランディングがあることで、場当たりやその場限りではない長期的な売り上げに貢献できる。
 今言われているブランディングは、健康のためには死んでもいいという極端な話のような気がする。言ってみれば、左足があっての右足なのに、右足の話ばかりになっている。ブランディングはマーケティングの必要条件ではあるが、十分条件ではない。

いま買うべき理由を提示する

 セールスプロモーションとはトライアルを作ることだ。もう少し大きくいうと、買い上げに対するマーケティングプレッシャー、つまり「購買の直接的な動機づけ」ということで、なおかつ、それは限定された期間に用いられるべきものだ。
 先ほども言ったように、それが日本では、マス4媒体以外の媒体で広告活動をすることだと長い間理解されてきた。セールスプロモーションも広告の一種だという考え方だ。しかし、実際は広告とセールスプロモーションは、役割も目的も違う。広告がその商品の存在理由となぜその商品がすぐれているかを人々に伝えるのに対して、セールスプロモーションは「いま買うべき理由」を提示する。一連の販売活動を仕上げるのがセールスプロモーションだ。
 商品の知名度を高め、理解させ、好きにさせ、購入意向を作るのが広告の役割だとすると、購買に至るまでには、その後にもさまざまな要因が働く。価格、流通・販売経路、販売員の売る気もある。その中で、セールスプロモーションは購買を直接的に動機づける役割を担う。
 たとえば、スーパーマーケットやコンビニエンスストアで売っているような商品の場合、われわれの調査では指名買いは8.4%しかない。購入意向段階では好き・嫌いが強く影響するが、購買時点では、損か得かという違う別の論理も働く。広告とセールスプロモーションの2つが結びついて、初めてブランド選択という購買行動が起きてくる。両方があって初めてマーケティングは健康になる。
 商品に対する注目、アテンションを高めればモノが売れる。それが成り立つ場面もあるが、実際は成り立たないことが多い。それは、売り場が変わってしまったからだ。昔はお店が小さく、そこにある商品数も限られていたから、選択の余地はほとんどなかった。それが、今やお店に行くといろいろな種類の商品がある。なおかつ、価格は小売りが決める。お店に行かないと最終的な価格はわからないし、それも日によって時間によって変わる。そうすると、価格が決まらないうちに、あれを買おうと決めるのは不合理になっているということもある。
 セールスプロモーションは「いま買うべき理由」を提示することだと言ったが、それは言い換えれば商品以外のプラスアルファの魅力を付けることだ。コーラのボトルキャップに人気のキャラクターを付けることも、直接的な値引きも、そういう意味では同じだ。だから、セールスプロモーションは場所や期間を限定して行うことが重要になる。セールスプロモーションは外科手術であり、最近のはやり言葉で言えばサージカルアタック、ピンポイントで行うものだ。要するに、どのターゲット、あるいは地域のトライアルを上げると全体に波及するかを熟慮して展開するのがセールスプロモーションだ。
 商品以外に買うべき理由をつけることのデメリットは、すべての購買を引き寄せてしまうことだ。確かに売り上げは一時的には上がるが、その後に必ず落ち込む。どんなにうまくセールスプロモーションを実施しても、その後に販売の落ち込みは生じる。
 最悪のプロモーションは、ターゲットも地域も考えずに行うことだ。その場合、だれが最初に買うかというと、いつもそのブランドを買う人だ。自分の好きなブランドをいい条件で売っているわけだから、まず最初に買う。そうすると、需要の前倒しになる。だから、ロイヤル購入者にプロモーションを付ける場合はよく考えないといけない。スイッチャーやトライヤーを獲得するためにターゲットを限定すれば、その人たちはその商品に満足すれば一定の確率でマーケットに残ってくれる。そうすると、売り上げは一度落ちるが、また上がる。そういう基本原則が、意外と知られていない。


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