特集 2003.11/vol.6-No.8

消費者に近づく

 それぞれが違う価値観や好みを持っているが、同時にみんなと同じであることも求める。なかなか一筋縄ではいかないのが、現代の消費者だ。しかし、その消費者に近づかない限り、活路は見いだせない。消費者にどうアプローチすべきか。企業のコミュニケーション活動、メディアプランニング、セールスプロモーション、3つの側面から探る。

ダイレクトコミュニケーションという考え方

 顧客本位、お客様の立場に立ってという言葉はよく使われる。しかし、それを実践している企業は少ない。消費者の心理やニーズをとらえるとは、企業にとってどういうことか。また、それはどう実践すべきものなのか。イトーヨーカ堂コーポレートコミュニケーション部長の水越さくえ常務取締役に聞いた。
 
 今のお客様は、年代や地域によって異なる生活スタイルを持っている。品ぞろえやサービスも、最近は個店ごとの特徴をしっかり出していかないとニーズに合わない。その一方で、環境問題や資源のリサイクル、食の安全など、企業の対応だけでなく、広くお客様の理解や協力を求めなければならない問題が増えている。人々の生活スタイルも、社会を取り巻く環境も、かつてのようには単純ではなくなってきた。情報を伝える時も企業に倫理観が求められるし、経営の考え方、企業理念をしっかり持ってお客様とコミュニケーションを図ることが重要な時代になった。

お客様からの発想

 イトーヨーカ堂の基本理念は「お客様からすべてを発想する」に尽きる。お客様の視点に立ってとはよく使われる言葉だが、企業にとってこれほどむずかしいことはないと私は思っている。
 イトーヨーカ堂の「お客様からすべてを発想する」とは、1つは質の追求を指す。これは曲げられない基本的な考え方で、食品は徹底的に味と鮮度の追求をしていく、衣料は素材はもちろん、縫製、デザインをきちっと追求していくことに尽きる。
 次が、変化を客観的にとらえていくこと。この変化には時代の大きなうねりがまずある。それには少子高齢化の問題もあれば、食の安全の問題もある。環境問題も、土壌汚染の問題から、商品が消費された後のゴミの処理までトータルで流通が考えなければならない時代になってきた。また、変化には日々の変化もある。新聞やテレビ、インターネットから、日々たくさんの情報が流れてくるが、それによってやはりお客様の心が動く。露地ものキュウリのビタミンはハウスものより3倍多いとテレビ番組で紹介されれば、従来の何倍も売れてしまう。ココアが体にいいと紹介されれば、棚からココアが消えていく。中には、1、2週間単位で動く変化もある。われわれ流通は、その変化を客観的にとらえて、変化の奥底にあるお客様の潜在的な心理やニーズを、商品開発やサービスという形にして出していかなければならない。
 3つ目は、常に新しいことに挑戦することだ。変化の激しい時代だからこそ、企業は新しいことに挑戦しつづけなければ安定はない。そのためには、過去にとらわれず仕事をしていく必要がある。

国内産地と組んだ新ブランド

 お客様の視点から質を追求し、変化をとらえ、新しいことに挑戦する。その1つの例が、全国の産地と共同開発した衣料品の新ブランド「メイドインジャパン」だ。
 世の中はインフレからデフレになり、いろいろなものが安くなっている。しかし、店頭でお客様と接している人たちは、ただ安いだけの商品は欲しくない、もっと品質の高いものをというお客様の声を聞いていた。そういう質を求めるニーズに応え、「メイドインジャパン」は昨年5月から販売を開始した。
 ブランドの直接の開発に携わったのは営業本部長の日野沢専務で、中国でバイヤーの責任者として3年間過ごして帰国後、昔お世話になった産地を訪ねたことがきっかけだった。世界に誇れる繊維の産地だったところに閑古鳥が鳴いている。中国各地の工場を見てきた目から見ると、中国がまねできない繊細な技術が日本にはある。そこで彼は、衣料担当の全バイヤーに全国の産地を徹底的に調べさせた。
 そこでわかったことは、日本にはすぐれた技術がたくさんあるが、お客様が求めているものが産地に直接伝わっていないことだった。生産から小売りに商品が届くまでに何段階もある日本の流通の仕組みが、お客様の声を伝わりにくくさせていた。イトーヨーカ堂にはものをつくる技術はないがお客様の情報はある。日本の産地にもう一度元気になってもらいたいという思いもあり、そうした背景から産地の方々とチームを組んで開発したのが、「メイドインジャパン」という新ブランドだ。

個店に合わせた商品開発

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 「メイドインジャパン」は、全店で同じ商品が均一に販売されているわけではない。商品部がそういう方針を出したのは、1つには、国内の産地にあるのは必ずしもマスマーケットを対象としてものづくりをしてきたメーカーだけではないからだ。これまでの自社ブランドは同じ商品を全店に出すのが当たり前だったが、商品によっては限られた地域、店舗に出すだけでもいいことにした。そうすることで、産地も安心していいものをつくれる。
 もう1つは、今のお客様のニーズはそれぞれ違うことからきている。個店に合わせた商品の開発という視点に立てば、その商品を求めるお客様のいる10店舗、5店舗に出す商品があってもいいという考え方だ。
 立ち上げ前に展示会で「メイドインジャパン」を紹介したが、マスコミの反応は極めて好意的だった。記事として取り上げられた数は、これまでに新聞だけで数10紙以上、雑誌、テレビもかなりの数に上る。また、通常の広告はもちろん、売り場でも日本地図を配した「メイドインジャパン」のPOPを表示し、1品1品にタグも付けた。小売業にとっては、お店が最大の媒体だからだ。そういう意味では、「メイドインジャパン」は広告活動と広報活動とが一体になって広めたブランドでもある。
 まず、「品質のよいものが欲しい」というお客様の声があり、そして、なんとか日本に元気になって欲しいと多くの人が思っていた大きな時代の風があり、その思いにマスコミの人たちが注目し記事に書いてくれた。こうした結果、昨年100億円だった「メイドインジャパン」の売り上げは、今年は200億円に達する見通しだ。

「日本を元気に」

 イトーヨーカ堂では、10月15日から「84周年大創業祭」を始めたが、それを告知する新聞広告、チラシにも「日本を元気に!」という言葉を入れている。この言葉には、生活の先行きに対する不安を取り除きたいというお客様の気持ちに応える企業としてのメッセージの意味を込めている。
 また、「日本の質の高い製品を」という「メイドインジャパン」の考え方を、「創業祭」にも反映させた。今までのチラシは価格訴求型。ところが最近は、安さだけを強調した目玉商品が一番残る。ただ安いだけではお客様は商品に魅力を感じなくなってきている。価格だけでものを買わない今のお客様の消費行動がはっきり出ている例だと思う。
 たとえば、今回のチラシでは、烏骨鶏のたまごを1個350円、衣料品の特選品としてカシミヤのコートを7万円で提供している。今までなかなか手が届かなかったものをただ安くだけではなくて、あくまで価値を前提に提供している。
 また、同時に食の新しいブランドとして「美味百撰」を発売したが、この商品開発も味を追求したものだ。ジャムが500円、ココア飲料が一リットルで550円。確かに安いとは言えないが、それは実際に試食・試飲していただければ違いがわかる。実際に「創業祭」でのお客様の反応は予想以上だった。
 そういう質を求めるお客様に対して、「創業祭」は特売ではなく、プレゼンテーションという位置づけをしている。店舗に対する説明も同じ考え方に立って行われ、企業からのメッセージがお客様にはっきりわかるように、売り場の一番目立つ場所でプレゼンテーションするように指示が出されている。
 広告や広報は実際の営業とは違うからイメージづくりでいいという考えがあるが、それは違う。品質のよい商品と実態に即した企業メッセージが、これからはストアロイヤルティーにつながってくる。
 こうした企業メッセージを伝えるのに、新聞は重要な媒体だと思っている。流通にとって一番大きい媒体は店頭だが、その次は新聞だ。もちろん商品によって、媒体の選び方は違う。セグメントされた対象には雑誌が効果的だが、イトーヨーカ堂はファミリーを対象としている。そうなるとやはり新聞は重要になる。
 また、今回の新聞広告ではオープン懸賞を行い、従来のはがきだけではなくインターネットでも受け付けたが、平日にもかかわらず午前中からかなりのアクセスがあった。ネットも家庭内で当たり前に使われる時代になった。

グループの潤滑油として

 お客様の変化を知り、お客様から発想するために重要なことは、日ごろ接している人たちの声を聞くことだ。そのために、社員、各店舗の改善指導をしている消費生活アドバイザー、マタニティー・育児相談で乳幼児を持つおかあさんからいろいろな相談ごとを受けている保健師さんたちの声が本部に集められることが重要だ。店のあらゆる人が常に情報収集にかかわり、お客様の潜在ニーズを探っていく。それが次の商品につながっていくのが、イトーヨーカ堂のマーチャンダイジングであり、マーケティングの基本になっている。
 しかし、お客様の声は非常に多岐にわたっている。それに本気で対応していくには、仕事の仕方をそれに合わせて変え続けていかなければならないし、組織そのものも変えなければできない。変化に対応するということは、小手先を変えればいいということではなく、全社挙げての取り組みが必要になる。
 イトーヨーカ堂はお客様のニーズに応えるため、まず、会社の縦割りの部門、あるいは関連会社の壁を取り払って、考え方の統合を図ることから着手した。それが82年に立ち上げた「業務改革委員会」だ。この会議は今も毎週火曜日の午後、本部で開催されているが、全役員、衣食住の仕入れ責任者、関連会社トップ、人事、財務、広報などの間接部門が参加するこの会議で、営業面を中心としたあらゆることが問題提起され、それに対して解決の方針が出される。
 この業務改革委員会によって社内や関連会社の関係は急速に密接化したが、同時に全社的なコミュニケーション活動をフォローし、イトーヨーカ堂グループの方針の徹底を図る潤滑油が必要になっていった。その役割を担って設立されたのが、コーポレートコミュニケーション部だ。はじめに組織ありきではなく、業務改革の結果、必然的に生まれた組織だった。コーポレートコミュニケーション部の業務には、社外のコミュニケーションもあり、それももちろん重要な業務だが、社内の各部署やグループ各社との連携をつくりだすための役割が大きな仕事になっている。
 また、少人数で担当していることも特色だ。現在、コーポレートコミュニケーション部と広報室を合わせスタッフは8人。いろいろな人間がいろいろな角度で違う話をしてしまうと意思の伝達ができないからだ。それは、情報収集でも同じことだ。

大創業祭新聞広告 大創業祭折り込みチラシ
10月15日朝刊に掲載された新聞広告と新聞折り込みチラシ

日々のコミュニケーションから

 コーポレートコミュニケーション部は社内や社外の情報が集まってきて、はじめて潤滑油としての役割を果たせる。しかし、組織をつくったから情報が集まってくるわけではない。そのためにわれわれが最も重視しているのが、ダイレクトコミュニケーションだ。
 たとえば、コーポレートコミュニケーション部も広報室も販売促進部も、朝、店が開店して20分後ぐらいに、一斉に電話を入れることを日課としている。電話をかける店はアトランダムだが、それぞれ何店舗かに連絡をして、たとえばチラシが出たとしたら、どういう商品が動いているか、お客様の反応はどうかなどを毎日やり取りする。そうすることによって、今日は店がどういう状況か見えてくるし、同時に、日常的にコミュニケーションをすることによって店との信頼関係が生まれてくる。店長や衣食住の統括マネジャーからも、何かあったときには電話が入るようになる。情報は黙っていてはどこからも入ってこないが、日々のコミュニケーションがあれば、逆に黙っていても入ってくるようになる。
 イトーヨーカ堂では、毎週1回、トップを交えた店長会議も行っている。コーポレートコミュニケーション部もそこに参加するが、毎日電話をしている中で詳しく知りたいことができた時は、会議が終わった後、店長と情報交換する。
 そういうことが、日常の中で繰り返されている。同じことは、セブンイレブンやヨークベニマル、デニーズなど関連会社との間でも行われる。何か困ったことが起こっても、日ごろのコミュニケーションがなければ気軽に電話もできない。それは1人ひとりがつくるネットワークであり、仕事の感度を磨く財産になる。それは商品開発にも言えることで、「お客様からの発想」は、そういう日々の積み重ねの中からしか生まれてこない。




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