特集 2003.7・8/vol.6-No.4・5

広告にとってデータとは何か

 メディアが増え、生活全体がメディアに覆われている。その中で広告の置かれている状況が変わりつつある。そこで求められるデータは、これまでと同じだろうか。いま広告に必要とされているデータとは何かを広告主と研究者へのインタビューから探った。

広告の役割の変化に応えるデータを

 アサヒビールのデータに対する考えは、お客さまにいかに効率よく伝えるかという1点につきる。そのためのデータとは何か。酒類事業本部宣伝部の山本泰利副部長に聞いた。
 
――ブランドが重視されていますが、広告の役割をどうとらえていますか。
 要は企業はなぜ広告をやるかという話になるのでしょうが、最終目的は、やはり売り上げを上げるためです。ただ販売にいたるまでに果たすべき広告の役割はある。ブランドを育てていくこと、企業を知ってもらうこと、直接的な購買に結びつけていくこと、もう1つは社内に対する広報、と4つくらいあると思います。
 ブランドについてもう少し詳しくいえば、スーパードライのような商品は、ねらってできるものではありません。その商品がブランドとして育つかどうかは、お客さまにとって価値があると認めてもらえるか、もらえないかです。それには、間口が広いものと、そうでないものとがあります。もちろん、採算がとれることが前提ですが、間口が狭くてもお客さまに存在価値を認められれば、それは必ず支持されていく。
 お客さまにとって価値があれば、広告はただそれを伝えればいいだけで、それがブランド広告です。ただ、最近はそれを伝えていく方法が多様になってきて、管理がむずかしくなってきています。

――スーパードライが発売されたころとは、媒体環境が変わってきたということですか。
2003.2.1朝刊
 発売は1987年ですが、当時とは市場環境が違いますし、お客さまの生活の形態も違います。もちろん、人々のメディア接触状況も全然違うわけですから、同じようにやってもうまくいくことはないと思います。
 その商品を出すタイミングやマーケットの状況もあったとは思いますが、当時はマス広告が非常に機能した時代だったという気がします。ブランドという考え方も一般的ではありませんでしたし、ビールの味の違いを広告で強調することもなかった。スーパードライは、その味にこだわった商品で、それをマス広告でストレートに伝えるだけでインパクトのあるニュースになった。
 ところが、いまは情報がはんらんして、かなりとがったニュースでないと広告が効きにくくなっています。マーケットの置かれている状況も、お客さまの情報に対する関心の持ち方も違ってきています。当時は、お客さまがメーカーの提供する情報を待っていましたが、いまは待っていない。情報を待っていない人たちを振り向かせることが必要になってきたわけで、広告が効きにくい状況になってきた。マスに知らせると同時に、もっと個に働きかける広告展開が必要になってきています。

――個に働きかける広告というのは?
 私どもの扱っているビール、発泡酒は、基本的には大量生産、大量物流の商品で、その存在や特性を多くの人に知ってもらうにはマス広告は不可欠です。ただ、そういうトップダウンの方法だけでなく、最近はボトムアップで知らせる両面作戦でやっていかないと情報を届けることがなかなかむずかしくなってきました。
 マスに比重を置くか、個に比重を置くかは商品カテゴリーによって事情が違います。たとえば、ウイスキー市場は1割の人が売り上げの九割を支えています。広告が全員に届いても9割はターゲットからはずれてしまうということです。コミュニケーション効率から考えると、そういう商品は個に伝えるメディアのウエートが高くなってきます。また、そのウエートはビールや発泡酒といったカテゴリーに対するお客さまの興味によっても違います。商品カテゴリーに対するお客さまの興味にしたがって有効な媒体を使っていかなければいけないということです。

パーソナルにも使える新聞に

――広告にどんな役割を期待するかは、商品の売り方によっても違いますね。
 お客さまがどういうことに触発されて購入にいたるかは、業種によっても、扱う商品によってもまったく違います。耐久消費財など高額な商品は、その広告を見て、ネットに行ったり、ショールームに行くなどしてより詳しい情報を得て、情報を吟味して行動を決定する。車などの耐久消費財の場合は、ネットやショールームに行くきっかけづくりが広告の役目になる。
 ビールはどうかというと、従来はマス広告でブランド広告からインセンティブの広告まですべてやってきた。それは、近くの酒屋さんで買ってもらうことを前提にやってきたからです。ところが、今年の秋に酒類販売の免許が緩和されますが、スーパーマーケットやコンビニ、ディスカウントストアと最近は非常に売り場が増えている。しかも、そこは集客力の高い売り場です。そうなってくると広告の役割も変わってくるとみています。車の広告とまではいかないまでも、売り場にお客さまに来てもらい商品を想起してもらうことが、広告の役割、勝負になってくると思います。
 そのためには広く伝える必要があり、また想起効果が広告に求められる。従来の考え方でいけばテレビということになるのでしょうが、いまはテレビの接触状況も悪くなってきています。やはり、お客さまの生活行動に合わせて、より接触度の高いメディアにシフトしていかざるを得ません。
 そういう意味では、インターネットや携帯電話が、今後は非常に大きな位置を占めてきます。レスポンスを得るということでは、インターネットはすぐれたメディアです。ただし、能動的に来てもらわない限り見てもらえないというのがインターネットの弱いところです。
 われわれの商品のように毎日買って頂ける商品は、普段の生活の中で目にとまることが非常に大事です。そういう視点から見ていくと、新聞に期待される役割は大きい。新聞というのは毎日発行されて、しかも各個人宅に配達される。メディアとしてはマスだけれども、実はパーソナルに届くという部分もある。そういう特性を持ったメディアです。ただ、現状の新聞はそのパーソナルなところが分類できないというところに問題がある。せっかく世界に類を見ない宅配制度があり、全国津々浦々に行き届いているのに、それが強みになっていない。具体的な読者像が見えてこないのが、非常に残念な点です。それができれば、さらに広告媒体としての利用価値は上がると思います。

新聞はニュースメディア

――パーソナルに届くという以外に、新聞の特性についてどうとらえていますか。
 新聞は、やはり、商品のニュース性を高めるには非常にいい媒体だと思っています。しかも、毎日出るものですから、新商品の発売日やキャンペーン開始にジャストフィットで出稿できる。しかも全国規模で一斉にということができるのも、他の媒体にはない特性です。
 ただ、商品の詳細情報やブランド訴求という意味では、ある程度継続的にやらないとその効果はでません。スーパードライや本生も継続して出稿しないとお客さまに浸透していかない。やはり継続性ということがどうしても必要になります。

――信頼性ということについては?
 いろいろなメディアから情報がとれるようになりましたが、信頼性のある媒体は非常に少ない。ニュースの事実関係ということについては、信頼性が高い。だから、読者は新聞に積極的に情報を取りにいく。新聞はやはりニュースペーパーであり続けて欲しいと思いますね。記事に魅力があるからみんな新聞に信頼性を持っている。新聞の改革もいろいろ行われていますが、本紙が魅力的になれば、新聞はもっとおもしろくなると思います。

読者が見えるデータを

――有効な媒体選択をするために、判断の基準として必要なデータとは何でしょうか。
 まず基礎的なデータとしては、それぞれのメディアがどのくらい届いているかという実数です。率ではリアリティーがない。それから、どんな属性の人がそのメディアに接しているか。新聞なら何世帯、何人の読者に情報が確実に届いているかという実数とパーソナルな分類ができる読者プロフィルです。そういう基礎的な数字があって、このエリアにはどのメディアを使うか、新聞を使うならどの新聞がいいかが決まってきます。
 また、実際に新聞を使うときには、読者が新聞にどう接しているかも重要です。

――新聞の接触状況が見えにくくなったということですか。
 広告会社や媒体社の人と話をしていると、リーチがこれだけ、フリークエンシーはこうなっていて、単価はこうですから、非常に効率がいいというような話をされますが、お客さまがメディアにどう接しているのかという情報が圧倒的に足りないですね。新聞だけではなくて、テレビ、雑誌など他のメディアにも言えることですが、表面的な数字だけで媒体の価値を測っているきらいがある。
 仕事柄、新聞は各紙読みますし、広告もチェックしていますが、実際に自分の生活を振り返ってみると、新聞は、朝、通勤中に読んでしまう。満員電車で通勤してくるので新聞は縦折りにして読む。もしそういう人に広告を見てもらいたいと思ったら、縦折りでも見てもらえる広告を考えなければいけない。同じ人が、休みの日には新聞をどう見ているのか。それによってわれわれが展開する広告にも違いが出てくると思います。

――そういう違いが、いまのメディアプランニングには反映されていない?
 いま試みたいと思っているのは、先ほども言った基礎的な数字に、媒体の接触状況など定性的な情報を加味していくことです。やはり、その人の生活だとか、そのエリアの生活に思いをめぐらして、これは見ない、これは見てもらえるなということを考えながら媒体戦略を立てていかないといけない。
 最近はオプティマイザーやいろいろなプランニング手法が出てきて、どうも人の生活とはちょっと離れた、実感のわかない数字だけのメディアミックスになっているのではないかという感じがしますね。
 そういう意味で、基本データだけは各新聞社から出してもらいたい。後は業種によっても、扱うブランドによっても必要なデータは違いますから、それはやはり各企業が個別に積み重ねていくしかない。

メディアの接触状況が前提

――情報への接触状況が変わってきたというのは、他のメディアでも感じることですか。
 たとえばネット上でキャンペーンをすると、そのときの応募が分単位で出てきます。それを見ていくと、テレビのゴールデンタイムから夜中の12時までが1番応募が多い。つまり、その時間帯に人々はパソコンに向かっているわけです。ヤフーの調査でも、インターネットができる環境にテレビがあると答えた人は非常に多い。
 また、首都圏に住む人とローカルに住む人では生活の形態がまるで違います。酒類のCMは午後6時以降しか放映できませんが、首都圏で6時は旦那さんは帰っていない時間です。ローカルのほうは、職場と家が2、30分ですから、6時台も枠を取っておく必要がある。そのエリア、エリアで生活している人たちのメディア接触を個別に考えていくべきで、そういう接触状況を踏まえた媒体選択をやっていけたらと思っています。
 先ほども言いましたが、本来のメディアミックスはメディアの接触状況や生活動線に合わせてメディアを組み上げていくのが基本だったはずなのですが、それがずいぶんずれてしまっている。これだけ生活環境、メディアの接触状況が変わっているのに、いまだに同じウエートで、同じ媒体選択をしているということ自体ちょっとおかしな話ではないか。それは、経営者にも言われます。

データはシンプルに

――お話を聞いていると、新聞にはデータがないのではなく、要求に応えすぎて屋上屋を重ねてきてしまったところもあるかもしれませんね。
 われわれが考えているのは、商品に関心が高いお客さまに、こちらが伝えたいことを効率よく届けたいということで、かなりシンプルなはずなのです。ところが、調査をやると、こういうことも知りたい、ああいうことも知りたいと欲がだんだん出てくる。しかし、それをどう使うかという話になったときに、活用できないことが多い。活用できないデータは結局はいらないし、オミットしていったほうがいい。

――メディア環境が複雑になったからこそ、データをシンプルにとらえることが必要になったと言えるかもしれませんね。
2003.1.18朝刊
 われわれの会社はメーカーですから、お客さまと商品とを考えて、営業も、商品開発も、広告活動も行っています。メディアのことを考えて仕事はしていません。宣伝セクションもメディアについては、いい意味で素人であっていいと思っています。お客さまという視点で考える時は、データはシンプルであったほうが活用しやすいということです。
 私自身も調査をやっていたことがあります。商品開発で商品もつくっていましたが、そこで調査を専門に2年担当した。調査の仕事を1年半ぐらいして、ふと、このデータはどう使うの、こんな調査やっていても商品はできないと気づいた。
 何のためにその調査をやっているのか、いつもその目的を振り返らないと、調査だけ、数字だけが先行する。商品とお客さまを念頭に置いて思いをめぐらすということが希薄になっていくんです。

――データがかえって、消費者を見えにくくしていた?

 企業にはいろいろなセクションの人がいて、いろいろな思いがあってやっている。やはり、いい情報もいっぱい持っています。しかし、直接話す機会がない。企業が小さいうちは1つの部署で1から10まで全部やっていますから、全体が見えた。企業が大きくなって、それができなくなったこともありますね。
 この間も、たまたま流通担当の人間と話す機会があった。お店に来るお客さまに喜んでもらえることをすることでお店の売り上げも上がるわけですから、流通担当は、スーパーに来るお客さまはどんな気持ちで、どういうものを求めて買いにくるかまで知っている。お店に来るお客さまのことがわからないと流通担当は務まりません。しかも、1からきちんと商品のことを知っているわけです。両方の知識を持った上で、初めてお店に提案ができるわけです。
 ところが、最近の調査は、顔の見えない「消費者」を調べている。やはり消費者調査とお客さま調査は視点が違う。消費者調査はマクロ的にとらえるにはいいのですが、実際に広告が効く効かないという話になったときには、お客さまの調査でないと使えない。今のメディアデータは、消費者調査ではあるけれど、新聞の購読者調査にはなっていない気がしますね。




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