特集 2003.6/vol.6-No.3

デジタル入稿と広告のクオリティー

 新聞広告のデジタル送稿実験が初めて行われてから7年が経過し、今や通常出稿もデジタル入稿という企業が増えている。読売新聞でも、この7月1日から広告原稿を原則デジタルで受け付ける。デジタル入稿は広告にどんな変化をもたらすのか。クオリティーという側面から探ってみた。

広告の品質を向上させるデジタル

 デジタル入稿のメリットとして、これまで製版費のコストダウンなどが言われてきた。しかし、積水ハウスではデジタル入稿で最も重視しているのはクオリティーの維持・向上だという。販促部の福田和幸氏に聞いた。
 
 積水ハウスがデジタル入稿を始めたのは、2年ほど前からです。徐々にデジタル原稿を取り入れ、現在ではカラーは大半がデジタル、モノクロもほぼデジタル入稿にしています。
 デジタル入稿では、たとえば読売新聞の場合、カラーでも2日前までに入稿すればいいので、アナログの時と比べ原稿制作がぎりぎりでも間に合うという時間的なメリットがあります。また、最近は商品開発にもスピードが求められており、新商品の写真撮影も非常にタイトなスケジュールで行うことも少なくありません。さらに、当社の場合は、地域ごとにディーラースペースを切り替えますので、デジタル入稿は版切り替えに伴うフィルムのコストがいらなくなるというメリットもあります。単純に製版費ということで言えば、フィルム入稿に比べ2、3割はコスト削減になっています。
 しかし、デジタルに移行するにあたり、第一に考えているポイントは、クオリティーの維持、もしくは向上です。制作担当者としても、広告の印刷品質は非常に気になります。

カラーに対するこだわり

 積水ハウスは新聞を使った広告を全国に展開していますが、特に新商品発表の場合、最近はその8割がカラー広告です。「シャーウッド」「ビエナ」などブランドごとにエージェントを変えて、ブランドのチャンネル化を図り、おのおののブランドごとに違うトーンをつくっていくことも重視していますが、ブランドは変わってもクオリティーを一定にするための管理は必要です。そのクオリティーの重要なファクターとして色があります。社全体が広告上の商品の色に対してのチェックは非常にシビアで、カラーの品質管理は重要な課題です。
 以前は当社でも、カラー広告はそれほど大きな比重を占めていませんでしたし、制作の現場でも、いわゆるオフセットのパンフレット印刷のときと、新聞のカラー広告のときとでは頭を切り替えていたのですが、最近はほぼイコールに考えています。新聞のカラー印刷の品質が高くなってきましたので、逆にわれわれの要求水準も上がったことが、その要因です。新聞広告のカラー化とデジタル化の波が、当社にはほぼ同じタイミングでやってきました。それだけに、余計にクオリティーという側面が気になります。

読むから鑑賞するメディアへ

 新聞の印刷は、雑誌やポスターなどの商業印刷とは目的が違うことは理解しています。新聞はもともとニュース媒体であり、「読むこと」に主眼が置かれたメディアです。それこそタイムリーにニュースを出すことが重要なメディアだと、モノクロの時代は割り切っていました。しかし、徐々にカラーが増え、新聞印刷のクオリティーが上がってくるに従って、読者も雑誌と同じような目で見るようになってきていると思われます。つまり、「読むメディア」、「ニュースメディア」という新聞本来の特性に加え、「見るメディア」という要素も、だいぶ強くなってきていると思います。
 新聞広告も、鑑賞対象というニュアンスが強くなり、必然的に商品の色合いや写真のトーン、フォトジェニックな部分に対するこだわりが大きくなってきました。特に商品写真は現物に近い色が新聞広告にも求められます。
 これはブランディング戦略にもかかわる問題ですが、単に商品のニュースを伝えるだけなら印刷のクオリティーにそれほどこだわる必要はありません。やはりイメージを蓄積していこうと考えた場合、広告表現のうち、色や印刷のクオリティーは重要なファクターになると考えています。

プルーフを念校レベルに

 カラー広告の平台校正、念校ゲラは、原稿制作の段階でオーケーを出した、いわば最終的な完成形です。色校正には、通常、新聞紙面とは色が異なる白い紙を使用しますが、当社では校正の用紙には茶紙を使用しています。製版所でわざわざ手配してもらっている紙で、もう五〜六年前からやっています。
 私たちは、今度こういう広告が出ます、という形で掲載前に社内にゲラを配ります。ポスターとしての効果を期待するのであれば、本当は白い紙のほうが喜ばれますが、あえて茶紙にしています。最終的には新聞に掲載されるわけですから、それに近いものにすべきだと思うからです。
 印刷上のポイントは、この念校ゲラの色を、いかに忠実に再現してもらうかということに尽きます。現状では各新聞社間だけではなく、同一の新聞社でも各工場ごとに色のブレがあります。物理的にブレはあって当たり前だとわかってはいますが、ただそのブレを極力少なくして欲しい。
 最近は出稿の際に、各新聞社にカラープルーフを出してもらい、念校ゲラと比較し、送稿データを修正しています。デジタル入稿になると、新聞社の出すカラープルーフが念校ゲラ代わりになるとのことですが、残念ながら同じデータを入稿しても、プルーフの色は各社同じではありません。新聞社によって使用する紙やインキが異なることはわかっていますが、プルーフの精度にもまだ問題があるような気がします。平台校正の念校ゲラの精度にカラープルーフを限りなく近づける努力を新聞社には期待しています。
 現在は、デジタル入稿でもアナログの時と同様に色見本をつけて入稿しています。今後、デジタル入稿が100%になったとしても、カラーであれば色見本をつけたいと思っています。やはり、われわれとしては、読者にできるだけ良い印刷状態の広告を見てもらいたい。仮に新聞社で出すプルーフが、現在の念校レベルまで上がってくれば別ですが。
 ただ、それはプルーフをどちらがどの段階で出すべきかという問題より、平台校正とプルーフがニアイコールになればいいということです。

品質も最後は人の問題

3/6紙面
4/17紙面
 各社で色の再現が異なれば、結局出稿する新聞紙の数だけ、すべて個別の物差しでチェックしていかなければならなくなります。それぞれの新聞社のICCプロファイルを公開してもらって、そのプロファイルに合わせた環境をつくればいいことなのでしょうが、それですべてが解決するわけではないと思います。どうしても最終段階での輪転機の調整などアナログ的な部分は必ず残ります。
 パンフレットなどの印刷物でも、同じ会社・工場の同じ機械で刷ってもバラツキが出ます。われわれはパンフレットを印刷するときも、製版所や技術者を指定する形をあえて取っています。「あなたの技術を信頼して頼んでいるのだから、なんとか高い品質で上げて欲しい」という意思表示なのです。新聞各社の印刷のクオリティーを比較し、色の悪かった新聞社に要望を出すこともありますが、それは印刷の品質には、人の果たす割合が大きいと考えているからです。デジタル入稿になっても、それは変わらないことではないでしょうか。

アナログの良さ、デジタルの良さ

 広告の制作段階ではデジタル化が進んで、写真はデジタル合成の場合も多くなっています。しかし、パンフレットなど商業印刷の場合も、それを必ずアナログ銀鉛フィルムに出力してから再分解をかけた後、印刷しています。いわゆるメーンカット、イメージカットはデジタルデータのままでは入稿はしません。それは、一度アナログのフィルムに出した方が、写真的なニュアンスを深めると感じているためです。
 また、小さな商品カットならデジタルデータの入稿でもいいと思いますが、イメージを伝えるための写真の空気感や透明感といったニュアンスを出すには、フィルムからのほうがいい。報道写真であれば、地球の裏側から転送してタイムラグなしにデジタルデータのまま載せることは意味のあることですが、広告で写真のニュアンスを大事にしたい場合は違うのではないでしょうか。私どもは、広告表現の場合はアナログの良さ、デジタルの良さをミックスしながら伝えたいイメージをつくっています。
 デジタル入稿になって、最終的に入稿するものはデジタルであってもそれはかまわないのですが、少なくとも出稿前にイメージをアナログで最終確認するという作業は現状のインフラの中ではなくならないと思います。

モノクロにもクオリティーを

 新聞のカラー広告は鑑賞用としての側面が強くなり、きれいでなければいけないという見方になってきたと言いましたが、モノクロ広告も同じ尺度で見るようになってきています。
 モノクロの場合は、どうしてもドットが膨らむドットゲインの問題などがあり、新聞にもよりますが、製版所で出した念校よりも、最近では掲載紙面のほうが10から20%ぐらい重くなってしまうことが多く見受けられます。ですから、モノクロの念校は重くなることを前提とした校了紙でオーケーを出しています。つまり、念校の段階ではかなり浅く、薄く感じるくらいでちょうどいい。本当にいい状態の広告紙面にしようと思って、われわれもいろいろと試行錯誤しています。この1年で、モノクロ広告印刷のバロメーターは見えてきたと思っています。

デジタル入稿への期待

5/15紙面 新聞はデジタル入稿に向かっていますが、デジタル化という意味ではテレビコマーシャルも同じです。当社では8年前のプロモーションビデオでのデジタルβカムに始まり、テレビコマーシャルも三年前からHD、ハイビジョンデジタルで撮るようになりました。従来のフィルム撮影とは機材も、映像のニュアンスも違います。当初、制作スタッフの中には、おもしろい、チャレンジしましょうという人もいましたが、制作現場の抵抗が大きかったのが、悩みの種でした。
 しかし、よく考えてみると、フィルム撮影は劇場で映写するためにあった。ところが、テレビコマーシャルはもともとテレビモニターで見るもので、また、テレビ収録のために発達してきたのがビデオです。ハイビジョンデジタルで初めてプロモーションビデオをつくったときに、これは可能性があると思いました。住宅・インテリアという被写体に限った話かもしれませんが、テレビモニターで見たときに、フィルム撮影に比べ格段にきれいに見える。社内にもモニターしましたが、大好評でした。それでいまは、テレビコマーシャルはすべて画質に期待して、ハイビジョンデジタルで撮影しています。マスターテープもD1のデジタルテープで管理、テレビ局への素材入れも、デジタルテープ・D2での送稿になっています。
 新聞もデジタル入稿になって、クリエイティブの質を上げるような変化が出てくればいいと思っています。
 カラー広告の場合、デジタル入稿によって短縮された時間はカラープルーフの確認に使っています。結局、コストと時間とクオリティーにはバランスがあって、どこかが縮むと、どこかが出てくる。全体のエネルギーの枠というか、絶対量はいっしょのような気がします。ただそれが質のほうに向けば、それはそれで悪いことではない。つまり、デジタル入稿によって短縮された時間を、質を上げるほうにまわせるということです。
 ただ、カラーのクオリティーの問題にしても、われわれ広告主サイドや制作サイドだけでは限界があります。新聞社と一緒になって解決策を考えていければ一番よいのだと思います。




デジタル時代の画像処理とは
マゴ・デザイン 福田昭夫氏→


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