特集 2003.3/vol.5-No.12

メディアの特性と広告効果
コーポレート・ブランド構築に不可欠なメディア

  次々と登場するメディアをコミュニケーション戦略の中にどう組み込んでいくのか。資生堂のコーポレートコミュニケーション本部長鈴木奎三郎氏は、広告効果とメディアの関係を、単に商品が売れた、売れないだけではなく、どのような目的のためにその媒体を使うのかという考え方から出発すべきだと指摘する。
 
 資生堂は、今年で創業131年になります。その間、創業者の大変強い思いもあって、コーポレート・ブランドである「資生堂」を一貫して世の中に向かって発信し続けてきた企業です。それは広告だけではなく、有形無形のコミュニケーションを通して行われてきたものです。そうして確立されたコーポレート・ブランド「資生堂」の信頼感が前提にあって、初めて商品ブランドがお客様に支持される。資生堂が創業以来持ち続けてきたこの考え方は、どんなにメディアが進化しても、基本的に変わらないと思っています。
 一見華やかな業界だけにマスメディアを使った広告が話題になりますが、お客様とのコミュニケーションを支えているのはそれだけではありません。資生堂のビューティーコンサルタントが全国にいま約一万人ぐらいいますが、実はこの人たちは資生堂にとって大変重要な人的メディアです。
 化粧品にはどうしても肌に合う、合わない、季節的にいい、悪いということがあります。化粧品は、ビューティーコンサルタントがお客様の肌の状態を見ながら、相談の上で最適のものをお勧めすることが大事な商品です。ワン・トゥー・ワンという視点からみても、このビューティーコンサルタントという人的メディアはマスメディアと同じか、あるいはそれ以上に大きな存在です。

情報は複数のメディアから

 資生堂のお客様は日本に約1000万人います。そのお客様がどこで化粧品の情報に接しているか。化粧品の情報接触の調査で最近ランキングが上がっている上位四つが、友人・知人、テレビコマーシャル、雑誌・週刊誌の記事(パブリシティー)、そして新聞広告です。
 友人・知人がトップに来ているように、必ずしもマスメディアだけがお客様との接点ではありません。会社の中にいてお客様とのコミュニケーションを考えると、すぐ広告や広報という話になりますが、最近はウェブサイトや携帯電話を含め、ありとあらゆるメディアに複合的に触れることによってコミュニケーションは成立しています。もちろん、マスメディアの存在が大変重要なことはいまも変わりませんが、お客様に情報を伝えるものは必ずしもマスメディアだけではなくなって来ています。
 そういうふうにメディアの枠組みが変わったのは、90年代になってからです。かつてメディアというと新聞、テレビ、雑誌、ラジオでしたが、いまはウェブサイト、携帯電話、あるいは友人・知人を通した情報接触やビューティーコンサルタントとお客様との接触を人的メディアととらえるようになったように、メディアの枠が広がってきました。また、お客様も一つのメディアから情報を得るだけでは満足しなくなってきています。

コーポレート・ブランドの重要性

 そういう中で、資生堂というメーカーサイドからみて新聞の役割は何かといえば、やはりコーポレート・ブランドを確立するためには絶対欠かせない媒体ということになります。
 はじめに述べたように、それぞれの商品ブランドの広告が光り輝くためには、その土台となるコーポレート・ブランド「資生堂」に対する信頼感や愛着が確立されていない限り、うまく機能しません。プロモーションキャンペーンを実施する場合も、えてして短期間である商品を売り切ることを目的にしがちですが、これもブランド価値を傷つけます。やはり、広告も売り切り型ではなくて、売れ続ける広告をしなくてはいけません。そのためには、コーポレート・ブランドの広告と商品ブランドの広告、さらには広報活動をうまくリンクさせる必要があります。
 パブリシティー、タイアップ、ウェブサイト、いろいろな方法がありますが、それらすべてが連携してはじめて効果が出てくると思っています。その中でコーポレート・ブランドを確立するために欠かせない媒体が新聞だということです。
 そのため新聞に関しては、可能な限り一定の出稿を行うようにしています。正月広告も必ず出しますが、これは資生堂からお客様に対する年賀状だと思っています。

広告はコストではなく投資

 新聞をなぜコーポレート・ブランドの中心媒体に置くのかと言えば、新聞は世論を形成する力のあるメディアだからです。テレビには一過性の話題喚起力はあるかもしれませんが、新聞には活字メディアならではのしっかりした世論を形成する力があります。そういう活字メディアを通して間断なく資生堂の思いや姿勢、理念を世の中にメッセージしていくことは重要です。極論すれば、商品ブランドの広告は予算が厳しければやらなくてもいい。むしろ、資生堂のコーポレート・ブランドのメッセージをもっと出していきたい。そのためには、15秒、30秒のテレビコマーシャルでは足らないのです。活字メディアとしては雑誌、特に化粧品メーカーですから女性誌がありますが、コーポレート・ブランドのメッセージを伝える媒体としては、世の中から最も信頼されている新聞だと思っています。
 確かに、コーポレート・ブランド広告の効果は目に見える形では現れてきません。検証するデータも十分ではありません。しかし、コミュニケーションをまったくゼロにしたらどうなるか。コーポレート・ブランドのコミュニケーションをきちんとやっていないと、いつかブランドは漂流を始めます。しかし、漂流が始まったと気づいたときには、すでに遅すぎるのです。広告費は、コストではなくて投資です。企業にとって研究開発費と同じように重要な投資だと考えています。もちろん企業ですから、業績のいいとき、悪いときがあり、それにある程度連動するのはやむを得ませんが、極端にコミュニケーションの費用が変動するのは、やはり良くない。きちんと一定額を絶え間なく投資していくことによって企業価値は維持され、高まっていくものです。

人任せにしない企業文化

 ただ、こうした広告活動を行う上で最近の企業の抱えている問題は、宣伝部にプロがいなくなったことです。私自身が宣伝と広報を統括する立場にいますから、この仕事は特別だと言いにくいのですが、ある程度キャリアを積んだプロがいないとできない仕事であることは確かです。プロの仕事、プロの時代ともいえます。
 巨額のお金を扱いますし、人的なネットワークが必要なケースもかなりあります。広告とはどういうものかを経験的にも、理論的にもある程度わかった人がいないとできない仕事です。
 幸い資生堂は、これも一種の企業文化ですが、創業以来、クリエイティブ部門を社内に持っている歴史があります。初代の社長が自ら意匠部を率いて、文案家や図案家を置いていました。意匠部はいまはクリエイティブ本部と名前を変えていますが、コピーライターから商品パッケージのデザイナーまで130人近くのクリエイターが社員としています。
 また、これまでに多くのクリエイターを世の中に輩出しています。戦前戦後を通じて資生堂の広告制作の中心だった山名文夫はじめ、土屋耕一、仲條正義、石岡瑛子、松永真、小野田隆雄も資生堂の社員でした。
 ポスターにしろ、DMにしろ、もちろんグラフィックの広告も全部社内で制作しています。テレビコマーシャルだけは特殊な技術が必要なので制作会社にお願いする部分がありますが、プロデュースするのは社員のテレビ担当のクリエイターです。効果効率からみたら、それがいいのか、悪いのかわかりませんが、企業文化は人任せにしない。これも一つの資生堂の文化だと思っています。ですから、資生堂調というか、美意識と革新性といった資生堂的なテイストが維持できるのです。
 最近は、資生堂のお客様は日本国内だけでなく、海外にもずいぶん増えています。海外ブランドも横文字の「SHISEIDO」で通し、クリエイティブ本部の社員が日本から出向して、現地のクリエイターといっしょになって海外広告の制作をやっています。そういった意味でも、コーポレート・ブランドを維持することが、さらに重要になってきています。

新たな資生堂の出発

 資生堂もブランドに関しては試行錯誤を繰り返してきました。斜め文字の資生堂のロゴは化粧品だけに限定して、それ以外のものは普通のロゴタイプの資生堂にしてみたり、子会社も増えたりと、いろいろなことをやっているうちに、いつの間にか資生堂のイメージが大変希薄になってきていました。そういう反省があって、この春からまた「We are SHISEIDO」というスローガンの下に、子会社も含めてもう一度みんながまとまっていこうと新たなスタートを切ったところです。化粧品、医薬品、トイレタリー、美容食品、ビューティーサロンなど資生堂の持てる力を「SHISEIDO」という旗の下に大同団結して、その代わりきびしいマーケティング上の自己規制を課しながら、資生堂の名に恥じないようにやっていこうということです。それを総称した言葉が「We are SHISEIDO」です。
 それに先だって、花椿のマークや「東京銀座資生堂」のナレーションも復活させています。一時使わなかった時期もありましたが、こういう厳しい時代になってきて、130年の間、お客様から支持されてきた財産がいかに大きいものか改めて実感しています。
 実はブランド戦略を再構築するのに、1年半かかっています。それだけブランドを見直すのは大変な作業ですし、むずかしいことです。
 世の中では、ブランド価値を時価総額に換算したり、そのランキングが発表されたりしていますが、会社の価値を決めるのは、お客様だと思っています。国内、海外を問わず店頭で1本、1本買ってくださるお客様が資生堂という会社の価値を決めている。商品の価値を認めてもらい買っていただいているから資生堂は存在しているわけです。企業は、社会によって生かされていると考えるべきで、ストックマーケットから見れば、株価の時価総額やROE(自己資本利益率)は大事なことですが、その前提はやはりお客様の支持です。

資生堂は、この春から、資生堂の持てる力を大同団結する新ブランド戦略を「We are SHISEIDO」というスローガンの下にスタートさせた。上の2点は、そのための社内ポスター。

「売れた」だけではない議論を

 いろいろな会社の不祥事が起こっていますが、その多くの原因は企業の価値観と社会の価値観のズレ、ギャップです。企業は、社会やお客様に対して誠実で謙虚でなければならないということです。そして、お客様に学んだものを商品という形にしてお返しをする。それを媒介するのがメディアです。
 どんなにすばらしい商品であっても、世の中に広告しないもの、コミュニケーションしないものは、実は存在しないのと同じです。コミュニケーションによってその商品の価値をお客様にわかっていただくことが、ブランドを世の中に存在させる。だから、どんなにインターネットが発達して、高度情報化社会になっても活字がなくなることは絶対ない。企業や商品の価値を理解してもらうためのメディアは必ず残ると考えています。
 ただ、あらゆるメディアに複合的に皆さんが触れることによってコミュニケーションが成立する世の中になってきたため、具体的なメディアの使い方に関しては試行錯誤がしばらく続くとみています。
 そこで大事になるのは、企業とお客様とのコミュニケーションはいまどうなっているか、どうあるべきかという上位の概念です。そこから入らないと、どんなメディアの利用の仕方がいいのか見えてこない。このテレビコマーシャルで売れた、売れない、この雑誌広告は効いた、効かないということをやっていると、本当に不毛の論議になってしまいます。そういう上位の概念が論議されていないから、広告会社も企業に対して、これからの時代に対するきちんとしたプレゼンテーションができないでいるのです。
 広告会社の問題について挙げれば、1業種1社制でないことやマージンが高いことなど構造的な問題がいくつかあります。資生堂も売り上げの25%は海外マーケットであり、コミュニケーションについても現地の広告会社ともコラボレーションを始めています。日本国内だけで広告の在り方や広告会社の在り方を論じるのは限界に来ています。日本も世界の中の一つのマーケットであるという認識で考えていかないといけない時期に来ています。

広告の意義と効果を信じて

 広告が効かないという話をよく聞きます。資生堂は、その意義と効果があると思うから広告を出し続けています。広告の効果について一つ言えることは、商品ブランドの広告も、コーポレート・ブランドがきちんと確立されていないと効果が薄いということです。ですから、コーポレート・ブランド「資生堂」に対する信頼を常に高める広告やコミュニケーションを間断なくやり続けている。それがベースになって商品ブランドの広告が効くようになるのです。
 バブルがはじけてから、日本の経済全体が自信をなくしています。当然、企業も迷っている。その迷いが広告のクリエイターにもマイナスの影響を与えたことは間違いありません。クリエイターも一生懸命やっているけれど、売れない。しかし、未来永劫いまのような状況が続くことはないはずです。いま大事なことは、クリエイターだけではなくて、マーケターも、企業も、世の中とお客様に対して謙虚に誠実に相対し、もう一度自分の力を信じて、自信を取り戻すことだと思います。



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