特集 2003.2/vol.5-No.11

特集 2003年の新聞広告を展望する

 2003年、新聞広告はどのような展開を見せるのか。多メディア時代の中で新聞広告でなければできないこととは何か。2002年に話題になった新聞広告を振り返りながら、コピーライターの眞木準氏と法政大学経営学部教授の田中洋氏に、新しい年の新聞広告を展望してもらった。
 
 眞木 コピーライターにとって正月広告は大きな楽しみです。元日と3日から松の内にかけて、続々と正月広告といわれるジャンルの広告が新聞に掲載される。1年でもっとも華やかな新聞広告の幕開けです。田中先生もアドマン時代はワクワクされた記憶があると思いますが。

 田中 その通りです。

 眞木 その正月広告を見ながら昨年の新聞広告を思い返してみたのですが、やはりデフレだと思いますね。情報デフレが去年の広告を覆っていたトーンだった。それはメディアデフレと言い換えてもよくて、新聞広告に限らず、情報とメディアの価値がデフレーションを起こした1年だった。
 その大きな要因は、デジタル化ではないかと思いますね。携帯電話でメールをやりとりする親指族の若い人たちだけではなくて、中高年も含めてビジネスでもネットで情報を取る人が増えています。何年か前までは、量として影響を与えるものではなかったと思いますが、日常、ウェブのコンテンツのコピーをつくっていると、「ヒットだけで何十万ありました」「累積で100万を超えました」という声を聞くようになった。これはやはり、新聞を読んでいた、あるいはテレビを見ていた層が、そういう新しいメディアにも移り、メディアそのものの拡散が全体の情報デフレとメディアデフレを起こしている気がします。

Jun Maki
1948年愛知県生まれ。コピーライター。71年慶応義塾大学経済学部卒。博報堂入社。ソニー、全日空、キヤノン、サントリーなどの広告制作を担当。83年フリーランスとして独立。眞木準企画室主宰。作品に、全日空「でっかいどお。北海道」、三陽商会「踊れるバーバリー。」、サントリー「和イスキー。膳」など。
眞木準氏

 田中 日本経済がデフレに入って今年で五年。企業もデフレ対策に熱心に取り組んできた。丸四年間、われわれもマーケターも広告マンも、デフレの世の中に体を慣らしてきたと思うのです。それと今、眞木さんがおっしゃった情報デフレの両方がいっしょに起こっているのだと思いますね。

 眞木 両方でしょうね。経済的な意味のデフレと、日々接する情報の拡散と価値の低減というか、カジュアル化が2つの極になって動いている。

 田中 情報デフレの要因は、ネットによって情報があふれていることもありますが、メディアの選択肢が増えたこともあります。情報デフレは今回が必ずしも初めてではなくて、たとえばテレビが出てきたとき、ラジオはなくなると言われた。十数年前にファクスが出てきたときも、やはり新聞はなくなると言われた。インターネットが登場して他のメディアはすべて打撃を受けるとも言われました。しかしながら、新聞もラジオもいまだに健在です。その結果メディアの選択肢は増え、情報の供給量は増加して情報1単位あたりの価値はその度に下落してきた。だから、今回のような情報デフレは初めてではない。
 今は、経済と情報、2つのデフレが重なると何が起こるか、あるいはどうしなければいけないか、ちょっとずつ体をならしていっている時期で、新しいステップのとば口に入ってきたところではないかと思います。

Hiroshi Tanaka
1951年愛知県生まれ。法政大学経営学部教授。慶応義塾大学大学院商学研究科博士課程修了。電通マーケティング・ディレクターを経て、現職(消費者行動論・国際マーケティング論担当)。近著に「企業を高めるブランド戦略」(講談社現代新書)。

象徴的なワビの時代

 眞木 そういうデフレーション下の広告の1つの特徴に、情報を届けてすぐ効くことを期待する広告がありますが、去年の広告の大きな特徴になった「おわび広告」も即効性をねらった広告だと思います。
 おわび広告は、15秒、30秒というテレビコマーシャルの枠では物理的に不可能なんですね。必要な話を一読するだけでも2、3分かかります。おわび広告には、やはり、信頼性、詳報性のある新聞広告が使われる。これはあやまるわけですから、その場で理解して頂くことが必要になる。即効性が大事になる。
 昨年の広告の具体的な特徴の1つはカタカナで書く「ワビの時代」だったと思いますね。日本人の精神文化にはワビ・サビ、ものの哀れを感じる1000年にわたる伝統がありますけれども、人があやまることに接するときの日本人の心情というのは、去年のおわび広告によく特徴が出ていたと思います。欧米人は自分の主張をまずするために、あまりアポロジャイズをしないと聞きますが、日本人はすぐあやまる。これほどたくさんのワビ、おわび広告が出たこともこれまでなかったと思いますね。

 田中 そうですね。ただ、そのわびる方法がなかなかむずかしい。たとえばアメリカですと、手紙の書き方でもわびるときはこういう書き方をしなさいとある。最初に申し訳ない気持ちを出して、その後に理由を述べ、最後はちょっとポジティブなトーンで終わるとか、いくつかフォーマットがあります。日本にも、昔は火事見舞いの広告、火事を出して申し訳なかったという広告に赤枠広告というのがありました。そういうフォーマットが決まった広告は別として、新聞1ページになると、ここにどういうメッセージを入れるか、非常にむずかしいのではないかと思いますが。

 眞木 演歌の歌詞の法則というのがあります。心の悲しみや寂しさ、恨みを詩にする場合のまとめ方は、最初はだれもが共通して認識できる具体的な風景を出せと言われるんですね。たとえば、「かもめが1羽飛ぶ北の海」というふうに、まず、情景が思い描けるようなものを共通認識として出す。そして2行目には、自分の心情をシンボリックに出す。「たった一人で旅をする」みたいなことが来る。それが演歌の歌詞の一種のセオリーだと言われています。
 演歌は、日本人の気持ちを非常にうまく言い当てている。とくに不況の時代に演歌がはやるといいますが、日本のおわびの仕方も同じだと思います。かくかくしかじかの不祥事がありました。大変申し訳なく、遺憾に思っていますと、まず具体的な事実を述べ、頭を下げるということが、おわび広告の基本になっていると思いますね。
 去年1年のおわび広告を見ると、本当にたくさん出たのですが、雪印のおわび広告はパターンとしては新しい。みんな雪印はこの先どうなるんだろう、やっていけるんだろうかという気持ちを持っていたと思うのですが、広告に携わる、あるいは広告の表現をいつも考えている立場としては、そういう企業こそ立派に立ち直ってほしいと心から思いますね。
 日本の食文化を支える食品メーカーが不祥事の後どう立ち直っていくかというのは、こういうおわび広告での発言が大きくかかわってくると思うのです。それは、どう語るかということに加えて、いつ語るかというタイミング、どこで語るかという場所を選ぶ必要がある。
 いつ語るかということについては、やはり直後よりは、さまざまなつらい思いをかみしめた、事故、事件の核心が自分たちの心の中に染み渡ったことを感じた後というタイミングが必要になります。少しインターバルがあった方がいい。どこでというのは、先ほど言ったようにテレビコマーシャルではなくて新聞というメディアがふさわしいということなんでしょうね。

ストック効果が求められる新聞

 田中 おわび広告や他の新聞広告でもそうですが、今のような時代はその場で効く、言わば「弾丸効果」が非常に重視されています。しかし、広告の効果として、後で効いてくる効果も、この先考えなければいけないと思っています。

 眞木 想起効果ということですか。

 田中 そうです。眞木さんが10年前に伊勢丹で書いたコピーが、最近のテレビドラマのタイトルに使われましたね。あれはまさにある人の中にコピーが浮かび上がってきて、後でそれが行動に影響を与えたということだと思うのです。

 眞木 特に新聞広告はたった1日掲載されて、ほとんどその日の夕方までという情報としての命は大変短いものですが、接触した読者の思いが強いと、それは広告、あるいは言葉として心に残りますね。
 田中先生がいま言われた例は、90年代の初めに伊勢丹の15段新聞広告で書いた「恋を何年休んでいますか」というコピーです。10年たってTBSのトレンディードラマになった。それはプロデューサーがそのコピーを覚えていて復活したということなのですが、新聞広告の1つの側面として想起効果も確かにあります。これはイメージストックと言われるものだと思うのですが、イメージがストックされていって、それが企業の財産になっていく。新聞広告が果たすもう1つの大きな役割だと思いますね。

 田中 新聞広告はもともとその場で効くことが非常に期待されていました。本が出ました、明日デパートでバーゲンをやります、あるいは映画が封切りになります。これらは新聞がもともと得意としていたジャンルで、もちろん今もそうですが、見たらすぐ行動が期待される広告です。
 一方、テレビコマーシャルはもともとはその場ですぐ欲しくなるというものではなくて、見たということが頭に残っていて、店頭でその商品を見て、「そういえば、これコマーシャルでやっていたな」と思い出して買う。見た時点と効果が出る時点が離れているのがテレビコマーシャルのもともとの効果でした。それが今の時代は、新聞広告にもストック効果が求められるようになってきたということだと思います。
 最近、日経新聞のやった調査でも、広告主が広告に求めていることの上位3位まではコーポレートブランドや商標ブランドなどブランドという言葉が並んでいた。「売れる」は、四番目です。それが先ほど言ったデフレの時代の広告の特徴だと思うのです。広告でストック効果をねらうようになってきた。ただ、広告表現がうまくついていっているかどうかは、考えなければいけない問題ですが。

 眞木 ストック効果には広告表現のクオリティーが大変大きくかかわります。そのストック効果を出しやすい広告が、企業広告です。企業広告はあるビジョン、あるいは美意識を最高の表現で届けなければいけない。私はこれを「企業芸術」と呼んでいます。
 先ほど昨年の広告の特徴として「ワビの時代」だったと言いましたが、一種の典型的な企業広告としてこのおわび広告が存在している。おわび広告にもさまざまな工夫があって、多くはビジュアルがついていないメッセージ型の広告ですが、文章を何度も練り直したはずです。
 一昨年に起きた9.11同時テロの後にも、さまざまなメッセージ広告が出ました。テロに対する怒りや悲しみを表現した感動させられる広告が何本もありました。新聞広告の特徴であるメッセージ性をうまく活用していた。それは企業広告にも言えることだと思います。

 田中 そうですね。9.11は確かにメッセージ広告のパワーを改めて知らしめるような事件だったと思いますね。

 眞木 9.11はまた、これまでテレビにあると思われていた「速報性」が、実は新聞の方にあったことも気づかせてくれました。テレビコマーシャルは制作をするために時間がかかりますし、オンエアしているものをなかなか変えられない。新聞広告は、ただちにそれに対応したものが出せるという速報性を備えている。
 もう一つはストック広告をつくる場合に必要な詳報性、情報を詳しく伝えられるというのもやはり新聞の特徴の一つです。それが情報の質を上げていく強い武器になっている。


次のページへ→


もどる