特集 2002.11/vol.5-No.8

小売業の産業化 小売業の産業化 小売業の産業化

 世界最大の小売業ウォルマートが西友と提携したことで、小売業界の再編が話題になっている。ウォルマートは日本で成功するか、ウォルマートに日本の小売業は対抗できるのかが焦点だ。では、ウォルマートやカルフールなどグローバルリテーラーと日本の小売業の違いは何なのだろうか。今回の特集では、「産業化」という視点からそれを追った。

日本の小売業、もう一つの課題

 一昨年のカルフールに続いて、世界最大の小売業ウォルマートが今年3月、西友と事実上の買収となる資本提携を結び、日本進出の体制を整えた。グローバルプレーヤーの登場で明らかになってきたのは、日本の小売業の産業化の遅れであり、マーケティングと産業化が未整理のまま語られてきたことだ。メリルリンチ日本証券のアドバイザリー・アナリスト鈴木孝之氏に聞いた。
 
 ここ1、2年の小売業の変化は「グローバル化」と「産業化」、二つのキーワードに集約される。アメリカのウォルマートやフランスのカルフールに代表される小売業のグローバル化と、そのプレッシャーを受けた日本の小売業の流通構造の効率化、そして産業化が小売業の大きなテーマになってきている。

産業化が遅れた日本の小売業

 「産業化」とは耳慣れない言葉だが、現在の小売業の変化を理解する言葉として、私は意識して使っている。これまで日本の小売業には、生産から販売に至る流通経路全体やその間のコストに関心を持つという産業的視点が欠けていた。コンビニエンスストアやファストフードなど産業化の進んだ業態もあるが、ほとんどは産業化の進展で見れば初期の段階にある。
 CS(顧客満足)も、店頭における顧客への対応や便宜性の向上というマーケティングの視点に偏重して認識されてきた。しかし、顧客満足の本質は、良質な商品をリーズナブルな値段で提供する仕組みを構築した上で、これにマーケティング視点での顧客満足を高めるさまざまな手法を導入することではないのか。顧客満足は、小売業としての効率的なシステム構築の上に成り立つものだ。
 また、しばしば何が売れているとか、どこの店が話題になっているということが取りざたされるが、これもマーケティング的な関心に過ぎない。小売業の産業化とマーケティングを分けた議論が必要とされている。そして、この産業化の差こそ、グローバルプレーヤーと日本の小売業との差でもある。

グローバルプレーヤーの登場

カルフール幕張店 小売業は世界中どこへ行ってもローカルビジネスだという認識は、すでに過去形になりつつある。90年代の後半から、アメリカ、その後ヨーロッパで、それぞれの母国のマーケットを飛び出して、他の国の市場に進出して成長するグローバルプレーヤーが小売業の中にも出てきている。
 日本には1999年にアメリカの会員制卸売店・コストコが福岡県久山町に、2000年に世界第2位の小売業であるカルフールが千葉市幕張に1号店を出店している。特に、カルフールの幕張出店は外資上陸のエポックメーキングになった。
 世界的にみて小売業のグローバル化がいつ始まったかといえば、ウォルマートのヨーロッパ進出だろう。ウォルマートは、98年にドイツに、99年にはイギリスに進出している。それ以前にも、91年のメキシコを手始めに、南米、インドネシア、中国などにも進出しているが、それが小売業のグローバル化と認識されるようになったのはヨーロッパに進出してからだ。
 前者と後者の違いは何かといえば、後者は開発途上国で、ウォルマートに対抗できる小売業がその国になかったことだ。ところが、ウォルマートがヨーロッパへ進出したときに何が起きたかというと、進出に対抗する動きをヨーロッパ各国で誘発した。その背景には、当時、ヨーロッパにEUが誕生し、国境のない巨大市場が出現していたこともある。ウォルマートの進出していないフランスでも、カルフールがプロモデスという国内のライバル企業を買収して、規模拡大によってウォルマートの進出に備えた。

■2001年の世界小売業ベスト20

2001年の世界小売業ベスト20

*表はエクセルデータでご覧になれます。
■ウォルマートの海外進出
国名 店舗数
カナダ 196(買収)
メキシコ 555(買収)
プエルトリコ  17
アルゼンチン 11
ブラジル 22
中国 19(96年8月進出)
ドイツ 95(98年1月進出、買収)
韓国 9(98年7月進出、買収)
イギリス 251(99年7月進出、買収)
計1175店舗

■グローバルチェーンの日本進出状況
2002年12月  独メトロ(会員制食品卸)、千葉市に1号店を出店予定
2002年 3月 米ウォルマート・ストアーズ、西友の事実上の買収を発表
2000年12月 仏カルフール、千葉市幕張地区に1号店出店
1999年 4月 米コストコ(会員制卸売店)、福岡県久山町に1号店出店


企業間電子市場結成の背景にも

総合量販店の売上高(単体)の比較  世界第2位のカルフールの3倍強、イギリス最大のスーパーマーケットであるテスコの6倍強の売上高のウォルマートとのコスト競争力の差は歴然としている。欧米の世界的な小売業といえども、ウォルマートと単独で競争するのは極めて厳しい。こうしたことから、インターネットを使った企業間電子市場結成の動きが一気に活発化した。
 GNX(グローバル・ネット・エクスチェンジ)がアメリカのシアーズ・ローバックやクローガー、イギリスのセインズベリー、フランスのカルフール、ドイツのメトロなど7社で2000年3月に、その1か月後にWWRE(ワールド・ワイド・リテール・エクスチェンジ)が設立された。WWREは、ウォルマートとGNX参加企業を除く残りの主要企業のほとんどが参加する世界最大規模の電子市場だ。これには、日本のイオンと西武百貨店も参加している。
 もちろん、ウォルマートが一方的にヨーロッパに進出したのではなく、それ以前からヨーロッパの大手何社かはアメリカへ進出している。オランダのスーパーマーケット最大手のアホールドは、すでに1980年代にアメリカに出店している。
 ただ、最近のグローバルプレーヤーとの大きな違いは、その規模の大きさだ。世界最大の小売業であるウォルマートの年間総売り上げは2002年1月の決算で27兆2000億円を超え、それまで世界一の座にいたエクソン・モービルを抜き、企業としても世界一の規模を誇っている。それに対して、日本の小売業の売り上げは、イオンで約1兆7000億円、イトーヨーカ堂でも1兆5000億円に過ぎない(単体売上高、今年2月期)。
 それだけではなく、日本の小売業と比較すると、経営効率が極めて高いこともグローバルプレーヤーの特徴だ。損益計算書で見ると、その違いがはっきりするが、販売管理費率が低く、その結果として営業利益率が高い。そういうグローバルプレーヤーと日本の小売業の違いを突き詰めていくと、それが産業化の進化の違いだということがわかる。

■ウォルマートの全容 (単位:百万ドル、1ドル=125円)
決算期 98/1 99/1 00/1 01/1 02/1
売上高(百万ドル) 117,958 137,634 165,013 191,329 217,800
(27兆2250億円)
(%) +12.5 +16.7 +19.9 +15.9 +13.8
純利益(百万ドル) 3,527 4,430 5,377 6,295 6,671
(8339億円)
(%) +15.5 +25.6 +21.4 +17.1 +6.0
既存店売上(%) +6.1 +8.9 +7.7 +5.6 +5.7
売上総利益率(%) 20.8 21.1 21.4 21.4 21.2
販売管理費率(%) 16.4 16.2 16.3 16.5 16.6
営業利益率(%) 4.4 4.8 5.1 4.9 4.6
純利益率(%) 3.0 3.6 3.5 3.3 3.1


商品調達とオペレーションの差

 ウォルマートやカルフールなどのグローバルプレーヤーは、まず、メーカーとの直接取引を基本にしている。中間の流通業者を通して商品を買わない。日本ではまだ、問屋を経由して商品を仕入れるか、実際にはメーカーから納品されていても、帳簿上は問屋を通した形になっているのが一般的だ。それが、日本の小売業の収益性の足を引っ張っている。実際の商品の調達コストにも大きな違いがある。例えば、商品によっては、イトーヨーカ堂や、ジャスコを擁するイオングループが仕入れている商品の半分の値段でウォルマートが仕入れているという実態がある。
 また、オペレーションのノウハウも、欧米のグローバルプレーヤーと比べて日本の小売業は劣っている。オペレーションには物流も入るが、ここにも大きな違いがある。
 たとえば、アメリカのスーパーマーケットでは、商品の輸送にはトレーラーが使われる。これはウォルマートのような巨大なディスカウントストアに限ったことではなく、アルバートソンズという非常にレベルの高い専業スーパーでもそうだ。トレーラーは、運転席部分とトレーラー部分が分離できるので、運転手はすぐ別のトレーラーを連結して帰る。店内では、非常に少ない人数で大量に入った商品を夜間、店が閉まってからフォークリフトなどを使って補充する。
 ところが、日本では、搬入はまだ小さな台車でやっている。同じ10の作業をアメリカのスーパーでは3人でこなしているのに、日本では12人でやっているぐらいの差がある。道路幅や店舗のスペースといった違いもあるが、日本の小売業は、オペレーションシステムのレベルがまだ非常に低い。
 産業化の差をわかりやすく言えばこういうことで、商品調達とオペレーション、二つの部分で非常に差がついている。欧米の小売業、中でもグローバルプレーヤーといわれるところは、それが非常に進んでいる。
 また、モノを売るためにグローバルプレーヤーがイニシアチブをとってシステムを効率のいいものにつくり替えていった結果、流通構造全体の変化をうながし、日本と比べ相対的に産業化が進んだということでもある。


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