特集 2002.5/vol.5-No.2

進化するカラー広告 入稿から刷り上がりまで

 新聞はニュース媒体である。読売新聞一社だけで全国26工場、90セットの高速輪転機が、毎日1020万部の新聞を印刷し、各家庭に届けている。以前に比べ、紙面はカラフルになった。
 その新聞のカラーには2種類ある。一つはニュースカラーであり、記事内容を補完し、読者にわかりやすく、親しみやすくニュースを伝える役割を担っている。もう一つはカラー広告で、広告主企業の情報を読者に届けると同時に、紙面に華やかな明るさを添えている。新聞社では、広告主の意図通りの色を忠実に再現し、広告主の要望にこたえるべくインキや新聞用紙などの原材料の見直し、印刷技術、品質管理などの改善を行ってきた。新聞のカラー印刷技術は、カラー広告によって向上してきたと言っていい。
 広告のデジタル送稿(EDI)で、新聞広告の印刷工程も大きく変わった。広告会社から新聞社に入稿された版下データは、どのようなチェックと処理を経て新聞に掲載されるのか。新聞社のEDIを見すえたカラー広告への取り組みとその仕組みを、実際の工程に沿って紹介していく。(監修・五十嵐孝制作局専門委員)
 


制作局のスタッフ 右から棚田印刷部次長、滝沢専門委員、山本技術一部員、菊地技術二部主任
 オンラインまたはMOで入稿される広告の版下データは、データのチェック、システム登録作業を経た後、広告デジタル版下システムに送られる。そこでまず行われるのが、多値データから二値データへの変換だ。多値データとは、写真のように連続した階調をもつデータのことで、Illustratorなどのレイアウトソフトを使ったデジタル版下も多値データだ。
 対する二値データとは、カラー印刷用に、シアン(C=藍版)、マゼンタ(M=紅版)、イエロー(Y=黄版)、ブラック(K=墨版)の四つの版を作るために、それぞれの色の濃度に沿った大小の網点に変換されたものをいう。
 二値データに変換されたデータは、カラープリンターで出力し、プルーフ(校正刷り)確認が行われる。これは、色の確認、文字などの抜けがないかをチェックする作業だ。
 このプルーフ確認で問題がなければ、ホストへ送信し、フィルム出力が行われる。カラー広告の場合は通常、入稿時に広告主から刷り見本(色校正)を添付してもらっているが、デジタル入稿の場合は、新聞社が出力したプルーフで広告主に了解が得られれば、それを刷り見本として使う方向に移行しつつあり、これによって広告主の経費負担が大幅に軽減されるようになった。
 プルーフ確認には広告会社の担当者が立ち会うこともあり、その結果を見て、データを持ち帰り、元の版下データを修整することもある。従来のフィルム入稿の場合、色校正は新聞用紙とは違う上質紙に刷られ、広告主との確認はそれで行われていた。このやり方では、新聞用紙と紙の色が違うため誤解を招くことも多かった。
 こうした誤解を避けるため確認用のプルーフは、新聞用紙に似せた色の紙を用意して、さらに、実際に紙面に掲載された時に近くなるようにデータを調整して出力している。広告会社から持ち込まれる版下データには、一般の商業印刷を前提とした高解像度のものもある。新聞と一般の商業印刷では用紙特性も違えば、印刷スピード、使用されるインキやその乾燥方法も異なる。新聞社が用意したプルーフなら、実際に新聞に印刷した場合にどのように発色するのかを確認することができる。
 最近は、デジタル入稿に限らずフィルムや紙焼きで新聞社に入稿する広告も、制作はパソコン上で行われている。商品カタログなど商業印刷用にスキャニングされた高解像度の画像データをそのまま新聞広告に流用するケースもあるが、情報量が多すぎて必ずしも新聞の印刷にふさわしいデータではない場合が多い。新聞の印刷特性にマッチした形で作れば、より品質のいい印刷が可能になる。

読売新聞社広告データの流れ 読売新聞社広告データの流れ
読売新聞社広告データの流れ 読売新聞社広告データの流れ



パブリッシュ・アジア賞
カラー印刷技術で読売新聞社が金賞を受賞

 メディアの印刷業団体であるイフラ・アジア(総局・シンガポール)が主催する2002年の「パブリッシュ・アジア賞」の印刷部門で読売新聞社が金賞を獲得した。
 イフラ(Ifra)は、1961年に発足した国際新聞カラー協会を1967年に現在の世界新聞協会が統合して設立された。新聞社、機械メーカーなど2000社が参加しており、本部はドイツに置かれている。
 読売新聞が参加したのは、発行部数20万部以上のカラー印刷の品質を競う部門で、アジア各国からの作品の中で、最も品質が高いと評価された。
  印刷品質コンテストは、通常の新聞の中に1ページ、テストチャートを印刷して応募するもので、これをイフラ本部で評価し、受賞社が決定された。評価のチェックポイントはCMYK4色の濃度のバラツキやドットゲイン、グレーバランス(藍、赤、黄の3色で刷った灰色)の再現性など7項目で、ISOの国際スタンダードに準じた測定で行われた。
 プルーフ確認が済んだ後は、印刷のためのフィルム出力を各工場に設置されたフィルムプロッタで行う。と同時に、確認済みの二値データは工場用のカラープルーフにも送られ、印刷時の印刷見本として利用する。ここでは端末ごとの誤差をテストチャートで調整する。各工場には新聞見開き2ページ(2連版)を出力できるA1ワイドはじめ、複数台のフィルムプロッタが設置されており、網点をいかに忠実に出すかに最大限の注意が払われている。
 読売新聞の広告は1インチ当たりおよそ、カラーが85線、モノクロが65線のスクリーン線数(密度)で出力される。つまり、1インチの幅にカラーで約85個、モノクロで約65個の網点が並んでいる。また、フィルムの出力解像度(単位はlpi=line per inch)は681lpiである。フィルムの1インチの幅を681本の細線で書き出していることになる。将来はもっと高線密度で出力する予定で、部分的には既に始めている。同じ、スクリーン線数でも出力解像度を細かくすれば、網点1個を作るドットが細かくなり、非常に高精細で再現性が良くなる。フィルムの出力解像度を上げると当然処理時間がかかるが、これにはハードの性能アップで対応する。
 新聞の網点が大きいのは、印刷特性によるものだ。一般には網点が細かい方が印刷の再現性はよくなる。商業印刷では150線、175線というスクリーン線数が使われている。しかし、ニュース媒体である新聞は高速印刷でインキの粘度が低いという制約がある。そのため、新聞印刷は網点が太るドットゲインの回避がむずかしく、網点を無理に細かくすると暗部がつぶれてしまうおそれがある。さまざまにテストを繰り返し、約カラー85線、モノクロ65線という判断に達した。
 フィルムプロッタは一工場に2台から3台備えている。フィルムも写真と同じように現像して定着するウエット方式と現像液や薬品を使わないドライ方式がある。ドライ方式は始まったばかりで、現在は9割以上がウエット方式だが、これもここ1、2年で最新式のドライ方式に変えていく。これは、廃液などの環境問題に対する配慮からだ。



 プロッタから出力されたフィルムを使って、印刷するための版、刷版が作られる。この版はアルミ製で、厚さは1ミリの3分の1ほど。カラー広告の場合は、これが四版作られ、高速輪転機にかける。
 オフセット印刷では、刷版から直接印刷するわけではなく、いったんブランケットと呼ばれる胴に画像を転写させ、そこから紙に印刷される。
 印刷に使う用紙は、新聞見開きを横に2枚並べた4ページ分の幅があり、それをいっぺんに刷っていく。高速輪転機の紙のスピードは1分間で500から600メートル、また、一般の商業印刷の場合、カラーの刷り順は、藍→紅→黄→墨の順が多いが、読売新聞は墨→藍→紅→黄の刷順を基本としている。
 大手町の読売新聞社地下にも工場があるが、ここでは120万部刷っている。朝刊の場合、12版、13版、14版と順次印刷していくが、その中で最も部数の多い13版でも印刷時間はわずか100分程度だ。
 読売新聞の印刷工場は今年3月に完成した横浜の鶴見工場を含め、現在26か所ある。高速輪転機は全国の工場を合わせて90セットが稼働しており、輪転機1セットにつき4人前後のチームで作業する。
 新聞広告の印刷は、刷り見本をもとに試刷りが何度か行われる。前述のように、刷り見本は広告主から添付されたものもあれば、プルーフ出力を元にする場合もある。それだけに、刷り見本の品質が刷り上がりを左右する。広告の刷り見本と試刷りのゲラを見比べ、測色計などの機械で測定し、それを何回か試行錯誤しながら、その差をなくしていくのが基本だ。
 印刷には、例えば3色が混ざっているものでも、その中の何色を強調すればいいのかという感覚が問われる。新聞用紙もメーカーによって青み系のものと赤み系のものがある。それに合わせて、微妙な色調整が行われる。
 また、記事下にカラー広告が入る場合は、広告に色を合わせるのを原則としている。

●新聞に合った色分解のポイント

 制作局に新聞と商業印刷の色分解の違いとそのポイントを聞いた。新聞の色分解をするときは、まず色が濁らないようにすることが大切だ。たとえば、人物は、普通の商業印刷ではかなりシアン(藍)が入っている。新聞の場合は、色が濁らないよう少し取った方がいい。ただ、人物を立体的に見せるのは藍の役割だから、取りすぎてもよくない。また、植物の葉っぱは、黄色と藍を多くし、逆にマゼンタ(紅)を少なくする。女性の髪は、茶系統に持っていく。緑系統ではあまり見た目がよくない。また、色分解の一つの大きなファクターがUCR(下色除去)だ。普通に黒い部分を分解すると藍、紅、黄、墨が全部100%近くになってしまう。そうすると紙面が汚れてしまって刷れない。黒い部分は240%から260%ぐらいになるように下色をとってある。



輪転機の刷りの違いの評価は、工場内や休憩室でも日常的に行われる
 工場内では、刷り出したカラー広告の紙面を見比べて、各輪転機ごとの色の比較を行う紙面評価を行っている。自分が担当する輪転機だけを見ていると違いがわからなくなるからだ。また、休憩室にも刷り上がった紙面を張り出し、刷り出しの違いを比較・検討し、品質の向上に努めている。
 こうした日常的な品質管理に加え、全国規模の紙面評価も年四回ほど行っている。全国掲載のカラー広告を選び、刷り見本との色の再現性を比較評価している。
 この春にも六点を選び、工場間の紙面評価を行った。評価は印刷を担当する180数人で行った。この中で、作った製版会社が新聞印刷の特性をよく理解して分解された見本だと最も評価が高かったのが、松下電器産業の広告だ。
 紙面評価は工場間や印刷スタッフの技術向上を目的としたものだが、逆に、新聞印刷の特性に合った広告原稿の作り方を評価することにもなる。
 これは、フィルム入稿だったが、工場間の色の再現の差が非常に少なかった。試刷りも通常の半分ぐらいで収まった。新聞の輪転機の場合、色の中間調の網点が25%から30%太る。このため、中間調から暗部にかけてなるべく明るく画像処理する必要がある。このドットゲインが起こらないように考慮して通常の商業印刷より薄めに画像が処理してあるなど、松下電器産業の広告紙面は新聞の印刷特性を考慮した上で製版されていたと評価している。この画像処理で商業印刷に出すと立体感が出ず、さらっとし過ぎた感じになる。逆に、商業印刷に適した製版処理をした原稿を新聞で印刷した場合は、暗い感じになる。
 こうした紙面評価は、事前に各工場に通知せず、抜き打ち的に行うこともある。
 また、カラー面が増えたことに伴い、紙面全体の色使いに規則性、統一性を出すため、編集局のデザイン課では記事部分に「基本色」を設定した。この基本色は、紙面の視覚的印象を強め、ビジュアル価値を高めることを意図している。これも、どのようなカラー広告が載っても紙面のクオリティーを落とさないための配慮だ。
 デジタル送稿が本格化する中で、カラーマネジメントの重要性が言われている。その基本的な考え方は、すべてを最終印刷物に合わせるということだ。その基準が、この秋にも制定される新聞用ジャパンカラーだ。カラー原稿の色をどの新聞でも同じように再現するためには、インキ、印刷用紙、色特性の標準化が不可欠になるが、新聞用ジャパンカラーは、それを数値で表す。紙面の品質管理も数値管理に向かっていくが、最終的には工場の熟練した担当者の目が新聞紙面のクオリティーを支えている。



新聞用インキの特性
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