特集 2002.2/vol.4-No.11

パラダイムの変化を読む
デジタル政策標準化制作モデル共同発表のねらい
 
佐藤恵氏、安原勇次郎氏――電通と博報堂共同でモデル案を公表された理由は?
 安原 デジタル送稿が本稼働に入っていくためには、どうしても広告主の理解もないと先へ進めないところへ来ています。そのためには、デジタル送稿のインセンティブとしてスピードだけでは弱いですし、原稿の質も目に見えて良くなるわけではない。コストの違いをはっきりさせる必要があったということです。

――デジタル制作になると制作費が安くなると理解してよいのでしょうか。
 安原 現状では一概には言えない面があります。ただ、コストがどのくらい違ってくるかをはっきりさせるには、その基礎となる作業工程と費目を明らかにする必要があります。
 佐藤 現在のデジタル送稿の状況は、高速道路のETCと似ていると思いますね。すべての車がETCを備えれば料金所も車がスムーズに流れて経済効果も上がる。しかし、ETCを着けていない車があると思うように流れない。オンライン送稿もあれば、MOや従来のフィルムもある。まだ、デジタルとアナログ両方の送稿原稿をダブルスタンバイしなければならない状況です。デジタル送稿が普及して、ある程度のボリュームにならないとなかなか経済効果が出てこない過渡期だと思います。

制作工程はどう変わったか

――今回のモデル案は、「デジタル作業工程の標準化」「各工程の名称の定義付け」「料金費目の統一」からなっていますが、従来と変わった点を説明してもらえますか。
 安原 作業工程の名称や費目名は、ある程度いままでの作業と機能を連想させるものにしました。
 まず川上のブレインワークの部分である「企画制作」、次がロゴマーク、イラスト、デジタル画像などの「素材制作」ですが、この辺は基本的には手をつけていません。企画はデジタル作業とは言えませんし、素材は原稿の数だけ種類があり、プロセスも違います。
 この中では「企画制作」のDTP、カンプ出力はデジタル化が進んでいるところですが、プレゼンなどのカンプは一案ですむ場合もあれば、何案も提出するケースもあり、今回は見直しを見送りました。
 佐藤 今までカンプは専門家に一点一点発注していたので金額や時間が見えたのですが、いまそれがほとんど画面上でできるようになった。レイアウトの変更も比較的簡単にできる。その料金をどう計算するかという問題もある。画像を簡単に取り込めるため、著作権の問題にも関係してくる。デジタル化とは直接関係のない話ですが、どういうカンプでクリエイティブの内容を伝達するかは、実は非常に大きな問題です。

――次が、「レイアウトデータ作成」ですね。
 安原 大きく変わったのは、ここから下の部分です。デジタル化が最も進んでいるのが従来の版下制作に当たる「レイアウトデータ作成」で、社内の雑誌送稿での版下は1、2%に減少しています。

――これまでは、版下と写真やイラストなどの素材を製版会社に持ち込み、フィルムや紙焼きを作成して媒体社に送るという工程でしたが、それが「製版データ作成」「送稿データ作成」「送稿」というプロセスになっていますね。
 安原 デジタル制作が始まった当初は誤解もあったのですが、「製版データ作成」は広告会社の制作部門やプロダクションでの生成はむずかしい。工程の細かいところ、たとえば、新聞特有のドットゲインの問題やUCRについて熟知していないと刷り上がりを想定できるデータができません。

校正をなくすことが最終ゴール

――「製版データ作成」には、従来のフィルム、平台校正刷りという工程が残ってますね。
 安原 新聞原稿では、データ入稿しても確認ゲラとして平台校正でなければできないというワークフローは当面残ります。

――原因はどの辺にあると。
 安原 従来の工程は非常に完成された工程です。その工程をなぜ変えるのか大きな理由が見つからないことがあると思いますね。新聞の場合は特に送稿が掲載間際ですから、リスクを避けるために従来型も合わせて作っておこうとなる。やはり、デジタル送稿のメリットを出すには平台校正をせず、プリンターで出力したものでの原稿チェックが原則だと思います。一つは慣れの問題でしょうが、もう一つはプリンターの性能の問題もある。プルーファを使えばかなり話は変わってくると思うのですが、いまはまだ非常に高価で頻繁に使うわけにはいかない。
 佐藤 実証実験の時期から五年以上経ちますが、いまだに解決されていないのが校正の問題ですね。何度も校正刷りを出して、最後に念校を出す。それと掲載されたものが同じでなければならないという認識がある限りは、デジタル送稿の普及はむずかしいと思います。特に色の感覚は個人差が大きい。新聞でも「ジャパンカラー」決定の動きがありますが、数値で合わせても違うと言われたらどうしようもない。
 安原 デジタル送稿の最終的なゴールは、校正の物流をなくすことです。

グラフィック広告のワークフロー
グラフィック広告のワークフロー
グラフィック広告のワークフロー
グラフィック広告のワークフロー

広告主にメリットが出せるか

――モデル案作成の今後の展開としては?
 安原 第二ステップとして、実際の見積書に出てくる細かい費目まで整備をしておきたいと考えています。また、他の広告会社が使うのもまったく自由というスタンスです。
 佐藤 制作工程も進化してくると思いますが、ベースの部分を整備したので、今後もそんなに大きくずれることはないと思っています。

――費目に対応した実際の料金設定はどうするのですか。
 安原 それは、各社それぞれの事情に応じて作られるでしょう。ただ、制作工程と費目の体系をしっかり作らないと作業の重複や欠落などの混乱を招くので、まず、それを統一した。その中で、各社が広告主にどんなメリットを提供できるかということです。
 ただ、コストの問題は、デジタル送稿全体のボリュームがかなり大きく関係してきますから、いますぐコストダウンにつながるとは言えませんし、それは、今後のデジタル送稿の普及次第になると思います。



三井物産戦略研究所
所長 寺島実郎氏→


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