特集 2002.2/vol.4-No.11

パラダイムの変化を読む
本格稼働が期待されるデジタル送稿

 オンライン送稿も含め、デジタル送稿が本格稼働期を迎えようとしている。送稿時間の短縮、制作過程のコストダウンなどのメリットが挙げられるデジタル送稿だが、そのためには従来の広告制作や送稿の体制も大きな変革を迫られている。広告主主導でデジタル送稿を開始したチューリッヒ保険会社、博報堂と共同でデジタル制作の標準化モデルを発表した電通の取り組みを紹介する。

新聞広告・雑誌広告の入稿すべてをデジタルに
 
 チューリッヒ保険会社では、新聞・雑誌の広告は対応する媒体社すべてにフルデジタルの送稿を行っている。
 同社がデジタル送稿を検討し始めたのは昨年初めのことだ。当初はMO(送稿用の記憶メディア)で入稿を始めたが、現在はオンライン送稿に移行しつつある。
 そのためのインフラとして協力会社を結ぶ「送稿管理システム」もすでにインターネット上で稼働している。
 また、広告内容やクリエイティブの頻繁な変更に対応するため「クリエイティブのライブラリー化」も行っている。

製版工程の効率化から

 チューリッヒが最初に取り組んだのは製版工程の見直しだった。「以前は広告会社に依頼していたのですが、製版フィルムをつくるのに1週間かかった。フィルムをつくる前後に我々のチェック、広告会社のチェックがある。製版の作業時間自体は1、2日だが、工程が増えるたびにチェックが増えてくる。まずこれを省きたかった」とダイレクト事業本部マーケティング部部長の吉田安之氏は語る。
 元々、チューリッヒは広告制作をプロダクションと直にやっていたが、フィルム作成の時間を短縮するため、その下に製版会社を入れ、ほとんど専属でそのラインを使う形にしていった。基本的にはフィルムの制作までチューリッヒの責任で行うという体制に変えた。
 昨年前半にはデジタル送稿を受け付ける媒体社が増えたことで、フィルムをやめてMOでの入稿に切り替えた。その結果、夏には従来の製版料の80%を削減でき、コスト削減の当面の目標をクリアした。

活用にはインフラ整備が重要

 「フィルムをなくしてコストを削減できれば、その分だけ媒体に投資できる。効率もよくなる。こういう経験を積んでいると、なぜオンラインで送れないのかということになる」(吉田氏)。こうした理由から、フィルムの作成工程の変更、MO入稿をすすめると同時に、本格的なオンラインのデジタル送稿を視野に入れた広告制作の効率化、インフラの整備にも力を入れた。
 MO入稿と同時に進められたのが「クリエイティブのライブラリー化」だ。
 自動車保険が自由化されてからチューリッヒも保険料率の変更を4、5回行っている。また、自動車保険は地域によって保険料率とサービス内容も違う。当然、広告に載せる例も違ってくる。こうした変更に対応するため、現在使っている広告をライブラリー化しておき、内容を同時に一新するようにした。
 クリエイティブの変更も同じだ。常にクリエイティブテストをやっていて、いい結果が出たものがあれば、すぐにすべてのライブラリーを差し換えている。
 また、デジタル送稿をよりスムーズに行うために導入されたのが、協力会社を結ぶ「送稿管理システム」だ。この1月にインターネット上にサイトを作り立ち上げた。各社の担当者はパスワードでサイトに入り、掲載原稿や入稿日、掲載料金などが決定次第、各自が権限のある項目に入力していく。
 送稿担当者はこれを確認して「決定」が出ていれば、チューリッヒに改めて確認することなく送稿ができる。「デジタル送稿をより活用するためには、それに対応するインフラをつくることが重要」と言う。

時短とコストダウンを目的に

 吉田氏がデジタル送稿導入で目指したのは、広告制作から入稿までの「時短とコストダウン」だ。
 自動車保険のダイレクト販売は広告のレスポンスが最も重視される。反応のいい地域の広告が見つかれば、すぐ他の地域にも同じ内容を反映させる。地域により保険料率も異なるため多くの版を作らなければならない。また、保険料率や特約は認可制なので、認可が出たら1日でも早い出稿が望まれる。吉田氏はデジタル送稿への切り替えを検討し始めたころから「デジタル送稿は我々の会社に向いている」と感じていた。
 「お客様へのクイックレスポンスは、商品の質を上げることと同じくらい意味がある。それに対して、広告はクイックレスポンスができていないという意識があった」
 広告主主導でデジタル送稿をすすめたのも、時短とコストダウンを効率的に進めたかったからだ。「全部を自社でやれば改善の余地も見つかるし、最短の方法も見つかる。同じような版の広告の掲載なら常に100%の注意を払わなくてもいいはずです。ところが、広告会社任せにすると、必要以上に手間がかかる場合が多い」
 思いきった体制づくりができたのは「チューリッヒは日本では広告の歴史がある会社ではなく、こうしなければいけないという古いしきたりもなかった」ことも一因だった。

デジタル送稿に期待するもの

 「だれでもデジタル送稿の利便性を知ればやりたくなる。ただ、我々の会社が幸運だったのは、自社でやって効率が上がるだけの規模があったということです」。そう吉田氏が話すように広告主主導のデジタル送稿は、すべての広告主にあてはまるわけではない。
 また、企業や商品、広告の目的によってもデジタル送稿に期待するものは違ってくる。
 「我々のようにクイックで、なおかつコストをできるだけ下げて高いレスポンスを得なければいけないところは、完成度は98%でもいいから速い方がいい。しかし、じっくり時間をかけて広告を制作し、出稿したい広告主もいる。それは広告主によって異なるし、媒体社はその両方の要望に答えることが大事だと思います」




三井物産戦略研究所
所長 寺島実郎氏→


デジタル政策標準化制作モデル共同発表のねらい
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