特集 2001.10/vol.4-No.7

ウェブがメディアになる日
ブランディングサイトとしてのWeb 大岩直人氏
 企業のウェブサイトはこれまで、企業情報や商品紹介、セールスプロモーション、通信販売に使われることが主だった。しかし最近、ブランディングの視点からウェブサイトを見直す動きが始まっている。電通インタラクティブ・コミュニケーション局の大岩直人氏に聞いた。
 
キッコーマンHP
キッコーマンの
海外向けブランディングサイト/
Soysauce Community
しょうゆは世界中で愛されているマルチパーパスな調味料であることを訴えるためのサイト。
――これまでの企業のウェブサイトの活用をどう見ていますか。
 われわれの部署は、インタラクティブ・コミュニケーションの新しいキャンペーンやブランディングとはどんなものかを考えるところなんですが、日本では残念ながら本格的にブランディングをしているサイトは非常に少ないですね。ブローシャー型と呼んでいますが、情報だけをそのまま流すタイプのサイトがまだ多い。マス広告の情報補完的な使い方が80%から90%を占めていると思います。

――インタラクティブ・コミュニケーションの新しいキャンペーンやブランディングというのは……。
 われわれが考えているのは、ウェブサイトをブランディングの起点として、逆にマスに広げるようなウェブの使い方です。日本ではまだ、これという成功事例はないと思いますが、いま一番成功して話題になっているのがBMWの北米サイト(※)です。米国はブロードバンドの時代になっていて、長尺モノの映像がインターネットでそのまま楽しめる。で、このサイト、見るとわかるのですが、インタラクティブでもなんでもない。ショートフィルムが見られるサイトです。有名人を使って制作費に18億円かけていますが、売り上げも32%上がったと言われています。

BMWの北米サイト http://www.bmwfilms.com/
人気の監督がBMWを主人公とした映像作品をアップしている。ジョン・フランケンハイマー、ウォン・カーワイ、ガイ・リッチーがこのサイトのために撮り下ろした短編映画をダウンロードできるようになっている。マドンナが出演していることでも話題になった。大きい画面で楽しむには70MBを超えるファイルをダウンロードする必要がある。

ブランディングサイトの登場

――マドンナも出ていましたね。制作に世界的な映画監督を起用してテレビCMというより短い映画に近い。
 BMWを買う人はエグゼクティブと若い人の二極に分かれていて、両方ともテレビをあまり見ていない。エグゼクティブの人は忙しいから家に帰って見る暇がないし、若い人はそういうベーシックなメディアは見ない。調査したところ、ディーラーに足を運んだ人の85%がウェブを見ていた。それで、今までの広告費の使い方の逆をやったらどうなるかというのが最初の発想だったといいます。
 BMWのサイトはまさにブランディングサイトで、ああいうのを見ると普通のコマーシャルで絶対できないことがやれると思いますね。そのくらいの自由度がないと、車のシズル感はなかなか出ないし、買いたい気持ち、エモーショナルな気分にならない。アメリカでは今後こうした傾向がもっと出てくると思います。
 日本でも技術的には既に可能ですが、家庭の常時接続の普及はこれからです。しかし、回線が遅くてイライラすることもなくなってきていますし、ブロードバンド環境はできつつある。そうなると、いわゆるマスのやり方とインターネットのやり方の区別がほとんどなくなってくる。テレビCMどころか、ショートフィルムがインターネットで見られる時代になってくると思います。

――今までマス広告でやっていたブランディングと同じことが、インターネットでもできるようになるということですか。
 ただ、伝わり方が今までとは違ってくるとは思いますね。BMWにはマドンナが出ていますが、日本では最初「マドンナのようなやつが出ている」と若い人の間で口コミで広がったわけです。まさかインターネットだけのためにウォン・カーワイやジョン・フランケンハイマーが作品をつくるわけがない。ミッキー・ロークやマドンナが出るわけがない。偽ものだよみたいな。それが実は本物だった。つくる側はそういう口コミのシナリオを構築している。口コミの力をちゃんと計算している。
 このサイトは公開されて3か月で400万人が見ています。ダウンロードして見るのですが、一人平均16分間見ている。ダウンロードしたものを「おまえ知ってるか、これ」といって配る。すそ野はたぶん3倍ぐらい、1200万人と言われています。
 しかも、映画のトレイラー(予告編)風にポスターもつくり、口コミとマスをうまく使って計算している。一番パーソナルなメディアであえてメジャーなやり方をしています。

広告主の意識にも変化が

三菱自動車HP
三菱自動車のコーポレートサイト/
Tokitoki.com
ニューヒストリーキャンペーンを実施する三菱自動車のサイト。車の話は一切ない。
――電通でもそうしたブランディングサイトを手がけている?
 ブランディングを意識してつくったサイトとしては、キッコーマンの海外向けサイト、三菱自動車のトキトキ・ドット・コム、家庭教師のトライ。それからユニークなところでは高台寺という禅寺のサイトがありますね。

――ブランディングサイトという考え方は、まだ一般化していないと思うのですが、提案するときに理解を得るのが難しい?
 例えば三菱自動車のサイトは、そこで楽しめる体験型、エクスペリエンス型を目指して1年前につくったサイトです。何の告知もしてないのに今では月間10万ページビューくらいのアクセスがある。はじめは自主提案したのですが、これを中心にしてこれまでの情報型のサイトをうまく包み込むようなものをつくれないかと、逆に広告主からオーダーが来るようになってきています。
 例えば、自動車会社のサイトにアクセスして、いきなり「私たちの車はこうでございます」と言われたら見に来た人はもういいやと思ってしまう。でも、すごく楽しい体験できた後に「こんな車があるよ」と言われると、見てみたい気になる。情報を伝える前後を変えるだけでも、企業イメージは変わってくる。

――日本の広告は情緒的と言われていますが、ウェブにもそれは出てくると思いますか。
 このところアメリカのクリエイティブの人たちと仕事することが多かったのですが、必ずアートディレクターにアーキテクトが入る。建築の知識がある人間がサイトのアートディレクターをやっています。意図的にそういうフォーメーションを組んでいると、大手のウェブクリエイティブプロダクションの社長が言っていました。
 ウェブサイトは単なる広告とは違う。使われなければ意味がないから、住み心地のいい家のような設計がないと、単にエモーショナルなだけではだめなんだという考え方です。ウェブサイトは、使えば使うほど味が出る家のようでなくてはいけない。
 そういうことをアメリカのサイトをつくる人たちは、大事に考えている。居住性とクリエイティブをどうやったら両立させられるかが彼らの課題になっている。
 アメリカはやはり合理主義の国で、そういう点で単にエモーショナルな面を重視する日本との違いがあるかもしれません。

本当のメディアミックスの時代

――最近の広告キャンペーンはどう変わってきていますか。やはり、マス広告中心に組み立てられている?
 予算はあるけど、今までのやり方ではおもしろくない。新しいキャンペーンにチャレンジをしたいという話が多くなっています。リアルなメディアとバーチャルなメディアを組み合わせた提案を期待するオリエンがよくある。極端な場合は、街のメディアとウェブだけで何かできないかという依頼があったりする。

――プレゼンテーションでも、キャンペーンには必ずウェブが組み込まれるようになった。
 今は、ウェブのプランをどんなキャンペーンでも必ず出しますね。また、メディアプランニング、クリエイティブ一体型でやらないとまずいという危機感も感じています。
 クリエイティブは表現だけを考えていればいいのではなく、そのクリエイティブを一番生かすメディアは何だろうと考えることが重要になってきています。従来だとプロモーション担当、メディア担当、クリエイティブ、それぞれが別々にやっていたことを一気通貫で世界観をつくる。そのぐらいでないと強いキャンペーンができなくなっていますね。どのメディアを使うかをクリエイティブが決める時代、メディアとクリエイティブがいっしょになる時代になっていると思います。

――BSやCSテレビのCMもインターネットに近い発想で考えられていると思うのですが。
 ただ、BS、CSは見る人が限られています。インターネットは、すでにかなりのマスになっている。今はパソコンでしか見られませんが、もうすぐハイビジョンシアターのような画面で見られるようになるかもしれない。そういう意味では、今からスタートするならインターネットが一番だと思いますね。  

――今後のマス広告の役割をどう考えていますか。マス広告の役割は限定されてくる?
 人間て結構怠け者ですよね。インタラクティブと言っても、最初は興味を持つけれど、めんどくさいやって思いません? それは、どんなに技術が進んでも変わらない気がします。家のカウチで受け身になりたい時と能動的になりたい時と、人間には両面がある。それをうまく組み合わせる時代になったのではないでしょうか。どちらか一方の時代になるのではないと思います。
 インターネットのような参加するタイプのコミュニケーションツールが使えるようになったということは、マスがなくなるとか、衰えるということではなくて、利用できるツールが広がり、企画の幅が広がったということだと思うのです。

――これからはワン・トゥ・ワンの時代で、マスはいらないという意見もあります。
 マーケターはこれからはレスポンス広告の時代とよく言います。でも、それはウソだと思いますね。世の中に1台しかない自分だけのスーパーカーを買っても、その車には、名前もないし、どんな車かだれも知らない。やはり、みんなが乗りたくても乗れないフェラーリを自分だけが乗ることが快感でしょう。だからレスポンス広告だけになったら、人はモノを買いたくなくなるんじゃないでしょうか。要するに、みんなといっしょでいたい自分と、みんなと違っていたい自分がいる。そのバランスを取るのが人間のエモーションだという気がする。
 コミュニケーションのためのツールの幅が広がったということで、それを本当にうまく使って消費者の心のぎりぎりのエモーショナルな部分を突く。そういう計算をするのがこれからの広告キャンペーンのような気がします。これからが、本当の意味でのメディアミックスの時代なのではないでしょうか。

メッセージをどう届けるか

トライグループHP
トライグループ(家庭教師のトライ)の
ブランディングサイト/
Willing To Try
http://www.willing-to-try.com/
これからの教育は既成概念を教える時代ではない。全世界に向けてこれからの教育とは何かを訴えるサイト。商品的な情報は一切ない。
――ある意味では、広告を届けることが難しくなってきたとも言える。
 今の若い人、いわゆるジェネレーションX世代以降の人たちは、広告で「私たちはこんな企業です」と言われても、「ウソだろう」と思うところがあります。それがどんなに美しい話でも、どんなにすてきな話でも、それを言われた瞬間、「ウソだろう」になる。リアルなふりをすればするほどウソっぽく感じてしまう。
 最初に遊び場があって、そこで自由にコミュニケーションしてくださいと言われた後に「私たちはこういう企業です」と言われるのと、何もなしに同じことを言われるのとでは印象が違うと思うのです。
 だから、マスは絶対なくならないと思うのですけど、最初にインターネットなどで自由なフィールドをつくった方が、メッセージは伝わりやすい。ワンウェイの広告は、ある意味ファシズムと同じです。その前に、「あんまり変なこと押しつけないし、この企業なかなかじゃん」となった後で、「私たちはこういう企業です」とマスで言うからメッセージが届く。

――それだけに、ウェブサイトのつくり方が問われる。
 顧客囲い込みとか言って、ウェブサイトでよく住所や電話番号を書かせるものがありますが、人はなんの魅力もないのに自分の住所や電話番号は明かさない。現実の世界で見ず知らずの人に同じことをしたら、それはストーカーですよね。何も言わないで、後ろから近づいて「お嬢さんあなたの携帯番号を教えてください」と言われたら、絶対ウソを言いますよね。でも、それがとってもすてきなラブレターのようだったら、本当のことを書こうかとなる。
 本音を聞き出したいのだったら、本当にレスポンスを得たいのだったら、まずはサイトを魅力的にしないと顧客は囲い込めないと思いますね。

――たぶん、多少なりともそれが成功しているのはマス広告でブランドが確立している有名企業だからということもある。
 それとは逆に、オーソドックスな大きな企業がいきなり若者にこびても信じてもらえない。でも、ウェブサイトなどでそういう場を提供しているという実績ができてくれば、「あそこは変わってきた」と思う。いきなり「あなたの味方です」とか言われても、「ウソだー」になる。同じですよね。
 最近ある企業に、ウェブで何かをインフォメーションするとか、スローガンを伝えるとか、全部やめませんか。とにかく、楽しめる共有の場ができましたというだけで、それ以上のこと言うのやめませんかと提案している。その後に、ちゃんとメッセージを言えば伝わり方が全然違うはずです。

パーソナルからマスへ

高台寺HP
高台寺のブランディングサイト/
Portable Zen
http://www.do-not-zzz.com/
京都にある秀吉とねねのお寺、高台寺のサイト。実際の高台寺の僧が出演している。
――少し前までは広告のクリエイターはウェブに関心を示さなかったと思うのですが、最近は少し変わってきた。
 今、入社5年目ぐらいの他の局のクリエイティブをインタラクティブ・クリエイティブ部に期間限定で兼務させています。彼らは、ぼくらよりもウェブの知識があるし、みんなウェブをやりたがっています。伝統的な徒弟制度でコピーを百本書くのは古いと思っている連中が多い。境界線はおそらく35歳ぐらいですね。それ以上になると「私たちシンプルで美しいものが大好きです」世代になる。ウェブのような雑然としたものにはあまり興味がない。それ以下の世代はストリート感覚で、いい意味でニッチでインディーズっぽいところがある。

――表現もウェブとマス広告では違いがある。
 今までのクリエイティブの人間が最初に教えられたのは、伝えたいことが10個あったら、どれだけ我慢して9つそぎ落として1個にして力強くするか。それが基本だと教えられたのですが、今はそうではないと思いますね。一つに決められると、いくら強い言葉でも「ウソだ」と思う気持ちがやはり出てくる。それで、最近ぼくらは、キービジュアルは決めてもコピーを一つに決めるのをやめましょうというような提案をしている。

――活字メディアの新聞としては困った方向に行っている?
 マスメディアは、今まで以上にもっと堂々とすればいいと思います。その前の地ならしをインターネットが引き受ける。強いメッセージを伝えられるのは、やはりマスです。ただ、今はその前にメッセージを受け入れやすくする下地をつくる必要がある。
 先ほどリアルとバーチャルと言いましたが、インターネットや口コミで情報を得た後、A君とB君が情報を共有するのは、やはりリアルなメディアだと思うのです。新聞もそうですが、ビルボードなど町のある場所でいっしょに見る共有型の広告が今後は増えていく気がします。
 マスに対して、ぼくらもそういう提案をした方がいいと思うし、その方が、逆に費用対効果も良くなると思うのです。



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