特集 2001.9/vol.4-No.6

選挙とメディア
 「小泉人気」に支えられ自民党が大勝した第19回参院選(7月29日投票)だったが、メディアの相乗効果で話題が豊富であったにもかかわらず投票率は56%と前回の参院選を下回る結果だった。その一方で、組織票が動かなくなり、選挙広告のメディア戦略も大きく変わったと言われている。そうしたメディアに有権者はどう接し、どう動いたのか。政治心理学が専門の明治学院大学教授・川上和久氏に聞いた。

川上和久氏
 
組織選挙から無党派層を視野に入れた選挙へ

 今回の参院選は、テレビのワイドショーやメールマガジンを含めてメディアの露出が非常に多い選挙だった。それは、選挙制度や有権者の意識が変わり、選挙に果たすメディアの役割が大きくなったことを如実に示す現象だった。
 選挙戦術から見た今回の参院選の最大の特徴は、自民党という一番大きな政権政党が無党派層の人たちにも支持を得て、そこにも間口を広げていったことだろう。自民党はこれまで、無党派層の人たちを相手にしてもあまり票にならないと、その取り込みには熱心ではなかった。組織選挙中心に地道に小さい組織にまで根を張っていくのが基本的な考え方で、広告にそれほど期待していなかった面があった。しかし、今回の選挙では小泉内閣への高い支持率を背景に、無党派に対しても積極的にメッセージを出して行った。もちろん、その裏には組織票が期待できなくなったことがある。自民党でも、各候補が支持団体から見込んでいた票の3分の2から半分程度しか得票できなかったといわれている。
 2000年の総選挙に引き続き、私は読売新聞社の参院選ネットモニター調査を監修した。調査は、公示前に2回、選挙期間中に2回、選挙後に1回の計5回実施している。メディアは有権者の政党好感度や投票行動にどのような影響を及ぼしたのか。調査結果を基に話を進めたい。


メディア戦略が選挙キャンペーンのカギを握る時代に

 自民党は、今回の選挙で小泉首相を前面に打ち出した。構造改革を争点に政党CMも圧倒的な好印象を残し、政治広告が選挙の重要な争点形成力を持ち始めたことを実感させた。
 選挙期間中のテレビ広告は、89年の参院選の時にも登場している。この時は、土井たか子党首を前面に出した社会党が、消費税に対する国民の怒りを代弁する「激サイティング社会党」のキャッチフレーズで話題になった。92年の参院選には日本新党が旗揚げし、「新党」のイメージを定着させるための政治広告の工夫が注目された。
 政治広告が目立ち始めたのは95年の参院選の時だ。自民党に代わる政権担当能力を持つ政党を目指して新進党が結成され、参院選では二大政党への転換を意識した選挙キャンペーンとして広告によるイメージ戦略が本格化した。旧新生党、旧日本新党、旧公明党、旧民社党などの国会議員が大同団結した新進党は保守から中道までを糾合した政党で、政策的に自民党に似通っていた。それだけに、その存在意義をアピールするため政治広告が注目された。
 その一方で、この間、選挙制度そのものの変更がいくつかなされた。
 細川内閣は新しい政治改革関連法案を94年に成立させ、衆議院選挙は小選挙区比例代表並立制となった。同時に選挙キャンペーンのあり方に大きな改変を迫るいくつかの制度変更が行われた。
 一つは、選挙運動の主体が候補者個人から政党が前面に出るような改変がなされたことだ。通常はがきの郵送枚数、ビラの郵送・新聞折り込み・会場等での配布枚数、ポスター枚数などは候補者個人は所定の枚数に制限されているが、候補者届け出政党はさらに小選挙区内の候補者数を乗じた一定枚数を上乗せできる。候補者届け出政党でなければハンデを負わされるような制度改革だった。
 政見放送ができる政党も、その規模に制限が付けられ、放送回数も候補者届け出数に応じて差が付けられた。
 また、政党に対しては政党助成法による公費助成も付けられ、政党が政治広告に予算を投入することが可能になった。自民党は今年142億5700万円、民主党も82億2800万円という多額の助成を受けている。
 もともと公職選挙法では政見放送を除きテレビを利用することはできないと規定していたが、「選挙運動が目的でない日常の政治活動としての政党広告(新聞広告、TVスポット)は、選挙期間中に関係なく政党の私費で自由に出稿できる」とし、選挙期間中であっても通常の政治活動の範囲であれば新聞広告やテレビCMの出稿も可能と自治省(現総務省)が判断した。これが、選挙期間中に政党広告が集中する誘因にもなった。
 こうして、政策の似通った二大政党の出現と制度的改変が相まって、メディア戦略が選挙キャンペーンのカギを握るようになった。

●政党別スポットCMの本数(前回参院選との比較)
1998年6月25日(木)〜 7月11日(土) 2001年7月12日(木)〜 7月28日(土)
本数
本数
自由民主党
15秒
375
自由民主党
15秒
374
30秒
69
30秒
-
民主党
15秒
196
民主党
15秒
384
30秒
-
30秒
-
自由党
15秒
224
自由党
15秒
445
30秒
-
30秒
-
公明党
15秒
247
公明党
15秒
648
30秒
-
30秒
-
社会民主党
15秒
20
社会民主党
15秒
30
30秒
-
30秒
-
新党さきがけ
15秒
25
日本共産党
15秒
117
30秒
31
30秒
-
保守党
15秒
128
30秒
-
自由連合
15秒
449
30秒
-
※関東エリアのスポットCMの本数

●政党別新聞広告出稿量(前回参院選との比較)
1998年6月・7月 2001年6月・7月
段数
段数
自由民主党
42.0
自由民主党
67.0
民主党
37.0
民主党
56.0
自由党
67.0
自由党
41.0
公明党
35.0
公明党
65.0
社会民主党
22.0
社会民主党
18.5
新党さきがけ
20.0
日本共産党
20.5
日本共産党
17.5
保守党
10.0
自由連合
20.0
自由連合
16.0
※新聞広告は選挙期間中に読売新聞東京本社版に掲載された段数



無党派層を動かした「改革」のメッセージ

 自民党の大勝は、従来は自民党には不利に動いた無党派の人たちが小泉改革に賛意を表したことによるところが大きい。初めて無党派に向けて出したメッセージとしては、100%の成功を収めたといえるだろう。
 選挙の古典的な調査にコロンビア大学のグループが行ったエリー郡の調査がある。1940年に行われた実証的な選挙研究の最初の調査で、ラジオ広告の効果も対象にした。その結果は共和党を支持していた人がマスメディアの力で民主党になることはほとんどないというものだった。ただ、その政党に好意を持っている人が広告に接することで態度が強化される補強効果が大きいことが認められた。自民党のこれまでの広告も自民党を支持する人をしっかり固めるメッセージの出し方をしていた。96年の衆院選、98年の参院選も広告では構造改革を前面に出さず、当時の橋本総裁が剣道着姿で「日本を変えていきましょう」とイメージ戦略に徹していた。
 それに比べ、今回の小泉首相の無党派層へのメッセージの出し方は非常に洗練されていた。「改革」という言葉は今の時代だれにとっても非常に響きがいい。経済状況も来るところまで来ていて、改革という言葉を受け入れやすい土壌があった。しかも、小泉首相は党内改革を実際に試みているし、郵政の民営化をずっと言い続けてきた人でもあり、現在の閉塞感を打破してくれるのではないかという期待があった。有権者も、自分たちの企業の状況や、そこから類推できる社会の状況を身をもって感じている。もちろん、無党派の人もそういうところに頼らざるを得なかったという背景も見逃すわけにはいかない。
 しかし、実際に選挙戦をやっていくにつれて、ネットモニター調査では内閣支持率や自民党への好感度は明らかに下がっていった。
 5回の調査の共通項目として、「今、最も好感を抱いている政党」を尋ねた。自民党は毎回首位だったが、第1回(公示前の調査)の39.4%から第4回(投票直前の調査)の36.3%へと徐々に下がった。特に、構造改革によって生活に打撃を受ける可能性を最もイメージしやすい30代、40代のネットモニターで、好感度の低下が著しかった。野党側が攻め手を持っていれば、あるいはここまでの自民党の大勝はなかったかもしれない。しかし、野党側、特に第1党の民主党は攻め手を欠いた状態で、比例代表では、直前1週間で、態度未決定層を取り込むどころか、逃がしてしまった票がかなりの比率にのぼった。
 投票率は前回の参院選を下回ったが、これは、テレビのワイドショーを見て小泉さん、田中真紀子さんステキという程度の無党派層が投票に行っていないためと思われる。そういう人が投票していれば自民党はさらに圧勝していたはずだ。テレビのワイドショーは投票行動には直接結びつかなかったということだ。やはり、実際に投票したのは、小泉首相の改革に対して賛同した無党派層の人たちで、しかもメッセージの中身がある程度わかっても離れなかった人たち。その部分の票の動きが従来の投票行動と比較してぶれたということだ。
 また、投票率が当初の予想を下回った原因には、調査方法もある。アメリカの世論調査では投票に行く人だけに聞いて、行かない人をカットしているので、割と現状を反映しているが、日本はランダムサンプリングの世論調査で行うため態度未定の人も含まれてしまうといった欠点がある。

政党好感度の推移 政党を温度で評価すると
「あなたが今、最も好感を抱いている政党を一つだけ選んでください」として、毎回政党の好感度を聞いた結果をグラフ化したもの。自民党は公示直前の第2回調査が好感度は最も高かったが、選挙戦に入ると徐々に下がっていった。 評価がプラスでもマイナスでもなければ50度として、政党の評価を0度から100度までの「温度」で表現してもらった。第1回と第5回調査を比較すると、自民党、民主党などは下がり、自由党、公明党は上昇している。


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