特集 2001.4/vol.4-No.1

広告クリエイターは時代をどうとらえているか 広告クリエイターは時代をどうとらえているか

 メディア環境、広告環境が大きく変わっている。同時に、コンビニを中心とした流通形態の変化や経済不況の中で、企業のモノの売り方も変わってきている。こうした現状を広告制作の第一線で活躍するクリエイターたちはどう読み解いているのか。モス・アドバタイジング代表の佐野寛氏が一倉宏、谷山雅計の両広告クリエイターに聞いた。
 
 佐野 先端的なIT技術、デジタル技術が注目され、その種のイベントを開催すれば必ず人が群がる。BSデジタル放送、CS放送、光ファイバー化でCATVも元気づきはじめている。パソコンを使ったインターネットはもちろん、次世代機種の登場で携帯電話も本格的なメディアになるといわれています。広告クリエイターとして、こうしたコミュニケーション環境の変化をどうとらえていますか。

 一倉 そういう方向に世の中が進んでいくのは確かだろうし、いまはみんなそこに関心を持っている。しかし、その関心もいまは2次曲線的にものすごいカーブを描いて上がっていますが、どこかで収束すると思いますね。いわゆるIT革命の実体を見てみると、これからという感じがぼくはしています。いますぐコミュニケーション環境が変わるというのは、ITに対する人々の期待が大きいことからくる幻想かも知れない。その期待がメディアの報道に反映されているだけで、どう変わるかは実体としては、まだ見えていないと思います。
 だから、メディアが取り上げるITの話題は、マスメディアに代わるコミュニケーション手段というよりも、そのことにいま夢中になっている人間の方に集中している。ほかにおもしろいもの、新しいものがないから、みんながそこに集中しているだけだと思います。

 佐野 IT革命が来るぞと騒いでいるのは実はメディアであり、経済界で、次のビジネスチャンスはITだといっている段階だと。

一倉 宏氏一倉 宏(いちくら ひろし)
1955年群馬県生まれ。コピーライター。サントリー宣伝部、仲畑広告制作所を経て、90年一倉広告制作所設立。主な作品に、NTTデータ「ホーキング博士編」ほか、松下電器産業「きれいなおねえさんはすきですか」、学生援護会サリダ「職業選択の自由」、サントリーモルツ「うまいんだな、これがっ」、ペプシコーラ「宇宙へ行こう!」など。
 一倉 ITですごいことができそうだ、なんでもできると言いながら、実は人間の望むすべてができるわけではないですよね。コミュニケーションは広がるし、できることは広がるかもしれないけれども、人間の欲望に比べたら本当に小さいことだという気がします。
 子供のころ、電化時代といわれていてテープレコーダーが登場した。まだカセット以前のオープンリールのでっかいやつで、それが欲しかった。その時のテープレコーダーの広告は、音楽録音ができる、英会話の練習ができる、家族のメッセージが残せると、いろいろなことができるようになると言って誘惑していました。
 その広告をぼくは親に吹聴したわけです。これがあれば英語ができるようになるとか、家族のメッセージを吹き込めるとか。結局、テープレコーダーはいまは音楽を録音するか、こういう取材で使うぐらいですよね。いろいろなことができると言われながら、メディアはそれぞれに応じた使い方に収束していく気がしています。ただ、ITに熱中している人間の姿そのものはすごくおもしろいと思いますが。

谷山雅計氏谷山雅計(たにやま まさかず)
1961年大阪府生まれ。コピーライター。博報堂を経て、97年谷山広告設立。コピーの枠にとらわれない自在なコピー作法で注目される。主な仕事は新潮文庫「Yonda?」、日本テレビ「日テレ営業中」「日テレ式」、キリンビバレッジ「チビレモン」「生茶」、としまえん、60社連合広告「ニッポンをほめよう」など。
 谷山 個人的にはウェブやiモードなど新しいメディアに興味を持っている方だと思いますが、広告という側面から見ると、いまのウェブは、“すごく便利なカタログ”としてしか機能していない。逆に言うと、そういう意味ではすごく機能していると思うのです。これまでのプレゼンでは、テレビCMで興味を引いて、詳しいことは新聞で確認させますと言っていたのですが、よく考えると、テレビCMと新聞の間に具体的なつながりはないわけです。でも、いまはテレビCMや新聞広告で気になったら、ウェブで実際に確認する人が増えてきた。広告で気を引いて確認させることが、実は初めて具体的につながった。そういう意味では、ものすごく便利な確認媒体にはなっている感じがします。
 ウェブは情報の奥深さを持っているとは思うのですが、世の中の風景にはならないところがある。世の中の風景になるというのは、例えば街を歩いていて、みんなが携帯を持っていたら携帯がはやっていると思うし、みんながルーズソックスだったら、それがはやっているとわかるということです。同じような効果がテレビやポスター、新聞にはあると思うのですが、ウェブにはない。そういう意味ではまったく閉ざされたメディアです。情報の奥深さは持っていても、個人のものであって、まわりに波及していくものではないという気がします。ウェブはまだ流行を起こすというところでは機能していない。世の中への波及という部分は、テレビ、ポスター、新聞といった従来のメディアによっている部分が大きいと思います。ただ、メディアとしては可能性があるものだと思うし、このままで終わるとも思っていません。

 一倉 メディアとして考えると、マスメディアの一番大きいライバルは口コミだと思いますね。ぼくらの仕事は、口コミの強力さに対して、いかに戦うかということでもある。口コミに負けてしまう広告はいっぱいある。「あの会社の商品はこうだ」「こっちの方がいいみたいだ」など、口コミで広がったことに広告が負けてしまうことが意外に多い。
 いまのウェブは、マスメディア、広告メディアというより口コミメディアです。言ってみれば、私的なおしゃべりみたいなものだと思う。だから、そこに広告をうまく載せていけるのか、利用できるのかということです。もしかすると、広告とは敵対するメディアかも知れないという感じもします。

メディアと欲望の多様化

佐野 寛氏佐野 寛(さの ひろし)
1935年東京都生まれ。東京芸術大学卒。元東京学芸大学教授。現在はデザイン制作会社モス・アドバタイジング代表。ペンネームの佐野山寛太でメディア社会研究家としても活躍。著書に「広告化文明」「人間縮小の原理」(洋泉社)「21世紀的生活」(三五館)「現代広告の読み方」(文春新書)など。
 佐野 メディアに起こっているもう一つの大きな変化に、多様化があります。テレビを見ている若い人は相当減っているのではないかと思いますし、雑誌に割く時間も減っている。最近は、電車の中でヘッドホンステレオを聴いていない若い人がけっこう多くなってきた。ついこの間まではヘッドホンステレオを聴きながらマンガを読んでいたのが、みんな携帯の画面を見ながらメールをやっている。BSデジタルはまだ普及していませんが、無料で見られる番組数は確実に増えたわけだし、CSもものすごい数の番組がある。
 われわれの絶対的な生活時間は変わりませんから、一つのメディアに対する平均的接触時間は確実に下がっている。その中で、年代によってあるメディアに集中したり、あるメディアは全然ダメだという分化がこれから始まってくるだろうと思っています。そういうことが、いままでの広告の有り様を変化させる圧力になってきていると思うのですが、どう思いますか。

 一倉 広告にとって一番影響が大きいと思うのは、限られた24時間の中でヘッドホンステレオを聴きながらマンガを読む時間がiモードになったり、映画に行く時間とゲームをする時間とが競合する状況ですね。例えば、ファッションビルの広告でもライバルはディズニーランドかも知れないし、家でゲームをやることかもしれない。だから、最近の広告表現は、そういう多様化した欲望をつかまえるにはどうしたらいいかという非常にむずかしい立場にいるということはありますね。

 谷山 ぼく自身もウェブを見はじめてから本を読む時間が減りました。明らかに1日1時間半ぐらいは見ている。ウェブは見だすと見てしまうものですから。当然テレビを見たり、新聞を読んだりという時間は減るわけで、そのときに、ぼくらの仕事としては、その減った接触時間のなかで目を引く強い広告表現をつくるというのは当然ある。
 その一方で、メディアへの接触が減っていったとしても唯一変わらないのは、商品との接触時間のような気がします。要するに、コンビニでモノを買う時間とか、オンライン上で商品に出会う時間は減るわけではない。それで、最近はますます商品開発から考えたいと思うようになっています。商品が強くないと、なかなかモノは売れなくなってきていると思いますね。

コンビニはメディアだ

 佐野 商品開発から考えたいというのは、モノの売り方が従来とは変わってきたからということですか。

 谷山 最近、商品開発からいっしょに参加するとか、売り方のシステムから考える仕事が非常に増えています。

 佐野 キリンビバレッジの生茶やチビレモンの商品開発にも谷山さんは参加していますね。

 谷山 生茶自体は得意先のアイデアですが、そういうことをやっていて思ったのは、コンビニがいまの日本社会ではある種の権力になっていることです。コンビニで売れている飲料は二十数パーセントで、四十数パーセントは自動販売機で売れている。しかし、自動販売機は元々の設置台数の差があるものですから、そこではなかなかシェアが変わらない。結局、変わるのはコンビニでの売り上げということになる。
 コンビニは売り場である以上にメディアです。コンビニに置いてあるということは、いま世の中ではこういうものがはやっているということです。それがわかるという意味でコンビニはメディアなのです。しかも、若者のコンビニ滞留時間はものすごく長い。どんなCMよりもコンビニのリーチイン(冷蔵棚)で何列並んでいるかが商品全体の売れ行きを左右するところがある。
 ところがコンビニでは、新商品でも売れなかったら2週間で商品を入れ替えてしまいます。いくらいい広告をやっても2週間では効かない。みんなが広告に接する前に勝負が決まってしまう。商品やネーミング、パッケージなどをパッと手を出したくなるようにつくらないと、勝負にならない。それで、特にコンビニ商品に関しては、積極的に一からいっしょにやらせてほしいと言っているのです。
 それと、メディアへの接触時間は減ったとしても、商品との接触時間は変わらないとしたら、商品の部分で勝負をつけておくという手はあるわけです。本来は“広告屋”なのですが、そこからやりたい気持ちがますます強くなってきていますね。

 一倉 ぼくはもともと酒類・飲料メーカーにいましたので、宣伝部の対応が明らかにコンビニ、要するにPOSデータが出るようになってから変わったのを体験しています。週販、日販で広告効果が定量化されて短いスパンで出るようになったことによって、明らかに広告は変わったと思います。
 やはり、POSデータには心ある宣伝部でもなかなか抗いがたいし、週販、日販をいかに上げるかに専念してしまう。だから、POSデータをとりまとめる流通、特にコンビニには勝てないというのが、消費財メーカーのどうしようもない現実だと思うのです。それで、ますます新発売した商品の棚をいかにとって、それをいかに持続するかということに広告目標が置かれている。
 それはそれで消費財メーカーとしてはしかたがないとは思いますね。もちろん、メーカーもブランド資産ということを考えていないわけではない。次から次へ、このボートからあのボートへ乗り移るようなことで本当にいいのかという中長期的なことも考えている。しかし、短期的な成果の方が自分たちの仕事としては、上からもいろいろ厳しくも言われるし、評価もされる。そこが多分メーカーの悩んでいるところではないかなと思いますね。

谷山氏


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