特集 2001.3/vol.3-No.12

デジタル時代の法律

 90年代に入ってから、情報技術やビジネス、そして生活も変化のスピードを増している。これに応じて法律も変化するようになったが、急速に進む技術を背景にした実務と法律とのギャップも生まれている。今回は、デジタル時代のビジネスが抱える問題を法律の視点から探る。

デジタル社会の法律の原則
Nawa Kotarou
1931年東京生まれ。東京大学理学部物理学科卒業。現在、関西大学総合情報学部教授。専攻は情報学。著書に「サイバースペースの著作権」(中公新書)「変わりゆく情報基盤」(関西大学出版)「ITユーザーの法律と倫理」(共編著、共立出版)など。


 インターネットの発展にともない、思いがけない問題が発生するようになった。情報通信技術が急速に進む中で、著作権や個人情報保護というようなこともクローズアップされている。デジタル社会の技術と法との間にどのような問題が起きているのか。関西大学総合情報学部教授の名和小太郎氏に聞いた。
 
――ネット社会を前提にした法律の見直しが進んでいます。
 時代の大きな流れは、制度のバリアを小さくし、マーケットはあらゆる規制を緩和する方向に動いています。世界貿易機関(WTO)(注1)でもサービス協定、知的所有権協定がまとめられ、世界的にも共通のルールでより自由にという方向に流れています。
 ところが、インターネットの世界は法律がなくてみんな困っている。法律をつくれと言っているわけです。世の中の流れとは逆になっています。
 商取引のルールがない、署名のルールがないなど、いろいろな話がでている。表現の自由、通信の秘密、知る権利、個人データ保護、著作権保護などに関する従来の法律を見直さなければならなくなってきましたし、実際に法改正が進んでいるものもあります。
 実世界の方はルールを外す話がメーンになっているのに、インターネットの世界だけはルールをつくる話がメーンになっている。この点を理解していないと、話がこんがらかってよくわからなくなると思うのです。

(注1)世界貿易機関[WTO]:1995年1月1日に誕生している。前身のGATT(関税と貿易に関する一般協定)の対象は鉱工業製品だけだったが、WTOはそれ以外の農業、サービス(金融、教育、医療、運輸、流通)など物とサービスがすべて入っている。GATTは関税だけを拘束していたが、WTOは国内の補助金や参入規制、国内規制なども対象となっている。WTOで決定された協定は国際法なので、国内法に優先する。実質的な影響は国内法の変更という形で出てくる。

法律のないところは契約で

――法律のない状況に、企業はどう対応しているのか。
 法律を超えて技術が進んでいるのは、そのとおりだと思います。しかし、企業は法律を超えて、気ままなことをやっているのではなくて、ユーザーと契約を交わしています。
 たとえば、コンピュータープログラムでは使用許諾契約が当たり前になっています。プログラムパッケージには、「お客様がこのパッケージを開封された場合には、本契約にご同意いただけたものとみなします」と記載する慣行が生まれている。こうした契約をマスマーケット契約と言いますが、封を切ったらこれを認めたことになることから一般には「シュリンクラップ契約」と呼ばれています。パソコンに購入時からインストールされているプログラムやオンラインで手に入れたプログラムも、最初にディスプレーに「この契約に同意しますか」と出てくる。同意しないと使えない仕組みになっています。

シュリンクラップ契約
 ソフトウエアを製造したメーカーや著作権者がパソコン用ソフトウエアをフロッピーディスクやCD-ROMなどの記録媒体を用いて有償配布する際に、記録媒体を包装し、その包装をユーザーが開封した場合には、メーカーがあらかじめ規定するソフトウエアの使用契約にユーザーが承諾したものとするとの記載がなされている場合がある。このような条項に基づいて成立するとされるソフトウエアの使用契約のことを「シュリンクラップ(shrinkwrap)契約」という。いわば「開封契約」とでもいうべき内容の契約。
 シュリンクラップ契約という名称は、法律に基づくものではなく俗称。アメリカで、ソフトウエアが記録されたフロッピーディスク等の記録媒体の包装の形状がshrinkwrap、薄いプラスチックフィルムにより包装された形状のものが多かったことから、シュリンクラップ契約という名称で呼ばれるようになり、それが日本にも直輸入された。包装の形状が薄いプラスチックフィルムにより包装されていなくても、開封契約条項の記載があれば、シュリンクラップ契約に該当する。 
 シュリンクラップ契約は、法律の規定に基づくものではなく、メーカーが任意に規定したものにすぎないので、使用契約が成立するとされる態様、使用契約の内容には様々なものがある。

――そうした契約が企業側に有利な契約になっているということはないですか?
 たとえば、インターネット・サービス・プロバイダー(以下プロバイダー)の利用規則を見ても事業者側に非常に有利な内容になっていて、エンドユーザーには厳しい内容になっているということはあると思います。それで、資本力や技術力で力の強い側が弱い側、ユーザーに向かって一方的な契約をして有効なのかという議論も確かに出ています。しかし、今はそういうことで一応の秩序をつくっているところがある。法律のいたらないところを契約で埋めているということです。
 法律は長い時間をかけて、いろいろな力関係の中で決まってきたことです。社会の安定した秩序を維持するのが法律の役割ですから、5年や10年では動かない。しかし、企業としては法律が遅れているからといって何もしないわけにはいかない。企業としてはなるべく自分の権利を主張し、損害を負わないような契約をつくっているのだろうと思います。しかし、法律が動いていないからといって、ビジネスが一方的に新しいルールをつくっていいのかということは別の問題として残ります。

――これまで法律を支えてきた枠組みも変わってきたと思うのですが。
 実は、法律の方にも問題があるのではないかと思っています。著作権を追い詰めていくと個人情報保護にひっかかるし、ネットワーク上のコンテンツの流通の問題を突き詰めていくと通信の秘密とかかわりが出てくる。法律も、垣根を超えた世界に広がっていく可能性があります。
 法律の世界は分業がきっちりしていて、たとえば憲法学者はあまり著作権に口を出さない。しかし、実務家はそれでは困るわけです。そういう法律の境目をこなしてくれるのが弁護士で、何でもやらなくてはいけない。著作権問題も、いちばん現場のことをよく知っているのは弁護士だと思います。

揺らぐ著作権

――音楽配信一つをとってもさまざまな問題が次々と起こっている。デジタル時代の著作権は、どう考えるべきだと思いますか。
 きわめて悲観的な言い方ですが、たぶん終息しないだろうと思います。
 たとえば、本も音楽CDも著作物ですが、これを相手に渡してしまえば自分の手元に残らなかったわけです。ところがネットワーク上のコンテンツは、相手に渡しても自分のパソコンにコピーが残ります。ですから、ネットワーク上のコンテンツの流通は、実はコピーをしていることになります。ところが、いままでの著作権法は相手に渡せば自分の手元に残らないという発想でできていますから、かなり無理が出てくる。

――著作権法が直面している問題は、ナプスターが最も象徴していると思うのですが。
 ナプスターは、言ってみればインターネットの上で情報を共有するしくみです。一般的には、ファイル交換ソフトといわれているもののひとつです。
 しかし、インターネットは、そもそもそういう風土でできてきたものです。匿名FTP(ファイル・トランスファー・プロトコル)も勝手にダウンロードできるしくみですし、WWW(ワールド・ワイド・ウェブ)も情報を共有するしくみです。メーリングリストも掲示板も、みんなで情報を共有しようというしくみです。インターネットには、そういう考えが脈々と流れています。ナプスターは、その延長上にあると思っています。
 ナプスターは、送信用のサーバーが必要でしたが、最近はサーバー無しでパソコン同士でファイル交換ができる「グヌーテラ」というソフトが出てきて、いままでの伝統的なビジネスが破たんしそうなほど大きな影響を与えています。

ナプスター
 「ナプスター」は1999年に当時19歳だったショーン・ファニング氏が開発したソフト。MP3という規格で圧縮した音楽ファイルをナプスター社のサーバーを介して個人同士が交換できる仕組みを提供する。学生などの間であっという間に広がり、すでに全世界で4000万人近くが利用しているとも言われる。音楽だけでなく、映像などあらゆる電子情報の複製を可能にする「グヌーテラ」といったファイル交換ソフトも広がっている。このソフトは送信用コンピューター(サーバー)を必要とせず、パソコン同士でファイル交換できる。そのため、著作権侵害の訴訟を起こす相手を確定するのが難しいと言われている。
 日本の場合、ユーザーが自分のデータファイルの中から他人がコピーしてもよいファイルを登録するとき、そこに権利放棄されていない第三者の著作物が入っていれば、著作権者の「送信可能化権」を侵害することになる。著作物のファイルをネットワーク上のだれでもダウンロードできる状態に置く際には、著作権者に許諾を得なければならない。ユーザーの多くが送信可能化権を侵害している事実を知りながら交換ツールを配布し続けるとしたら、配布者の行為も違法となる可能性が高い。
 ナプスター社と米レコード協会(RIAA)は係争中だが、2月12日に米サンフランシスコ連邦高等裁判所は、ナプスター社のサービスは著作権侵害に当たるとした一審判決を支持する判決を下した。ただ、サービスの即時停止を求めた地裁に対し、著作権の対象を厳密に規定するよう命じており、地裁の判断が下されるまでサービスは継続される。ナプスター社は上級審への異議申し立てを明らかにしている。

プロバイダー責任論

――そうした動きに歯止めはかけられない?
 今後、似たようなことはいくらでもおこると思いますね。つまり、エンドユーザー同士がネットワーク上でだれかが持っているコンテンツを交換するのは、著作権法上でいけば、プライベートユースで問題がないという説もある。また、仮に問題があったとしても、そういう個々人を訴えるよりは、著作権を侵害された方としてはプロバイダーを訴えたほうが訴えやすいし、お金もとりやすい。それでナプスター社が訴えられたということもあると思います。

――何か、理不尽な感じもしますね。
 プロバイダーは情報をやりとりするサービスを提供しているだけですから、責任はないという言い方もできると思います。一般論としては、出版、放送、電気通信の場合に、情報の仲介者がどういう責任を持つかという問題は昔から議論されています。したがって、プロバイダーは放送に相当するのか、あるいは通信事業者に相当するのか、出版事業者に相当するのかという議論もある。しかし、そんなことを議論するより、とりあえずプロバイダーを訴えてしまえということだと思うのです。
 アメリカで98年に制定された「デジタルミレニアム著作権法」は、こうした背景からつくられた法律です。これは、プロバイダーは、こういう手順を踏んでいれば免責になるというしくみです。「ノーティス・アンド・テークダウン」といって、著作権者からの通告があればプロバイダーはユーザーの違法掲載物を削除しなければならないというものです。その代わり、プロバイダーは損害賠償の対象になることを免れることができる。この法律では、削除されたユーザーが不服として抗議した場合、通告側が三週間以内にユーザーを提訴しなければ再掲載できると定めています。
 ところが、にもかかわらず問題がおきた。昨年5月にヘビーメタルの人気バンド「メタリカ」がナプスター社を訴え、ナプスターに登録し、メタリカの曲を「タダで」インターネット上に流しているファンの会員登録を削除するよう要求するという事件が起こりました。ナプスター社はこの要求に沿って該当する会員を登録から削除した。ところが、削除された3万人がメタリカに抗議した。つまり、3万人が裁判を受けて立つと言ってきたのです。今までの法律のしくみでは、大勢の人が1社を訴えるしくみ、集団訴訟はありますが、1人が大勢の人を訴えるしくみはまだできていない。結局、3万人を相手に訴訟を起こすのは不可能で、会員に復帰した。いままでの法律のしくみでは、どうしようもない状況も出てきています。

コピーからアクセス管理へ

――著作権を守りにくい環境になってきた?
 インターネットのユーザー数が多いことが、大きな原因だと思います。
 インターネットのホストの数は87年に1万を超えたと言われたのが、89年に10万、92年に100万、95年に1,000万、最近は1億を超えたと言われています。1億のエンドユーザーを持つメディアは今までありませんでした。新聞の読者数も、放送局の視聴者数も超えたメディアです。ですから、インターネットに対し、いままでのメディアをコントロールするしくみでいいのだろうかという気がしています。

――著作権を守るためには、どうしたらよいか。
 さまざまな意見がありますが、ほんとうに自分の知的創作物を守りたい人はデジタル化を拒否したらどうかという意見もある。つまり財というのは、希少価値があって取引されるわけですから、デジタル化を拒否するという考え方が一方にあるわけです。
 それから一方には、インターネットはそういうリスクが多いところと覚悟してビジネスをやるという現実的な考え方もある。つまり、自分の取引するコンテンツの価値に見合ったセキュリティーのコストをかけて、ネットに流せという考え方です。クラッカーなどのマニアにセキュリティーを破られたという話は大勢には影響なくて、ほんのちょっとでもカギがかかっていればほとんどの人はあきらめる。だから、そのぐらいのコストはかけてもいいのではないかという議論もある。
 また、1999年の著作権法改正で、音楽CDやDVD、市販のビデオソフトなどに組み込まれているコピーを防止するしくみ(コピーガード)を勝手に外したらいけないということになった。そのへんをきちんとしたら、かなり問題は解決すると思っています。ただし、コピー防止を技術だけで解決するのは不可能です。おもしろがって解く人は必ず出てきますから。

――「著作物のコピーを禁ず」だったのが、その前段階から禁止しようということですか。
 昔は著作物は「もの」として流通した。海賊版も「もの」としてあった。ものになってから、差し止め請求ができるという発想だったわけですね。いまは気がつかないうちに、著作物のコピーがネットワーク上にどんどん広がっています。それで、広がる前に抑えようということになってきたということです。サーバー上のコンテンツやデータベースにアクセスしてダウンロードするのを待っていたのでは、間に合わない。だから、サーバーにアップロードすることに権利者の許諾が必要だと法律が変わった。事後管理が事前管理になったわけです。
 同じような考えで、今まではコピー・プロテクトを外しただけではコピーしたことにはならなかったのが、それだけでコピーしたとみなすことになった。

――これまでのように複製ではなくて、アクセスに対して著作権料を徴収するという考え方が出てきたと聞いています。
 著作物には著作権管理番号がふられています。本で言えばISBN番号、雑誌はISSN番号、レコードにはISRC番号がある。著作物がネット上で流通した場合も、この番号でだれが使ったかわかるしくみにするのが将来のねらいです。この番号に権利者情報などの管理情報をくっつけて一回使ったら著作権料いくらという形で徴収していく。この情報を改ざんしたら著作権の侵害になるという法律ができた。
 管理情報を改ざんしただけではコピーしたことにはならないわけですが、いまは、コピーされる前にコピーを予防するしかけを技術のほうもつくっているし、法律もつくっている。ということは、アクセスをコントロールするということです。著作物にアクセスするかどうかのところでチェックするようになってきている。「コピーをする」ことを前提にした著作権の古典的な考え方は変わってきています。

著作権法 第30条(私的使用のための複製)
(1) 著作権の目的となっている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
一 公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器(複製の機能を有し、これに関する装置の全部又は主要な部分が自動化されている機器をいう。)を用いて複製する場合
二 技術的保護手段の回避(技術的保護手段に用いられている信号の除去又は改変(記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約による除去又は改変を除く。)を行うことにより、当該技術的保護手段によって防止される行為を可能とし、又は当該技術的保護手段によって抑止される行為の結果に障害を生じないようにすることをいう。第120条の2第一号及び第二号において同じ。)により可能となり、又はその結果に障害が生じないようになった複製を、その事実を知りながら行う場合

(2) 私的使用を目的として、デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器(放送の業務のための特別の性能その他の私的使用に通常供されない特別の性能を有するもの及び録音機能付きの電話機その他の本来の機能に付属する機能として録音又は録画の機能を有するものを除く。)であって政令で定めるものにより、当該機器によるデジタル方式の録音又は録画の用に供される記録媒体であって政令で定めるものに録音又は録画を行う者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。

データベースはコピーを禁ず

――データベースにも著作権が適用されている?
 データベースには著作物であるものとないものがあります。しかし、コピーは禁止したい。
 たとえば、人名別電話帳のデータベースは編集に創意がないので著作物とは認められていませんでした。ところが、編集に創意がなくてもお金がかかっているから保護したいという話が10年くらい前に出てきた。そのときには著作権法で保護できないデータベースは、不正競争防止法で守るという案ができた。
 ところが、著作権法は文化庁の所管で、不正競争防止法は通産省の所管だから、通産省では「著作権」という言葉の入る法律は書けないということになった。ほんとうにジョークみたいな議論でつぶれたことがある。
しかし、数年前にまた同じ法律ができた(不正競争防止法二条一項四〜八号、三条、四条、五条)。今度は著作権法の対象になるならないにかかわらず、データベースはコピーしてはいけないことになった。「著作権」という言葉は使われていないので不正競争防止法に規定することができました。まるで、コロンブスの卵のような話ですが、ヨーロッパが1996年に「EUデータベース保護指令」というしくみをつくったので、それに対応してつくらないとまずいという背景があったからです。

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