特集 2000.11/vol.3-No.8

広告効果を測る

 広告のグローバルスタンダード化という流れの中で、メディアプランニングが注目されるようになった。オプティマイザーに象徴されるメディアプランニングは、各国の消費環境や媒体事情を無視した到達効率一辺倒の動きのように見えた。しかし、メディアプランニングに対する考え方に変化が表れ始めている。その兆しを外資系メディアプランニング会社へのインタビューから探る。

メディアプランニングに何が求められているか
 メディアのバイイングは日本の広告会社に任せ、自らはメディアプランニングのスペシャリストに特化する。日本の広告取引環境の中で外資系のプランニング会社は新たな方向を見いだし、サービスを提供し始めた。彼らが考えているメディアプランニングとは何か。WPPグループのマインドシェア・ジャパン、マネージングディレクター平井真司氏に聞く。
 
平井真司氏

――メディアプランニングに求められているものは何でしょうか。
 広告だけで物が売れるほど世の中単純ではありませんし、短期的な売り上げに結びつくということなら、価格やプロモーションの方が有効なことはすでにわかっています。
 われわれが今めざしているのは、広告が売り上げに果たす役割を明らかにすることです。例えば、POSデータがすぐ見られるようなカテゴリーの商品なら、広告と売り上げとの関係から最適なメディアプランニングができます。
 これまで広告は、テレビCMならオンエアされたかどうかということも含めて、クリエイティブはどうだったか、アウェアネス(認知)はどうだったかということを別々に測ってきました。われわれがやろうとしているのは、それらを説明変数として売り上げとの関係から最適なメディアプランを考えていくことです。
 なぜなら、クライアントのニーズがそこにあるからです。売り上げに対する「アカウンタビリティー」が、最終的な目標という見方をしています。われわれの仕事は、そのためにどんなサービスを提供できるかというところにあります。

売り上げに影響するもの

――売り上げには広告クリエイティブの影響も大きい?
 売り上げに対する広告効果を見ていくと、出稿量だけでは絶対に説明しきれません。クリエイティブは非常に大きな売り上げ要因です。
 プランニングをするときに一つのモデルをつくっていくわけですが、それは二つの要素に分けられます。一つは広告表現そのものの効果、もう一つは広告量の効果です。
 クリエイティブが非常に良ければ少ない広告量でも売り上げに貢献しますし、クリエイティブの質が低ければいくら広告を打っても効かない。その二つをセットにして、広告効果モデルの中に入れ込んでいます。

――クリエイティブの評価はどうやっているのですか?
 クリエイティブ評価は、いろいろな調査会社が、いろいろな手法でやっています。われわれのクライアントは、評価のための基準を持っていて、制作するすべての広告にクリエイティブテストをかけているところもあります。そういうものを変数として、プランニングのモデルの中に組み込んでいます。
 クリエイティブのレベルや出稿量などと売り上げとの相関を見ていくと、どんなときに売り上げが伸びていたかが明らかになります。これと同じぐらいのレベルを持ったクリエイティブの広告なら、このぐらいの出稿量で済む。そういう想定ができるわけです。

――まったくの新商品の場合は、どうするのですか。
 確かに、まったく新しい、カテゴリー自体もない商品の予測は、ちょっと難しいと思います。しかし、一般的には今までとまったく違う商品というものは、あまりない。過去に実際あったブランドを導入期までさかのぼって見てみることで、予測はできる。基本的にはそういうケースがほとんどです。まったくの新商品の場合も、過去のあるケースから、一つのモデルづくりをして、それにあてはめていく。それがうまくフィットしなければ、実際のプランを実行した段階で修正していくというようなやり方をします。

平井氏2

課題は広告の長期的効果

――メディアプランニングは広告計画のどの段階からかかわるのですか。
 われわれのような外資系の広告会社ですと、意外とそのへんはスッキリしています。まず、マーケティングゴールはクライアントが設定する。クリエイティブは例えば同じWPPグループのJ・W・トンプソンが担当し、われわれはそのメディアプランニングを担当する。同じ時期にクライアントからブリーフィングがあり、一方はクリエイティブ制作に入り、われわれはクリエイティブプランを見ながらメディアプランニングに入っていく。一番重要なのは、広告のターゲットの定義をどうするかということですが、そのへんは共同作業で行っています。

――媒体選択はマーケティングゴールに合わせて行われる?
 最適なメディアを選んでいくことをルールにしていかないと、われわれの仕事は成り立たないわけですが、クリエイティブの方で初めからテレビCMをつくると決めているケースもあります。広告をずっとやってきた人間の経験則は、一概に間違いとは言えません。あらかじめ決まったメディアをどう効率よく使うかも、われわれの仕事です。

――メディアプランニングの成果は、何を基準にしているのですか。
 一番わかりやすいのは、同じ広告費で何%効果が上がるとか、逆に何%かをカットしても同じ広告効果が得られるという落としこみです。最終目標は、「売り上げ」ではなく「シェア」を使う場合もあります。
 ある商品の売り上げやシェアを100とした時に、広告の効果として説明できる部分が、極端にいえばその内の5%しかないものもあれば、50%ある商品もある。その理解がクライアントとの間でできないと、メディアプランニングは先には進みません。
 ただ、そこで注意しなくてはいけないのは、ここで説明されるものの多くは、あくまでも広告の短期的な売り上げに対する貢献です。
 当然、広告は短期的な売り上げだけを目標にしているわけではなくて、その商品がそのマーケットの中でブランド力を維持していくとか、商品をきちんと配荷してもらう、棚に並べてもらうなどいろいろな役割があるわけです。

――広告の短期的効果と長期的効果は、区別して考える必要がある?
 現段階のメディアプランニングは、短期的なセールスを目標にするという理解があって初めて成り立つ場合が多い。逆にいうと、長期的な広告は複合的な要素が入ってきますから、なかなかモデルになりにくい。そのへんは、われわれにとっても、一つの課題ですね。

――ここ10年、ブランド広告が強調されていながら、実際には売りにつながる広告が求められてきたと思うのですが。
 この経済状況で、ブランド広告を一時やめてしまった広告主もありますが、商品にフォーカスした広告で売り上げはそれなりに伸びてきました。しかし、「本当にこれでいいのか?」というところに、また戻ってきた気がします。
 現場のセールスの人たちから「以前の広告は良かった」と言われることが多くなったという声も聞かれます。そうした声は残念ながら数値化できない。  
 ブランド広告と商品広告の売り上げに対する貢献をわれわれも分析したことがありますが、やはり、商品広告の方が商品の短期的セールスへの貢献は大きいわけです。では、ブランド広告の役割をどう評価していくのか。ロングタームで効いている要因、単純なシェアや売り上げ以外の部分で効いている要因もあると思うのです。

――外資系のプランニング会社というと、グローバル展開のモデルがあって、ドラスティックにプランを立てるというイメージを持っていたのですが。
 それはないですね。あくまでも、消費者に対する効果を考えているのであって、その国によってメディア事情も、消費行動も違うわけです。やはり、おのおののマーケットの事情や売りの現場を考えざるを得ないですね。
 例えば、売りの現場は一番大事なところですが、日本では流通が強くなってきて、メーカーがどうにもできないという部分がある。また、夏に需要期を迎える商品が流通の関係で1、2月に1年間の出荷量が決まってしまう業種もある。それに合わせる形で広告の出稿も行われていることが多い。消費者行動とかけ離れたそういう慣習を客観的なデータを基に変えていくという面でも、メディアプランニングの意味はあると思います。

新聞にも必要な時系列データ

――プランニングに使われるメディアの指標はどんなものですか。
 いくつかのレベルがあると思います。例えば、新聞の場合、販売部数や読者構成は「新聞間」という横の関係の評価としては意味があると思います。面別接触率も、そうした要素です。
 それはそれで必要だと思うのですが、われわれの興味は、そこではなくて、マーケティング的な要素です。新聞広告が消費者に対して、どう働いたのか。そこでの評価が一番重要になってきます。
 そうなってくると、新聞の場合はなかなか難しい。というのは、ある程度時系列で評価できる基準がないと使えないからです。新聞に出稿するたびに販売部数が変動するわけではないので、それは変数にはならないわけです。
 例えば、テレビのGRPやリーチ、フリークエンシーは継続的にとれる。まったく同じような概念を新聞にあてはめる必要はないですが、時系列で変化するデータがあって、初めて新聞というものの効果をわれわれのモデルに変数として入れていけるようになってくると思います。

――プランニングに使う変数は、消費者がそのメディアにどう反応したかというデータが望ましい?
 広告量を何で測るかといったら、基本的にはリーチ、フリークエンシーという概念です。ただ、われわれがやっていることは、売り上げを最終的な目標に置いた時に、何回ぐらいのフリークエンシーが一番有効かというところまで見ている。レスポンスカーブと呼んでいますが、要するにフリークエンシーごとに売り上げに対する貢献度をウエート付けしていく。これは商品ごと、または同じ商品の場合でも、その置かれているライフステージなどによってもまったく違ったものになってきます。それぞれの商品が持つ売り上げに対する影響を100とした時、例えば1回のフリークエンシーで20%だったものが、2回で50%に上がって、3回で80%、4回で90%に上がる。
 あくまでも、何かの目的、それは広告の認知率でも、売り上げでも何でもいいのですが、それに対する貢献という視点から、リーチ、フリークエンシーを加工して使っています。

――ブランド広告のような場合はどうするのですか。
 ブランド広告の場合は、広告が伝えようとしているメッセージを、定期的に調査をかけていくという方法しかないと思います。消費者のブランドイメージのキーになるファクターを定期的に測るということです。そうすれば、ブランド広告が効いたか効かないかは、それなりに理解できます。
 ただ、売り上げという目標でいくのか、認知率という目標で行くのか、何らかの目標がない限りは評価はできない。先ほどから言っているように、ブランド広告の場合、短期的売り上げは絶対的な目標にはならないという別のレベルの問題があります。だから、評価が難しいということです。

――セールスを目的にした広告でも、広告効果をどこでとらえるかというのは、そんなに簡単ではないと思うのですが。
 今までは、例えば商品広告でも、あるカテゴリーで消費者の頭の中に残る2個か3個のブランドになればいいという「ブランド想起率」などを広告効果の評価としてきた。それは非常に広告会社的な発想ですよね。 広告が本当の意味で売りにどう結びつくかという話になると、やはり何らかの行動指標で見ていった方がいい。広告主の多くはそれに気付いていると思います。
 例えば、ダイレクト・レスポンスの広告は非常にやりやすい。新聞、テレビ、雑誌、全部に電話番号を入れてレスポンスを見ていけばわかる。広告キャンペーンを始めて、その商品のパンフレットがどのぐらいさばけていくか。その数字を見ていくというクライアントもいる。そういう見方が正しいと思うのです。
 クルマの場合も、直接売りにはつながりませんが、店頭まで来てもらえれば、あとはセールスマンの仕事になる。われわれも、クルマはそういう指標を使っています。「そこまで興味を持って来店という行動を起こしてくれた」ということを指標にしているわけです。

――実際の広告のレスポンスは、広告会社やメディアはわからないことが多い。
 われわれのクライアントはデータをお出しいただけるところがほとんどです。それがないと、われわれは何もできないですから。日本のクライアントの中には、そのへんを嫌がるところが多いのも確かですが、外資系の企業は必要ならどんどん出してくれます。

新聞の役割は「トリガー」

――新聞広告の役割をどう考えていますか。
 コミュニケーション戦略を考えていく時に重視しているのは、消費者がどういう過程で実際の購入まで至るかということです。
 われわれは、マーケットに網をかける最初の段階を「トリガー」、次が「サーチ」興味を持って調べる段階、次に「コンシダー」何か考える段階、その次が「チューズ」選んで、実際に「バイ」買う。そして、最後が「エクスペリエンス」経験する。そしてまた、「トリガー」に結びつく。一つのらせん状の過程をとっているのではないかというふうに考えています。そういう中で新聞が果たす役割を考えていくと、トリガーの部分が大きいと思います。
 商品によっては、いきなりトリガーからバイにいく商品も当然あるし、トリガー、サーチ、チューズと全過程をたどる商品もある。ただ、すべてのコミュニケーションにきっかけを作るトリガーは絶対必要です。多くの人たちに同時にコミュニケーションメッセージを伝えることの必要性は、セグメントされたメディアがどんなに増えようとなくならないと思います。また、特に日本の新聞は世界的に見てもその規模は間違いなく大きい。メッセージ伝達力はどこの国の新聞よりもあります。

――今後の新聞は、メディアとしてどうあるべきだと思いますか。
 全体のビジネスは、そのまま生かしておいて、新しいメディアでもシェアを獲得していくことは必要だと思います。「こういう若者には、こっちのメディアで」みたいなアイデアが必要になってくるのではないでしょうか。
 新聞を読まないと言われても、若い人でも新聞を読んでいる人の方が多い。そういう人に新しいチャンネルを用意しておけば、また違う展開ができるかもしれません。例えば、紙面を見てiモードで別のメディアに飛んでいって何かしてもらうという仕組みを作れば、データベースを構築することもできる。
 それを生かしているかということを別にすれば、新聞社は読者という本当にすごいパネルを持っています。リサーチ会社がどんなにがんばっても、1,000万のパネルを持つことは不可能です。調査会社と協力して、読者の購入レベルの調査まで含めたプロフィルを持つのは面白いと思います。われわれは、そういう本当の生データが欲しい。

――プランニングには、既存の消費者データでは不十分ということですか。
 リサーチ能力のすぐれた調査会社はあるわけですから、業界一丸となった努力が足りないということでしょうか。
 欧米だと業界がシンジケーションをつくって、お金を出し合って消費者調査を行うのが当たり前になっています。われわれも実は、独自の調査をやらざるを得なくなって、今回も総合的な調査を実施しました。
 しかし、メディアプランニング会社が自分で調査しないと独自性が出せないという状況は、おかしい。あくまでもデータがあって、それをどう加工して、どう理解していくかというのがわれわれの仕事だと思うのです。

――その独自調査というのは?
 「3D」と呼んでいます、要するに消費者の三つのディメンションという意味です。一つ目が商品の利用度とメディアの接触に関する調査、二つ目がWPPグループのブランド評価システム「ブランズ」、三つ目がマインドシェア独自の生活意識、社会意識のセグメンテーションを見るための調査。その三つをシングルソースでとった調査です。
 「ブランズ」はWPPグループが98年から始めた調査で、現在までに世界19か国で行っています。ブランドに関しての包括的な調査です。「3D」では、この調査で得られたブランドのターゲット・セグメンテーションが、媒体接触まで落とし込んで考えられる。そのへんは既存の調査ではできない。「3D」はイギリスに次いで日本が二番目の実施になります。

3D

平井氏3

細分化するメディア環境

――日本でも、新しいメディアが増えてきています。
 メディアの細分化で、これからいろいろな可能性が出てくると思っています。
 特に、オンライン系のメディアを生かしていくと、プロモーショナルな展開がかなり細かくできるようになってくる。すでに、インターネットのプロモーション的な活用は非常に成功していますし、可能性を感じます。
 コミュニケーションが複雑化してくる。そのためのメディアは何なのか。メディアプランニングの余地がますます増えてくると思います。

――マスメディアの役割は変わってくる?
 シンガポールでは、すでに各家庭に光ファイバーが引かれている。そういうインターネットやり放題というマーケットになってくると、データベースを構築してリレーションシップ・マーケティングを展開する方向にサービス業が特化してくる。実際、シンガポールの広告会社で働いていた知り合いの多くはそういう会社に移っています。
 マーケットの小さいシンガポールだからという面もあるかもしれませんが、日本でも近い将来、そうなっていくと思います。日本の方がマーケットは大きいのですが、iモードのように個々の人間が持ち歩ける端末が普及してくると、結構同じような状況が想定されてきます。
 ただ、人間はそういつも同じ傾向の情報を欲しているわけではなく、新しい情報を流すマスメディアの役割は、そこにあります。新しいメディア環境の中で既存のメディアをどう理解し、どう使うかということも大事になってきます。

目的がメディアを決める

――メディアミックスをどう考えていますか。
 メディアミックスは何を基準にして考えるかということが重要だと思います。例えば、リーチやフリークエンシーを基にしたメディアミックスの最適化は、数字だけの話ですから別に難しいことではありません。ただ、それはどういう意味があるのかということです。
 まずミックスの前に、おのおののメディアの意味を突き詰めて、その目的を明確にしていけば、おのずとどのメディアを使うべきかは決まってくるのではないのか。プランニングを実際にやる人間にとっては、そういうレベルの問題です。
 われわれのアプローチは、個別のクライアントの限定された商品に対するメディアプランニングです。だから、あるAという商品にしか当てはまらない、そういう分析をわれわれはずっとやってきているわけです。
 最近話題になっているオプティマイザー、ボタンを押せば最適なメディアプランができてしまうという最大公約数から出発したシステムは、われわれの目指すものではありません。

――メディアを選ぶ段階は、数字ではなく、目的と経験だと。
 広告はアイデアです。アイデアは、やはり人間の経験が一番です。正解はないわけです。いろいろな選択肢があって、その中で一番自分が良いと思うのが何かを決めていく作業です。クライアントの特定の商品に関してのプランニングの方が、やはり説得力があります。
 われわれのようなやり方は、手間がかかる。それなりの時間と準備を経た上で、アドバイスをさせていただいている。そこに、われわれのビジネスチャンスはあると思っています。

――実際の仕事はフィー制でやっているわけですか。
 エージェンシーコミッションは見た目は15%と非常に大きい。ただ一方では、クライアント側にそれですべてをサービスしてもらいたいという発想があるし、広告会社側はコストを切り詰めいかに利益を生むかに走る。
 われわれは、自分のサービスに対してキチッとそのお金をいただけるシステムにしていただきたいと考えています。それは、あいまいな部分を極力なくしていこうということです。フィーであるか、コミッションであるかという問題ではありません。

――メディアプランニングとは、どういう仕事ですか。
 人間がやる仕事です。まだまだデータも足りないし、本当の意味での科学的なアプローチは難しい。そうは言っても、人の行動にかかわることですから、どこまでいっても予測可能な部分と不可能な部分があり続けると思います。




広告主サイドに立ったプランニング
カラ・エスピーアイへ→
もどる