特集 2000.10/vol.3-No.7

広告主はメディアをどうとらえているか
キャンペーンの何が変わったか
 サントリーは日本の広告をリードしてきた企業だ。最近は、広告キャンペーンにも自社のホームページを積極的に活用している。その中心メンバーの一人が宣伝事業部媒体部の泉田氏だ。常に新しい広告にチャレンジしてきたサントリーのメディアに対する考え方を聞いた。
 
――マス広告とインターネットの役割を基本的にどう考えていますか。
 洋酒、ビール、清涼飲料水とサントリー製品のほとんどは、新聞、テレビ、雑誌に大量の広告を打っています。そういう製品をインターネットの中だけでキャンペーン告知をしても、あまり効率が良くない。それよりは、マスで広告した製品のより詳しい情報をネット上に持たせる。あるいは、モニター応募やアンケートなど、そこからいろいろなリアクションを取ることを重視しています。キャンペーンにはそのURLを新聞やポスターに必ず入れて、マス広告とホームページをなるべく統一して動かす使い方をしています。
 インターネットは発信メディアというよりは、発信した後の経路という形で利用する方がいい。企業のホームページは、マス広告の受け皿と考えています。バナー広告は、ただ浴びせかけるだけの使い方だと非常にコストが高いということがわかってきたこともあり、現在はほとんど使っていません。
 今は、インターネットの特色である双方向性を利用した応募などのリアクションの仕組みを強化することに力を入れていますが、その先に、物の販売やサービスの提供があると考えています。

●三度の進化を経て

――現在のような使い方になったのはいつごろからですか。
 サントリーのホームページは95年に始まっています。“黎明期”と勝手に呼んでいるのですが、そのころは企業広報的な使い方でした。担当部署も広報部だけで、ディレクトリーの考え方もまったくなくて、ただ内容を羅列しただけでした。
 それをカテゴリー分類して、主なキャンペーンとも連動させ部分的にプロモーション的な使い方を始めたのが、98年5月からです。「インターネット委員会」という任意組織を社内に作り、情報化推進部、お客様相談室、広報部、宣伝部を加えた四部署で課長クラスの有志が集まり運用については協力することにしました。
 第三期が現在のバージョンで、昨年の9月にリニューアルしたものです。広告・プロモーション活用から考え方をちょっと先へ進めて、利用者から見て面白いだけでなく、役に立つ部分を意識したデザインにしました。この段階では、役員会議でも力を入れてやろうということになり、専任スタッフを5人入れて、「インターネットタスクフォース」という組織を作った。各事業部にも専任がいて、グループ企業も参加するようになっています。

――運用には、さまざまなスタッフが必要になる?
 インターネットだけの人は、インターネットのことは詳しいが、それ以外のこと、例えば媒体との兼ね合いが非常に弱い。他のメディアとの連携や影響力、あるいはコストも考えられる人もメンバーには必要です。

サントリーHP ●サントリーのホームページ 
http://www.suntory.co.jp/
 95年にスタートしたホームページは、98年5月、99年9月とリニューアルを重ね、現在のバージョンに至っている。

●媒体力を持ち始めた自社サイト

――インターネットはマス広告の受け皿ということですが。
 新聞やテレビは媒体社との間に広告会社があり、広告出稿のルートがすでにできていますが、インターネットにはまだ決まった使い方がありません。安価に勝手に発信できる“広告メディア”的な使い方もできれば、インタラクティブな使い方もできるわけです。
 特に役に立っているのはインタラクティブな使い方、キャンペーンの応募と消費者調査です。キャンペーンが良かったか悪かったかも消費者からダイレクトに聞けるようになりました。

――マス広告と連動した事例としては?
 マス連動型の初期の例では、モルツの1万人モニター募集があります。応募は郵送でもインターネットでもいいということでやりました。インターネットでの応募者数は最初はそれほどでもなかったのですが、新聞に広告が掲載されると跳ね上がった。逆に言うと、バナー広告を出しても全然上がらないのです。モニター募集などのキャンペーンの場合、やはりマス広告と連動して、インターネットはその受けの体制として使うのがいいということが、そこではっきり分かりました。ですから、初めにも言いましたが、これ以降はバナー広告は余り使わなくなりました。バーターや相互リンクという形ではバナー広告を使っていますが、少なくとも広告出稿という考え方では出稿していません。

モルツ一万人モニター募集 モルツ広告紙面
1999年1月24日朝刊

――マス広告を使わないモニター募集も試している?
ミレニアムキャンペーンの認知経路
 昨年末、「ミレニアムクイズ」を各事業部横断でやりました。ビールや洋酒、パーティーセットが当たるクイズで、インターネットだけで実施したものです。
 応募時にアンケートも取りましたが、そこでいくつかわかったことがあります。まず、サントリーのホームページは自宅で見る人が多いこと。お酒のサイトなので、そういう見られ方をしているのかなと思います。また、認知経路は、懸賞サイトからが36%、サントリーのホームページにきて懸賞を知った人が33%といった割合です。

――サントリーのホームページに直接来る人が3分の1いるということですね。
 既にサントリーのトップページが、ある程度の媒体力を持つようになったということだと思います。バナーをはらなくても、キャンペーンで期待する数は来るような段階まで来ています。
 マグナムドライのバイオとアイボが当たるキャンペーンでは、全体で200万人の応募があり、その内インターネットでの応募が40万人ありました。
 最近の実感は、ある程度名前がマスで売れている製品は、何もしなくても人がホームページにダイレクトに来る。一つのキャンペーンで、大体10万人から40万人ぐらい人が集まることが分かってきた。ですから、今後はキャンペーン目標として反響数をもっと増やす必要があるときに、どんな媒体選択をしたらいいかという考えになってくると思います。100万人必要なら新聞で増やせとかですね。そういう面は、どうしてもネットの中の広告は弱いですから。

●月間ページビュー1,000万が目標

――今、ホームページにはどのくらいのアクセスがあるのですか。
 昨年まではアクセス数を増やすことを第一の目標にしていました。媒体力をつけようということで、コンテンツを充実させて、いろんなキャンペーンを常に仕掛けていった。その結果、月間のページビューは98年で67万ページビューだったものが、今は600万ページビューぐらいまで来ています。

――アクセス数が増えた理由はコンテンツの充実ですか?
 アクセス数が急増するのはキャンペーンですね。オープンキャンペーンの開始時にはかなりのアクセス数がある。しかし、キャンペーンが終了すると急激に落ちる。それで、キャンペーンがなくても楽しんでもらえるホームページにしなくてはいけないということで、次の目標が出てくるわけです。
 今のようなオープンキャンペーンで人を集めるやり方は、意外と無駄があると考えています。つまり、継続的にサントリー製品を買っていただいているお客さまに、航空会社のマイレージのように還元できる仕組みを作って、各製品のファンを増やしていこうということです。それが、来年からの課題です。今まで以上に大がかりにインターネットを活用したキャンペーンスタイルを作ろうと、その計画を練っているところです。
 これには別の意味もあって、クローズドキャンペーン、物を買って、商品に貼ってあるシールなどを添付する手法に代わるものが、インターネットではまだできない。しかし、購買証明を付けて送ってもらった方が、物が売れるという考えが企業にはある。オープンとクローズドの間を取るような企画があれば、もっといろいろな展開もできる。今、そういう手法を考えつつあるところです。

――企業のホームページとしては、ページビューはどのくらいあればいいとお考えですか。
 月間ページビュー1,000万が目標です。ページビューは多い方がいいとこれまでやってきたわけですが、もうそろそろ数を追いかけるのはよそうという話が担当者の間では出ています。
 確かに、媒体社のホームページはネームバリューがあるから、人は絶対に来る。問題は、そこから先だと思のです。よく、ヤフーのアクセス数はすごいと言われます。しかし、検索エンジンのトップページのバナーは、本当に見られているのか。要は、高速道路わきにベンダー(自動販売機)を置いて、商売をしているようなものではないのか。それよりも、パーキングエリアにベンダーがあったらジュースを買おうかなと思う。それと同じように、例えば女性の関心の高いコンテンツの横に、ワインのバナーがあったらクリックしてみようかなとなる。そういうマッチングも今後は見つけていきたいと思って、実験データを蓄積しているところです。

●応募リストは企業の財産

――ネット販売だけで売れた商品が話題になっています。
 世の中に名前が出ていない、宣伝していないものだったら、ネットの中でやるとそれなりの効果があるということだと思います。あるいは、パソコンやオーディオなどインターネットに近い商品です。しかし、ビールのおいしさは飲まなければ分からない。ホームページに来て、応募して、サンプルが届く。そこまで行かないとやはり売れない。そこが違う点だと思います。
マグナムドライ広告紙面
2000年6月10日朝刊
 マグナムドライの発売1周年記念キャンペーン広告。アイボとバイオが当たるキャンペーンには、200万人の応募があり、インターネットだけでも40万人あった。
――ビールの販促手段はサンプリングが中心になっている?
 キャンペーン手法として今はサンプリングが一番有効だということです。広告を見て飲みたくなった人に、試飲してもらう。今までは、ハガキを書くか、電話、FAXだった。面倒ですよね。それがインターネットだったら、会社の仕事の合間でも応募できる。手軽だから、40万人、50万人の応募があるのだと思います。
 また、昔は応募したハガキもFAXも廃棄された。それがインターネットになったことによって、メールアドレスなどの蓄積が容易になった。50万人が応募するキャンペーンを10回やれば、重複応募者を除いても100万人くらいになるわけで、そうするとお客さまへのご案内は非常に楽になります。

――そういうリストの活用も考えている?
 モルツに応募してきた人というレベルのデータで十分使えるので履歴までは取っていません。ただ、応募リストはすでに一元管理しています。今は、部門ごとの利用ですが、いずれは横断的な利用も考えられます。しかし、ワインのモニター応募者に無断でビールのおすすめをしていいかというパーミッションの問題など、そこまでいくには課題もあります。

●インターネットの広告費はゼロ

――キャンペーン全体の中で、インターネットの費用は何割くらいを占めていますか。
 マス媒体の費用との比較はむずかしいですね。インターネットの費用は広告費に入らないからです。バナー出稿なら広告費に入りますが、今はほとんどやっていない。キャンペーンでインターネットにかかる費用のほとんどは制作費です。インターネットのサーバーはある意味企業のインフラですから、キャンペーン費用という点からいえば、そこはタダなんです。後は、モニター募集なら当選者にサンプルを送る費用や事務局費だけです。それは販促費に入る。インターネットは、もともと宣伝部だけが使っているわけではなく、いろんな部署がかかわっている。だから、インターネットのキャンペーン費用という形では集約できないですね。一般的な意味での広告費ということなら、今のところインターネット広告費はほとんどゼロに近い。

――バナー広告はコスト的にもあわない?
 過去のモニター応募リストが20万人あったとして、メール配信費用が仮に一人当たり5円かかったとしても100万円です。今までの経験でメール配信の歩留まりを3割とすると6万人の反響が見込める。バナーのクリックスルーレートは100人に一人から0.5人ですから、6万人の反響を得るためには1,000万円から3,000万円の費用になる。メール配信の歩留まりの方が絶対割安だからバナーを使わないということになる。

●ホームページは面白くない?

――広告費という面から見たのでは、今のキャンペーンの変化は見えてこない?
 結局、インターネットだけではなく、いろいろな媒体も使ってどういうキャンペーンスタイルを作り上げるかという問題だと思うのです。モニター募集の仕組みも効率良くしていくし、お客様とも今までのように一方通行ではなくてインタラクティブにしていくことでサントリーに対するロイヤルティーを上げていけると思っています。
 そういうインターネットの活用が大分うまく回ってきている。企業にとっても非常に意味のある使い方になると思っています。しかしまだ、いろいろと課題は多い……。

――その課題というのは?
 ホームページの内容が、実際に役に立つレベルまで行っているのかという部分と、純粋に面白いかどうかですね。客観的に見るとテレビや雑誌、新聞の広告の方が面白い。この辺をどういう演出で面白く見せるか、既存のデザイナーだけではなくて、ゲームデザイナーも必要かもしれない。そういう人たちと組んでやっていかないと、多分、現状のレベルを出ないと思っています。
 宣伝に慣れている社内の人間は、ホームページは面白くないといいますね。お酒の店の紹介やクーポンがあったりと役には立つが、エンターテインメント性、絶対的な面白みでは他の媒体にまだまだ負けていると。

――サントリーのマス広告のレベルをホームページにも求められている?
 よく「シズル」という言葉を社内では使います。飲みたくなるかということです。テレビCMやグラフィックにはかなりのノウハウがある。テレビなら、汗をかいて、ビールをググッと飲み、「来たぁ」とか言えば、見ている人も飲みたくなるし、グラフィックでも、冷えて水滴の付いた缶ビールが出ていたら飲みたいと思う。それが、ホームページでは表現の手法としてまだできていない。今後は、そういう方向も求めるべきだと思っています。シズル感がバナーで出せれば、バナー広告も意味が出てくる。

●これからはオンデマンド時代

――インターネットが実際のキャンペーンで活用され始め、マスの役割も違ってきた。
 現状では、新聞、テレビは、短期間でいろいろなメッセージをデリバリーするには最適のメディアというとらえ方をしています。
 個人的な意見ですが、テレビは好きなジャンルを勝手に録画してくれるビデオも登場しているし、スポットという出稿形態は意味がなくなってくるかもしれません。極端に言えば、スポットは番組の合間にコマーシャルを強制的に見せていたわけですから、その必要がなくなれば見なくなる。僕らぐらいの年代のサラリーマンが家に帰る時間には見たいテレビ番組はもうやっていない。すると、新聞や雑誌、インターネットのような自分が見たいときに見られるオンデマンドのメディアが大事になってくると思います。

――インターネットが加わっていくことによってブランド構築の方法も変わってくる?
 15秒のコマーシャルに情報を詰め込んでも、限界があります。マス広告は、やはり入り口として考えて、そこから常にインターネットに持っていく。バーチャルな空間の中に常に情報が蓄積されていることが、ブランディングには大事なことではないかと思います。
 製品名や景品が面白いことを伝えるには確かにテレビのスポットは有効だと思いますが、それを理解してもらうためには、ある程度たくさんの情報が要るし、いろいろな角度から情報を持たなければいけない。
 それができるのは、動画よりも静止画。今までならプリントメディアしかなかったのですが、今後はそれにインターネットが加わってくるということだと思います。

――DAKARAのホームページを変えた意図もその辺にあるわけですか。
 DAKARAのサイトのログを見ると、売れていることもあり、結構アクセス数がありました。詳しく調べると「ダカラって何だろう」ということで見に来ている人が多かった。ところが、初めは内容が乏しく、せっかく見に来てもらっても製品の特徴が伝わらなかった。それで、「DAKARA学園」というコンセプトで作り替えたということです。
 DAKARAは、説明が必要な製品です。体に要らないものは出す、要るものは入れる。15秒の小便小僧のコマーシャルでは、そこまでは分からない。それで、これが体に悪い、これはいいという内容の「DAKARA講座」を作りました。今、七つ講座を作っています。せっかくみなさんが興味を持ってきてくれているのですから、楽しく遊んでいただきながら、役に立つ情報も提供したいというのがサイトの考え方です。

DAKARAHP DAKARA紙面
2000年7月9日朝刊サントリーフーズ
●DAKARAは脂肪、塩分、カロリーなど余分なものは体から出し、カルシウム、マグネシウム、食物繊維など不足しがちなものを補うカラダ・バランス飲料。説明の必要な製品でもある。新聞広告でDAKARAに興味を持った方は「DAKARA学園」へ。
http://www.suntory.co.jp/softdrink/dakara/

●新聞とネットに相性がいい商品

――ワインの通信販売もありますが、内容が充実している。
 ワインはネット向きの商品です。これも説明が必要ですが、例えば、ワインは今日お客さんが来るので、出しても恥ずかしくないワインは何かという買い方の方が実は多いのではないか。カベルネ・ソービニヨンがいいか、ボルドーがいいかというのは、実はどうでもよくて(笑)、そこで重要になってくるのは、いわゆるソリューション、問題解決をすることの方が大事な商品だと思う。ワインの通信販売は個人的なサイトも多いのですが、そこまではやらない。また、お店に行っても、レゼルブやマドンナなどの量産品は少ないですから、いつでも同じものが買えるわけではない。
 何を買っていいか分からない、いつも同じものが買えるわけではない、どこで買っていいか分からない。それを解決できればという意図で作ったサイトです。ワインは非常に情報が必要な商品です。だから、ネットに向いていると思うのです。

――新聞向きでもある?
 ワインの世界では「品質広告」というのですが、新聞の15段広告が出たときは注目率が高くて、サイトのアクセスも急激に上がります。日本ではワインはある程度教養のある人たちが買う傾向があるので、彼らの入り口としては、テレビよりは、確実に新聞がいいということではないかと思います。ウイスキーも同じですが、そういう説明が必要な製品と新聞の相性はいいし、それはネットと連動すべきだと思います。そこには可能性がすごくあると思いますね。

――今後、キャンペーンはどんな形になっていきますか。
 人を集めるのか、ブランディングしたいのか、キャンペーンの目的によって違ってくると思います。目的に合わせたメディアの組み合わせや使い方がある。ただ、インターネットは、非常にコストも安くて、消費者の反響もすぐ分かるメディアですから、いろいろな形でキャンペーンに絡めて使った方がいいと思います。




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