特集 2000.10/vol.3-No.7

広告主はメディアをどうとらえているか
 景気が多少上向き、新聞広告費もプラスに転じたとはいえ、ここ数年、有力企業の広告費は前年割れが続いていた。その一方で、インターネットが第5のメディアと呼ばれるようになり、広告の老舗企業がメディアとしてのホームページを充実させ始めている。広告キャンペーンでも、マス媒体とインターネットを連動させた展開が増えている。今回の特集では、広告主のメディアのとらえ方、使い分けを聞いた。
媒体選択の基準はレスポンス
 キリンのホームページは、徹底してマス媒体と連動させた作りになっている。それを推進してきたのが、営業本部eビジネス推進プロジェクトのチームリーダー、真野英明氏だ。マス媒体はそこでどんな役割を担い、またどんな役割を期待されているのだろうか。
 
 昨年まで、テスト出稿という形で媒体としてのインターネットの有効性を検証してきたが、その位置付けは最近かなり変わってきている。
 媒体の力を見る尺度として、われわれが最も重要視しているのはレスポンス率だ。レスポンス率が直接取れない場合には、必ずキャンペーン後の一定期間内に、そのメディアを通じて、どのぐらいの知名度が得られたかを検証している。
 レスポンスはテレビは比較的取りにくいが、例えば懸賞キャンペーンでは、中央紙、地方紙、あるいはフリーペーパー、雑誌、インターネットを比べてみたときにどうなんだろうかという視点から、レスポンス率を取っている。また、各媒体ごとのレスポンス率の推移も見ている。
 そういうデータに基づいて、結論から先に言うと、昨年までのインターネット広告は比較的パーコストがよかったが、最近はそれが悪くなった。特にバナー広告のパーコストが悪い。
 これは広告主の間ではかなり言われていることだが、表にはあまり出てきていない。なぜなら、インターネット広告全体としては伸びているからだ。しかし、中身をよく見てみると、バナー広告の出稿主に広告出稿量の上位50社に入る企業の名前はほとんどない。
 最近、バナー広告の出稿が比較的多いのは、インターネット上で商売をしている企業だ。既存の広告主はどこへ行ってしまったのか。世の中ではインターネット広告は伸びていると言われているが、この点をきちんと押さえておかないと分析を誤ると思う。

●バナー広告の悪循環

 バナー広告は確かに短期的には使えるメディアだが、最近は出稿料金も上がり、レスポンスのパーコストが既存メディアを追い越してしまった。バナー広告やテキスト広告などさまざまな広告手法もあるが、結局狭いスペースでは一定の訴求しかできない。バナー広告には認知効果もあるが、やはり情報量は少ない。
 そうは言うものの、インターネット人口は2,000万人を超え増え続けている。世帯普及率も16%、東京近郊の地域では20%を超えている。インターネットの普及が加速度的に伸びてきて、メディアとして非常に有望になってきていることも確かだ。
 ところが、利用者の伸びほどには、各サイトのページビューは伸びていない。伸びは半分ぐらいに鈍化している。通常なら利用者の伸びと同じにページビューも増えるはずだが、多くのサイトができてきたために、1サイト当たりの接触程度は逆に落ちている。その一方で、バナー広告の効率、クリックスルーレートも下がってきた。伸び率が鈍化しているとはいえ、大きいサイトはページビューそのものは上がるから、広告料金を値上げする。その結果、バナー広告のレスポンスのパーコストが悪くなる。今は、そういう悪循環が起こっている。
 しかし、広告キャンペーンで、マスの補助媒体としてインターネットを使うことは、非常に有効だ。新聞、テレビ、雑誌、ラジオに次いで、インターネットが5番目の媒体として活躍するのは、こうした場合だ。
 それは、インターネットが「究極の口コミメディア」という性格も持っているからだ。ストレートに広告を受け取ると、「ええ、そんなもの……」と人は思いがちだが、隣の人から言われると「そうかな」「いいかもしれない」と、思わず買ってしまうことがある。「こういうことをやっている」と伝えるのは、やはり新聞、テレビで、そこに口コミが加わると非常に効果が上がる。新聞と組み合わせることの重要性は、そこにもある。
 こうした考えに基づき、キリンのホームページは、基本的にはマス媒体と連動させた作りになっている。キャンペーンの大きさに合わせ、表示の大きさも変えている。

キリンビールHP ●キリンのホームページ
http://www.kirin.co.jp/
 9月12日のトップページ。前日までは「秋味」が最も大きく扱われていたが、この日から「がんばれ!ニッポン」にメーンが変わった。

●連動企画の提案を

 インターネットをキャンペーンに使う場合のポイントは、特に新聞、テレビと、いかに組み合わせるかだ。常々、各媒体社には、そういう組み合わせをセットにした企画提案を要望しているが、まだまだ15段とか、何GRPという話の方が多い。
 媒体社はこれから新聞、テレビとインターネットとの連動企画の開発に努力して欲しいと思うし、媒体社自身のホームページを強化することが、最終的には相乗効果を生み、自社媒体を補強することになると思う。
 新聞、テレビとこんなインターネット広告を組み合わせると、ターゲット到達率がこれだけよくなって、パーコストもこれだけよくなる。そういう提案をわれわれは望んでいる。確かに、キャンペーンのデータはそれぞれの企業に集まり、なかなか広告会社や媒体社にはわからない面があると思うが、そういうつもりで自社企画を作っていけば、データを蓄積していくこともそれほどむずかしいことではないと思う。
 資料請求などのレスポンス率は、新聞でも広告の大きさや掲載面によって大きく違うことはあるが、長い間取っていると、大体そのメディアの傾向、力が分かってしまうものだ。新聞・雑誌にはABC部数があるが、レスポンス率で媒体の力はわかってしまう。それはインターネットのような新しい媒体にも、非常にいいリトマス試験紙になる。
 インターネットではポータルになることが重要だといわれる。これから強くなっていくのは、一時期の検索サイトではなく、やはりコンテンツを持っているマスコミ系だと思う。なぜかと言えば、もう一つメディアを持っているからだ。その中でトップシェアを取っていくために、今は投資すべき時期だと思う。

●知らない媒体は使いにくい

キリンビール広告紙面
2000年9月15日朝刊
 メディアミックスは、われわれの媒体戦略の一つのポリシーになっている。中でも、いかにメディアミックスの中にインターネット、ホームページを組み入れるかが重要になってきている。
 インターネットを組み合わせた提案をなぜ広告主が期待しているかという理由は、別のところにもある。他の媒体は広告主の自由にならないが、ホームページだけは自分たちも持っている媒体だからだ。自分たちがよく知っている媒体は、理解しやすい。
 去年、民放連からラジオCMをてこ入れしたいということで、協力させていただいたことがあった。なぜラジオは広告出稿が少ないのか。その時に、ラジオを担当している宣伝部の人たちが聴いていないからだという仮説を私は立てた。これは、よく言われていることだが、実際のデータはなかった。調査したところ、その通りだった。要するに、自分の接触していない媒体には担当者は出稿しないという当たり前の結果が出た。
 同じようなことは、フリーペーパーの例でもある。広告出稿をもらうために、宣伝部に、とにかくそのフリーペーパーを届け続けたら出稿が増えた。結局そういうものだと思う。
 だから、インターネットは、こういう意味からいっても、出稿が増える素地が最初からある。使い勝手も自分たちで実験ができる媒体。そこまで広告主側の理解は進んでいる。既存の媒体社が、それをうまく活用する方法を提案すれば広告主はすぐ乗ってくるはずだ。しかし、現実はそうなっていない。
 結局、各媒体を見ていると、インターネットのセクションはできてはいるが、縦割りの独立採算になってしまっていて、メーンの媒体との連動がうまくいっていない気がしてならない。
 例えば飛行機も、直前になって、空席があれば安く売る。インターネットにはもちろんたくさん空席があるだろうし、新聞本紙もあるだろう。そこの空き枠をうまく提供していって、そのデータも取り、効果を上げながら、インターネット媒体を育てていくということがこれからは必要ではないかと思っている。やはり、そういうふうに媒体は、次の自分たちの柱を育てておいた方がいいのではないか。私の個人的な意見としては、そうだ。
 新聞社は、読者の声は反映するのに、広告主の声はあまり反映されていないような気がする。それは、本来は広告局が集めて、その提案が広告主に戻っていかなければいけないものだと思っている。

●新聞は究極のモバイル

 メディアが多様化しているが、生活も多様化している。しかし、それぞれの既存メディアは残っていく。テレビの地上波はまだまだ強いし、新聞も強い、雑誌もある。ラジオもいろいろ大変だと言われながらマスメディアの地位を保っている。これにインターネットを入れた5媒体は、われわれの広告計画から外せない。
 マス媒体というと不特定多数を対象にした媒体と思われがちだが、「こういうターゲットなら、うちの新聞はレスポンス率でトップです」という売り方があってもいい。マス媒体は、これからは究極の個人媒体という意味合いを持ってくると思っている。マスと言っても、これまでのマスと、ここでいっているレスポンス率で測るマスでは意味が違う。要するに効率論ということだ。媒体も最終的に行き着くところは効率論になる。
 そういう意味では、テレビはどうか、疑問に思うことはある。要するに、先ほどから言っているように、ものを売っていくためには、その個に広告をどこかで接触させなければいけない。そのときの、媒体選択の基準が接触効率ということになる。テレビは多チャンネル化すれば一局当たりのGRPが減って、“売り場面積”が減っていくのは当然の成り行きだ。ただ、それでも他媒体のレスポンスが2しかなくてテレビが5あれば、テレビを使うことにはなる。
 しかし、メディアミックスが際限なく細分化することはない。ある程度のボリュームで出稿しなければ、別の意味で効率が悪くなる。そうすると順番に出稿していって、今までならテレビ、新聞、雑誌、ラジオ、それから交通広告を使うべきか、広告主は考える。最近は、ここにインターネットが入ってきたために、とりあえずインターネットを入れておこうとなることが多い。その時、広告予算枠は決まっているので、テレビは1,000GRPを900GRPに、あるいは新聞も15段をやめて7段にという話になってくるだろう。
 今年3月にビデオリサーチが発表した調査で、インターネット利用者のテレビ視聴時間が落ちているという結果が出ていた。今後、テレビの売り場面積、つまり広告の接触率が減っていくことはわかっているので、広告主から見れば、どこに広告を出稿したらいいかますます難しくなる。広告主としては結局、その中でも最も接触してくれる媒体を重視することになるだろう。そういう意味で、新聞媒体は比較的有望だと思っている。
 私は、新聞を究極のリコメンド・モバイル・ツールと呼んでいる。情報社会の中で重要な情報は何か、ある程度リコメンド、編集してくれる媒体が欲しい。インターネットの中でも「どこが安い」「何を買ったらいいのか」を比べてくれるサイトが増えている。結局、情報量が増えるとそこが重要になる。
 新聞のすごいところは、やはりその取材能力だ。それが、非常に凝縮された形で、いつでもどこでも手軽に読める紙というメディアの中に入っている。テレビの場合は全部見なければいけない。時間軸の上に乗っている。新聞の場合は、パラパラ見られる。世の中のことを知ろうと思ったときには、いつもの面を見ればわかるし、天気予報の欄も決まっている。テレビをつけてそのチャンネルにしなくてもいいし、インターネットでウェザー情報にアクセスしなくてもいい。電車の中で電池が切れることもないし、捨てられる。
 そう考えていくと、新聞の今後の在り方もまた変わってくる。新聞は世の中の動きを知るポータルだと思うし、インターネットへのゲートウェイでもあり得る。
 十勝毎日新聞が、「インターネットナンバー」を既に紙面に掲載している。ビデオのGコードと同じようにURLを数字で入れれば、ホームページにアクセスできる仕組みだ。例えば、http://www.kirin.co.jp/brands/IS(一番搾りのURL)と入力するのは大変だが、それが、350*01と入力すればいい。新聞がこういう情報のポータルを目指すのは非常にいい方向だと思っている。
 新聞は一面にその日の主な記事を紹介しているが、これをもっと増やして欲しい。要するにインデックスの充実だ。記事を見て、もっと深く知りたくなればインターネットに行く。
 最近は休刊日もホームページでニュースを見られるようになったが、そういう部分をもっと深めていくと、新聞社のサイトは強力なポータルになっていく。既存のポータルサイトとは意味合いの違うポータルサイトができる可能性を秘めている。

●マスでとらえネットで管理

秋味HP
●8月にYOMIURI ON-LINEに掲載されたキリンの「秋味 炭こんろプレゼント」キャンペーンのテキスト広告。企画・制作は読売新聞社。炭火串焼き専門店に聞いた炭火のおこし方、炭火料理のコツを紹介。キリンの「秋味」ホームページにリンクする。言わば、新聞本紙の企画広告のインターネット版。
 既存の媒体社の人が見落としがちなのは、顧客情報はインターネットが一番取りやすい点だ。双方向だから非常にきめ細かく取れる。広告主にとっては非常にいい媒体だといえる。
 キャンペーン連動型のホームページが進化すれば、広告主はお客様の個別情報をきちんと管理できるようになる。多少の違いはあれ、どこの企業もそうなっていくと思う。しかし、そのリストから1か月に1割、2割は脱落していくから、それをマス媒体から自社のホームページに呼び寄せて補充するという追っかけっこになると思う。お客様の個別情報を一方で持ちながら、マス媒体で網をかけて、そこに情報発信をしていき、商品を売っていくというマーケティングになると思っている。
 そこで重要になってくるのは個人情報の管理だ。例えばビールを1日大瓶で3本以上飲む人がいて、所得がこのぐらいだったらビールを絶対買うかといったら、それはわからない。それよりも、その人のライフスタイルや生活態度といった情報の中で、これを買う人は、比較的こういうものを買う確率が高いという売り方が重要になってくる。
 ログ解析のプログラムがあって、ある人がどのサイトを見に行って、サイトの中をどういうふうに見て回ったかは追えるようになっている。そうすると、「こういう人はこういうものが好きなんだ」とわかってくる。「では、これはいかがですか?」とすすめる。そういう売り方がこれから増えてくると思う。インターネットはそれができる。
 今後のブランディングは、ある程度の大型商品にする場合には、既存のマス媒体とインターネットを絡めた形になるだろう。プッシュ型の新聞、テレビと、関心のある人が能動的に見に来るプル型のインターネットの組み合わせでブランディングを考えていく。インターネット媒体をうまく組み合わせることによって、より理解を深めることができると思う。
 例えば、テレビの15秒の世界、あるいは新聞の15段の世界では言い切れない、雑誌で何ページ使ってもそれでも言い切れないことが、インターネットならそこに何百ページにもわたって情報を提供できる。ブランディングでも、インターネットはこれからもっと活用しなければいけないし、されていくだろうと思っている。

●媒体は立地条件の違う店舗

 マス媒体とインターネットの連動を考えていくと、ホームページにまた来てもらうための施策に頭を悩ますことになる。マス媒体のよさは、お客さまの目の前に広告が届くことだ。逆に、ホームページ運営の難しさは、いいコンテンツを作っても、お客さまが来てくれなければ何にもならないところにある。それを、それぞれの広告主がやるというところに、今までの宣伝との違いがある。
 私の考えでは、インターネットは究極の補完ツールだ。メーン媒体ではない。なぜかと言うと、サイトの数も無数にあるし、今後も増え続ける。街に例えるなら、キリンのサイトの前を通ってくれる人は、そこに住む人の何%にしか過ぎない。言わば、小さな通りにある専門店だ。マス商品を広告する場合、インターネットだけでは不十分ということだ。
 新聞やテレビなどのマス媒体のよさは、街の大通りに店を張っているところにある。雑誌は、大通りを横に入ったちょっと大きな専門店に似ている。
 これからの課題は、マス媒体とインターネットの連動という視点から、それぞれがそれぞれの店舗をどう経営していくかということだと考えている。




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