特集 2000.08/vol.3-No.5

ここまで来た企業のインターネット活用
インターネットの本質から見た常識のウソ
 
 インターネットの入り口であるポータル各社は昨年末から積極的なマス広告を展開している。厳しいビジネス競争の中でポータルは、インターネットはどこに行こうとしているのか。インフォシークの水島久光氏に聞いた。
――ポータルという言葉が日本で使われ始めたのは一昨年からですが、最近の状況をどう見ていますか。
 アメリカはポータルの勝ち組、負け組が決まったとよく言われます。インターネットユーザーに対するリーチで見ると、ヤフー、MSN、AOLの3強がポジションを確立し、最近は少し数字が開いてヤフーが一人勝ちを始めている状況です。
 インターネットの特性はコンテンツの偏在性(ユビキタス)だと言われます。新聞社のように中心に編集局があって、そこで集めたニュースを全国津々浦々まで配達していくのではなくて、逆に情報の方が全国津々浦々にあるという世界です。既存のメディアとインターネットの最大の違いがそこにあって、インターネットは中心のないメディアなのです。中心がないから、どこへ行ったらいいかわからない。それでポータルが必要になるわけです。ポータルはGate、最終的に行きたいコンテンツはDestinationとも呼ばれます。インターネットの世界は、端末レベル、回線レベル、ブラウザーレベル、検索ナビゲーションレベル、コンテンツレベルと縦に深い世界です。最終的に行きたいコンテンツの前にこれだけフィルターがある。そのどこでユーザーを束ねるか。入り口の方に立って束ねるか、目的地に近づいていくかという方法論があって、一口にポータルと言っても違いがあります。
 AOLはインターネットの接続を担っているインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)で、入り口の方に構えてユーザーを束ねようとしている。マイクロソフトのMSNは、基本的にはブラウザーのデフォルトページです。ポータルとしてはここが一番競合が少ない。一方ヤフーは元々Directory、つまりインターネットの百科事典です。サーファーと呼ばれる人たちが人間の目で見つけて、コツコツとコンテンツを蓄積しているわけです。よくヤフーは検索エンジンと言われますが、ロボットがいなければ検索エンジンとは呼ばない。だからヤフーは事典としての量を増やすことによってDestinationに近づいていっているわけです。
 しかし、アメリカの3強のなかに、ロボット型のサーチエンジンはない。負けてしまったわけです。ロボットに能力がなかったからではなくて、もともと生業が違っていたのに、LYCOSも、元インフォシークのGoも、exciteも、ヤフーになろうとしてしまった。同じポジションに2つは要らないわけです。
 日本はもっと極端で、インターネット・イコール・ヤフーみたいな形になってしまっています。インターネットは、そもそも中心がないメディアのはずなのに、それがヤフーだけというのは、そもそもインターネットらしい使い方を日本はしていないということになります。
 アメリカと違うもう1つの点は、携帯電話などのプラットホームの台頭です。現在のiモードは、つなげばそこがコンテンツレベルの世界です。端末レベルからコンテンツレベルまで押さえている。日本のインターネットは、本来とは異なる形で発展しているというのが現状だと思います。
 われわれは、やはりもう一回インターネットの本質的な部分を見直していこうと考えています。本来の検索エンジン、それがインフォシークのポジションだと思っています。

――今年に入ってインフォシークは、マス広告やサービスを充実させていますが。
 本質的にポータルは、インターネットのなかで唯一無二のメディアです。メディアの本質はオーディエンスの量にありますから、そのオーディエンスの量を確保するためにいろいろなサービスを提供していかなければいけないということです。
 昨年12月、ウォルトディズニーの傘下に入り、その投資が可能になったという背景があります。マス媒体を使った広告展開と同時に、サービスも充実させ、無料メール、掲示板、チャット、株価サービスなどを始めています。
 なぜ、ポータルが検索サービスだけではオーディエンスが集められなくなったかと言えば、あまり成熟していないインターネットユーザーが急速に増えてきたからです。どんな世界でも2割の積極的な人と8割のフォロワーでマーケットはできています。検索機能が優れていれば2割の積極的な人にはアピールするが、8割のフォロワーにはアピールしきれない。
 また、最近のインターネットの普及を見ていると、ホームページを見るよりもメールが中心になってきた。これは女性ユーザーの増加とも非常にかかわっています。つまり、自分でテーマをもって何かを探しに行くという行動ではなくて、メールなどのコミュニケーションが中心になってきた。それが、コミュニケーション系のサービスをもうひとつの柱にした理由です。

インターネットの情報アクセス

――ポータルの収入のほとんどは広告収入だと聞いています。
 インフォシークも95%は広告収入です。ただ、インターネットと既存メディアの本質的な違いを考えていくと、今までのマス広告とは違うモデルができてくるはずです。
 たとえばですが、町の不動産屋さんの物件データベースを作り、そのなかに物件を登録できるフォームをつくる。1か月数万円のライセンス料で、そのフォームをダウンロードして、物件はほうり込み放題という仕組みをつくれば、これは広告ではなくて、そのツール自体がビジネスになる。つまり、ポータルにも、ユーザーにも、不動産屋さんにとってもプラスなのだけれど、この場合は一番お金を出したい不動産屋さんが出すという仕組みができるわけです。
 そこが今までの中心があるメディアの考え方と違うところで、インターネットでは情報の送り手と受け手が対等なのです。仕組みによって、どちらがお金を払いたくなるかわからない。今までの広告モデルは、たとえば新聞の場合は販売部数×スペースシェア、テレビの場合は視聴率×タイムシェアです。インターネットの場合は、アクセス経路のなかにどれだけ入り込んでいくかというシェアなのです。ポータルにバナー広告を張るというのは、オーディエンスが一番束ねられている場所にバナーという差し込みを入れているわけです。

――企業も自社サイトを積極的に展開するようになってきました。
 日本の広告費のベストテンに入っているような企業は、ホームページを真剣に考えています。すでにブームとはとらえていません。こうした企業のホームページは、何万ページもの規模になっている。サーバーや回線の維持・管理も大変なのですが、何よりも情報が古くなれば、自分たちのマイナスイメージにしかならないということをよく理解している。
 3年前に企業のホームページが立ち上がったころは、ホームページのメリットは高い広告費を払わなくても宣伝できるというようなことが盛んに言われていた。やはり、世の中そんな虫のいい話はなくて、本気で宣伝効果を出すレベルまで持って行くにはお金がかかる。ホームページをつくったら、それを稼働させるためには広告もしなければならないわけです。
 インターネットは効果があるか、ないかというのは間違った議論で、インターネットは「効果がわかる」のです。だから「効果がなかった」こともわかる。効果がないのは何かやり方を失敗したわけで、トライアル・アンド・エラーができるところに特徴があるわけです。

――インターネット視聴率調査が始まっていますが、どの程度信用していいのか。
 インターネットの視聴率調査のポイントは3つあって、1つは正しいサンプリングがされていること、2つ目が正しいログデータを拾うこと、3つ目はユーザーにわかりやすい指標を出すことです。
 サンプリングは懸賞やプレゼントによる募集ではなくてランダムサンプリングが前提です。電話によるランダムデジットでも、基にしているのは加入電話の台帳で携帯電話だけの若い世代はもれてしまう。また、実際には多いオフィスユーザーを押さえているかという問題もある。ログデータの拾い方も各社まちまちで、ブラックボックスの部分がある。
 出てきた数字をそのまま鵜呑みにするのではなく、当面はそれぞれがインターネット視聴率調査について詳しくなるしかない。たとえば、調査上は同じページビューでも、ユニークユーザー数でクリック数は変わってくる。確かなのは、実際にバナー広告のクリックスルーレートを比べて見ることです。
 ただ、バナー広告には認知効果もあります。クリックスルーレートだけがすべてではない。実際の調査で、バナー広告を見たときはクリックしないで、そのサイトのことを思い出して別の機会に来た人が20%いた。バナー広告の効果は、クリック効果プラス認知効果です。

――個人情報、顧客の囲い込みがビジネスのポイントになるといわれています。
 個人情報についても大きな誤解があります。企業がなぜ個人情報を集めるかというと、リアルな世界では個人情報しか手がかりがないからです。たとえば新宿周辺を歩いている人たち全員の行動を個別に調べることは、まず不可能です。つまり、人間の行動はトラッキングできないから、個人情報を頼りにどういう人たちが多いかを調べるわけです。
 インターネットの場合は、逆で、個人情報はわからないが、行動はトラッキングできる。サーバー側でアクセスしてきた人が何を検索したかはわかりますから、それに関連した広告を逆に送ることもできる。個人情報はいらないわけです。個人情報に下手に頼っていくと、プライバシーの侵害も起こしやすいし、悪用もされやすい。
 アメリカでは、オープンプロファイリングスタンダード、OPSというインターネットで個人情報を取るときの原則がすでに確立されている。ユーザーにサイト側が何か尋ねるときは、必ずその目的について明らかにし、目的以外には使わないという原則です。この原則は非常に厳しくて、問題が起きたときは必ず訴えられる。日本のサイトにはその意識がまだ非常に希薄です。
 そもそもインターネットのようなオープンでフリーな空間で顧客を囲い込んでどうするのか。ワン・トゥ・ワンマーケティングと囲い込みは絶対別のものです。囲い込みをしていると中のリストは腐る。腐らせないためには、コストをかけて新陳代謝を図らなくてはいけない。
 ただ、耐久消費財のような高額商品は、オープンなマーケットから新規顧客を獲得するよりも何分の一かのコストですむ。コスト的に有利なら、商品によっては囲い込む意味があるものもあるということです。

――放送とインターネットが融合すると言われていますが、どう思われますか。
 よくインターネットはブロードバンド化に対してどう対応していくのかと言われますが、話は逆で、放送のインフラがインターネット化するということです。多チャンネル化が推進されると、結局、1局のオーディエンスは減っていく。そうすると、情報の偏在というインターネットと同じ問題が起きるわけです。オーディエンスが少なくなれば、広告は取れなくなる。
 そうなると、小さくなった視聴率をまとめ、その集まりに対して、広告を配信していくという考え方が出てきます。インターネット的に言えば、コンテンツサーバーとアドサーバーを別にするという考え方です。
 今までのインターネットというのはPC中心のネットワークで、ワンソース・ワンデバイスだった。今後は、さまざまな端末が普及し、送り手から見ればワンソース・マルチデバイス、ポータルから見ればマルチソース・マルチデバイスになる。それらはインターネットに接続されているわけで、そこでわれわれの検索というサービスも生きてくる。今後ポータルにとって大切になるのは、入り口と出口を認識して適切な表示をさせる技術を磨いていくことだと思っています。



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