特集 2000.08/vol.3-No.5

ここまで来た企業のインターネット活用
広がるメディアの選択肢
 
 インターネットの世界の変化は驚くほど速い。バナー広告の利用だけの時代から企業のインターネット活用は大きく変わった。最近の状況を広告主協会ディジタルメディア委員会の吉田達夫氏に聞いた。
――企業のインターネット活用は実践段階に入っていますが、以前と変わった点は?
 バナー広告自体と企業サイト側の2つの変化があると思います。
 インターネット広告が登場してから5年たちますが、スタート時はページビューを基本に出稿していたバナー広告も、クリックスルーを保証するタイプや見に来た人の嗜好(しこう)にあわせて広告を見せるタイプなどが登場し、広がりが出てきました。ターゲッティングの技術も進んで、その人の属性や好みから興味のある分野の広告を打つということが当たり前になってきています。
 また広告主は、いわゆるポータルサイトにバナー広告を掲載し、そこから自社サイトに来てもらってより詳細な情報を公開する方法が一般的でしたが、大手の企業サイトには、別にバナー広告を出さなくても、直接来てくれる人も増えてきているようです。商品に興味を持っている人は、能動的に情報を探して企業サイトに来るということが、ある程度見込めるようになってきた。その背景には、インターネットユーザーに女性が増えてきたことや年代層が広がってきたことがあると思います。
 これまでは、マスメディアを使って商品の認知を図り、興味を持ってもらい、資料請求をしてもらい、最後に販売店に行って買ってもらうという販売プロセスでしたが、最近は、車に興味のある人、パソコンに興味のある人がいきなり企業サイトに来て購入するようになった。
 また広告主も、自社商品に興味のあるユーザーが自然に集まってくることを最初から想定したビジネス展開を始めている。たとえば、限定生産車ならホームページだけで完売になってしまう現象が起きつつあります。

――ディジタルメディア委員会は過去にバナー広告効果について発表していますが、その後の展開は。
 人気のある企業サイトもバナー広告は出していますし、バナー広告のニーズは厳然としてあります。1997年の10月に実施した「バナー広告効果の実証実験」はクリックスルーに焦点をあてたものでした。そこでは、バナーは大きいほうが効果が上がる、静止画より動画の方が効果が高い、セグメント化されたページのクリックスルーレートは上がるといった結果が出ました。
 ただ、この実験をやった後に、バナー広告のインプレッション効果、どの程度記憶に残るのかという問題が残り、それを実証したのが昨年七月から八月にかけて行ったバナー広告の認知効果の実験です。
 実験は、ヤフー、goo、excite、LYCOS、infoseekなど10のサイトで、8,000人近くの協力を得て行ったもので、バナー広告を見る回数が多いほど記憶に残る割合が高いことが確認されました。
 広告の要素についての記憶も調べましたが、残るのはやはり企業名、商品写真、商品名で、キャッチフレーズや具体的特性、アニメーションなどの記憶効果はそれほど高くない。
 また、セグメント化されたページに合った商品を見せた方が効果は高まるかという点については、商品によって差が大きかった。何回見せても、特定の個所で見せても、あまり効果がなかった広告もあれば、セグメント化されたところで見せた方が効果が高くて、なおかつその中で回数効果が高いものとそうでないものもある。商品特性やクリエイティブの差が影響する面もあると推測しています。
 いずれにしろ、バナー広告には企業サイトに人を導くクリックスルー効果と従来のマス広告のような認知効果の両方があることは、確かめられたと思っています。

――インターネットをきっかけに、企業のビジネスのやり方が変わってきた。
 すでにかなり出てきています。
 たとえば、ある自動車メーカーはスポーツカーをインターネットだけで限定販売した。後からマス広告にも出ましたが、とにかくインターネットだけで人が集まった。また、資料請求をしてくれた人には、販売員が行かない方式を取った。インターネットで申し込んだ人には事情があるわけで、そういう事情を理解した上で、資料を送る。それで普通の営業方法に比べてはるかに高い成約率を上げた。しかも、さまざまな顧客情報、見込み客情報が得られた。資料請求者を見ると、すでに同メーカーの他車種を有しているなど、今後の有力なプロスペクト(見込み客)であることも分かった。
 マンション業界でも従来の営業方針を切り替えて、バーチャルで物件の部屋を見られるようにしたサイトを開設し、成約率をかなり上げたところが出てきた。デジタル技術を使えば、従来のプッシュ型ではないモノの売り方ができる。関心がある人は自らその企業のサイトに行くということだと思います。
 電機メーカーも自動車メーカーも、今まで非常に膨大なコストをかけ流通チャンネルをつくってきた。電機や自動車などの説明型商品は、これまで販売店が説明をして売っていく必要があった。それが、インターネットを活用すれば直販もできる。直販をやる時に、今までのチャンネルにある役割を果たしてもらうなどの様々な配慮はするが、モノを売るための経路はすでに変わってきたと言えるかもしれません。
 電機メーカーもコンピューターメーカーも、程度の差はあるけれども、直販はやるようになると思う。既にパーソナルユースのコンピューターメーカーでは直販専門のメーカーの方が顧客の満足度が高いと言われています。
 これまでのプッシュ型の販売は、コスト的にも買う側の心理面でも障壁になっている部分があるわけで、それを取り払って、それでなおかつ売る方も買う方も満足度が高い。これがインターネットやデジタルメディアのいい面だと思う。

――バナー広告を掲載するポータルサイトはヤフーのひとり勝ちと言われていますが。
 広告主の意識としては、ヤフーのトップページにバナー広告を出すのは、新聞で一番販売部数の多い読売新聞に15段広告を出すという考え方に近いと思います。すでにマスメディア的な効果を勝ち取っています。先ほどの自動車メーカーの例でもヤフーだけには出している。インターネット人口の急激な増加に伴い、ポータルサイトのいくつかは雑誌などのクラスメディアを超えた準マスメディアとして成長を続けていくと思われます。
 今のところそれほど明確ではありませんが、ヤフーのようにマスメディア的に使うサイトとある程度セグメント化された人だけが集まるターゲティングされた広告を出すサイトの2つの流れで進化していくとも予想されます。
 また、ECサイトが提携サイトを募り、そのサイトを経由して商品が購入されるとコミッションを払うアフィリエートプログラムが日本でも出てきています。単にバナー広告を見せるだけではなくて、見る人の嗜好や興味に合わせた情報提供により一気に購入に結びつけることも行われています。
 インターネットはそういう工夫ができるメディアであり、今後もいろいろな可能性がまだまだ出てくると思います。
 ただ、どんな商品でもインターネット広告だけで売れるわけではないことも確かです。企業の業種や商品によっては、インターネット・ブランドになりにくいものがある。インターネットにそういうものを引っぱり込みたいときは、やはりマス広告の力が必要になる。逆に先ほどの自動車の例のようにインターネットのユーザーとの親和性が極めて高い商品もある。その見極めが大切です。

今後のメディア環境と広告への影響

――ディジタルメディア委員会は、今後どんな方向に研究を進める予定ですか。
 昨年の4月、ディジタルメディア委員会の中にWeb広告研究会が設置され、インターネット関係の研究は、そこに移管している。委員会はデジタルメディア全般にわたる研究をしようということで、現在はデジタル・データ放送の可能性などを調査しています。
 当初のデータ放送は、あらかじめ情報を受信機のメモリーに受けて、その中から選ぶ方式になると思います。家庭の電話回線はファクシミリやパソコンにもつながっているので、BSのためにわざわざ電話線をつなぐ人はそう多くないと思う。疑似インタラクティブな使われ方から始まるのではないでしょうか。
 BSデジタルのインタラクティブ機能が本当に使えるようになるのは、第2世代のデジタル受信機になって、上りの回線に次世代の携帯電話が使われ、パケット通信でスピーディーに視聴者からデータ送信できるようになってからだと思います。
 今後は放送だけではなくて、さまざまなメディアが広告を大きく変えていくと考えています。
 最も期待しているのはモバイル関係のサービスです。次世代の携帯電話としてW-CDMA方式[注]が出てきていますが、そう遠くない将来携帯やPDAがパソコンと並ぶ情報プラットホームとして定着するはずです。そうすると家の中のパソコンにかじりついていなくても、いつでもどこでも情報にアクセスできる。モバイルを使ったデータ放送で、テレビの動画を映すことも可能になるわけです。広告メディアとしても、非常に潜在力があると思います。
 今年暮れにはBSデジタル放送が始まります。CSも第2世代になる。CATVもデジタル化が進み、地上波もデジタル化される。ワイヤレスでブロードバンドの新しいデジタルメディアが次々と立ち上がって来ようとしている。それらがいろいろ組み合わさって、新しい広告手法が出てくると予想しています。
 また、バーチャルコンテンツも期待されています。アメリカのテレビでは実際に行われていますが、フットボールの試合で競技場に出る広告は実際に観戦している人には見えない。たとえば、フットボールのゴールのところに大きな看板をコンピューター合成でつくったりするわけです。
 そういうふうに一方でメディアの選択肢が広がり、もう一方でバーチャル・コンテンツを含めたいろいろな手法が出てくる。シームレスな環境で、さまざまなメディアミックスも生まれてくると考えています。
 もちろん、メディアの双方向性も進むので、本当のワン・トゥ・ワンに近いかたちで顧客の情報を得ることができ、マーケティングサイクルも速めることができるようになる。この2、3年の範囲で、結構大きな変化が起きてくるのではないかと思っています。

[注]W-CDMA 方式(Wideband Code Division Multiple Access)
ダブリュー・シーディーエムエー。NTTドコモが開発した次世代携帯電話の通信方式。高速移動時144Kbps、歩行時384Kbps、静止時2Mbpsのデータ伝送能力があり、動画・音声によるリアルタイムの通信が可能と言われている。




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