特集 2000.08/vol.3-No.5

ここまで来た企業のインターネット活用
 バナー広告の効果検証からスタートして2年半、インターネットはビジネスの方法までも変革する実践的な活用の時代に入った。企業・メディア・広告会社を巻き込んだ変化の現状と近未来を探る。
企業のネット活用が変えるもの
 
 インターネットの存在は企業のマーケティング活動全般の見直しを余儀なくさせている。企業がインターネットを本格的に活用し始めたことで何が変わろうとしているのか。広告会社、メディアに対する影響は何か。電通インターネット・ビジネス局の長沢秀行氏に聞いた。

 インターネットをめぐる最近の企業の動きとしては、3つの点が挙げられると思う。

広告にドット・コム企業登場

E*トレード証券 1つは、日本でもアメリカのようなドット・コム企業、インターネットを事業戦略のコアとしてビジネスを起こしていこうという企業群が広告主として登場しはじめたことだ。
 去年の半ばまではパソコンメーカーや通信会社などインターネットのツールを提供する企業、サプライヤーが主だったが、秋ごろからインターネットをビジネスにする企業群が広告主として登場し始めた。
 まず、証券の取引手数料の自由化で、去年の10月からインターネットで株を取引するネットトレードが急速に立ち上がってきた。野村証券のような既存企業の事業参入もあれば、トップバンカーズ、Eトレード、マネックス証券のような専門企業、あるいは松井証券のように従来の営業部隊を廃止してネットトレードに特化した企業もある。たとえば、某大手証券は半期で1億円以上、他の媒体の2倍から3倍の伸び率でインターネットに広告費を投入している。それに続いて、自動車の販売仲介や本のオンライン販売などのネットビジネス系企業群がインターネット広告だけでなく、新聞広告やテレビCMを本格的に打ち始めた。
 これらの企業の特色は、広告の予算取りがこれまでの企業と大きく違うことだ。かなりの量の広告を先行投資と割り切って投下している。通常、新商品の広告宣伝費は、テレビCMの比重が高い企業で販売予測の10%ぐらいが予算取りの目安になっているが、インターネット企業の場合は、年間売り上げ予測の100%、200%に達している。先行投資的に広告予算を取り、早期にシェアを獲得して、その広告費をあとで回収するという形を志向している。
 その背景には、インターネットの将来性に対してベンチャーキャピタルが積極的に資金提供していることもあるし、マザーズやナスダックなど新上場市場からの資金調達が可能になったことがある。それをまずはマーケティング費用として投下していくというビジネスモデルが日本でも昨年の秋あたりから始まってきた。
マネックス アメリカでは、昨年初めごろからすでにそういう状況が現れている。昨年のスーパーボウルのテレビスポットは1枠20億円を超えたが、その半分はこうしたインターネット企業で占められた。これはある部分、ネットバブルかも知れないが、日本でも同じ現象が起こる可能性はある。
 インターネットビジネスを目指す企業がマスメディアを使うのは、事業の立ち上がり段階でブランドを認知させ、自社のサイトに来てもらうためには、やはりマスメディアに頼らざるを得ないからだ。
 インターネットはまだまだ普及途上にある。特に日本は最近、若年層や女性がインターネットに入りはじめたばかりだ。彼らをインターネットに入る前につかまえる。もしくはインターネットを既に使ってる人にも明確に認知してもらおうということから、マスメディアが盛んに使われている。
 そういう新しい形のビジネスが起こってきて、新しい形の広告予算のとり方、新しいメディアの使い方になってきている。
 よくインターネット広告がマスメディアの予算を食っていくと言われるが、むしろ広告料の総量を拡大している。広告主に聞いても別の、それも複数の財布から予算は出ている。
 インターネット企業にとってはマスメディアもインターネットも一つの販売チャンネル、お店で、広告でお客さまを獲得して、新しいビジネスをつくっていこうという形態だ。それで従来のビジネスだったら販売促進、営業費に使われる予算が、まずインターネット広告にきている。もう一つはIT投資とマーケティング投資の予算。いままで販売・流通チャンネルの維持・拡大に使っていた費用もインターネット広告にきている。というように、これまでのような純粋な広告費ではないところからインターネット広告の予算は出ている。実際、既存の証券会社や銀行はより積極的に広告宣伝費を増やす方向にあり、けっしてインターネット広告がマス広告のシェアを食っているということではない。

女性向け広告の増加

女性向けサイト 2つ目は、インターネット広告に特化した話だが、ネット上で女性向けの商品を提供する広告主が非常に増えてきたことだ。通販を含めた流通や化粧品、トイレタリーといった企業だけでなく、クルマや家電も女性向けの商品にインターネット広告を使うところが出てきている。こうした企業は、昨年秋ぐらいまでインターネット広告を実験的にしか使っていなかった。インターネットで、お客さまを獲得していこうという発想がなかった。
 それが去年のクリスマス前後あたりから積極的にインターネット広告投資を、バナー広告という形で始めるようになった。女性向けのインターネットメディア、女性ファッション系のサイトは広告枠がとれない状況が今でも続いている。
 これまでのインターネット広告は男性20代後半から30代の大卒のビジネスマンがターゲットで広告主も限られていたが、インターネットの一般化にともなって、広告主も一般化してきたということだと思う。
 インターネットのプロバイダーの話では、最近の新規加入者の半分は女性だと言うが、携帯電話も含め、女性たちが積極的にネットワークを使いはじめている。この層に対して、きちんとコミュニケーションしていかなければならないということで、今まで主にテレビのゴールデンタイムや昼の主婦番組に広告を出していた広告主が、それも大量にインターネット広告を出し始めた。化粧品やトイレタリーの企業は、広告予算を使うときは本格的に使う企業が多い。テレビの視聴率、新聞の認知率などのデータや広告効果に非常に厳しい企業でもある。それだけに、広告会社としては彼らがインターネット広告に何を求めているかを把握していないといけない。
 これらの企業はインターネットを、情報を送り届けるコストが安いメディアと見ている。マスメディアに比べて、ターゲティングしやすいし、レスポンスも高い。広告効率が高いメディアと見ている。
 また、見込み客データベースをつくりやすく、1回つかまえた顧客とコミュニケーションを図ることも容易なメディアというとらえ方もしている。カスタマーリレーション・マーケティングの手段として非常に使いやすいし、コストも安いと認識し始めている。
 同時に、広告会社やメディアが通常提案してくる従来のマスメディア中心のメディアプランは本当に妥当かという議論も始まっている。
 インターネットに対してマスメディアをどう位置づけていくか。もしくは科学的に効果のあるメディアとしてマスメディアを広告主にどう訴えていくのか。広告会社も真剣に取り組まなければならない。
 その一方で、インターネットの限界も見えてきている。まず、今のインターネットの技術ではブランドイメージの形成、広告としてのインパクトがマス広告に比べて劣る。一回つかまえた顧客を継続してつなぎとめるには効果的だが、商品を全然知らない人にきちんとブランディングしていくには、何千万という読者や視聴者をもったマスメディアが一番効率的だと、広告主も思っている。
 まず、マスを使ったブランディングに勝って、そこでつなぎとめた顧客をセグメントして訴えていく手段としてインターネットを使っていく。そういう使い方が有効ではないかと思っている。最近の動きの一つとして、インターネット企業がマスメディアを盛んに使ってブランディングを始めたと指摘したが、これは今後のマス広告の役割を考えるヒントになるのではないかと見ている。
 従来型の企業だけでなく、インターネットメディア自体も、マス広告を使わないと顧客を獲得できない。たとえば、リクルートのイサイズ、マイクロソフトのMSN、ヤフーも、マス広告を使って実際にページビューを伸ばしており、マスメディア効果が出ている。半期で10億円、20億円の新聞、テレビ広告を出さないと生き残れない状況になっている。そういう面で、既存のマスメディアの優位性は出てくると思うし、すでに先行事例では確認されている。
 それはインターネットユーザーの底辺が拡大しているからで、これまでのように一部の人だけとらえればインターネット事業が成り立つ時代ではなくなったからだ。今は幅広く顧客をつかまえなければいけない時代で、そのための最も効率的なメディアがマスメディアという認識が出てきている。

携帯電話携帯電話とマスの連動性

 3つ目は、携帯電話、この秋から始まるデジタル放送、プレイステーションなどのゲーム機といった新しいメディアの登場だ。コンビニに設置されつつあるデジタル端末も新しい広告メディアとしてどう成長していくか、広告主は非常に興味を持っている。
 中でも関心が高いのが携帯電話だ。インターネットに接続できる携帯電話はドコモのiモード、J-フォンのJスカイサービス、IDOのezウエッブなどを合わせると1,000万台を超えている。それだけのメディアがいきなり登場したのは、広告主にとってもインパクトがある。ヤフーの最大のライバルは、今やiモードになっている。
 インターネットとの大きな違いは、携帯電話はマスメディアとの連動性が非常にいいことだ。新聞広告を見ながら資料請求をするとか、テレビを見ながらクイズに答える。あるいは、屋外で交通広告を見ながら懸賞に応募するといったこともできる。普段身につけているものだから、どこにいても情報にアクセスできる。
 これまで携帯電話の広告は、どちらかというとインターネット広告の延長線上の発想で、バナー広告からスタートしたが、今後はマスメディアと連動させた使い方も出てくると思う。おそらく3年で3、4,000万台は普及する。5,000万台になれば、ほぼテレビの受像機と同じぐらいの普及台数になる。そうすると、たとえば読売新聞の読者の7、8割は持っているという想定でのコミュニケーションができる。マスメディアを強化する手段としても、携帯電話の持つ意味は大きい。

広告会社の新しい収益源

 なぜ、インターネットにこれほど企業が関心を示しているかというと、それだけ企業が広告投資に対してシビアになってきたからだ。これまでの広告は本当に効率的な打ち方をしていたのか。顧客をつなぎ止めていたのか。そういう実質的な効果を指標にした広告宣伝費の使い方を宣伝部が経営層から期待されるようになった。それだけ企業の競争が厳しくなっているということで、その効果的な広告投資に一つの解答を与えるメディアとしてインターネットが注目を集めているのだと思う。
 これはインターネット広告に限らないが、お得意様が広告会社に要求してくるものが、単に広告をつくるとか、キャンペーンのメディアプランを組み立てるというだけではなくて、ある商品のマーケティング戦略全体のパートナーになってくれというニーズが多くなっている。それに対応できない広告会社は要らない。もしくは、従来と同じ手数料を払えないという意識が広告主に非常に強くなってきていると感じている。
 インターネットについても、単にインターネット広告の扱いだけではなく、インターネット・サーバーや顧客データベースの構築、メンテナンス、さらにはeコマースの仕組みの提案まで求められるようになっている。
 広告主は通常コンサルティング会社やIT企業がやっていることまで広告会社に期待してきているわけで、電通がマッキンゼーやIBMと競合するというこれまでには考えられないことが実際に起こっている。
 これはまた、広告会社とこうした企業との激しい人材の引き抜き合戦という事態も招いている。
 今後も電通にとって、媒体手数料がコアの収入源であることに変わりはないが、われわれの局が考えているのは、広告宣伝費以外の予算を広告会社の新しい収益源としていきたいということだ。今までコンサルティング会社やIT企業に回っていたコンサルティングフィー、システム構築費を何とか新しい収益源にしていきたい。
 こうした新しい競合会社に対する広告会社のアドバンテージは、メディアプランニング、メディアバイイング、さらに言えばシステム構築からメディアバイイングまで全部できることだ。そういうマーケティング分野のワンストップ・エージェンシーを目指したいと思っている。
 インターネットは、部署を超えた協業、コラボレーションがないと、既存の組織だけでは最近の広告主の要求にとても対応していけない。
 以前からメディアミックスという言葉は使われていたが、これまでは媒体間のリンケージはそれほど重要視されなかったし、広告主からそれを強く求められることもなかった。それが、インターネットが出てきて、本当の意味でのメディアミックスが求められるようになってきた。
 新聞社も新聞というコアメディアがあり、それをインターネットやモバイルでも活用するというようにワンソース、マルチユースの時代になってきている。そのなかで効果的なコミュニケーションを図っていこうとなると、従来のタテ割りのメディアの使い方では対応できなくなってきている。

コンテンツが重要な時代に

 ニュースを検索エンジンで見る人が増え、新聞社系サイトの将来に危惧(きぐ)を抱いていた時期があった。その見方が最近変わってきた。今後は逆に新聞を含めたマスメディア系サイトが花開いていくと思い始めている。
 理由の一つは、インターネット、携帯電話の一般化にともなって、普通の人に対してサイトのブランディングを行う必要があるからだ。ブランディングの手段としてマスメディアは一番効率的なのだから、そのマスメディアを持っているインターネットメディアは当然有利になる。
 既存の検索エンジンサイトのパフォーマンスが落ちている理由は、検索エンジンという機能にあるのかもしれない。検索機能が当たり前になって、それが広告媒体としてあまり魅力を持たれなくなってきたということだと思う。
 最近はどちらかというと、テレビや新聞などコンテンツを持っているメディアのバナー広告の方がクリック率は高い。携帯電話でも事情は一緒で、新聞系のモバイルメディアにバナー広告を出すと、非常にクリック率が高い。おそらく滞留時間と情報に対するモチベーションが関係しているのだろうが、情報をじっくり読み込むコンテンツは広告もじっくり見られる傾向がある。しっかりしたコンテンツがあって初めて広告価値が出てくる。携帯電話のバナー広告の動きを見ていると、そういう印象を強くする。
 問題は、新聞社系サイトがそこをどう強化していくかだと思う。インターネットの普及率が10%台の時代と違い、これからは魅力的なコンテンツが広告媒体としての価値を決める。サイトに人を引き寄せるのはニュースであり、スポーツ情報、そのなかでもジャイアンツということになると思う。
 マスに対して魅力的なコンテンツを提供するメソッドが最も蓄積されているのは新聞社だし、そこを活用できれば、新聞社にとってチャンスは広がると見ている。

成果報酬制度は両刃の剣

 バナー広告のクリック率で広告料金を決めるといった成果報酬型の広告が、インターネット広告では出てきている。しかし、成果報酬型には多少疑問を持っている。シェア1位の自動車メーカーが出す広告と無名の中古車販売店が出す広告では、当然反響の出方が違う。また、クリック率が少ないといっても知名率を上げる効果はあるわけで、そこで料金をとらないのは、メディア自らが認知機能の有効性を放棄していることになる。
 逆に広告主にとっても成果が上がり過ぎた場合は、それを全部払えるのかということもあるわけで、両刃の剣になる。成果報酬型の導入にはある程度限界があると思っている。
 ただ、広告効果のデータがバックグラウンドにある広告料金が間違いなく求められるようになってくる。実際、広告主から資料請求などの想定レスポンス率を求められ始めている。こうしたデータは、広告主にきめ細かくヒアリングして経験則を出していくしかない。それに基づいたターゲットに対する予測データを出さないと、広告主が納得してくれなくなっている。インターネットが怖いのは、その結果が明快に出ることだ。

新聞対テレビの第2ラウンド

 今後はメディアもインターネットを活用して広告のレスポンスデータを参考値として持っておく必要があるのではないだろうか。何かあったときに、われわれの推計値ではこうだと言えるのと言えないのとでは、広告主に対する説得力が全然違うからだ。
 インターネットユーザーや携帯ユーザーが増え、定期的な読者リサーチ、広告反響リサーチが非常に低コストでできる時代になっている。読者の反響をとる手段としてマーケティングでITをどう使っていくかということが、これからのマスメディアにも必要になってくると思う。電通でも2万人ほどのインターネット・リサーチ・パネルを持っていて、企業の認知率やキャンペーンの認知率は2、3日あれば集計できる。今後はそれを事前の表現調査などに使おうと思っている。
 デジタル時代を迎えて、マスメディアはどうなるかという議論があることも確かだが、マスメディアは今後ますます強くなってくると見ている。テレビも多チャンネル化がいわれているが、日本の場合はデジタル多チャンネルの定着も時間がかかるだろう。魅力あるコンテンツをつくるには、それなりの制作費が必要になるからだ。結局強いのは依然として、しっかりとしたコンテンツをつくれる現在の地上波テレビ局本体であることは間違いない。
 その前提に立つと、iモードでも、インターネットでも、新聞コンテンツとテレビコンテンツの戦いは永遠につづくと見ていいのではないだろうか。新聞がデジタルメディア時代のなかで、最大のライバルであるテレビ媒体とそのコンテンツをつくる集団とどう戦っていくのか。その第2ラウンドが始まるのではないかと最近は感じている。




広がるメディアの選択肢/www.jaa.or.jp <広告主の立場から>へ→

インターネットの本質から見た常識のウソ/www.infoseek.co.jp <ポータルの立場から>へ→

読売新聞が無料プロバイダーサービスを開始へ→
もどる