特集 2000.07/vol.3-No.4

デジタルテレビ登場!
テレビの競争が変わる
 東京キー局5局はそれぞれ衛星放送会社を設立して、12月からBSデジタルの無料放送を始める。視聴率競争でしのぎを削ってきた各社は、テレビのデジタル化にどう取り組もうとしているのか。また、広告媒体としてBSデジタルの特性をどうとらえ、どのような媒体に育てようと考えているのか。ビジネスから見たBSデジタルについて、日本テレビ放送網とビーエス日本(BS日テレ)に聞いた。
 
 「今までのテレビは横をにらんだ競争です。他局がどういう枠を取って、どういう企画を当ててくるかを見ていればよかった。それがこれからは縦、時代の先を読む競争になる」。そう語るのは日本テレビメディア戦略局の久保伸太郎局長だ。ハイビジョン、双方向サービスがデジタルテレビの特色と一般的には言われているが、テレビのデジタル化で変わるのはハードとしてのテレビだけではない。「デジタル時代は、視聴率だけの競争ではない。より広い視野で収益を上げる方向にテレビの競争が変わる」

本格化するデジタル化時代への対応

 今後の放送行政のスケジュールは、テレビの完全デジタル化に向けて一気に進む。今年12月のBSデジタル本放送にはじまり、2003年には東京、大阪、名古屋地区で地上波がデジタル化、現在のアナログBS衛星に代わる新BSデジタル衛星が2007年に打ち上げられ、2010年には地上波アナログ放送が終了する。
 こうしたテレビのデジタル化で、テレビ局の競争原理はどう変わるのか。日本テレビが重視しているのは、コンテンツと双方向サービスの開発だ。
 日本テレビでは、『コンテンツ事業局』をこの6月の組織改革で立ち上げている。テレビ局にとってコンテンツが重要になってきた背景には、CSデジタル、今回のBSデジタル、3年後の地上波デジタルなどテレビ自身の多チャンネル化もあるが、放送と通信の融合というもっと根本的な変化もある。今でもニュースはテレビから、インターネットから、そしてiモードからでも得ることができるが、ブロードバンド時代になればこれがさらに加速する。次世代の携帯電話では動画も扱えるようになる。
 「放送局の資産であるコンテンツをどう考え、つくり、売るか。コンテンツのマルチユースを考える時期に来ている」と久保氏は語る。
 また、双方向サービスについては、技術、制作、営業など社内横断的にスタッフを集めた『デジタルデータ放送双方向サービス開発プロジェクト』を立ち上げ、研究を進めている。このプロジェクトで重視しているのは「技術的に可能なことと、それが事業として成り立つかどうかはまったく別だ」という視点だ。
 地上波テレビで視聴者は、40年以上もビールを飲みながら、あるいは寝ころんでテレビを見るという視聴習慣を身につけてきた。視聴者を引きつけ、事業としても成り立つ双方向サービスの開発は、技術だけの発想からでは生まれてこない。その第一歩が、今回のBSデジタルということになる。

BS最大のセールスポイント双方向サービス

BSデジタルのテレビ放送事業者 デジタル放送の双方向サービスとは何か。民放のBSデジタル各社はそれを手探りで探している。
 将来的にはテレビすべてがデジタル化し双方向になるとは言え、BSデジタルの当面の、そして最大のセールスポイントになるのが、データ放送と呼ばれる双方向サービスだ。BSデジタルのデータ放送はこれまでの地上波のデータ放送に比べ高速なため、インターネットと同程度の動きや画質で表示される。
 データ放送は、独立型データ放送と番組連動型データ放送の大きく2つに分かれる。
 独立型データ放送は、テレビ放送とは関係なく自由にアクセスして見ることができる。天気予報やニュース、株価データのサービスなどが考えられている。放送本体とは別免許で、日本テレビでは読売新聞社などとともに、日本データ放送という別会社に番組を供給する。
 番組連動型データ放送は、さらに番組そのものと連動するタイプとCM連動型の2つのタイプに分けられ、BS日テレ本体がサービスを提供する。
 番組そのものと連動するタイプのデータ放送では、たとえば、情報番組で紹介している店の地図やメニュー、料理番組のレシピを表示したり、スポーツ中継で選手の対戦データなどをチェックすることができる。
 CM連動型は、文字どおりコマーシャルの詳しいデータの表示、懸賞などの応募、資料請求などをその場で行えるサービスだ。視聴者から送られた情報は、広告主にではなく、テレビ局に届く仕組みになっている。
 データ放送で視聴者がデータを放送局に送るためには電話回線が必要になる。デジタルテレビにはモデムが内蔵されていて、これを電話回線につなぐことになる。

視聴者データベースを持つ放送局

 「BSデジタルに意欲的なスポンサーは、別のメディアではできないことにトライしたいというニーズがものすごく高い。BSデジタル放送でではなくて、データ放送でどんなことができるのかという質問がほとんどです」。BS日テレ業務部の末吉現史氏は、データ放送に対する広告主の関心の高さを指摘する。
 データ放送には裏側にもう一つ仕掛けがある。デジタルテレビやチューナーを買った時点で、実は視聴者に各データ放送の利用の有無とあわせて家族の情報などを登録してもらうことになっている。どの局のデジタル放送を利用するかは視聴者の自由で、登録しない局の双方向サービスは受けられないという仕組みだ。
 こうした仕組みがあるためBSデジタルでは、詳しい属性を含めてだれが見ているのかというマーケティングデータも、テレビ局が取ろうと思えば取れることになる。視聴率だけではなく、今後はどのデータ放送の登録者数が多いかの勝負にもなるかもしれない。視聴者データベースという部分での商売も、将来的には考えられる。
 地上波は番組提供とスポットCMの2つで成り立っているが、BSデジタルはデータ放送を効果的に使う意味合いからも、番組提供を中心にセールスをするというのがBS日テレの考え方だ。
 「当初は視聴率競争ではないですから、BSデジタルという新しいメディアにいち早く番組提供している企業というイメージ的な使い方が向いていると考えています。しかもデータ放送も番組枠の間ずっと流せるので視聴者も利用しやすい」(末吉氏)。スポット広告の場合、15秒のスポットに15秒だけデータ放送を流しても、視聴者がアクセスする間がない。まず1社提供、それが無理なら2、3社の共同提供をメーンに当面は番組提供企業を募っていく方針だ。

ニュースを中心に据えた番組編成で

 BSデジタルは放送開始当初は、極端に言えば受信機ゼロからのスタートだ。多チャンネル化でソフトの調達も簡単にはいかない。BSデジタル放送が軌道に乗るまで365日の放送枠をどう埋めるか、各局とも同じ悩みを抱えている。それだけに知恵の出しどころでもある。
 日本テレビでは現在CS放送で「NNN24」という有料の24時間ニュース専門番組を放送している。BS日テレはスタート当初、これをベースにした番組編成を予定している。民間のリサーチ会社でBSデジタルに期待する番組を調べた結果では1位が地上波で昔やったドラマの再放送、2位がニュースだったという。
 BSデジタルは全国放送だが、見方を変えれば、これまでの地上波の系列局を経由しないで全国放送ができるということでもある。BS日テレでは、ローカル局の取材協力が必要なニュースを番組編成の中心に据えることで、こうした問題を乗り越えようとしているように見える。また、これまで地上波の料金ではCMが打てなかったローカルのスポンサーもBSなら全国放送ができるわけで、BSデジタルは系列ローカル局の『モアチャンネル』でもあるというのが、BS日テレのスタンスだ。
 番組編成で一番力を入れているのが、「逆Lゾーン」と呼ばれるプライムタイム、ゴールデンタイム。平日は夜7時から11時だが、土日は昼からの時間帯だ。BS日テレでは、ニュースを番組編成のベーシックな部分に据えるが、逆Lゾーンの柱にはスポーツを据えることも考えている。
 「地上波のこの時間帯はスポーツにとってあまりいい環境ではない。BSという新たなチャンネルが増えたことで、これまでじっくり放送できなかったスポーツも、ゴールデンタイムにゆっくり見てもらおうと考えている」と末吉氏はいう。ゴルフ中継ならトーナメント初日から、全国高校サッカー選手権なら地方予選まで含めた放送も考えられる。

テレビとしてのアイデアと技術をリンクさせる

BS日テレ BS日テレは制作部門は持たない。「制作プロダクションは日本テレビです」と末吉氏が言うように、6年連続視聴率4冠王の放送局がBS日テレの発注を受けてくれるというのも、セールスポイントの一つになっている。
 制作部門のないBS日テレのスタッフは現在、総勢34人。仕事は兼務が基本で、末吉氏自身も広報と番組編成を担当している。最後に、末吉氏に変化の真っただ中で働いている率直な感想を聞いてみた。
 「今は過渡期です。テレビとしてのアイデンティティーに対するこだわりもありますが、それだけにこだわっていたのでは置いていかれてしまうという危機感が同時にある。デジタルは技術的にはさまざまなことができるが、あれもできる、これもできるというインフラになったときに、初めて本当にやりたいことができるようになると思っています。自由度が膨らむからこそ、面白いアイデアや企画が実現できる。技術とテレビとしてのアイデア、それがうまくリンクしていかないとダメだと思っています」



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