特集 2000.06/vol.3-No.3

企業にとっての危機管理
PR会社の新たな業務
 PR会社というとパブリシティーの会社とイメージする人がまだ多い。本来、PR、パブリックリレーションズとは、消費者と企業、株主と企業といった利害関係者のコミュニケーションを図るのが仕事だ。危機管理が注目される中で、PR会社はどういう役割を果たそうとしているのか。電通パブリックリレーションズの田中正博専務取締役に聞いた。
田中氏――1996年に電通パブリックリレーションズに社名変更した背景から。
 当社は来年で40周年を迎えます。大手では最も古いPR会社になりますが、逆にいうと日本のPRプロデュースの歴史はまだ40年しかないということです。しかし、30年、40年の社歴の会社が多くなり、業界全体の層の厚さや経験も増して、ようやく日本でもPR会社がお得意様やメディアに認知されてきた。電通PRセンターという名前で35年間やってきたわけですが、急激な企業環境の変化とPR会社そのものの成長がちょうどあいまって、35周年を期して、PRの本来の語源であるパブリックリレーションズに変えたということです。
 PR会社がPR会社としての本来の役割を果たすべきだという認識は以前からありましたが、当社のサービス機能が必ずしも名が体を表すまでに至っていなかったのが実はスタートからの30年間だったと思うのです。それが10年前ぐらいから、企業とパブリックとの間で、さまざまな問題が出始めてきた。

危機管理はトップマター

――具体的には?
 環境問題、消費者問題、訴訟問題、人事問題、国内の法改正や国際的な法律問題など、従来のマーケティング中心の考え方ではうまくいかないコミュニケーションの問題が出てきたということです。
 例えばリストラも、経営者がどういうふうにビジョンを示し、どういう手順で、従業員や関係先、地域社会に対して説明していったらうまくいくか。工場閉鎖一つを取っても、対応によってはさまざまな問題が出てきます。また、お客様への対応も通常は消費者担当窓口の仕事ですが、まかり間違うとトップマター、正に経営の問題に直面する時代になってきた。社外、社内を問わず、さまざまなコミュニケーション活動が非常に重要な経営機能の一つになってきています。
 当社にも、企業の役員会に危機管理の話をしに来てくれという依頼が増えています。昨年、平成11年が21社、今年も1月から5月までですでに12社ある。経営問題を論ずる役員会で危機管理の話をするのは、これまであまりなかったことです。企業のトップ自らが危機管理に強い関心を持ち始めている証拠だと思います。
 昔はトカゲのシッポを切り、今はそのシャッポを切る時代といわれているそうですが、何か問題があると、とにかくトップ自身が緊急記者会見の場に出ざるを得ない。そういう時代になりました。

――トップの役割が広がった?
 トップマターというのは、企業全体のイメージや信頼感にかかわることです。もともと企業は技術者集団であり、販売促進も専門部門がある。採用は人事部、訴訟なら法務部がやります。一方、企業の信頼感とイメージ、株価にかかわるトータルな問題はトップマターになる。そういう意味で、株主対策、消費者対策、従業員対策、地域住民対策、あるいは官公庁対策もトップマターになってきている。コミュニケーション機能が企業の重要な機能の一つとして必要だという認識がかなり強くでてきた。
 トップに求められるコミュニケーション機能とは、端的に言えば、テレビカメラに向かってビジョンや問題をきちんと説明できるということです。
 私どもがよく感じるのは、これまで社内や業界内では通用してきたことも、今の社会や海外では通用しないケースが増えてきたことです。不特定多数の人々にも理解され、納得感を与えられる説明でないと、コミュニケーションは成り立ちません。

PR会社の業務領域変わるPR会社の役割

――PR会社の役割も変わってきた?
 PR会社の業務は、当社の場合でも6割ぐらいはメディアリレーションズです。つまり、パブリシティーや記者クラブとのリレーション活動をサポートすることです。これがお得意様とメディアとの間に位置して、両方の立場でコミュニケーション活動の円滑化を図るPR会社の基本的な業務です。スタートからそうでしたし、今後も永遠に続く基本的な機能、PR会社のコアコンピタンスです。これは、たぶんどのPR会社に聞いても認識は同じだと思います。
 それをベースにして、次のステップの課題解決型業務のキャリアを積んできたPR会社が増えてきているわけです。企業は所属する業界のことはわかっていても他の業界のことは意外と知らない。PR会社は非常に広い業界と接点がありますから、あちらの情報とこちらの情報をドッキングするなど、課題解決のための企画提案ができるわけです。ほとんどのPR会社が4、5年前からこの方向にウエートを移しています。それは30年ぐらいのキャリアを経てきた会社が増えてきたことと無縁ではないと思います。
 そして今、PR会社の業務として重要になってきているのがコンサルティング業務です。
 お得意ですらどうしていいかわからない、まったく経験もないケースが起きた場合に、解決に向けて道筋をつける。これがPR会社のコンサルティング業務です。

――PR会社は、パブリシティー会社というイメージを持っている人が多い。
 メディアリレーションズとパブリシティーという言葉が日本では混同されてきたこともあると思います。メディアとPR会社の接触がパブリシティーから始まったことが原因です。要するに、お金のかからない広告の代替から始まった。PR、パブリックリレーションズの仕事は、説明がなかなか難しい。それで無料の広告といえば一番わかりやすいし、ビジネスになるということで続いてきたわけです。では、なぜ社名まで変えて、パブリックリレーションズという言葉にこだわったかといえば、「関係」ということが業務の中心的な考え方だからです。関係があれば、そこにコミュニケーションがある。パブリックリレーションズとは何かといえば、一口に言うとコミュニケーションです。

――メディアとの関係も変わってきた?
 記者は世の中の最先端にいて取材活動をし、ニュースをかぎ分けている。感覚的に今はこうだということが一番わかっている。我々のお得意様である企業が置かれている社会がどう変わっていくかも、肌でわかっている。そういう記者たちと、双方向での話し合いができるような状況になってきたと思います。
 企業側のニュースを記者に提供するだけではなくて、逆に今起きている事件に関して記者はどう考えているか。あるいはマーケティング戦略に対して、記者はどう見ているのかを知ることも重要になってきている。それをお得意様にフィードバックしていくことも、先ほどのコンサルティングの仕事につながると思っています。

社会からの受容が基本

――コミュニケーション戦略はどう立てていくのですか?
 社説や論説に限らず、ほとんどの記事に数行「これは今後急速に業界に影響を与えそうだ」などの記者の評価が出ています。我々は日常的に、その問題に対して記者がどういう見解を持っているのかという視点から記事を見ています。記者とのフェースツーフェースの話に限らず、新聞、雑誌の記事、テレビのニュースを、実はそういう視点で見ている。それが仕事です。報道されたニュースから、PR会社の目でもう少し普遍性のあるヒントをつかむ努力をしている。
 それをさらに、お得意様と顧客の関係、同業者との関係、あるいはコミュニティーの関係などの視点からきちんと分析をします。
 そうすると、当然そこに何が社会から受容(パブリックアクセプト)されるか、目標とすべきゴールが見えてきます。そのゴールを目指してどういう戦略・戦術が可能か。戦略・戦術というのは、コミュニケーションの場合は結局、社会からの受容がベースです。それをより効果的に行うための方法を、今度は戦略的に編成していくということになるわけです。
 だから大方のPR会社は、経営トップとの接点を持っている。

――PR会社には、トップのためのメディアトレーニングがあると聞いています。
 非常に人気があります。これはトップが記者会見などでメディアのインタビューを受けるとき、よりわかりやすい適切な言葉で成果を伝える話し方のノウハウです。今はそういう技術的なことも含めて、コミュニケーションの方法を経営トップがマスターしなければならない。トップの話す能力が非常に大きな影響力を持ちます。トップの発言が株価にまで影響を与えかねない時代ですから。

――アメリカ的になってきましたね。
 日本はPR後進国といわれていますが、私の実感ではほとんど遜色(そんしょく)ないと思っています。なぜならば、日本とアメリカではメディアの事情も違えば、会社の帰属意識、消費者の意識、宗教・風俗も違う。ただ、日本人は同族だし言葉も同じだから、アメリカほどコミュニケーションの努力をしないできたという経緯がある。ところが今や年齢が3、4歳違うと何を言っているかわからないと言われる時代です。日本も言語は同じでもわかりやすいコミュニケーションがないと、うまく機能しないという面がでてきた。
 メディアトレーニングの受講も、アメリカの大企業では、役員クラスの必須になっている。つまりそれは職務上当たり前のステップなのです。それが、日本ではこれまで当たり前ではなかったということです。

危機管理体制3つの課題と施策

見えない危機管理

――実際の危機管理はどのように行われるわけですか。
 危機管理には、平常時と緊急時、収束時の三つがあります。危機発生時の対応は修羅場ですから、間違えたこととか憶測はいえない。非常に慎重になります。そうすると、我々のような専門部門があるところに、いろいろなところから依頼がくる。

――現在のような企業の危機管理が行われたのは、いつごろからですか。
 今思うと「グリコ・森永事件」ですね。現在でも危機管理のお手本とされています。あれが、危機管理の最初の例だと思います。
 ただ、危機管理については、私どもは外向きには営業活動をしたことがない。なぜならば、守秘義務もあるし、事例がいえないからです。それで、いつも概念的な話になってしまうわけです。PRの話がわかりにくいのはこういう理由もある。
 広告は、露出することが目的ですから、戦略・戦術が表面に出てくる。表向きのターゲットと本当のターゲットが違う場合もあるが、テレビCMにしろ新聞広告にしろ知らしめるためにある。コミュニケーションは、例えば、ここでこういう言動をした方がいいとか、話の順番はこの方が効果的だとか、そういうことがノウハウです。だから、見えにくい。

――PR会社と企業との関係も変わってきている。
 代行型の仕事をしたときのお得意様からのねぎらいの言葉は「ごくろうさん」です。お金をいただいているという意味でも「ごくろうさん」が普通です。それが、コンサルティングになると、判断に迷っている、あるいは解決の糸口すらわからないことが多い。そうすると「おかげさまで」という言葉が返ってくる。
 従来のPRは販売促進のためのPRで、代行型だった。それが今は、パートナー型が増えてきたということだと思います。



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