特集 2000.04/vol.3-No.1

広告をするということ
 最近、広告に元気がなくなったと言われている。広告の力、コピーの力はなくなってしまったのか。かつて広告の時代と言われた時代があった。そのころと今とでは何が変わり、何が変わらなかったのか。企業にとって広告とは何か。広告の時代を築いてきた二人のクリエイターの対談から探る。
――クリエイティブから見て、80年代の広告と今の広告の違いは何だと思いますか。
 糸井
 確かに、鑑賞用の広告、「広告作品」という考え方でとらえたときには、非常につまらなくなっているよね。俳句や短歌を楽しむようにコピーを楽しむという意味では、広告は明らかに後退している部分がある。以前、コピー年鑑のタイトルで「一行の力」というのがあったけど、今はそのコピーを置く環境も含めた一行の力が重要になっている。当たり前のことだけど、そこが今の広告が置かれている重要なポイントだと思う。広告自体が広いところに入っていかざるを得なくなって、デザイン、イラストレーション、コピー、ひとつひとつの仕事が単体で力を発揮できるわけじゃないのが、よくわかるようになってきた。環境全部を整えながら仕事が進んでいくようになってきているのだと思う。

――その原因というのは?
 糸井
 情報が神経回路みたいなものだとすると、それが発達していったら、自然にそうなる。つまり、情報の量が圧倒的に多くなるわけだから、神経回路が複雑になっていくみたいに情報網が張りめぐらされていく。同時にそこに流される情報も増えていく。でも、一人の人間が受けとめる情報量には限りがあるから、選択していかざるを得ない。神経衰弱でトランプをばらまいたときでも、どこにあるか覚えていたら開けるけど、覚えていなければ開けないわけで、そういう状況で広告を見てもらうためには、表現だけではなくて、目立つところに置くことや、いつ置くか、どうやって置くかといったことが重要な戦略になる。広告戦略が、戦略の外側の戦略をどうするかというふうに重層化してくるんじゃないかと思う。そういう意味では広告は進化している。

クライアント以上の広告は作れない

――クライアントとクリエイティブの関係も変わってきた?
 糸井
 西武百貨店の仕事をしていた時代の自分が恵まれていたと思うのは、決裁者が堤清二さん一人だったことですね。決裁者が一人ということは細かいチェックリストを持っていないということで、この広告にはこういういいところもありますが、こういう傷もありますという作り方で提案すると、傷がある部分をわかっていて了承してくれた。そうすると、広告に個性が出る。
 仲畑 どんなに頑張ってもクライアント以上の広告は作れないしね。最近の広告を見ていると、「買ってくれるな!」と言っているような表現がいっぱいある。
 でも、作っているスタッフを見ると、そんなにひどいメンバーじゃないんですよ。お金を出すのはクライアントだから、言うこと聞かざるを得ないということでしょう。いろいろなチェック機構があってコンコン削られて、魅力のないものになる。以前はクライアントともっと距離が近かったね。
 糸井 同じだったんだよね。
 仲畑 これだけ経済が停滞すると、どうしても守り……自分だけはクビにならないようにと思う人がいて(笑)、結局、ハンコを押してもらいやすい表現を取ることになるでしょう。
 糸井 画廊に絵が並んでいたとすると、今は数字で評価して、どれを買うか決めてくれという状況に似ている。それにマーケが使われる。
 お客さんがこの広告案に何ポイントあげたからいいとか、この絵が人気があったとか。「調べた限りはこうだからぼくには責任ないんですけどね」というかたちで上に上げていくから、そのプロセスで広告がダメになっていく。みんながいいと言うものは絶対つまらないよね。
 仲畑 表現ってチョイスすることだからね。百本コピーを書いて、これでいこうと決める。それがぼくらの仕事じゃないですか。それを「当社の女子社員に聞きました」なんて言う。「じゃあ、女子社員が作りゃいいじゃないか」ということになる。
 外資系企業がいいのは、売りたいという意識があって、広告を信用している。ちゃんとした広告をやれば、ちゃんとモノが動いてくれる、もしくは利益が上がるという考え方だから、話がものすごくストレート。
いとい しげさと いとい しげさと
1948年群馬県前橋市生まれ。七九年東京糸井重里事務所設立。西武百貨店「不思議大好き」「おいしい生活」などのコピーで一躍脚光を浴びる。一方、八九年にエイプ設立後ゲームクリエイターとしても活躍。98年6月からインターネット「ほぼ日刊イトイ新聞」を発行。アクセス数は六十万を超える日も。
なかはた たかし
1947年京都市生まれ。仲畑広告制作所、仲畑広告映像所主宰。TOTO、サントリー、ソニー、AGF、JR九州、岩田屋、シャープなどの広告キャンペーンを手がける。広告賞として、TCC賞、ADC賞、カンヌ国際広告映画祭金賞ほか、あらゆる賞を総ナメにする。
なかはた たかし
 糸井 外資のほうが、やりやすいよね。ダメならダメで、それを選んだんだったらしようがないやって思える。
 仲畑 自分の趣味、好みじゃなくて目的があってやってるから、はっきりしてる。効果がどこかであると信用している。
 糸井 要するに、平均的な情報を平均的に流しても、情報洪水の中だからカードが取れないということで、決裁者が一人だとチェックポイントは少なくなる。リスクをコストとして考えられる。たくさんの人が決裁すると、運動もできないとダメ、勉強もできないとダメ、気立てがよくないとダメっていうふうに、どんどん追加して評価されたい情報が増えていく。
 そうすると、今の若い人の言葉で言うと、「キャラ立ち」がしなくなる。単純にいえば個性がなくなってしまうから、広告がつまらなくなっていく。ただ、小さくなった企業のキモッタマを無理やり人工的に大きくするやり方もある。
 仲畑 臓器移植、キモッタマ交換。
 糸井 そう。今のある種のエリートが広告管理をしているようなシステムの中では、そこも必要だと思ったら臓器移植するよね。決裁者をあえて一人にしようとするシステマティックな取り組み方も一部では出てくると思う。例えばアップルコンピュータはジョブスが全部コピーのチェックをしている。コピーライターと一緒に、しょっちゅう会って考えている。Think Different ができるまでに、一年とか二年の間しょっちゅう会ってたという。それはある種、昔に戻ったやり方だと思うんだよ。そういうふうになっていく可能性はある。
 仲畑 以前は企業に金が潤沢にあって、「広告でもやっとけ」という気分が好きなものを作らせてくれた。ある種つまらないセーブがなかったから、今よりは伸び伸びとしていたっていう、それだけでしょう。
 要するに、ぼくらを利用してくれていた。だけど、「利用してる」と意識していたわけじゃないのね。だから、売れなくなると広告のせいにする。それが一番簡単だから。そうすると、もっとモノのことをしゃべれとか、商品を大きくしろとなる。別に悪いとは思わないけど、それがチャーミングかどうかだからね。

売り方を考える人すべてがクリエイター

――広告にお金をかけると売れますか?
 仲畑
 売れますよ。ただ、コストがどこまで合うか。ちゃんとやれば売れるけど、広告で売れたっていう実感を持っているクライアントが少ないんだろうね。だって、経済が停滞したら広告をカットするというのは、広告の効果を認めてないってことじゃない。じゃあ調子いいときもやめなよっていうのよ、はなから。
 糸井 でも、小さい会社は広告で売れたという実感を持つよね。知名度は上がるし、売り上げも何倍にもなったりするから。
 仲畑 二十歳になっても背を伸ばせと言われている商品と、赤ちゃんでかわいい商品との違いで、それは何倍にも伸びる。
糸井&仲畑 糸井 アップルにしたって、ユニクロにしたって、もともとは小さかった。
 仲畑 企業の中でも商品のサイズがあって、その中でもちょっと端に置かれているような商品で魅力的なものをやるのはやっぱり面白い。レスポンスがはっきりある。そういう端っこに置かれた商品を広告で持ち上げて、「広告って、ほら、こんなふうに」という実感を持ってもらうといいね。
 そういう商品だと、さっきも糸井君が言ってたけど、表現だけじゃなくて、その前の流通に対するアイデアとか、パッケージに対するアイデアとかいろんな発想もできる。だから、売り方の工夫を持つ人をみんなクリエイターと呼べばいいわけ。
 例えば、銀の鈴があって、それが売れないといっていた時に、パッケージをチマチマと江戸千代紙にすればとげぬき地蔵あたりでバアさんに売れる。イヌ、ネコのところに持っていくと首輪に付けて使う。チェーンを変えれば若い子が買うわけだし、鈴がまだ製品で商品化していないモノが多いんだよ。
 糸井 うまいこと言わはりまんな。鈴っていうのがいいな。
 仲畑 まかせてよ。漫然と並べていても、それは製品であって商品になってない。同じようなものが企業の中にもいっぱいあって、そういうところも含めて考えるのが面白い。ただ表現でボコンと一行のせてモノが動くというのは、まったくの幻想で無理だよね。

組織を変えるのは結局は人

――そのアイデアや発想の元になるものは何ですか。
 仲畑
 少なくともマーケティングのデータを見て広告を作ったことはない。三十二年この商売やってるけど、一回もないな。
 糸井 明日のものを作っている時に、今聞いた答えは意味はないから。
 仲畑 発想を持ったマーケターっていうのがいれば、その人はいわゆるクリエイターと呼べるんだろうけど。
 糸井 でも、時々いるんだよ、それが。そうすると、そいつとだけ仕事したくなる。
 仲畑 単なるデータの分析じゃなくて、そこにアプローチの方法とか、発想を持っているとか。
 糸井 ナイスなマーケターって、分析に絶対にアイデアが入ってる。そうすると彼はクリエイターなんだよ、やっぱり。オレは職人だからとか、ワイングラス片手にみたいな世界はもう通用しない。
 代理店でも本当にいい営業はある到達点が見えていて、そこに持っていこうとするよね。
 仲畑 セールスマンでも優秀な人は、以前からクリエイティブしてたわけだからね。同じような人間が車売ってあれだけ販売台数に差が出るのだから。それは、そこにクリエイティビティーがあるからで、やっぱり発想だよね。結局、組織が発想するわけじゃないから、そういう人が適所にいることが必要なんだね。それが一番言えるのはトップの認識だけど。
 糸井 ひとりの野球選手がチームを変えるっていうこともあるわけだから、そこに期待しますよね。
 仲畑
 あれだけいるんだから、いるはずだよ。

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