特集 2000.02/vol.2-No.11

逆工場とは何かーモノづくりからの再出発ー
技術から見た環境問題の難しさ
Jun Fujimoto
1955年生まれ。広島大学大学院環境科学研究科修了。日本電気に入社。現在の主な研究は、環境負荷の評価と環境にやさしいものづくりの手法。工学博士。
 
 NEC資源環境技術研究所は1973年に公害防止技術研究所として設立された。最近は同様の研究所を持つ企業も少なくないが、当時は非常に珍しかった。それだけに教科書のない中で環境技術と取り組んできた歴史がある。社会と環境技術とのギャップ、インバース・マニュファクチャリングの可能性をNEC資源環境技術研究所の藤本淳研究マネージャーに聞いた。

――当時の公害防止研の研究はフェライト法から始まったということですが。
 トランジスターやICなどのデバイスをつくる時にはたくさんの化学薬品を使いますが、その廃水の中にいろいろな重金属が含まれている。それを取り除くのにフェライト法という処理方法を発見した。発見者によると通信機のフェライト(磁性材料)の技術を廃水処理に応用した。廃水の中の有害な重金属をフェライトで包み込んで、磁石でくっつけて取るという技術です。
 そうすると、スラッジというフェライトの粉、副生フェライトがたくさん出てくる。それを再利用できないか。私が入社したのは、そういう問題が出てきたころです。

廃水処理からリサイクルへの転換

NEC 資源環境技術研究所
 NEC資源環境技術研究所のホームページ。今回紹介できなかった最新の研究成果やネットワークLCAシステム、グリーン製品設計サポートツール、インバース・マニュファクチャリング製品環境情報システムなども見ることができる。
http://www.labs.nec.co.jp/rel/
――廃水処理からリサイクルへの発想の転換があった?
 廃水をきれいにするのはフェライト法で解決できた。その結果たくさんゴミが出たら、それはほんとに環境にやさしいといえるのかということから、それをもう一回何かに使えないかというリサイクルの考え方が出てきた。
 廃水処理でできる副生フェライトには磁石にくっつく磁性という性質がありますから、例えば道路に敷いて磁気誘導路をつくり、無人で車を走らせる。大きな橋は電磁波が反射してゴースト現象を起こしますが、副生フェライトを全面にはって電波吸収材に使えないかとか。ステルス機の理屈です。それからプラスチックに混ぜて振動や騒音防止に使えないかとか。さまざまな応用を考えていった。

――それでうまくいった?
 そこで言われたのは、「利用するにはトップクラスの性能でないといけない」。性能が劣っているものを、リサイクル製品だからといって買ってくれるわけではない。
 性能が劣っても安ければいいが、新規素材の価格は当時からかなり安い。価格が同じなら、性能を出さなければいけない。そういう問題をずっと考えてきたわけです。
 しかし、性能が劣る素材を使って、今あるものより性能を出そうとしますから、技術力は非常に上がる。それで、その技術がいろんなところに使えるようにはなった。

――それが80年から85年ころ?
 ええ、私の専門は振動ですが、リサイクルの研究を始めるまではその専門家ではなかった。だから、リサイクルのために新しい技術をものすごいスピードで勉強していった(笑)。ここにいるほかの研究者も同じです。まず、リサイクルをしなければいけないという目的があって、リサイクルをする時どういう方法があるか。だから技術オリエントではなくて、ニーズオリエントだった。
 ニーズ志向で技術を育てた。今度はその技術で社内の事業に貢献できないかという期間が、5、6年あったように思います。

専門技術がそのまま生かせない環境問題

――90年代に環境問題が社会的な問題になってからの一番大きな変化は何ですか。
 資源環境技術研究所のミッションが真剣に問われたことだと思います。
 それまでは、フェライト法の再利用をやる部署という認識のされ方だった。逆に言えば、それ以外の環境問題はあまり顕在化していなかった。フェライトの研究でニーズ志向の研究をずっとやってきて、やっと技術が一人前になった。それが急に地球温暖化対策になった。
 地球温暖化対策のための技術開発といってもいろいろな側面が考えられる。化学、物理、生物など多方面からの研究が必要になってくる。研究者が現在持ってる技術領域をそのまま生かせるのか。「またニーズ志向の研究に戻るのか」という思いはありました。
 研究者にとっての環境問題の難しさは、技術のバックボーンは皆それぞれあるが、それを素直に生かせるようなものではないということです。

――体系化された環境技術は世界のどこにもない?
 多分ないでしょうね。研究者は個々に得意分野で基礎的なデータは持っている。振動・騒音の専門家、電磁波の専門家、いろいろな専門家がいる。従来の研究は、自分の技術分野があって、その範囲の中で、例えばデバイスだったら「これを高性能にしよう」ということをやるわけです。
 ところがリサイクル技術はそれほど単純ではない。リサイクル技術と半導体の製造技術の難しさを比較した場合、皆さんリサイクルの方が簡単だろうとイメージされると思います。しかし、リサイクル問題をほんとうに解決しようとすると、社会システムまで踏み込まないと解決できない。法律を変えますか、教育を変えますかというところまで行かないといけないわけです。

従来のビジネスの限界と「逆工場」の発想

――逆工場という発想は元からあったのですか。
 NECでは「逆工場」という言葉は使っていませんが、やってきた道筋は吉川先生が提唱していることと同じだと思います。それで素直に受け入れられた。

―― 一般に技術者にとって逆工場の考え方は受け入れにくいものなのですか?
 モノをつくっている人にとっては、そういう面があるかもしれません。例えば逆工場ではリサイクルよりもリユースを重視する。しかし、家電製品のリユースはビジネス上できないと考えてしまう。

――というのは?
 リユースするためには、今つくる製品に何度も使える仕組みを入れておかないといけないわけです。将来のアップグレードのために基板を1枚入れる、コネクターを余分に付けることになる。将来的にこれはいいと皆さん納得したとしても、今はコスト高になります。最近の企業は単年度の業績で評価される。リユースの対策費用は将来の費用です。例えば、5年後に100億円の費用が削減できます。しかし、今年の利益は確実に30億円減ります。皆さんどちらを採りますかということです。

――逆工場の実現も現実問題として難しい?
 しかし、逆によくお聞きするのですが、今の製造業はバラ色ですか。今のビジネス形態でこれから成り立つと思いますか。

――行き詰まってますよね。
 原因の一つは、ユーザーニーズが多様化してきたことがある。昔は売れるだろうと思うものを大量につくれば、買っていただけた。横軸に機能、縦軸に生産台数をとれば、ある機能のところにピークがあって、そのピークの製品をつくっていれば企業はもうかった。
 ところが今は、どこにターゲットを絞っても売れない。これまでの少品種大量生産が、今後は多品種少量生産に変わる。これは間違いない。
 今までの企業に何が欠けていたかというと、それはユーザーの声、ニーズを把握する機能です。富山の薬売りのように各家庭を回って「体調はどうですか? この薬はどうですか?」という発想は今までの企業にはなかった。これからはユーザーのニーズを把握しないとビジネスは成り立たないと思うのです。ビジネスは環境問題を抜きにしても、そういうふうに変わっていく。

QCDの管理ができないリサイクル品

――それが逆工場とどうつながるかということですが。
 われわれはリサイクルを生産工程だと思っています。鉱山から鉱石を採って精錬して、金属をつくる。その鉱山の代わりが、都市に捨てられているモノだと考えれば理解できると思います。よく「都市鉱山」という言い方をしますが、リサイクルの行為は、鉱山から鉱石を採って金属をつくる行為とまったく同じです。ほんとうの意味のリサイクルは生産工程なのです。
 資源、素材を購入する時、製造業はクオリティー、コスト、デリバリー(納期)のQCDで管理する。ある期日内に一定の品質のものを一定の量納めてください。それは、相手がリサイクル品であっても同じです。製造業から見れば、自然の鉱山から採った素材も都市鉱山から採った素材も同じことです。ある時期に、ある量、ある品質のものがいるわけです。
 リサイクルがなぜ回らないかというと、QCDの管理ができないからです。リサイクル品も新規部品や材料と同じに扱わなければいけないのに、従来のシステムはそれを考えていない。

――リサイクルでは品質や量の管理ができないということですね。
 コストを下げるためにはある量が必要になる。それを手でやるのは効率的ではないから自動化するというのが生産工程の発想です。ところが、従来のリサイクルの考え方は逆で、集める前に、装置があればコストが下がるという発想に立っている。
 品質という点で言えば、リサイクルでも腐らないものは管理されていなくても回ります。例えば金属です。ところがプラスチックは劣化が起こる。機能部品も機能が劣化しますから何らかの管理が必要です。大切に使われてきたのか、雨ざらしにされてきたのか、回収されてきてから分析しようとすると途方もないお金がかかる。
 結論からいうと、売り切りのもの、特に一般ユーザー向けの製品のリサイクルを考えると高度なリサイクルはできないということになる。量はそろわない。質はバラバラ。QCDの管理ができていない。唯一可能性があるのは腐らないもの。これはストックしておける。国や自治体が強制回収をやれば量は増える。だからマテリアルリサイクルはある程度できる。

売り切り商品からレンタル・リースへ

――逆工場の「モノを売るのではなくサービスや機能を売るべきだ」という考えは、そこから出てくる。
 ハードウエアはもうレンタル・リースでいい。ものが欲しいというのは、戦後の数十年にできた価値観であって、われわれはテレビ番組を見たいだけでテレビ自体は自分のものでなくてもいい。だから、そういう発想のビジネスができないかということです。   
 レンタル・リースにとって必要なことは、お客さんのニーズを先に把握することです。  

――それが富山の薬売りの話につながる。
 富山の薬売りと逆工場をうまく結びつければ新しいビジネスが起こって、メーカーも利益が上げられて、ユーザーにとってもうれしい時代になるのではないか。
 例えばパソコンを買う時に、初心者でも一番いい機能の商品を買おうとする。それは買ったら当分は買い替えできないからです。しかし、レンタル・リースなら初心者コースから中級者コースへと、すぐ変えられるようなシステムが可能になる。

――レンタル・リースなら管理できる。
 キーワードは「管理」です。いつごろ、どれくらいの品質のものが、どれくらいの量あるかがわかれば、それは使える。しかし、売り切りの商品ではユーザーがいつ捨てるかわからない。
 リサイクルの発想では動脈系・静脈系とか、順工程・逆工程といいますが、逆工場の発想はすべてが順工程、生産工程です。われわれはよく環境負荷評価、リサイクルがどこまで環境にやさしいかという評価をやります。鉱石から金属をつくった時と廃製品からつくった時のどちらが環境負荷が小さいかという比較です。逆工場の発想ではその区別はない。すべてが循環を前提にした生産工程だからです。
 今までの大量生産、大量消費、大量廃棄のままでもビジネスが右肩上がりならレンタル・リースに切り替えることは不可能かもしれませんが、そのビジネス自体が変わろうとしてる時だからチャンスでもある。
 また、現状の生産・販売システムで家電リサイクル法が施行されたらそれはさらにはっきりすると思います。今のリサイクル法ではリサイクルの費用はユーザー負担になっていますが、メーカー間の競争が起きて、仮にその費用がメーカー負担になると膨大な費用負担になる。
 この二つの要因から、逆工場はかなり進むと思っています。

環境にやさしい製品を具体的にとらえる

■環境テアダウンの評価項目

1.製品の印象
(1)製品の印象 (2)使いやすさ
2.梱包の印象
(1)梱包箱の印象 (2)開封した印象
3.信頼性
(1)梱包:緩衝効果(高さ10cm)落下時に製品に加わる加速度g(製品筐体(きょうたい)、液晶パネル)
(2)筐体:LCDパネル破壊までに必要な荷重(上蓋(ふた)の1点に作用)
(3)電磁波:*放射妨害波電界測定(イミュニティー)、*放射電磁界、*直接放電、*間接放電、*ファーストトランジェント
4.梱包材の廃棄/還元
(1)プラスチックの使用量(発泡(はっぽう)材含む)(g)
(2)廃棄/還元に関する表示
  *梱包、*発泡材
(3)段ボールのリサイクル
  *古紙利用率、*リサイクル
5.製品の環境表示
(1)本体 (2)マニュアル
(3)電池 (4)プラスチック筐体(材料表示)
6.易解体性(構造はシンプルか)
(1)解体時間(秒)
(2)解体性(解体時間/部品点数):(秒/個)
(3)電池の取り出し時間(秒)
(4)ネジの使用量(本)
7.ハウジングのリサイクル
(1)複合化の有無 (2)メッキ/塗装の有無
(3)除去すべきインサートナットの数
(4)射出成形の条件
(5)リサイクル品の曲げ強度(リサイクル品/基材)
8.埋め立て/焼却時の有害物
(1)有害物の含有(定性評価)
  *ハウジング、*基盤・電子部品
(2)溶質された有害物(定量評価)
  *ハウジング、*基盤・電子部品
――話は前後しますが、90年代に入ってから環境テアダウン、解体評価をやられていますね。
 93年ごろに製品アセスメント(※)ということが言われ出した。製品アセスメントとは、製品をつくる時に環境に影響を与える項目について評価することです。
 製品の環境負荷を下げろといわれても、製品アセスメント評価は内容が抽象的だった。リサイクルやリユースのシステムができている製品はいいですが、売った後のシステムが明らかでない時に、「環境にやさしい製品」と言われても分からない。
 それで、NECを含む7社のノートパソコンを購入して解体評価を行うことにした。これはリサイクルする、これは粉砕して埋めると自分たちなりにシナリオを作り、何が環境に影響するかを考えて、実際に評価をしていったのです。その時に製品の印象、使いやすさといった普通はあまり環境に関係ないような項目も一緒に評価した。われわれはそれも環境に関係があると見ていたからです。多機能製品は故障も非常に多くなる。製品の環境負荷評価をやる時にも、そういうところからチェックしないと、ほんとうの環境影響評価はできない。
 製品アセスメントの中には「有害物質を使っていませんか」という定性的な項目がありますが、われわれは製品を実際に粉砕して埋め立てを想定した時にどんな物質が出てくるかまで評価した。各社のノートパソコンの梱包の段ボールを製紙会社に送って、もう一回再生しようとした時どういう問題があるかまでやった。
 研究所の専門領域が違ういろいろな部署の人にそれぞれ評価してもらって、それを一つにまとめた。「これが研究か」という批判もありました。

※製品アセスメント
 製品の設計段階において、製品が与える環境影響を部品・材料調達、製造、流通、使用、リサイクル、廃棄処理等の各段階で評価し、必要に応じて製品の設計変更を行い、環境への影響の低減を図ること。ライフサイクル・アセスメント(LCA)は、製品アセスメントの評価項目を定量化したもの。


――技術立国の研究者、技術者としては、そんな“低レベル”の研究は許せない?
 欧米でも多分一緒で、環境技術の難しさを象徴していると思います。環境技術は一つの狭い技術だと思われがちですが、従来の技術全部を包含したような技術領域が実際は必要なわけです。

――環境テアダウンの後の94年7月、易解体/リサイクル性評価ソフトウエアの開発をされていますね。
 なぜそういう発想になったかと言うと、テアダウンはそこにある製品をばらして評価したわけです。それを設計の段階でやろうとしたらどうなるかという発想です。
 最初目指したのは、実際の製品をばらしたのと同じような評価をコンピューター上でできないか。できた製品は今の技術で評価できますが、つくる前に製品を評価するという話です。その時にソフトウエアがいるだろうということで作った。その時に分かったのは、膨大なデータを持ってこなければいけないと言うことです。リサイクル技術もあるし、関連法規もある。

――設計図の部品の環境負荷を評価する環境データベースの構築には苦労されたということですが。
 代表的部品で使用されている材料についてはアメリカのデータベースから持ってきています。今までは企業秘密だったのが、共有されるようになってきた。今でも企業秘密はあります。しかし、これからだんだんオープンになっていく方向にはあると思います。

――環境対応が企業の評価の基準にもなってきました。
 LCA、ライフサイクル・アセスメントがだんだん定着してきましたから、リサイクルをやった場合とやらない場合の環境負荷の評価ができるようになっています。今までは「われわれの会社は環境技術を研究しています」とアピールすればイメージで受け入れられた。しかし、ほんとうに環境への負荷を下げていますか。投資額に比べて十分な効果が得られていますかという点では疑わしいものも多い。もう時代が変わっていて、これからはきちっとした評価をベースにした活動をやらないと世の中に受け入れられない。環境活動で投資家が企業を選択するエコファンドがありますが、そういうものが成熟してくると、「あなたの企業はどれだけ環境に負荷を与えているのですか」「どれだけ対策して、どれだけ環境を改善したのですか」というようなことを問われる時代になってくるだろうと思う。

逆工場をいかに魅力的なビジネスプランにするか

――改めてお聞きしますが、環境問題の難しさとは?
 環境問題は個人の頭で問題設定できるような狭い領域ではない。問題設定自体が、ある意味マスコミの報道によってなされているところがある。環境技術の専門家が「リサイクルはこれだけ深刻なのか」という問題を改めてマスコミからもらっているところがある。それは、どこまでいっても環境技術が社会と不可分だからです。
 また、環境問題を解決するシステムを本気でつくろうと思ったら、企業の体制まで大きく変えなければいけない。社会の構造がガラッと変わるようなことを、ほんとうにできるのかという難しさがある。

――だれが始めるのか。
 国が一回そういうシステムを根付かせて、民営化するみたいなことをやらないと根付かないかもしれない。国の規制によって動かすのは、やろうと思えばできる。
 それを自然な流れでできないかというのが、われわれの考えです。今の大量消費、大量生産方式がビジネス的に成り立たなくなるというところから、いかに逆工場が魅力的なビジネスプランになるか。今考えているのは、リサイクル、リユースのためにではなくて、これだけのサービス提供のためにこういうシステムを提案しますというビジネスプランなのです。



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