特集 2000.02/vol.2-No.11

逆工場とは何か  技術立国日本の製造業は、これまで新製品を開発し、より効率的に生産することで成長してきた。それが今、資源枯渇、廃棄物処理、地球温暖化といった問題にどう対応するかが求められている。こうした中で登場してきたのが「逆工場=インバース・マニュファクチャリング」だ。それは、消費に対する従来の意識やライフスタイル、これまでのビジネスのあり方に変革を求める考え方だ。今回の特集ではこの「逆工場」の考え方と、すでに実践している富士写真フイルム、NECの取り組みを紹介する。
「逆工場」という考え方
Yasushi Umeda
 1964年生まれ。東京大学大学院工学系研究科卒。95年同大学講師を経て、99年から東京都立大学大学院工学研究科助教授。92年「自己修復機械設計方法論」(博士論文)。94年、"Development of Self-Maintenance Photocopiers"でThe 8th Innovative Application of Artificial Intelligence を受賞(米国人工知能学会)。インバース・マニュファクチャリング・フォーラムの主要メンバーの一人。工学博士。
 
逆工場とはモノづくりの新しい考え方だ。
 吉川弘之・前東京大学学長が十年前に提唱したこの考えは、産官学の共同研究へと発展し、1996年12月には「インバース・マニュファクチャリング・フォーラム」が組織された。フォーラムには大学関係者、国立研究所、自治体、通産省と四十二の製造業を中心とした企業が参加している。
 共同研究で次第に明らかになってきた「逆工場」の考え方を一言でいえば「循環生産」ということだ。
 今回はその背景を、一貫してプロジェクトに携わってきた梅田靖・東京都立大学大学院工学研究科助教授へのインタビューを通して整理してみた。


ゴミ処理発想のリサイクルの限界

 逆工場は「水も生物も世の中の安定系はすべて循環系でできている。しかし、現在の製造業は自然を掘って使ってそのまま捨てる構造で、循環を成していない。製造業に欠けているのは循環という発想だ」(梅田氏)というところから出発している。
 資源枯渇問題や廃棄物問題を解決するためにリサイクルは重要だと言われている。来年四月に施行される家電リサイクル法(※1)への対応から工業製品のリサイクル活動も盛んになっている。しかし、今の大量生産方式のままリサイクルを推し進めていくと、いくつかの問題が生じる。
1)現在のリサイクルは回収された廃製品を粉砕し、金属やプラスチックを取り出すマテリアル・リサイクルが中心で、家電やパソコンなどの高付加価値商品には向かない。
2)リサイクル品の価格はバージン品との比較によって決まるため、不安定になりやすい。また、その供給量も一定しない。
3)リサイクル品は一般的に品質が低下する。しかも、価格や供給量が不安定でリサイクル品を有効に利用する使い道を常に見つけられるわけではない。
 実際、ペットボトルの回収量が増える一方で、その再利用が進まず問題化しはじめている。その理由はリサイクルがゴミ処理の代替手段になっているからだ。ゴミ処理の発想から脱却して、あらかじめ循環を前提にしたモノづくりを考えていかないと、根本的な問題の解決はできないということになる。

※1 家電リサイクル法
 特定家庭用機器再商品化法。テレビ、冷蔵庫、洗濯機、エアコンの4品目を当面の対象として2001年4月から施行される。メーカーや輸入業者に製造した製品の引き取りリサイクルを義務づける制度で、必要な費用はメーカーが製品ごとに決め、引き取る際に消費者から徴収できる。


逆工場からインバースへ

 「インバース・マニュファクチャリング・フォーラム」が組織される前、「逆工場」は東大を中心とする大学内で理論的な基礎研究が進められていた。「逆工場」が「インバース・マニュファクチャリング」と呼ばれるようになったのは九四年ごろだ。その理由は「『逆工場』という建物を建てると、どんなゴミでも処理してくれ、素材に戻してくれるイメージが強い。そうではなく、生産システム自体が変わることを強調するために『インバース・マニュファクチャリング』という言葉に変えた」という。
 実はインバース・マニュファクチャリングという概念が生まれる前から先進的な企業では同じような発想に立った活動が行われている。それがフォーラムの発足で一つの概念としてまとめられ、より広範囲に適用可能な理論にまで深められつつある。
 インバース・マニュファクチャリングの好例として引き合いに出されるのが、富士写真フイルムのレンズ付きフィルム「写ルンです」と富士ゼロックス、リコーの複写機だ。「写ルンです」については今回の特集で紹介している。
 富士ゼロックスでは九五年から、回収された複写機の部品をリユース(再使用)した新商品の製造を始めている。
 リース期間が終了した複写機はメーカーである富士ゼロックスに回収されるが、まだ部品としての寿命を十分残しているものもある。この回収された複写機を部品レベルに完全に分解し、再使用可能なものを洗浄・修理・検査などのリサイクル工程を経て新商品の部品として使用しているのだ。リユース部品の複写機は、現在カラーコピー機を含め三十二機種が商品化され、商品パンフレットには部品リユースの商品であることを明示している(富士ゼロックス資源循環型商品認定ラベル)。

循環生産という考え方

インバース・マニュファクチャリング この「リユース」という考えがインバース・マニュファクチャリングにとっては重要になってくる。リサイクルではなくリユース(再使用)を重視し、使用済み製品をゴミと考えずに資源として考える。市場に出ている製品を「部品倉庫」とする考えだ。
 インバース・マニュファクチャリングの基本的な考え方は図のようなものだ。従来のリサイクルは、ペットボトルを衣類のフリースにするように別の製品にリサイクル(カスケード・リサイクル)していた。インバース・マニュファクチャリングでは同一の種類の製品を回収・再生させ、また製品化するという形で循環させる。そこで可能な限り循環させ、使えなくなったもの、リサイクルした方がいいものは別の製品ライフサイクルに回し、最終的には燃やしてエネルギー源とするか、廃棄するというものだ。
 しかし、循環生産といったときに常に積極的な反応が返ってくるわけではない。「循環生産は回収ルートが明確な製品、複写機や『写ルンです』以外はできないといわれる。そうではなくて、循環生産は設計や管理の仕方、ビジネスのやり方を変えれば、どんな製品でもできる」。それを見せたいというのが梅田氏の夢であり、フォーラムがこれまで追求してきたことでもある。

循環を前提にした設計と管理

 循環生産の「循環」とは何かといえば、製品の一生、製品ライフサイクル全体の面倒を見ることだ。
 回収された製品全部がリユースできるかというと、そうではない。リユースできる部分もあれば、リサイクルしたほうがいい部分もある。そうした製品のライフサイクル全体を把握した設計やマネジメントが必要になる。
 循環生産が現在の多くの製品に適用できない理由は、循環を前提にした設計になっていないからだ。数年使ったら捨てることが前提の設計であり、売り方になっている。
 では、循環を前提にしたら設計や売り方はどう変わるか。
 設計でいえば、生産、販売、使用、保守、回収、再生産というライフサイクルプロセスをどうつくるか。製品の構造や機構、使用素材などもリユースに適した設計にする必要がある。また、最近はライフサイクル全体で環境負荷や資源・エネルギー消費量を評価できるライフサイクル・アセスメント(LCA)(※2)が企業に定着してきたが、単に製造工程だけでなく製品ライフサイクル全体の環境負荷、経済性を考慮した設計も必要になる。
 「製品のライフサイクル全体をどのように設計者に見せるかは、非常に難しい課題です。現在の設計者はいかにコストパフォーマンスのいいものを作るかというプロフェッショナルなのです」
 生産技術者や環境部門の人たちがチームを組んで、設計者にフィードバックする仕組みがないといい循環製品はできない。
 循環生産のもう一つの難しさがマネジメント(管理)だ。個人や家庭向けの製品の場合はその管理状態がわからない。回収された製品の状態によって後工程は変わってしまう。それを一つ一つ調べていたのではコスト的に見合わない。だから、粉砕してマテリアル・リサイクルに回してしまえということになる。
 そこで生まれてきたのが、「ライフサイクル・マメネジメント」。製品の販売から再生産までを適切にモニタリングしようという考え方だ。例えば、複写機業界の一部では機器の状態をオンラインでモニタリングすることがすでに行われている。これによってメーカーは、ユーザーへの適切な保守サービスの提供や製品アップグレードの推奨、使用済み製品の迅速な回収手配などのサービスを提供している。
 ホームオートメーションなど今後の「情報化」の進展で家庭で使われている製品もオンラインでモニタリングする時代が来るかもしれない。しかし、パソコンや家電品をメーカーが管理することが実際問題として可能なのだろうか。

※2 ライフサイクル・アセスメント(LCA)
 生産から消費・使用、廃棄まで、製品のライフサイクル全体を通して環境への負荷、資源・エネルギー消費量を定量的に把握し、評価する手法。1997年6月にはその概要がISO-14040として発行されている。循環生産の場合、LCAでは物質やエネルギーのバランス、経済性などを評価することが難しいため、インバース・マニュファクチャリング・フォーラムでは独自の手法開発も行っている。


ライフサイクル産業への転換

逆工場の本 そこでビジネスの転換をすべきだという考えが出てくる。モノを売るのではなく、その機能、サービスを売るという考え方だ。それはレンタルやリース、あるいはその発展形という形を取るかもしれない。個人や家庭向け商品もこうした形を取れば、必ず回収されるし、管理が可能になる。
 「モノからサービスへの転換」といっても、もちろん製造業から流通業などへの転換という意味ではない。製造業からライフサイクル産業への転換ということだ。ライフサイクル産業はモノの循環生産を続け、製造したモノで消費者にサービスを提供する。
 その延長線上には、故障した製品を修理するサービス、ソフトウエアによるアップグレードサービス、使用済み製品のアップグレードサービスなど、さまざまな新しいサービスの展開も考えられる。  
 消費者に「環境問題のためにモノを買い替えるな」というのはナンセンスだし、産業全体が衰退する。重要なのは消費者の満足であり、その満足のためには必ずしもモノを所有する必要はない。モノを中心とした新しいサービスが提供されればよいのではないか。工業製品には所有する満足感もあるが、パソコンは快適に動くこと、電話機は通話ができればいい。見た目の美しさも、サービス体制さえ整えば日替わりでデザインを変えることもできる。
 こうした考えは同時に、これまでの消費に対する考え方やライフスタイルの変革も求めることになる。ビジネスにも生活にも価値の転換が求められ、マーケティングや広告のあり方も当然変わってくることになる。
 インバース・マニュファクチャリングの考え方は以上のようなものだが、実現のためには課題も多い。
 「今まで大量生産の現場での逆工場はほとんどない。そこから循環生産システムに移行するのはかなりの困難が伴う。コストもかかるし、一社だけやってもあまり意味がない」。こうしたこともフォーラムでは議論されているが、まだ明確な結論が出ているわけではない。インバース・マニュファクチャリングの実現のためには、社会全体の合意や理解が必要になる。
 「ある意味で、家電リサイクル法が循環生産の引き金になるのではないかと思っています。この法律は引き取り義務をメーカーに負わせている。ヨーロッパでは地方自治体に引き取り義務を持たせている。メーカーが直接引き取るということは、インフラとして逆流通をやるということで、ものすごく大変なことです。また、消費者もお金を払って、リサイクルにはコストがかかることを身をもって体験する。それは今後の社会にとっても大きな意味を持っている」
 九〇年代に入ってからの日本は長いトンネルの中にある。技術立国日本を支えてきた製造業も自信喪失状態から抜け出せないでいる。インバース・マニュファクチャリングは後ろ向きの環境対策ではなく、ビジネスチャンスとしての循環生産であり、日本を支えてきたモノづくりの新たな出発点になるかもしれない。



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