特集 1999.12/vol.2-No.9

新聞というメディアを考える
メディア再編は始まっている
1932年生まれ。早稲田大学第一法学部卒業。日本経済新聞社に入社。経済部記者、ワシントン特派員などを経て、71年テレビ東京に出向。同社副社長から91年テレビ愛知社長、97年会長。98年から現職。近著に『マスコミビッグバン』(木本書店)。
 
 来年には関東広域の地上波デジタル試験放送が予定され、十二月にはBSデジタル放送が始まる。テレビは具体的日程としてデジタル化への対応が迫られている。一方、マードックに代表されるように、グローバルな世界では巨大資本によるメディアの再編が起こっている。こうしたメディア環境の変化と新聞の対応を『マスコミビッグバン―メディアを襲うデジタル革命』の著者でテレビ愛知相談役の國保徳丸氏に聞いた。

――日本企業は大きな再編の波にさらされています。マスメディアにも同じ状況が来るとお考えですか。
 デジタル化時代を迎える放送業界だけではなく、新聞業界、雑誌業界にも電子化の問題が起こっています。広告業界にも外資が参入してきている。金融業界で財閥系列を超えた再編まで起こるとは二、三年前は想像できなかった。恐らくそういうことが、新しい世紀を迎えるときにマスコミ業界でも起こる可能性はゼロではないと考えています。

集約化、広域化されるテレビ

――具体的には、どういう変化があると。
 これまで、経済の順調な発展で総広告費は一時的なマイナスはあったが、傾向としては増え続けた。また、戦後民主主義が定着して、戦前のような言論に対する弾圧もなかった。日本語という共通言語や識字率の高さ、日本人自体が情報に強い関心を持つ民族であるなどマスコミ業界は好条件に恵まれて発展してきた産業だと思うのです。なかでもテレビは電波メディアの特性なのでしょうが、非常に効率的だということで高収益産業として高い利益率を維持してきた。 
 それが今後は、地上系ネットワークとBS放送三チャンネルのほかに、民放キー局が中心になって立ち上げたBSデジタル放送の五チャンネルが加わる。地上波のローカル局も今百二十局くらいある。CS放送も約三百チャンネルがスタートし、それにケーブルテレビが加わる。いずれデジタル化で数百チャンネルが流れ出す時代が来るわけです。
 ところが、今までのような高い経済成長が望めないとなると、広告費のパイは大きくは増えない。デジタル化のための多額な設備投資と、多チャンネル化による戦国時代が到来しておのずと低収益産業になっていく。日本にそれほど多くのチャンネルが必要なのかという議論はともかく、経営的な面でテレビ局間の提携や合併などの集約化や広域化の動きが出てくると思います。

――メディアの再編はテレビから起こる?
 それが五年後になるか十年後になるか。もちろん、そうならないかもしれない。ただ、テレビ、ラジオなど関西の八社が共通のオンライン広告を流すサービス「関西アドネット」を始めるなど今まで考えられなかった動きも出ている。

欧米で進むメディアの巨大化

――メディアに対する外資系資本の参入については、どうお考えですか。
 基本的には悪いことではない。というのは、欧米のメディアの流れはメガメディア化の方向に向かっている。全民放の売り上げは約二兆五千億円で、ソニー一社の売り上げとほぼ同じです。小さな資本で世界の動きに対抗できるかということがあります。
 例えば米国では今年の九月にバイアコムが、三大ネットワークの一つCBSを買収した。その買収金額は三百四十四億ドル、四兆千二百八十億円です。米国のマスコミで史上最大の買収劇と言われた。

――米国のメディアは三大ネットの時代からすっかり様変わりしている。
 今、米国のメディアで一番大きいのは、アドエイジ誌(一九九八年)によるとタイム・ワーナーです。地上波のテレビも持っていますし、映画会社のワーナー・ブラザーズ、ケーブルテレビのCNNとHBO、出版ではタイムを持っている。そういう総合的なメディアです。
 二位がAT&T。米国最大の電気通信会社ですが、ケーブルテレビ第一位のTCIをすでに買収し、さらに第二位のメディアワンを買収した。その結果AT&Tが米国のケーブルテレビの六割を押さえることになった。デジタル時代は通信と放送が融合する時代です。ケーブルテレビを通じて電話もインターネットも放送もできる。二十一世紀最大の放送メディア、そして通信メディアになるといわれています。
 三番目がCBSを買収したバイアコムです。CBSはもともとウエスティングハウスの子会社でしたが、九月にはバイアコムの傘下に入った。なぜ傘下に入ったかというと、バイアコムはパラマウントという映画会社を持っているからです。

――映画会社を持っているからというのは?
 コンテンツです。番組の制作会社と放送のインフラとが垂直合併をしているわけです。四位のウォルト・ディズニーも一九九五年にABCを買収した。映画会社を持っていないのは五位のNBCだけです。しかし、NBCもゼネラル・エレクトリック社の子会社になっている。
 ヨーロッパでもマードックのBスカイBがドイツのキルヒという大きなメディア資本の傘下にあった有料テレビ会社と最近提携した。メディアの巨大化という流れが欧米ではあるわけです。

――メディアが巨大化していくのはなぜですか。
 一つは広告媒体として価値を持つ。それから、資本力が大きくなると競争力が強くなる。メディア同士の競争も最後は資本力の争いです。番組制作も制作費をたくさん注ぎ込んでいい番組を作った方が視聴率も高くなる。大きな映画会社を持っていれば、ケーブルテレビにも地上波にも衛星でも流せる。そういう意味で、競争力が断然違ってくるわけです。
 オリンピックやワールドカップなどの放送権もどんどん値上がりしている。しかし、それらのキラーコンテンツを押さえられないと競争に勝てない。
 また、欧米ではケーブルテレビやインターネットが非常に大きなメディアになってきているという事情もある。アメリカ・オンラインには今二千万人の加入者がいると言われている。インターネットの巨大化に対抗する意味でも、従来のメディアは巨大化していかなければならない。   
 そういう世界的な潮流の中で、日本だけやや孤立した感じが否定できない。

日本のメディアにも外資の波

――マードックが一時テレビ局の株を取得し、その後手放していますが。
 まだ日本に本格的に参入する機が熟していないと考えたのだと思います。日本には日本語という壁がある。欧米ならば英語でそのまま放送できるわけです。

――日本は世界のメディア再編の動きとしばらく距離を置いていられる?
 マードックもいずれヨーロッパでの地盤を固めた後参入してくるでしょうし、すでにAT&Tは日本のケーブルテレビに実質的に参入しています。

――というのは。
 日本にはケーブルテレビを統括するMSO(※)が三グループあります。一つはジュピターテレコムで、住友商事が六割、米国のTCIが四割出資しています。このTCIはAT&Tの傘下に入っている。もう一つがタイタスコミュニケーションズで、東芝と伊藤忠、タイム・ワーナー、USウエストの四社が合弁で作った会社です。タイム・ワーナーは二五%の株を持っていたが、それをUSウエストに売り渡した。そのUSウエストを最近メディアワンが買収した。メディアワンがタイタスコミュニケーションズの五割の株を占めたわけです。ところが、先ほど言ったようにメディアワンをAT&Tが買収した。要するに日本に三つしかないMSOの二社の大株主にAT&Tがなる。将来ケーブルテレビが日本に普及して大きなインフラになったときに、AT&Tは日本の市場を押さえることができます。

※MSO (multiple systems operator):複数のケーブルテレビ局を運営する事業者のこと。TCI(Tele-Communications)社が米国最大のMSOで、約700局のケーブルテレビ局を経営し1200万世帯を超える加入者を抱えている。米国で100万世帯以上の加入者を持つMSOは十数社ある。 93年に郵政省がケーブルテレビの規制緩和策を打ち出し、日本でも大手商社を中心にジュピターテレコムとタイタスコミュニケーションズの二つのMSOが誕生した。96年にはトーメンが米コンチネンタル・ケーブルビジョンと第3のMSOシティー・テレコムを設立している。

新聞の情報収集力を生かす道

――そういう状況の中で日本の新聞はどうあるべきだとお考えですか。
 情報技術の進展からいえば当たり前の結論になると思います。新聞社の情報の収集力、取材力、陣容は日本のマスメディアの中で群を抜いている。社員の四割以上が編集部門で、新聞協会加盟社の中の九十社で二万四千人以上が編集部門に所属している。しかも海外にも相当な取材陣を配置している。そういうメディアはほかにない。それだけの取材能力、情報収集能力を持っているのに、今まではそのほとんどを一日二回の新聞だけに情報を流してきた。有料化など壁はあるでしょうが、それを電子媒体として成り立たせる道を探らなければいけない。
 一方、ジャーナリズムという面から見ると、メディアにマスコミ企業以外の異業種や外資が入ってくる。異業種や外資系資本が入ってきたらジャーナリズムがなくなるとは一概には言えないと思いますが、相当なマルチチャンネル時代になるわけですから、競争が激しくなる。
 新聞以外のメディアは娯楽的な要素が非常に大きくものをいいます。しかし、読者の信頼をなくした新聞は存在意義がなくなる。そういう意味でジャーナリズムをきちっと維持できるのは新聞の特質だし、またそうあってほしいと思います。
 IT革命によって経済構造、社会構造が変わっていくわけですから、その変化に逆らうことはなかなかむずかしい。やはり本当の意味でのリストラ、経営の再構築が新聞社にも必要だろうと思いますし、新聞プラス電子新聞という道をどう切り開いていくかが重要になる。
 メディアの再編はすでに一部では始まっているし、少なくとも、これまでの常識がそのまま通用しなくなることだけは確かだと思います。




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