特集 1999.11/vol.2-No.8

サイバースペースで何が起きているか
問われる広告の本質ーインターネット広告が変える広告の概念ー 広告主協会 Web 広告研究会代表 資生堂  デジタルメディアクリエーション室部長 岩城陸奥氏
 広告主が主導するインターネット広告の研究組織「Web広告研究会」が設立されたのは今年四月一日。日本広告主協会のディジタルメディア委員会の中に設置された組織だが、広告主のほか、広告会社やレップと呼ばれるインターネット広告の媒体管理に特化した広告会社、メディアである出版社、ポータルサイトなども参加し、業界横断的な組織として広告効果指標や効果測定の手法の研究だけにとどまらない幅広い活動を展開している。
 Web広告研究会発足から半年。会の代表であり、資生堂デジタルメディアクリエーション室部長でもある岩城陸奥氏に、研究会の最近の活動状況を聞くとともに、企業のインターネットに対する取り組み、現在のインターネット広告の抱える課題をインタビューした。
 
――インターネット広告と従来の広告との違いは、どこにあるとお考えですか。
 広告のリアクションが瞬間的にわかる点が、今までのマス広告と大きく違う点です。マス広告の場合、どのくらい理解を得たのかを知るには事後調査が必要になる。次の企画をやるときに前回の広告のレポートがまだ出来ていなかったりする。インターネット広告の場合は、リアクションがアクセス数ですぐ分かる。ローデータの集計も非常にしやすく広告展開のスピードが上がってくる感じがしています。

――インターネットにはメディアであり、チャネルであるという特性がありますが。
 広告研究会では今、「いったいどこまでを広告というのか」という基本的なことに立ち返った議論が行われています。
 バナー広告のように広告スペースという考え方を引きずっているものもありますが、では自社媒体の広告は広告なのか。これまで広告は媒体に料金を払って出稿するものだったのですが、インターネット広告はその概念を変える幅広い問題を含んでいます。
 また、広告研究会なのにEC(電子商取引)の問題も知りたいとか会員の関心も幅広い。マーケティングはマーケティング部門、広告は宣伝部と分散していたものが、インターネットでは一体になっている。各社ともホームページの担当はまだ数人ですが、その中で従来のいろいろな部署の仕事をこなしているわけです。

インターネットは別次元の市場

――インターネットを担当する部署は、独立した部署として認知されてきた?
 事態はさらに進んでいると思います。インターネットが登場したころは、これは広報か、宣伝か、みたいな議論が盛んに行われた。それから、企画、宣伝、物流、消費者という流れの一部を置き換える形で企業のインターネット活用は発達してきた。今までのマーケティング活動の一部がインターネットに置き換わったところがあった。
 しかし、インターネットがこれだけ拡大してくると、そこを中心にもう一つ別なドメインが出来つつあるというのが、今の実感です。インターネットが作る空間のなかで、商品企画がありコミュニケーションがあり物流がある。一つの違うレイヤー(別の次元の市場)が出来てきている感じがする。今までの業務とインターネットを比較しようとすると、どうも話がちぐはぐになるのはそのためだと思うのです。

――これまでとインターネットを使った業務は、まったく別だと考えた方がいい?
 従来からある仕事の領域を「アナログドメイン」と呼べば、アナログはアナログで動いているが、デジタルドメインの方、インターネットの方は別の原理で動いている。しかし、インターネットのドメインに入ってくる人が少しずつ増えてきて、ある臨界点を越したという感じがします。

全部門に対応する組織が必要に

Web広告研究会の組織
組織図
 「Web広告委員会には6部会あります。一番重要なのは広告調査部会です。広告効果指標や効果測定の手法を研究している。技術インフラ部会は広告確証、エビデンスをどうやって取っていくかという問題に取り組んでいる。セミナー・フォーラム部会は皆さんに対する情報の還元を考えて定例のセミナーを2か月に1回、フォーラムを年に2回、この12月にもフォーラムをやる予定で今動いている。権利・倫理部会は当然ながらマルチメディアの著作権の問題、それから肖像権の問題を扱っている。国際部会は米国のIAB(Internet Advertising Bureau)やP&Gが始めたFAST(Future Advertising for Stake-holders)という制作者まで含めたオープンな広告研究会との連携を考えています。以上の5部会は専門的ですが、ホームページ活用部会は一種の事例研究を中心に活動しています。始まって半年、具体的な活動は組織を含めて検討中の段階です」(岩城)
――しかし、そうなると企業でもどの部署の人が担当すべきか問題になる。
 一番困っているのはその点です。例えばインターネットはコンピューターを使うからと情報システム部が任される。しかし、情報システム部はコンピュテーションはできるがコミュニケーションはできない。会社からの発信としてとらえて広報が担当すると、ユーザーオリエンテッドにならない。宣伝部は商品のことばかり言いたがり、消費者の本当に知りたいことがよく分からない。そういう部分に少しずつ齟齬(そご)が出てきてインターネットの部署のあり方を見直そうという雰囲気が企業内に出てきています。

――資生堂のデジタルメディアクリエーション室は、その対応のための部署ということでしょうか。
 そういうことになっています。お客様に向けてのマルチメディア化やインターネットによるコミュニケーションなどアウターコミュニケーションが役割です。会社の全部門からの依頼に対応しています。
 はじめデジタルメディアクリエーション室は宣伝部にあったのですが、今はお客様からの質問に答えたりクレーム処理をする「お客さまコミュニケーションセンター」と統合されています。これには、マスコミュニケーションからパーソナルコミュニケーションに少し軸足を移す意味合いも含まれています。

――今年に入ってから、個人のホームページを使った告発が相次ぎましたが。

 この問題でより重要なのは、インターネットで発信された場合の影響力を見誤った点だと思います。インターネットがなかったころは一般の人に知らせる手段はなかった。

――消費者に対する企業対応は、今後どうあるべきだと?
 企業は、一人一人のお客様の声を無視できない時代になってきた。それが企業にとって納得できようができまいが、理不尽であろうがなかろうが、真剣に対応する必要がある時代になったのだと思います。どんなに努力しても企業活動に対する批判があるのはある意味ではしようがない。そういう批判をどう扱っていくかということだと思うのです。
 電話などに対するノウハウは従来からありますが、今後はそれにインターネットのノウハウが加わってくる。「インターネットで公開するぞ」みたいな脅迫も実際ありますが、それは規制しようと思ってもできることではありません。やはり正しい応対をして、納得していただくようなことにしなければいけない。メールの受け答えの言葉遣いといったノウハウもこれからは重要になると思う。もうEメールの数は手紙を完全に上回っていますから。

コミュニケーション力を効果指標に

――Web広告研究会が設立されて半年がたちますが、そもそもの目的は何だったのでしょうか。
 分かりやすく言うと、インターネットに広告を出稿すること自体は別に問題はない。しかし、出稿した後の効果はまだよく分かっていないわけです。例えばバナー広告の効果はクリックスルーで見るべきか認知で見るべきか。これは広告主以外の関係者だけではたぶん決まらない問題です。先ほども言ったように自社媒体としての機能もあるわけで、そういう部分も含んで考えなければいけない。それを明確にしたいという目的から始めたわけです。

――広告研究会で今、課題になっているものは?
 まず問題になっているのは、既存媒体とのコミュニケーション力の比較です。インターネットにはアクセス数やページビューという数字がありますが、それを視聴率や販売部数と同列に考えていいのか。
 既存媒体の効果指標にも問題はありますが、インターネットにはさまざまな数字があり、その統一すらされていない。まず、それをやろうというのが一つ目の課題です。
 また、インターネットは見ている深さが従来のメディアとは違うという実感があります。これを指標にできないかと考えています。まだ「例えば」という言い方しかできませんが、どのくらいの人にどのくらいの深さで伝わったかを「数×深さ」で表すようなコミュニケーション力の指標がいるのかなと思っています。

――バナー広告から順に押さえていくのではなくて?

 バナー広告をやっている広告主はパソコンメーカーやインターネット関連のハイテク系が多い。出すことによってインターネット全体が盛んになるわけだからそれは即ビジネスにつながります。
 問題は、われわれのような消費財メーカーです。直接インターネットでもうかるわけではない。インターネットの媒体としてのさまざまな機能を使いたいメーカーです。そのためには、媒体としての機能を測るコミュニケーション力というような総合的な指標がほしいということなのです。

――広告効果以外で検討されていることはありますか。
 いわゆるエビデンス、広告確証です。きっかけはテレビのスポット広告の間引き問題です。バナー広告は大丈夫かという話が出てきた。バナー広告は比較的やりやすいので解決に向かっていますが、提携ページなど少し特殊な広告の場合は今のところカウントしようがありません。研究会には技術に詳しい人も多いので、方向性は出てくると思いますが。

マス広告発想が効かないインターネット広告

――インターネット視聴率調査を行う会社が今年になって登場してきました。
 非常にいいことだと思います。ただ、今までの媒体と違って企業も自社媒体のホームページを持っているわけで、われわれ自身も調査ができる。その点がテレビの視聴率などとは違うところです。
 また、モニターの取り方で結果は全然違ってしまう。今までの広告効果は視聴率何%という確率です。インターネットを見に来る人は意図的に来るわけですから、そういう意味で今までの確率という考え方でモニターを取るのが果たしていいのか。

――モニターのサンプリングがランダムで客観的なものならいいわけではない?
 例えば、資生堂のホームページを見に来る人はすでに化粧品に関心がある人ですから、関心がある人の認知率は常に100%になります。化粧品に全然関心がない人はまったく見に来ない。
 テレビだと、その商品に全然関心がない人も見ることは見る。新聞もそうです。ですから、そういう意味で、今までの確率的な効果調査のやり方をそのままインターネットに適用するだけでいいのかという疑問は持っています。

――今までのマス広告では低関与な人に対して興味を持ってもらうプロセスが重要だったと思うのですが、インターネット広告ではそういうことを考えても無駄だと。
 そういうことです。そのへんが、余りにも今までのものと土台が違うのでなかなか理解されにくい点です。

インターネット広告が本物になる時

――今後インターネット広告はどのようになっていくとお考えですか。
 テレビの場合、民放はコマーシャルを載せている代わりに受信料は無料です。インターネットは広告が載っていても接続料や電話代は取られている。有料なのです。これはやはり不思議だと思わないといけない。それを広告主がどう負担していくのかという問題が次に出てくると思います。
広告主が接続料を負担することによって自社の広告を優先的に見てもらう。その時にインターネット広告は本物になる。今は単に表示しているだけで、個人的には広告とは思っていません。
 広告主が接続料なり、インターネットのインフラの費用なりを持つようになったら真剣になります。それはテレビの視聴率といっしょですから。

――将来的にWeb広告研究会は中立非営利団体をめざしているということですが。
 まだ決めていません。ただ、ECも切り離せませんし、これだけ大きくなってくると広告研究会でいいのかという問題は当然出てきます。しかし、インターネット自身の変化がものすごく激しいので固定化した組織は合わない。割と自由に変われて、なおかつ機能する組織。これは課題ですが、場合によっては、実際には会ったこともない人同士がメールなどを使いながら一種のグループとしてフレキシブルに機能する。そういうバーチャルな組織もあり得るかもしれないですね。




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