特集 1999.11/vol.2-No.8

サイバースペースで何が起きているか
何が測定可能なのかーインターネット視聴率調査の現状と可能性ー ネットレイティングス代表取締役社長 萩原雅之氏
1961年、宮崎県生まれ。リサーチャー歴 15年。日経リサーチ、日本経済新聞ヨーロッパ社(英国)、リクルートリサーチを経て、現在インターネットオーディエンス測定のネットレイティングス株式会社(www.netratings.co.jp)代表取締役社長。コミュニティー活動として、97年から登録者2000人を抱える「Internet Survey Mailing List」(www.surveywatching.com)を主宰。科学的ネットマーケティングの確率を目指す。
 
 インターネット視聴率調査を行う米ネットレイティングス社や日本のトランス・コスモスなどが出資して設立されたネットレイティングス(本社・東京都港区)が九月十六日、日本でのサービスを十二月から開始すると発表した。米ネットレイティングス社の調査手法を日本でも導入し、ウェブのマーケティングデータを広告主や広告会社に提供する。 
 ネットレイティングスの「インターネット利用動向サービス」は、インターネット利用者のパソコンにウェブの利用動向を追跡するソフトをインストールしてもらい、収集されたデータを分析・提供するものだ。こうした方法を「オーディエンス測定法」という。従来はホームページへのアクセス数と利用者の性、年齢、職業などのプロフィルの把握が主だったが、ネットレイティングスの追跡ソフトは、個別のバナー広告の露出やクリック状況、EC(電子商取引)サイトでの購入状況まで把握できる。
 インターネットの利用動向の分析にはこの「オーディエンス測定法」のほかに、「アクセスログ解析法」と呼ばれるものがある。ほとんどのウェブサーバーにはアクセスされた情報をすべて蓄積したアクセスログがある。これを分析ソフトを用いて解析するのが「アクセスログ解析法」だ。ログ情報自体は客観的なデータだが、対外的に公表されるページビューなどは“自己申告”であり、信頼性に乏しい。また、アクセスログからは利用者のプロフィルまではわからない欠点がある。
 米国ではインターネット視聴率調査は「オーディエンス測定法」がすでに一般化しており、日本でも日本リサーチセンターがインターネット関連サービスのアイ・エス・ティと組んだJAR(Japan Access Rating)が今年二月から、また日経BPも六月に本調査を実施、ビデオリサーチも早ければ来年一月にも事業化に踏み切る模様だ。
 めまぐるしく変わるインターネットの世界だけに、インターネット視聴率調査とは何か、そこで何が問題になっているのか。広告に携わる人間にもわかりにくい側面がある。
 そこで、前リクルートリサーチ・マーケティングディレクターで、この十月からネットレイティングスの社長に就任した萩原雅之氏に、インターネットの視聴率調査の現状を聞いた。


――まず、インターネット視聴率調査とはどういうものかということから。
 インターネットに関連した調査もいろいろありますが、視聴率調査はその一つのジャンルです。ただ、日本語で言う“視聴率”という言葉は、あまりそぐわないと思っています。
 英語ではInternet Audience Measurement Serviceといいますが、要するにネットを見ている人の行動をメジャー(測定)することです。
 テレビの視聴率やラジオの聴取率は、どのぐらいの人が見ているか、聞いているかというリーチを問題にしています。インターネットのAudience Measurementは、見たことのほかに、実際にバナー広告をクリックした、ECサイトへ行って購入したという行動も含みます。audienceは直訳すると聴取者ですが、観客や読者という意味もある。インターネットではそれ以上の意味を持っています。つまり、audienceのビヘイビアまで測定するということです。
 マーケティングやECに役立つそういうデータを提供するのが、Internet Audience Measurementというサービスです。アメリカではひとつの調査業、業界としてすでに確立されています。
 単なるページへのアクセス数ではなく、どういう人たちが、どのサイトを見ているかという属性別のデータのニーズは、広告だけでなくECからもあります。だから、インターネットがメディアとしてだけでなくチャネルとしても使われれば、テレビ視聴率とは比べ物にならないぐらい大きい価値を持ってくる可能性があるのです。

調査会社で違う測定内容

――最近のインターネット視聴率調査はオーディエンス測定法が主流ですが、調査会社によって違いはありますか。
 利用者にインストールしてもらった追跡ソフト(トラッキングソフト)が何を測定できるかに依存しています。例えば、ネットレイティングスの「インサイト」というソフトはバナー広告のトラック、直接購入ができるECサイトのホームページからオーダーのコマンドを拾って、それが実際オーダーされたかどうかということまで把握できます。
 従来のトラッキングソフトは、画面に何が出ているかを記録しているだけなので、結果として出てくる数字は、何人見たか、あるページに何分ぐらい滞在したかという数字です。
 そういう意味で、ネットレイティングスのサービスに競合はないという言い方をしていますが、技術の問題ですから他社も開発を急いでいると思います。ただ、バナー広告のクリックの把握についてはネットレイティングスが特許を持っています。
 また、これは強調したいのですが、調査協力者のプライバシーには十分な対策が施されています。利用者のトラッキングデータを調査会社のサーバーが受け取るときには、個人属性とデータログは分割されて保存されます。ですから、調査会社の人間でもモニターのAさんがどんな記録だったのかは復元できないかたちになっています。これは各社そうだと思います。

オーディエンス測定法

調査パネルの質が問題

――パネルのサンプリングの方法は?
 サンプリングの問題というのは非常に大きいですね。テレビと違って、インターネットのサイトは何十万もあるわけです。だからサンプルがかなり大きくないと、例えば特定の層に人気が高くてもアクセスの少ないサイトは数字が取れないことになる。その意味で、最初は三千サンプルから始めますが、二年以内には二万サンプル以上を考えています。
 もちろん、サンプリングには多くの手間がかかります。ネットレイティングスのパネルのサンプリングには、電話のランダム・デジット・ダイアリング(RDD法)を予定しています。これはアメリカのニールセン/ネットレイティングスと同じ方法です。
 既存の視聴率調査のためのパネルの募集は、公募しています。ネット上で集めるのが普通です。そうすると、必然的にインターネットのヘビーユーザーが多くなります。そういうふうに集めたパネルのデータが正しいかどうか。それを無視してランキングだけ出せばいいという考え方もありますが、これから広告主のインターネットのデータに対する目が肥えてくると、パネルのサンプリング手法にも注目が集まってくると思います。
 費用もかなりかかりますが、ビジネスの価値を生み出す元がサンプルデータのクオリティーだとしたら、ここしか財産がないわけです。広告主やECサイドから「データはあるが手法的に信用できません。だから買いません」と言われることは避けなくてはなりません。

――企業からのアクセスもカバーできるのですか。
 実はまだホームユースだけです。企業ユーザーを正確に反映したパネルをどう作るかというのは大問題です。技術的なこともありますが、一番の問題は企業の社内システム管理のポリシーの問題です。個人の了解だけで企業内のパソコンにトラッキングソフトを勝手に入れるわけにはいかない。アメリカでも相互利益になるという視点から企業にお願いして入れてもらうことを進めています。日本も当然そういう要望がサービスを開始したら始まると思いますので、そのへんに関してはアメリカの数字などを説明して日本の企業の方にも理解を求めたいと思っています。

米国のインターネット視聴率調査サービス

 米国のインターネット視聴率調査会社には現在のところ、Media Metrix、Nielsen/NetRatings、PC Dataの三つの勢力が存在する。
 インターネット視聴率調査は米国では95年から本格化し、昨年夏までMedia Metrix、RelevantKnowledge、NetRatings、そしてテレビ視聴率調査会社のNielsen Media Researchなど数社が乱立していた。

統合と第三勢力の参入
 業界統合のきっかけは、Internet Advertising Bureau(IAB)など広告業界団体の働きかけの成果だと言われている。IABは昨年9月、ウェブ視聴率調査のガイドラインを示し,各社に対して一貫性のあるトラフィック測定をするよう要請している。
 最初に統合の動きに出たのは、Media Metrix、RelevantKnowledgeだった。昨年の10月12日、それぞれの事業を合併すると発表。両社の調査パネルは合わせて約1万5,000人に拡大した。業界1位、2位の合併で視聴率調査の事実上の標準となり得るだけの「規模」を確保し、同時に9月に本格的サービス開始を発表したNielsenの動きを封じようとした。
 これに対してNielsenは10月27日、NetRatingsとの提携を発表。合弁事業を立ち上げ、巻き返しに出た。
 二つの陣営に統合されたかに見えたWeb視聴率調査市場に今年4月、新たに参入してきたのがPC Dataだ。同社は米小売り市場のコンピューターソフトウエアの売り上げ調査で有名な会社だが、低料金のサービスを武器に新たに市場に参入した。

再び遠のく調査手法の統一
 PC Dataは、テレビCMやパソコンショップの店頭などを使って調査協力者を募集し、そのまま調査パネルを結成している。こうした方法では統計上偏りが出るという批判もあったが、PC Dataの調査協力者は4月で2万4,000人、同社のホームページPC Data Online Reportsによれば現在調査協力者は7万人を超えている(10月6日現在)という。
 インターネットの視聴率調査に最適なデータ収集方法はなにかという議論に、まだ米国でも結論は出ていない。


視聴率以上のデータに

――インターネットに必要なのは単なる視聴率調査でないことはわかってきた気がするのですが。
 ネットレイティングスはアメリカでもそうですが、視聴率調査会社と見られています。いろいろなニュースでそういう取り上げられ方もされています。しかし、テレビと異なり視聴率ランキングではお金は取れない。
 我々のサービスを使っていただくと、オンラインでログインし、データベースを使ってメディアプランニングのためのカスタマイズやブレークダウンができる。例えば二十代の女性に最も効果のあるサイトの選択や予算配分を考えることが可能です。候補のサイトを三つ選び出して、そのサイトの利用者には当然重複がありますから、重複者を除いたリーチはどのぐらいになるだろうか。そういったことを画面上できるサービスを提供します。

――インターネットの利用調査は今後どうあるべきだと思いますか。
 インターネットには、大きく分けてメディアとチャネルという全然違う機能があります。商品のプロモーションのために広告を出せばメディアになるし、購買の決済をリアルタイムで把握できるPOSが完備された購買の現場にもなるわけです。
 従来の広告では、露出前と後の広告効果調査やプロモーション調査が個々に多くのお金を使ってやられてきましたが、ネットでは一連のデータセットとして扱うことが可能です。
 調査マンとしての個人的な夢ですが、従来は実証が困難だった消費者行動モデルを構築したいと思っています。
 要するにマーケターにとって一番関心のある「人はなぜモノを買うのか」「人はなぜそのサイトに行くのか」、インターネットはそういう仮説を検証するデータがとれるメディアであり、チャネルだと思うのです。




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