特集 1999.6/vol.2-No.3


広告主の現場と新聞広告
 
資生堂上野氏 メディア環境が大きく変わる中で、企業の宣伝担当は新聞広告に何を期待し、どこに課題を感じているのだろうか。現場の担当者の声をトータルに聞く機会は意外に少ない。
 第二十五回「JAA広告論文」入賞作が月刊JAA二月号に発表されているが、八編の入賞作のうち新聞広告を主題にしたものが金賞をはじめとして三編、新聞広告の利用がメーンの出版広告についてが一編と、新聞広告をテーマとした論文が入賞作の半数を占めたことも話題になった。
 そこで、論文で指摘されているポイントを整理してみた。そこから新聞広告の“今”と“これから”が見えてくる。
 「変化の時代に備えるために」(金賞)――資生堂の宣伝部媒体戦略グループに所属する上野邦教氏は新聞とテレビスポットの担当、「新聞広告の上手な使い方を考える」(優秀賞)――花王の中島一彰氏は現在は調査部マーケティング開発室だが媒体購入や販売促進企画の経験者、「百貨店新聞広告の在り方を考察する」(優秀賞)――高島屋企画宣伝部広告企画グループ広告企画担当の武内英明氏は関東にある高島屋九店舗の宣伝担当だ。
 今回、改めて筆者三人に論文を執筆した個人として話を聞いた。

ターゲットに対する効果

資生堂紙面 資生堂の上野氏は、自社新製品の新聞広告の効果をふまえた上で、新聞広告取引の問題点を整理している。
 上野氏の取り上げた新聞広告の効果は、特定のターゲットに対する効果だ。
 新聞はこれまで「幅広いターゲットに届く」を一つのセールストークにしてきた。企業広告や環境広告などのように、それが有効に働く場合もあるが、最近の商品はターゲットを絞り込んだものが多くなった。特に若者の新聞離れはかなり以前からいわれている。
 果たして新聞は若年層には効果がない媒体なのか。「新聞の閲読時間の減少が指摘されている世代でも、時間をかけて新聞に目を通すのではなく、興味のある記事だけをピンポイントで読んでいる」という仮説がある。論文では実際の掲載広告を使った調査結果を紹介している。
 紙面は昨年五月二十七日に西日本新聞に掲載された上八段が日焼け止め商品のプレゼント告知を付けた新聞社制作の記事体広告、下七段が紫外線を防ぐ商品広告という体裁だ。プレゼントの応募に電話による二十四時間受け付けシステムを使用し、応募締め切りまでの時間帯別アクセス状況を収集した。
 結果は二十代の応募者が全体の38%、三十代を合わせると70%以上、女性からの応募が全体の97%以上というものだった。「新聞は若い女性にあまり読まれていないという先入観があったが、出稿面の選択さえ誤らなければ、年齢・性別にかかわらず、すべてのターゲットに訴求効果がある」というのが調査の結論だ。広告媒体としての新聞の持つパワー(影響力)は無視できない。
 資生堂の商品のターゲットはほとんどが、F1層と呼ばれる 二十代から三十代前半の女性だ。「テレビであれば個人視聴率に合わせてCMをうつ理由付けができる。しかし、新聞の場合は今回のような実証データがないと社内説得は難しい」と上野氏は調査の背景を説明する。

広告目的と新聞広告の効果

花王中島氏 広告目的、コミュニケーション目標から見た新聞の機能も問われている。中島氏の論文によると、花王の製品は他業界に比べれば消費者の関心が低いカテゴリーであり、広告目的はブランドの認知と主な商品特徴理解が基本となる。同社は広告費の九割近くをテレビに投入している。そこに新聞の役割はあるのだろうか。
 中島氏は、「ブランド知名やキャッチコピーレベルの商品理解が目的ならばテレビでかなりの部分を達成できるが、ターゲットに対してブランドイメージの再構築をねらうには新聞の役割は大きい」という。説得・納得、態度変容を新聞広告の機能として注目する。
 その事例として一九九三年から三年間、花王が実施した「洗剤贈答市場拡大作戦」を紹介している。主婦を対象とした既存調査で中元・歳暮の贈答品としての洗剤は、「もらいたいもの」としては四位だが「贈りたいもの」では十位。主婦の「もらいたいと思いつつ、贈りたいと思わない」ギャップをいかに埋めるかが課題だった。そこで、バブル崩壊後のブランドより中身、建前より本音という時代の流れを踏まえ、「喜ばれてこそ贈り物。自分がもらってうれしいものを贈りましょう」という態度変容をねらった企画広告を新聞各紙で三年にわたり展開する。商品広告部分は極力抑え、消費者の声や百貨店の声をかりて、「もらいたい」と「贈りたい」の意識格差を説明し、それを埋める説得に広告内容も集中した。贈答件数シェアが施策前の九二年の歳暮期に十六位だった洗剤カテゴリーが三年後の九五年には十位、中元期は八位となる成果が現れた(贈答SCI調査)。
 消費者に対する説得が重要になってきた背景について中島氏は「ターゲットへの到達効率から効果の時代に移りつつある。商品の細分化、複雑化で広告にも説得が必要になってきた」と語る。ターゲットへの単なる到達効率ならテレビだが、効果・説得が必要な場合のメディア・ミックスはコスト優先だけではないケースがある。例えば新商品を持って既存市場に参入するときは「あなたにとって、どこが、なぜよいのか」を十分に言わなければならない。そこに能動的に接触する度合いの高い印刷媒体の活躍の場があるという考えだ。

広告媒体としての新聞の信頼性

花王紙面 「新聞が『信頼性』を他の媒体に譲り渡さない限り、百貨店は新聞広告にこだわり続ける」と論文のなかで指摘するのは、高島屋の武内氏だ。武内氏は高島屋の関東九店舗の宣伝担当だが、新聞広告、新聞折り込みがメーン媒体だ。論文では百貨店ごとの出稿データを基に、百貨店広告にとっていかに新聞広告が重要かを裏付けた後、その理由を新聞の信頼性に求めている。
 折り込み広告の場合は実際の集客、売り上げが目標だが、新聞広告の場合は集客だけではなく、高島屋のマインドシェアを高める役割も重要になる。百貨店が最も大切にするのは「お客様に対する信用、信頼」で、それが新聞を使う最大の理由になっているという。
 中島氏もインタビューで「日本人の生活の中で、新聞はテレビとは違う意味を持っている。新聞の見出しに目を通すのは、社会人の最低の義務という常識が昔からある。今の新聞の内容を一、二ページに縮めて、あとの三十ページを娯楽面にしたら、 たぶん新聞を取らない家が増えると思う。基本的に新聞に期待されているメディアとしての位置づけや格、そういうものを壊してしまうことになる。芸能記事ばかり載っている新聞に、広告でまじめに何か訴えても効果がない」と推測する。
 広告の説得性も新聞の信頼性、社会性から生まれる。しかし、媒体の信頼性の高さを広告効果として具体的な数字で表すことはなかなかむずかしい。ブランド広告や企業広告、あるいは態度変容を目的とした広告に対する効果など、具体的な掲載広告と関連づけた調査の必要性をこれらの意見は示唆している。

新聞を使える媒体にするには

高島屋武内氏 日本の新聞はノルウェーについで第二位の普及率と極めて高い戸別宅配率(93.1%)など、媒体として大きな力を持っている。にもかかわらず、長期的なシェアダウンが続いているのはなぜか。 
 上野氏は、広告を使う側からの提案として、固定費となりやすい契約段数制度の見直し、テレビのGRPに相当するような客観的データの整備、人手によるフィルム送稿や製版費を減らす方向での送稿システムの改善などを挙げている。また、メディア・バイイングの環境整備の重要性も指摘する。「なぜバイイングかといえば、資生堂は広告を社内制作している。特に新聞は社内ですべてできる。だから、広告会社の役割はメディア買い付けに集約されている」
 出稿時の柔軟性を望むのは中島氏だ。「新聞にできること、できないこと、テレビにできること、できないことというように問題を整理していくと、エリアを自由自在に切る、出稿日と確実な面指定ができる、発行本社単位の企画広告ができるといった柔軟性です。一晩のうちに原稿が送れて、エリアで自由に差し替えできる。テレビコマーシャルの素材差し替えと同じ感覚でできるようになれば、それがテレビにできることに一つ並ぶことになるのでは」と指摘する。
 広告原稿のデジタル送稿化はこうした新聞の使い勝手の悪さを解決する糸口になるかもしれない。しかし、現場からは広告の掲載面を押さえる、いわゆる“場所取り”の改善も強く求められている。

新聞広告ならではの機能

高島屋紙面 新聞広告が持っている機能で意外と理解されていないものに「速報性」がある。ニュースの速報性ではテレビが新聞を上回るが、広告の制作時間まで考慮すれば、新聞広告の速報性は特筆すべきものがある。モノクロ広告の場合は商品や価格の差し替えも掲載前日までできる。
 高島屋の武内氏は「百貨店は最終消費に直面する水際の商売である。ギリギリまでこの消費状況を見極めなければタイムリーな広告は発信できない」と、新聞広告の速報性が今後も最も重要であると指摘している。マンションの物件広告でもこうした声は多い。一般的な商品広告と流通広告で、新聞広告に求める機能が大きく違う点だ。
 新聞社が広告主とともに制作する企画広告は従来からあるが、消費者への説得機能という面から改めて注目していい手法だ。資生堂の「日焼け止め商品」の事例も、花王の「洗剤贈答市場拡大作戦」も企画広告だ。資生堂の場合はプレゼントの応募に電話による二十四時間受け付けシステムを使用し調査機能を付加している。花王の場合は広告目的、コミュニケーション目的からキメの細かな企画広告が展開されている。企画広告部分は各新聞社広告局に地元事情をふまえて記事を書いてもらっているし、春先の返礼贈答のある北海道、年間を通して仏事贈答のある沖縄は、中元・歳暮以外にも平常贈答対策としてフォローしている。
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 コスト意識が厳しく求められる時代、宣伝部の担当者は媒体選択にも明確な理由付けが求められている。新聞広告のマーケティング上の機能や客観的なデータが求められる理由はそこにある。そして新聞広告の効果も、多くの場合、今回の論文にあったような宣伝部の担当者の努力なくしては実証できない。
 広告に対するレスポンスが社内説得材料となってきた傾向について資生堂の上野氏は、「新聞の特性を生かすということであれば、企業広告は新聞ですとか、担当者が意見を持って社内調整して新聞を知ってもらうのがベストだと思う。販売部数や広告注目率は各社整備されてきたが、それは他媒体との比較材料ではなく、使用する新聞を選択するための指標だ。最終的には担当者の経験則やカンが生かされるように熟知していくことが重要だと思う」と、媒体選択について担当者の経験も重視する。 
 さらに、三人が共通して語ったのは、新聞報道と企業活動のつながりだ。新聞記事で企業活動が取り上げられることが、消費者に最もアピールするという。
 紹介した第二十五回「JAA広告論文」の基本テーマは「新世紀に向けて広告を考える」だった。その入賞作に、新聞広告を題材にしたものが半数を数えたということが、広告主の現場からも新聞と新聞広告への期待と要望が高まっているあかしかもしれない。



(→コミュニケーション機能からの新聞再認識
(→プリント媒体だけを使ったブランド広告の試み
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