特集 1999.6/vol.2-No.3


プリント媒体だけを使ったブランド広告の試み アメリカン・エキスプレス・インターナショナルInc 個人事業部門マーケティング第二部部長 増田尚子
 アメックスが新聞広告をメーン媒体に使ったブランド広告を展開している。プリント媒体中心のプランは日本だけでなく、インターナショナル全体の方針だ。結果は、9月、10月に予定されている調査でわかるが、このアメックスのチャレンジに新聞広告はどこまでこたえることができるか、シリーズは現在進行中だ。
 
なぜ、新聞中心なのか

アメックス紙面1――四月から始められたキャンペーンはテレビを使わず新聞中心に展開していますが、その理由は?
 アメックスは過去テレビ中心の展開を続けてきましたが、今年になってプリント媒体にかなりシフトしているのは、ご指摘の通りです。
 端的に言えば、予算の問題もあります。テレビは、媒体費だけでなく制作費もかなりかかります。どうしたら全体としてコスト面で効率よく物事を運べるか、米国本社とも、かなりやり取りしました。そして今年はテストケースとしてプリント媒体にシフトしました。今までテレビで展開してきたものを、プリント媒体に移して効果が得られるか。その結果を見てみようということです。

――雑誌ではなく新聞広告中心ですね。
 なぜ新聞かといえば、一つは新聞の「リーチ」、到達率です。米国本社からはすべて必ず数字で評価されます。テレビを使わないメディアプランの問題はリーチです。そこを新聞でしっかり押さえようということです。
 もう一つの理由は、カード会員の獲得のためです。新聞のほうがレスポンスが断然いい。
 今回のキャンペーンの前、三月にも、いわゆるダイレクト広告を新聞に出しました。これによりカードの申し込み、問い合わせの数が抜群に増えました。単純な比較はできませんが、去年実施した雑誌の例とでは、二倍ぐらい問い合わせの件数に差がある。読者の反応は新聞が強いことは営業も感じていることです。

キャンペーンの評価基準

――今回のキャンペーンはブランド広告ですね。
 現在のアメックスにとって、ブランド力は非常に重要です。今まではテレビが担ってきた部分をプリント広告でどこまで展開できるか、ものすごく挑戦的になると思います。
 今回の広告はさまざまなアメックスの会員像をシリーズで描いた広告になっています。一本ではその広告のテーマが響く人には響きますが、それ以外の人には伝わらない。事前にこの広告についての調査をかなりやりましたが、やはりシリーズ性が非常に重要だとわかりました。雑誌では一、二か月に一回、一つの雑誌にシリーズとして二本の広告展開をしています。新聞もできればそうしたかったのですが。

アメックス紙面2
1999.4.13 読売新聞朝刊全15段
シリーズは4月に3種類、5月に4種類目、6月に5種類目が出る。広告ではアメックスの会員像をシリーズで描いている。その会員像とは、「普通の人、でもやっぱりちょっと違う人たち」。一つ一つの広告で、反応する人たちが違う。「それぞれのトピックは響く人には響く。例えば、雪山に響く人がいて、ハワイで走る光景が響く人がいる。今回のような広告には、シリーズ性が非常に重要になる」(増田氏)

――効果測定の基準を今回はどこに置いていますか。
 今まで、新聞をブランド広告のメーンに使っていませんでしたから、どこまで達成したらいいのかという既存の基準はありません。今回は「見た・見ない」というレベルの認知度より、「これを見て、どう感じたか、アメックスに対してどう思ったか」という点を重視しています。もちろん、「カードの申し込みをしようと思った」というアクションにつながればいいのですが、その前の時点の「アメックスに対して好感を持つ、アメックスが描こうとしていることに共感を覚える」。特に今回の場合は、そこが非常に重要になると思います。
 今までタイガー・ウッズやジャック・ニクラウスなど有名人を使い、その有名人の力である程度、ブランド力を補強していたところがあった。でも今回は、アメックスというブランドをもう少し身近なものにしたいと考えました。
 そのために広告では会員像をシリーズ広告で描いているのです。その会員像とは、「身近な人、でもやっぱりちょっと違う人たち」というイメージの方々を描いています。この広告で最も目標としているところは、そのイメージの部分の針がちゃんと動くかということです。

日本に合ったアプローチで

アメックス紙面3――従来と路線を変えた理由は何ですか?
 調査をして分かったのは、日本の場合、カード会員も見込み客も、「アメックスにはこうあって欲しい」という気持ちが、ものすごく強いということです。あこがれという言葉をアメックスでは、よく使います。「うちの商品は、人々があこがれるような商品でなければいけない」というのが、ブランドのマネジメントをしている米国本社のトップが、よく言う言葉です。
 過去のアメックスに「男はこうありたいね」というテレビCMがありますが、九〇年代前半までは、バリバリのインターナショナル・ビジネスマンを描いていました。ところが今回、消費者調査で「あなたの夢は何ですか?」と聞くと、ターゲットである三十代、四十代の人から夢が出てこないのです。悲しいかな夢というのが現実的な「マイホーム」と答えます。
 掘り下げて話を聞くと、本当はそうではなくて、仕事もやりながら、私生活でもそれとは違う世界を持ち続けたいというのが出てくる。そういう世界が、今、ものすごく価値観として重視されてきていると思います。
 それで、こういう広告表現になった。

――ビジュアル中心の広告で、言葉も少ない。描いている世界が伝わらない人もいるのでは?
 広告を出すのに、こんなに調査したのは久しぶりです。そういう意味でも、内容的には「これでいける」という確信を強く持っています。万人にうける内容ではないことも事前の調査でわかっていました。
 また、米国本社からは「他の国々と比べ、日本の広告はずいぶん違って大丈夫か」とも言われました。でも、日本人の感性には、そんなにあからさまに物事を言わず、ステータスは表立って言うものではなく、分かってくれる人だけに分かるものと訴えるべきではないかと。複数の調査でそれは確信しました。少しはっきり物事を言うようになったとはいえ、日本人にはまだ基本的にそういう部分が残っているように思うのです。

――もし、テレビで展開した場合は広告目的や評価基準も違っていた?
 同じです。プリント媒体でそれがどこまで達成できるのか、今、テストされているという感じですね。九月、十月にもう一度調査をしますから、広告の認知度、アウェアネスの目標に達しているのか、見る人の意識を変えるぐらいの媒体力が今回のメディアにあるのかが出てきます。

欧州、アジアもプリント媒体で

――プリント媒体が中心の広告展開は日本だけですか?
 アメリカは別ですが、ヨーロッパ、アジア、ラテンアメリカでは、グリーン、ゴールドカードの商品に関しては、ほぼプリント展開です。

――カードのステータスを考慮した媒体選択の面もある?
 そうですね。しかし、本当にプリントだけでやれるのかどうか、「やれるメディアプランをつくれ」、「いや、やれるクリエーティブをつくれ」と、ものすごい議論がありました。

――世界統一キャンペーンが国際企業では多いですが、広告内容は各国とも同じですか?
 違います。「その目標へ」は日本だけです。もちろん、アメックスのブランド戦略はものすごく厳しく、いろいろなガイドラインがある。それをどう使っていくかは、それぞれのマーケットの消費者状況やブランドの成熟度によっても違います。他のマーケットでは、商品性を強く言っているところもあります。

問題を感じたバイイング

アメックス紙面4――新聞を中心媒体として使ってみて感じたことは?
 私はこのキャンペーンの前は調査に携わっていましたが、驚くことが多かったですね。
 特に感じたのは紙面の場所取り、つまり掲載面の問題です。わからない。媒体を担当した広告会社は掲載面は「五段に比べれば、全ページ広告は気にしなくて大丈夫」と言いますが、差があると思います。
 広告を掲載した場合、電話での問い合わせ件数のトラッキングをしていますが、三月の広告でも国際面や経済面はやはり数字が高くなりました。それから、どこの面が取れるかギリギリになるまで分からず、紙面の場所取りで広告会社とやり取りすることが多いことも不思議でした。
 さらに、ある一社の広告面だけをカラーにするといった特別の扱いをすることもできませんし、広告会社がそれをいやがるという面も強く感じました。
 広告会社がバイイングのシステムを変える努力をもっとすべきだと思うのです。日本の広告会社には、人材を含め十分なリソースがあると思います。

――掲載広告に対しての反響はすでに出ていますか?
 まとまった形ではまだですが、問い合わせは確実に伸びています。事前調査をかけた見込み客も非常に好感を持っている。また、先ほどの話のように訴えた点が分かる人には分かる、分からない人には分からないというのも、はっきり出ています。
 アメックスの商品は、残念ながら万人向けの商品ではない。今回の広告表現にピンと来る人を顧客層に取り込んでいく。そこがうちの戦略なんです。

――今後の展開をどのようにお考えですか?
 これまで日本は、アジア地域の中の一つの国でしたが、二年ほど前から単独のマーケットという扱いになり、米国本社の見る目も厳しくなりました。
 それは、逆に日本の特殊性を米国本社が理解しようとしている表れだし、それだけ日本のマーケットへの期待が非常に高いということだ思います。日本の市場は、富裕層の数が多く、潜在的な規模としてはナンバーワンです。カード枚数や使用額でも世界でトップレベルにあり、まだまだ伸びる余地があります。 
 今年から始まったこのブランド広告がうまく軌道に乗れば、来年以降、もっと違った形で展開があるという気がします。



(→コミュニケーション機能からの新聞再認識
(→広告主の現場と新聞広告―JAA広告論文に見る新聞の効果と課題―
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