特集 1999.5/vol.2-No.2

改正男女雇用機会均等法とこれからの企業のあり方
男女平等で企業と広告はどう変わるか 電通EYE 代表取締役社長 脇田直枝
 
 改正均等法は、企業や広告にどのような影響を与えるのか……。女性の広告会社として十五年前にスタートした電通EYEの社長脇田直枝氏に聞いた。

――均等法ができて十四年、電通EYEの歩みとほとんど重なりますが、この間の変化は?
 会社の設立当初は、「女性のクリエーター、女性のマーケター求む」という風は確かに吹いていましたが、均等法が通るのが見えていた時にあえて女性を主体とした広告会社をつくるのは何か時代錯誤ではあったんです。ちょっと損な役割を押しつけられたかなという意識は、正直いってありましたね。(笑)
 広告界では、実際活躍できる女性のAEやマーケターにも社会的に認知を得ている人々がずいぶん出てきましたし、コピーライター、クリエーターが増えてきました。そういう面では、私たち電通EYEもかなり貢献してきたと自負しています。他の広告会社に先駆けて女性のAE、女性のイベントプロデューサー、これはどこの広告会社にもない職種ですが、そうした人材を育ててきました。

――人事制度などで他の企業と違う点はありますか?
 女性に働きやすい環境づくりは、ずっとやってきたつもりです。十五年前からフレックスタイムを敷いてますし、雇用形態も一年ごとの契約制、年俸制です。辞めたければいつでも辞めていい。カムバックしたければ、会社が採用できる状態であればできる。育児休暇も法律の枠をこえて事情をかんがみて、その都度臨機応変につくってきました。最初十七人でスタートした時点では子供を持っている人はいなかったのですが、子供を産む人が出てくると、ああしよう、こうしようという形で社則を決めてきました。休む人の仕事をカバーしなければならない人も出てくるわけですから、彼女たちにとっても不公平感がないように。自分もいつかは産む側になるわけですから、お互いに助け合っていきましょう、と。基本精神はそこなんです。

企業のなかの女性の位置

――女性のトップランナーとして、今回の改正均等法をどうとらえていますか。
 私が大学を出たのが六〇年です。幼稚園から大学までずっと男女平等でやってきて、社会に出て初めて男女差別に直面する。はしごをポンとはずされたような気がしました。それから四十年、やっと男女機会均等になったなという感じですね。半世紀近くかかっているわけです。遅きに失したという気がします。
 均等法に一般職と総合職という抜け道があること自体がおかしいと思っていました。男性にも一般職を適用すべきだと主張してきました。男性と同様に、女性も大海に押し出された方が、自覚と責任感を持たせる意味でいいと思います。

――均等法以降、女性の意識は変わったと思いますか。
 均等法の一期生は、訓練されていないというか、周りも慣れていなかった点があると思います。企業の方が、女性をどう扱っていいのかわからなかった。私にも、女性の使い方を教えて欲しいといった講演依頼が多かったですね。自分の娘みたいな女性が会社に入ってくるわけですから、ちやほやしたり、泣かれたりしたら困るとか、上司は女の社員を平等に扱えなかった。
 こういう豊かな時代に育ち、男女とも根性や努力を知らない人たちですから、残れる人も少なかった。最初の均等法で採った人たちの半分は辞めています。均等法一期生は今入社十四年、会社のなかで、まだ中堅クラスまで行っていません。そろそろポストの声がかかりだすときで、楽しみですね。

――仕事の現場ではどうですか?
 クライアントにも、今までは女の人がほとんどいませんでした。ですから女性の視点ではこうですよというと、素直に受け止めてもらえて通りがいい場合もあります。逆に、女に教えてもらいたくない、男の沽券(こけん)にかかわるみたいな反応が出る場合もあります。改正均等法でクライアント側にも女性が増えてきて、女とか男とかではなくアドピープルとして対峙したとき、初めて私たちの力量が問われると思います。
 今はクライアントに女性スタッフが出てきても、一 人か二 人です。ですから、共闘してくれる方が結構多いですね。依怙贔屓(えこひいき)ではなくて、本当に私たちのことを理解してくれて、それが正しいと評価してくれる。女性はだいたい公正ですよね、裏取引も何もやらない。そういう面での共闘意識というのが暗黙のうちにあります。

――女性の力はクライアント側にまだ認められていない?
 女性の能力に不信感を持っているというのが大勢です。プレゼンテーションや企画の話に女性が責任者であるのはいいのですが、AEまで女性だと、「軽んじた」ととられることが多いです。一般的には、男性がトップにいて、女性はそのアシスタントでやっていますから、女性の方もそれに甘んじてしまう。自分が正面立って独り立ちする自信もないし、チャンスも少ないわけです。
 うちの場合は矢面に立つ男性がいないものですから、女性が正面切ってやっていかざるを得ない。だからチャンス、場数も多いわけです。

――男女に能力差は感じますか?
 女性が訓練されていないということはあります。会社も、これまでは女性をどう扱っていいかわからなかった。
 うちの会社にも男性の役員がいますが、ちょっと身なりをかまわない(笑)。「もう何とかしてください」と、皆にバカにされている。でも、それでホッとなごむ場合もある。彼がいるから組織は助かるんです。女性の場合、そういう役回りだとノイローゼになって辞めると思うのですが、それを甘んじてやってくれている。女性の欠点は、そこにあると思います。自分がバカになれない。いつもお利口さんで、きれいでいたい。そのへんが抜けていくと、女も大したもんだと思います。

男女平等とこれからの広告

オカモト紙面――「男も妊娠すればいいんだ」は電通EYEの制作ですね。
 コンドームは男性が使用者ということで男性向けに売っていましたが、実態は奥さんが買うケースが多いのです。そのへんから来ている発想です。妊娠のつらさは、男性には全然わかってもらえない。それを素直な言葉に置き換える。生活の叫びとか生活の喜びとか、それを素直に表現していくのが私たちのやり方です。

――女性の企業参加と同じくらい、男性の生活参加も今後は問題になってきそうですが。
 男性は生活参加していないというと、「男も生活している」という人が必ずいます。男性と女性では、生活の質が違います。ゴミを出したことがありますか、魚の腐ったにおいをかいだことがありますか。そういうところから生活は始まるので、つくられた朝食を食べて、新聞を手に出勤して、帰って来てきれいなおふろに入って寝るだけという男性とでは生活の基盤が違います。

――かなり以前から女の時代と言われてきましたが……。
 「女の時代」は、実は女の時代とおだてて物を買わせようとしていた男性有利な時代。おだてに乗った女性が大量消費して企業に貢献した。決して女性を礼賛していたわけではないのですが、大義名分が本当になってきてしまったのです。これからは、本当のコンシューマリズムが育つと私は思っています。
 広告の送り手にも、女性が多くなってきます。そうすると男性の机上の理論が通用しなくなる。生活に必要な物や形が見えてくる。本当に生活しやすい世界ができると思います。

広告の送り手としての女性

――クリエーティブの面でも男女差はありますか?
 最近、プリント媒体の広告は元気がなくなっていますが、女性のコピーライターが活躍する場はそこが多かったのです。新聞広告などの印刷広告は、デザイナーとカメラマンとコピーライター、大体三人で出来ます。
 テレビコマーシャルは、圧倒的に男性クリエーターの世界です。一つのコマーシャルをつくるために、二十人、三十人のスタッフを動かしていかなければならない。それをできる技量が女性にはまだありません。コマーシャルの九九%は男のクリエーティブだと思います。そこに女性が入っていけるようになると、本当に生活を豊かにするコマーシャルが現れてくると思います。

――それは女性の能力が適してないからではなくて、あくまで場が与えられていなかったからということですか。
 今のところ企画という形でコピーを書いて、絵コンテを描いて、コマーシャルへの女性の参加はそこまでです。実際に仕上げていく場面では、一歩引いています。その後、男性が出ていって仕切る。タレント、カメラ、作曲、ダビング、それから予算管理、そういったことの時間と精力と能力、すべてがバランスよくないとプロデュースできない。女性の映画監督も日本では一人か二人ぐらいしかいません。広告の場合は、しかも、クライアントのお金を預かってやるわけですから、赤字になってはいけないわけです。女性はこれまで、バランス感覚を持って大勢を動かしていくという訓練がされていないと思いますね。

――そうした分野にも女性が進出していくためには、どういうことが必要ですか。
 訓練と周りの理解だと思います。広告界で女性が男性と対等に仕事ができるためには、クライアント側にも女性が均等に出てきて同様に活躍していかないと、私たちの方も伸びていかないと思います。

――電通EYEは女性の会社という看板を今も使っている?
 かなり前から「生活者にもっとも近い広告会社」ということを標榜(ひょうぼう)しています。新聞広告での求人募集も男女の表記はしていません。男性の応募もかなりあります。採用基準はあくまで当社にとっての能力です。最初から男性も六人いましたし、当初から、女性の視点を生かすという言い方しています。今後どのような方向で行くかは、社内で議論しているところです。
 クライアント・ファーストという考え方もありますが、コンシューマー・ファーストの姿勢が当社の特長だと考えています。


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(→改正均等法の本質はどこにあるか
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